5話
翌日。
鈴代と甘斗が聞き込みを続けたが、手掛かりらしきものは一向に掴めぬ。
そうして、日もだんだんと陰ってきた。
顔を出している時間が増えた太陽にもそろそろ疲れが見えて、空をかっと赤くしている。
鈴代が赤い空に映える烏の影を視線で追って、ぽつりと言った。
「行方不明ねぇ。それも、奥さんが目を離した隙に。そんなことってあり得るかな?」
「って言われても。それこそ自分で出てったとかじゃないんすか」
甘斗は投げやりにつぶやいた。
そんなわけがないのは分かっているが、つぶやかずにはいられなかった。
一日中歩き回って、それが徒労に終わると思うと、どっと足が重くなる。
結局、収穫のないまま、静海の家の前まで戻ってきた。
家の中はしんとしていた。奥さんは病気がちだと言っていたが、子供がいなくなったショックで体調を崩してしまったらしい。今は離れで療養しているという。
静海は朝から付きっきりで看病しているから、今は母屋に誰もいない。
無論、門を潜った先には何もない。お届け物も、一昨日のように静海が強襲してくるということもない。
はずなのだが。
「ん? なんすか、これ」
甘斗は足元に落ちていたものを拾い上げた。
玄関の前に置かれていたのは、赤い木の実だった。夕日よりもなお赤い。
儚げな印象はなく、不思議と迫力がある。紅玉か血のような真紅だ。
縁起の良い色のはずだが、やや紫がかった赤は、どこか暗く憂いを帯びて見える。
誰かが、玄関先に置き去りにしていったのだろうか?
甘斗はきょろきょろと辺りを見渡す。
「木の実――ああ。あそこから落ちたんじゃない?」
鈴代が指差した先に、一本の若木があった。
広々とした庭には医者の家らしく薬草が植えてある。庭のほとんどが草花で埋め尽くされ、あとは蔵と小さな社があるくらいだ。
その庭木のひとつに同じ花が咲いている木がある。接ぎ木をしてそれほどたっていないのか、まだ若い木だ。風が撫でると葉と花が一緒になって、舞楽のように揺れる。
「この樹は柘榴って言ってね。食べるとどえらく酸っぱい実がなる。根や葉が薬にもなるから植えてたんだろう。ちょうど梅雨の頃に咲く花、だけど」
鈴代は、歯切れ悪く言葉を切った。
「先生?」
「…………」
それを見つめ、鈴代はじっと黙していた。
じっと。真剣な面持ちで。
その柘榴の樹の下には社がぽつんとあるばかりだ。