第832堀:ダメージレポート
第832堀:ダメージレポート
Side:エージル
「勝ちました!!」
「勝ったよー」
そんなことを言いながら、ヴィリアとヒイロが戻ってくる。
もちろん、敵船は沈まない程度の損壊に抑え、乗員は全員戦闘不能とはいえ、傷も残らない程度に手加減もできている。
完璧な勝利と言っていいだろう。
というか、こんな分かり切った結果はどうでもいい。
まあ、ヴィリアたちの経験不足からくる暴走や判断の誤りは心配してはいたが、そういうレベルだ。
戦力的に負ける筈がない。
だけど、それがわかっていたのは身内だけで……。
「……あの子たちですらここまでの戦闘力を有しているとはな。宰相、レイク将軍、このことを知っていたのか?」
「いえ、私が知っていたのは、カグラ殿、フィーリア殿、デリーユ殿の実力だけです。まさか、他の人たちもここまでとは……」
「私は実際に彼女たちの訓練を見たことはありませんが、ユキ様の信頼から察するにこれぐらいはやるだろうとは想像してました。そうでもなければそもそも子供とゴブリンだけで船を制圧しろなどとはユキ殿は言わないでしょう」
「確かにな……。じゃが、これはこの目で実際に見なければ信じられんな」
エメラルド女王を筆頭に空母に乗船しているシーサイフォ王国のメンバーは皆、目を丸くして驚いている。
そのエメラルド女王が目を向ける先にはいまだ煙を上げたままでこの空母に牽引されている船が二隻。
ヴィリアとヒイロによってぶっ壊された船だ。
両船ともマストをへし折られたので、自走しようがないんだよね。
こんなとんでもない光景を見せつけられでもしないと、ウィードの実力はわからないからね。
ま、そんなことよりも、僕は早速CDCへの方へと戻る。
僕のメインの仕事はシーサイフォ連中との顔つなぎじゃない。
何よりまず、有益な情報を手に入れることだ。ああ、外交官の仕事ももちろんあるが、それは優先事項じゃないからね。
外交に関して出てゆくのはウィードとシーサイフォの話がまとまった後の話だ。
今回の同伴は、ウィードの部下としてきているだけ。
そしてなにより……。
「やぁ、どうだい! いいデータはとれたかな!」
僕は笑顔でCDCのドアを開けて入ると……。
「エージルは元気ね……」
なんかげっそりと憔悴したドレッサが佇んでいた。
「疲れてるなら座ればいいのに」
「ヴィリアやヒイロが戦っている最中に私だけ座ってるなんてできないわ。それに、戻ってきた彼女たちを私が真っ先に迎え入れないといけないもの」
指揮官と艦長を任されたドレッサはまだ息の抜き方がわからないようだね。
「気持ちはわかるけど、任せて休むことを覚えることだね。そんな調子じゃずっと寝れないよ。船を動かすためには常に誰かが起きて頑張ってるんだからね」
「……わかっているわよ。今回だけよ。初陣なんだから」
「それがわかっているならいいよ。ユキに心配かけすぎると後方送りで飾り物決定だからね」
「それもわかっているわよ。ユキは優しいんだから……。って、そんなことはいいのよ! いいデータの件だけど、それはあっちの観測班に聞いて」
露骨に話をそらしたね。
素直にユキが好きだといえばいいだろうに。
まあ、それを言うなら僕も同じかな?
いやー、お互い恋路は面倒だね。
と、そこはいいとして、データ、データ。
「やあ、観測班の諸君。調子はどうだい? 何度か魔術が飛んできて障壁にぶつかっただろう? その際のダメージとか負荷はどうだい?」
僕がそう聞くと、観測班のゴブリンたちがこちらに振りむいて……。
「特に問題はないですね。障壁、外壁ともに損傷無し」
「魔術障壁の負荷率はこちらですね」
そういって、ゴブリンは私に書類を渡してくれる。
普通なら超が付くほどの重要機密情報で、エナーリア王国所属にすぎない私なんかが見られるはずもないんだけど、この空母の魔術障壁展開装置は私とウィードの技術屋が取り付けたものだからね。
というか、この情報を持ち帰ったところで、エナーリアでは作ることなんてほぼ不可能。材料的にも人材的にも何もかもが足りない。
人材も資材も豊富だからこその開発なんだよね。
まあ、空母自体の値段がひっくり返るほどのものだし、それから比べればまだましとは思うけど。
そんなことを考えながら、書類に目を通す。
「ふむふむ。まあ、許容値範囲ってところかな。見ていた時は衝撃が大きかった気がしたけど、そこまで負荷はかかっていないね」
ファイアーボールによる魔術砲撃の船体魔術障壁への負荷は思いのほか少なかった。
それなりにちゃんと作ったとはいえ、こういう試作品は何かしら思わぬ不備が出るはずなんだけど、許容値ですんでいる。
理想的な結果ともいえるし、データとしてはあまりにお手本のようなデータでかえってつまらない。
兵器としての完成度を高めるにはあらゆるデータが必要なのだ。設計通りの平凡データなど必要ないとは言わないが、不具合が出たデータのほうが兵器の限界を知るにはちょうどいい。
と、あまりに綺麗なデータに不満を持ちつつもその先を見ていると、負荷が急に増大しているポイントを見つけた。
「この時点の負荷が急に増大しているけどどういうことだい? しかも普通の増大じゃない。およそ設計の3倍はある。この時何かあったっけ?」
「その時は二発同時の着弾がありました」
「その二発、二か所からの魔術砲撃かい?」
「そうなります。着弾ポイントは別々です」
「ふーん。映像は?」
「こちらです」
すぐに観測用PCのモニターにデータが上がる。
既に全ての着弾画像を準備している辺り、ゴブリン観測班の腕前が良くわかる。
ユキから聞いたところでは、実験部隊としていつもデータ収集をしている部隊からの引き抜きだからここまで動けるとのこと。
で、映し出される映像。
確かに艦首と舷側に同時に着弾している。
まあ、着弾したといっても所詮ファイアーボールがちょっと大きくなった程度で、この程度の攻撃で船体にダメージが出るかは怪しいレベルだけど。
しかし、そのレベルの攻撃で魔術障壁の負荷が3倍に増している。
全体的な負荷の許容量にはまだまだ余裕があるから気にしなくてもいいレベルではあるが、同時着弾で負荷が倍加してゆくなら、かなりまずいことだ。
「……これは一回実験してみる必要があるね」
「ですね。同時着弾数が増えればさらに負荷が大きく上昇する可能性もありますから」
観測班の言う通りだ。
小威力でも多数同時着弾をすれば負荷が増えて、魔力障壁が抜かれる可能性が出てくる。
いや、火力の高い攻撃なら魔力障壁を抜かれて当然なんだけど、あんなしょぼい攻撃の同時着弾程度で魔力障壁を無効化されるとか技術屋の名折れだからね。
「ま、この件はのちのち調べるとして、他に問題は? というかわざと被弾したんだろうけど、回避性能はどうだったんだい?」
「回避性能につきましては検証しようがありませんね。そもそもあそこまで近づかれれば、回避のしようがありませんから」
「確かに」
「というか、基本的に空母で砲撃や雷撃を回避するというのは船体のサイズからほぼ不可能です。相手が外すの間違いですね」
「確かにね。電子制御の砲撃やミサイル攻撃が外すとかありえないし、弾幕を張っての迎撃装置、防衛機能の方を見るべきだね」
「とはいえ、そんな必要のある兵器は今回出てきていませんので」
「これも後で実験……は厳しいかな? 弾幕張るにもただじゃないし、迎撃される兵器もただじゃないし」
軍事は何かとお金がかかるんだねーと改めて思う。
「あとは、船体のダメージは?」
「そこは全く無しです」
「だろうねぇ」
全部障壁で止めたのは確認している。
着弾の衝撃は無し。
そんなことを話していると、ミリーがCDCに戻ってくる。
「やあ、ヴィリアとヒイロはあれからどうなった?」
「2人は女王たちからの質問攻めを無事終えて、こっちに戻ってくるわ。ドレッサ、ちゃんと迎えてね」
「ええ。ちゃんと出迎えてすぐにほめてあげるわ」
「何言っているのよ。ヴィリアとヒイロの任務はまだ終わってないのよ? 報告をちゃんと聞いてからねぎらいの言葉をかけなさい。いつまでもお友達気分じゃだめよ」
「うっ。わ、わかっているわよ」
ミリーの厳しい言葉に少し悲しそうにするが、すぐに返事をするあたり、ドレッサは強いと思う。
友人を部下として扱えっていうのは結構来るんだよね。
まあ、慣れの問題ではあるけど。
「で、ミリーは外で観戦しててどう思った?」
「うーん、そうね。特にめぼしいところはないかしら。ユキさんたちとも連絡を取ったけど、向こうに乗船したメンバーは意外と揺れが激しくて、軒並み船酔いでダウンが多いわ。デリーユもよ」
「へぇ。デリーユまでね。ま、船が小さいし揺れるんだろうね」
「みたいよ。と、そろそろヴィリアたちが……」
とミリーがそう言いかけたところで、扉が開いてヴィリアとヒイロが入ってくる。
僕は特に声を掛けることなく、静かにその姿を見守る。
最後までちゃんとできるかな?
そう、この場にいる全員思っているだろうね。
そして、ヴィリアたちは艦長であり指揮官でもあるドレッサの前に立ち……。
「報告いたします。敵艦隊3隻全ての拿捕に成功いたしました。内2隻は自力航行不能に、もう1隻は航行能力を維持しております」
「おります」
ヴィリアがする報告に、ヒイロが続くんだけど、ヒイロはあまり言う意味がないような気がするけど、ここで突っ込むのは無粋だね。
で、その報告を受けたドレッサは……。
「こちらでも戦果を確認しているわ。2人ともよくやってくれたわ。今は休んで、起き次第報告書をまとめるように」
「はい」
「えー」
「ヒイロ……」
「はーい」
「……ま、いいわ。下がりなさい」
「「はい」」
ということで、2人は帰っていく。
ヒイロはわざとやっているね。
ドレッサたちの緊張を感じ取っているんだろう。
あとでそれとなくフォローしてやるかね。
そんなことを考えていると、ドレッサがこちらを向く。
「で、ミリー。乗船しているエメラルド陛下たちを放り出して何しているのよ。それとも何かあったの? まさかヴィリアたちが来るから報告をわざわざしに来たというわけじゃないでしょうね?」
「そんなわけないわよ。陛下たちから自分たちだけにしてくれって言われたから、一室貸して引いてきたのよ。無論ゴブリンたちは付けているから心配はないわ」
「自分たちだけにしてくれ、ね。いやー、今頃現実を振り返るので精一杯だろうね」
「……これで、私たちは少しは認められたのかしら?」
「「「……」」」
そのドレッサの質問にはミリーも私も答えてあげることはできない。
というか、ドレッサ自身が一番よくわかっているだろう。
ここで見せつけたのはあくまで、ウィードという国の力であって、ドレッサ個人の実力ではないってことぐらい。
あ、いや、ヴィリアとヒイロの実力は見せつけたんだから、自ずとドレッサ自身の強さも相手には想像がついているだろう。
まあ、でも問題が無くなったわけじゃない。
これからドレッサは、強大すぎる力を持ち揮うものとしての対応を求められるわけだ。
ユキがこれまで散々苦労して調整しながら見せてきた力の差を、今回シーサイフォ相手には事前の通告もほぼなく見せつけた。
おそらく、シーサイフォ王国は近海防衛につくことになるドレッサに色々なことを仕掛けてくるはずだ。
いや、仕掛けてこないなら、ただのアホだね。
ユキや僕たちは遠洋に出て魔物の調査で不在なんだし、どうみても絶好のチャンスだ。
その中でドレッサたちはどんな対応するのかね?
君たち、これからが本番だよ。
「エージル将軍。ダメージレポートを」
「あ、ほいほい」
おっと、僕もきちんと報告しないとね。
あとは、このデータをタイゾウさんたちにも持って行かないと、魔術障壁装置は改良が必要と。
僕は僕で仕事をしないとね。
せっかくこっちに付いてきたいと頼んだんだし、ユキへのアピールもわすれないようにっと。
空母秘密兵器その1「魔力障壁発生装置」
ナールジア、コメット、タイゾウ、エージル、ザーギスが共同開発をした魔力障壁展開装置。
通常の装甲に加えて、空母を覆う魔力の障壁を展開可能にする装置。
まあ、鎧による防御力アップとか、障壁展開の応用でもある。
外見的にはただの空母ではあるが、この世界に来たからには、魔術技術も応用するのがウィードのやり方である。
これからマッドサイエンティストの力が見られるね!
「今週のびっくりどっきりメカ!!」
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