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1話
――やあ。あなたもここに学びに来た人かな?
そう言ったのは背の低い、ほんの少年だった。
年は十か、そこらだったと思う。
正確な年齢を聞いたことは、そういえばなかった。
少なくとも、長崎という場所に遊学に来るには若すぎる。
否、幼すぎると言ってもよい。
――蘭学というものは面白い。彼らには僕たちと全く違うものが見えているんだね。
――同じ世界に生きているというのに、彼らは空からものが見えているようだ。
――だったら、僕たちはさながら、籠の中の鳥なのかもしれない。
何を生意気な、と思ったことを覚えている。
知識を蓄えた年長者を敬うのは当たり前、と本気で思っていた。
また、郷里では自分を上回る知識の者はいなくて、自分の見える世界が全てだと思っていた。
なんぞ、それを否定するようなことを言うか――と、本気で憤ったこともある。
あの時の自分こそ若輩で、未熟で、不幸だった。
それを教えてくれたのが、鈴代と名乗った少年だった。