疑惑
「…あのー…ね?」
「どうしたんすか先輩」
「いや、ね?僕としてはね?後輩達と帰るのは嬉しい訳よ。親睦を深める機会かなー?なんて思う訳よ。」
「…私は貴女と親睦を深める気はありません。お姉様に言われたから仕方なく…」
「…ぐすん。」
「…あー…気にしないでください。」
「…うん。まぁいいか。それよりもさ…僕が気になってるのはさ…」
「なんで君達僕の周りを三角形で囲んでるの!?」
「……なんの事でしょう?」
「いや、なんの事でしょうじゃないよ!流石にそれは無理があるよ!」
「貴女に近寄るのが嫌なんです。」
「ふぐっ!」
…なにこの子。僕の事嫌いなの?…嫌いなんだろうなぁ…あの子からすると僕はお姉様の想い人らしいし…誤解だって言っても聞く耳もたないし…恋は盲目…いや、難聴…?
「お前ちょっと黙ってろ。まぁ、気にしないでください」
「気にするよ!なんでそんなバミューダトライアングルみたいな陣形なのさ!」
「これが都合がいいんですよ。色々と。」
「色々とって…」
…もー…『たまには一緒に帰りましょう!』とか言われて『おおっ!?後輩から慕われてる!』とか浮かれてたらこれだよ。
なんなのこの人達。僕に向かって、『くらえ夜!半径5mのトライアングルスプラッシュを!』とかやりたいの?
お断りだよそんなの。僕は時止められないし。
「そ、そろそろ家だし…またねー…?」
「お疲れ様っす!明日も一緒に帰りましょうね!」
「う、うん…楽しみにしてる…」
うえーん。でも後輩からの頼み…これは受けない訳にはいかないの…!
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【ちょっと前】
「…まぁ、いろいろあって夜は記憶を無くしてるのよ。私達は部活とか勉強とかでどうしても見れない時があるから…貴方達にも協力して欲しいの」
「お姉様のお願いなら喜んで!」
「しかし…なんで俺らなんすか?ちょっと運動できるとはいえ、ただの一般人っすよ?もっと力ありそうな人とかに頼れば…」
「えー?ただの一般人はマグマ操ったり出来ないわよ?……見破られてないとでも思った?…私はそこまで甘くないわ…」
「うっ…わかりました…頑張ります…」
「ありがとう。さて、私はそろそろ寝たいから帰るわね。」
「お姉様!私も眠いです!」
「そう。じゃあ自分の布団でゆっくりお休み。私は家に帰るから」
「…ええー」
「あんま先輩困らせんなよ…」
「だってぇ…」
「てか、のほほんとしてる人かと思ったが…」
「あぁ、結構迫力あるな。魔物歴が長いだけあるって事か。」
「そんな所も…」
「あぁ、うん。もういいっす。よし!明日から杉下先輩擁護作戦!開始!」
「おー」
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さて、今日はもう真司いるかな?
…あれー?居ないなぁ…まだ来てないのか…
むぅ…仕方ないなぁ…今日はちょっと街にでも出ようかな!新作の本とか出てるかもしれないし!
れっつごー!
……あれ?1人の時はれっつじゃないっけ?まぁいいや。
「ふぅ…結構遠いな…まぁ、電車賃もそんなかからないしね。ここ…さて、どこ行こっかなー」
「………ん?あっ?あれは…!ラッキー…まさかマジで見つかるとは!連絡連絡…」
…?なんか今嫌な雰囲気が…
気にしたら負けかな。よし。まずは東口方面からいってみよう…
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むふー。まさかあの本が売ってるとは…
さーて、次はどこに…
ドンッ!
「痛っ!」
「あっ!ごめんなさい!大丈夫でしたか!?」
「こ…こっちこそ…ごめんなさい!よそ見してて…」
「い、いえ!……あれ?杉下さん?杉下さんじゃないっすか?」
「…えっ?えっ…とあの…どこかでお会いしましたっけ…?」
「…覚えてませんか?…最後に会ったのは2ヶ月くらい前でしたかね?金本ですよ!」
…あ、あれ?あれ?真面目に覚えがないっ!いや、確かに僕は人の顔覚えるの苦手だけれども…流石に2ヶ月前なら顔か名前かどっちかは覚えてるはず…
…ダメだ!全くヒットしない!
「…もしかして、思い出せません?」
「は、はい…ごめんなさい…」
「いや、大丈夫です大丈夫です。じゃあこれで…次会った時は、覚えててくださいね!」
「は、はい!必ず!」
……うぅ〜やっちゃったよ…あの人絶対傷ついたよね…うわーん!でも、なんで全く覚えてないんだろう?
…そういえば最近ちょいちょい記憶にズレというか…なんか、噛み合わない時がある気が…
うーん?
「さてさて…『杉下夜はところどころ記憶を失っている』…この情報が正しければ…このままいけば、手荒な真似をする事なく目的が達成できる…はず。次、また1人で街に来る時を狙おう…」
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「…あっ!真司おかえりー!」
「ただいま…?帰ってきたのはそっちじゃないか?」
「なに言ってるのだね。僕はずっと待ってたのだよ!」
「…そうか…そりゃすまんかった…」
「もー!そうだ。真司、金本さんって知ってる?」
「………?いや、知らないな…」
「そっかぁ…」
うーん?マジで誰なんだろう…?
「まぁ、知らないならそれでいいのさ!それより真司!僕新しい本買ってきたんだ!読んで!」
「…なんだ?先に読んでいいのか?」
「チッチッチッ。違うよ。全然違う。」
「……?」
鈍いなぁ…
ぽふっ。
「読み聞かせだよ読み聞かせ!子供っぽく言えば…ご本読んでー♪」
「……お前な…ホラー小説を読み聞かせってどうよ…」
…うーん。ちょっとジャンルミスったかも?
「…ま、まぁいいさ!さ、読んで!」
「仕方ないな…」
ふふん。楽しみ〜
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「……真司読むの上手いね…」
「…そうか?」
「そうだよ。結構怖かった」
…結構っていうか、とてつもなく怖かった。なにこの真司の無駄に洗練された無駄のない無駄なスキル…
「僕は怖かったので真司に抱きつきます」
「どーぞ。」
「よし!」
ぽふ!
「ふふ…また続き読んでね!」
「……少しは自分で読めよ…」
「いいじゃん別に!」
真司は乙女心が分かってないなぁ…もう…
「おおっ?へぇ…これの新刊出るんだ…明明後日かぁ…まだお金に余裕もあるし…真司が暇だったら真司誘って…いや、これは恋愛小説…!真司に読ませよう!…よし。明明後日は1人でいくよ!」
…ふふふ。真司の膝の上で恋愛小説を真司の声で…
想像しただけで頭溶けそ…