第831堀:船は揺れる
船は揺れる
Side:ユキ
目のまえに広がる大海原。魔物がいようが、自然の偉大さには変わりないということか。
何よりも、ガレオン船に乗っているというのがいい。
波に揺られる船の感覚がダイレクトに伝わってくるのが本当に素晴らしい。
きっと、昔の船乗りたちはこうして大海原に乗りだしたのだ、と考えると本当に大したものだよなー。
と、感動しながら、大昔の人たちに思いをはせていたのだが。
「……おれ、しにま……す」
その隣ではなんと勇者王が死にかけていた。
「まあ、落ち着け。ただの船酔いだろうが」
「きぼちわるい……です」
「あーそういう時は、とりあえず吐いて、横になるのがいいぞ」
俺がそう言いったとたん、なぜかその隣から……。
オロロロロ……。
と、別の人物が海へ向かって虹を生み出していた。
ああ、虹ってのは比喩な。
「ルースもか……」
「す、すみません。ど、どうも、この、ふ、ねは……」
オロロロ……。
意外なことにイケメンの近衛隊長でもだめだったようだ。
船っていうのは人を選ぶからな……。
「もう、だめじゃ……。アスリン、すまぬ……」
「我慢しなくていいんだよー」
「そうなのです」
オロロロ……。
勇者様だけでなく、魔王様までもが船はダメなようで、こっちもダウンだ。
まあ、車酔いしてたし、これは予測できてたか。
「あの、先輩? むりは……」
「……む、りなどしておりません」
そして意外や意外。
パーフェクトメイドのキルエもこのガレオン船はダメなようだった。
ということで、この船に乗っただけで、なんと我がウィードの人員は半分以上が戦闘不能となっている。
空母クラスと違って安定しないからな~。
それが分かっただけでも良しとしよう。
ま、それはいいとして……。
「おやおや、あれだけ立派な船をお持ちなのに、情けない限りですな」
「あー、まあ、船での戦いや行動はメインじゃないもので……」
俺が振り向くとそこには5番艦隊の指揮官兼、この船の艦長を務めているマランがいた。
「それでは宝の持ち腐れですな。このような有様で、どのようにして海の魔物と戦うおつもりか?」
「……まあ、じきに慣れるかと。迷惑をおかけして申し訳ない」
こればっかりはなにも言い返せない。
海の魔物退治に協力するってのにこの様じゃな。
本当に宝の持ち腐れだ。
説得力皆無だ。
どうみても、マランがいうのは正論で、難癖をつけているようには見えない。
「……ふむ。それなら、とりあえず、一頻り吐いたらこちらの水で口を漱ぐといいかと」
「あ、お気遣いありがとうございます」
「いえ。お気になさらずに。客人をいたわれないほど無礼ではありませんから」
そう言ってマランは部下に指示をして、航海では一番大事な真水を提供してくれる。
こいつ、普通にいい奴なんだよな。
「とはいえ、あのような子供たちをなぜ使うのかはよくわかりませんが、この後、命を預けることになるかもしれないので、模擬戦には全力で当たらせてもらいます。そこはご容赦ください。たとえ大人げないといわれようとも、私はこの国に命を捧げているのです。それはご理解いただきたい」
「こちらも、何も事前に話しあうこともなくこんなことになってしまい申し訳ない。もう少しゆっくりであればよかったのですが」
「お互い不幸でした。と、私はそろそろ模擬戦の指揮に入ります。何かありましたらこちらの者に申しつけてください」
「ええ。ご丁寧にどうもありがとうございます」
そう挨拶をしてマランはそのまま操舵所へと移動する。
ガレオン船の場合、指揮は作戦司令室とかからじゃないから。
船長は船員と一緒に甲板に出て指示を出す。
まあ、船長室にいることもあるが、戦いに限っては普通は甲板で一緒に戦うからな。
「……意外と普通の、いえかなりまともな軍人だったわね」
ラビリスとフィーリアが俺の足にしがみつきながらそう言う。
「そうだな。あのマランは単にきまじめだったんだろう。そういう意味では申し訳ないな。で、ラビリスとフィーリアは船酔いとかはなさそうか?」
「ええ。問題ないわ」
「問題ないのです。それよりも、この船はとても興味深いのです。ちゃんと頑張って作られていて職人の魂がこもっているのです!!」
うん。ラビリスはともかく、フィーリアは別の意味で問題ないな。
さて、とりあえず……。
「そろそろ、始まるみたいだから、具合の悪いメンバーは集まれ。一度回復魔術かけるぞ。せめて邪魔にならない場所で寝とけ」
「「「……はーい」」」
よろよろと起き上がるうちのゾンビども。
まあ。船酔いはきついからなー。
そんな感じで、みんなを客室へ誘導して寝かせたついでに、コールで空母の方の様子を聞く。
「ミリー。そっちはどうだ? 船酔いとかで動けなくなってないか?」
『はい。問題ないですよ。こっちは全員ピンピンしてます。空母は全然揺れませんし』
「やっぱり船の大きさか」
安定性が違うっていうもんな。
実際それを体感したし。
「お客さんたちは?」
『何を見ても驚いてばかりですね。機密区域には近づいていませんので大丈夫です。まあ、たとえ見たところで理解もできないでしょうけど』
「注意するに越したことはないからな。わからないとは思うが、それでも注意はしておいてくれ」
『了解です。空母をぐるりと見て回って、今は艦橋で見物していますから大丈夫だとは思いますけど』
「そうか。あそこなら見晴らしがいいから戦況もわかりやすいか」
『で、こっちのことはいいんですが、そっちは大丈夫なんですか? ユキさん、あの艦長に悪口言われてません? バカにされてません? 正直に言ってください。沈めますから』
それは船ごと海底にってことか?
とは聞き返せなかった。
まあ、ウィードに来た頃のミリーならともかく、最近のミリーは落ち着いているからな。
……ジョークということにしておこう。
「いや、それはラビリスとも話していたが、意外と話せる人物だったぞ。なあラビリス」
「ええ。こっちが信用に値する実力を見せつければ、普通に接してくれると思うわ。まあ、男尊女卑が当たり前のこちらで、今でもあそこまで丁寧なのも珍しいのかも」
『へえ、ラビリスがそこまで言うなんてね』
「国家存亡が係わっているから、ウィードの陣容を見ても納得するわけにはいかないって、本人は言っていたわね」
『……納得というかなんというか、まあ当然のことではあるわね。でもそれだからといって上の指示を聞かないってのはどうなのよ?』
「そこは若さってところなんだろう。別に俺たちがしっかり実力を見せれば納得してくれる可能性が高くなったと思えばいい」
無意味にだだをこねるような人物には見えなかったからな。
実直な軍人って感じだ。
柔軟性には欠けるが……。
「あとは、こちらの船に乗り込んでくるヴィリアとヒイロだけど、調子はどうだ? 昨日はいきなりすぎて緊張しているように見えたけど」
『そっちは問題ないです。さっきも気合いを入れてましたよ。もともと、セラリアとか、シェーラとか、スタシア殿下とかとも仕合はしていたから、緊張の理由は大軍相手ってことですね』
「そっちか。確かに、ヴィリアは一対一の勝負はしたことはあっても、多人数戦はあまり経験が無いからな」
「あっても、スティーブたちとか気心のしれた相手だったから、そこら辺で緊張したのかもしれないわね」
『それに、船の責任者の一角ですからね。無様な姿は見せられないって言ってましたし』
「別に失敗してもいいんだけどな。スティーブたちもいるからフォローはしてくれる。って、本人の気持ちの問題なんだろうな」
仕事を自分の力で頑張りたいって話だ。
それで頑張り過ぎないようにと心配するのは、上に立つ者の贅沢な悩みなんだろうな。
そんなことを考えていると、ミリーから報告が上がる。
『そろそろ、模擬戦開始です。狼煙がそちらから上がりました』
「あー、今船室で、よくわからん。ま、お互いの姿は確認できる距離だから、そこまで時間はかからないだろう」
『ですねー。あ、ヴィリア、ヒイロが甲板から飛び出しました。きちんと滑走路から』
「……いや、一応、戦闘機用なんだけどな」
「別に今は使ってないからいいんじゃない?」
ラビリスの言う通りだが……人間砲弾みたいなイメージがなぁ。
「あ、そういえば随伴のスティーブたちは?」
『ちゃんとついて行ってますよ』
「そうか。あいつらもやり過ぎないようにしてほしいもんだ」
スティーブたちがマジに行動すると、こちらの船とか一瞬で木っ端微塵だからな。
それぐらいの装備はあるし魔術を使うこともできる。
「スティーブたちは仕事には忠実よ。と、そういえば、前日スティーブたちに海域の調査させてたけどどうだったの?」
「ああ、そういえば、そんなこともあったな」
『聞いてないんですか?』
「いや、流石に聞いている。だが、全然有益な情報はなし。まあ、調査した海域は海産資源が豊富ってのが嬉しい情報って所だ。肝心の魔物に関してはさっぱり。とはいえ、たった一日。しかも数時間の調査だしな」
情報の精度は全然望めない。
ただのハイキングって感じだ。
「そう。なら、海産物の料理は楽しめそうね」
『そうね。お酒に合うものがあればいいなー』
「だな。口に合う魚がいるといいな。異世界の魚はどんな味がするのか楽しみだ」
と、そんなことを3人で話していると……。
ズドーン!!
そんな爆音が響きわたる。
「なんだ? 爆音? 魔術戦でもやってるのか?」
「あら、そこまでの術者っていたのね」
『あー、そうみたいです。ヴィリアが乗り込んだ船から爆炎が上がっていますね』
「おいおい、木造船の中で爆発系って不味くないか?」
「そうね。なんでそんなことをしたのかしら? 船は大丈夫なの?」
『えーと、私の方からはまだ燃えている感じは……』
ズドーン!!
また音が響く。
思った以上にバカなのか? それともヴィリアが奮戦しているって感じか?
まあ、初めての異世界の海戦だ。
魔術という攻撃手段があるからな。俺たちの知っている海戦とは戦い方が違うんだろう。
などと考えていたら、急に船が大きく揺れ、窓から見える海の景色が変わり、船の姿が目に入る。
シーサイフォ側の船だ。距離はさほど離れていないから、マランの艦隊だろう。
そう思っていると、火の玉が船から射出されて、空母リリーシュへと飛んでいく。
ああ、なるほど。敵木造船に対してファイアーボール系の魔術ほど効果的なものはないな。
まあ、空母リリーシュは鉄の船なんだが……。
しかも、あの程度の魔術であれば……。
ズドン!!
そんな音を立てて、空中で爆散してしまう。
「おー、上手く機能しているな」
「そうね。空母に魔術障壁を装備するとか、魔力消費量が馬鹿にならないから無駄と思っていたけど、あるのとないのでは大違いね」
『ですね。これで海中はわかりませんが、海上からの魔術攻撃は防げることが確認できましたね』
「魔術障壁の負荷率とかはわかるか?」
『ごめんなさい。そこは私、絡んでなくて……』
「いや、気にしなくていい。あとでスティーブたちに聞いてみよう」
そんなことを話していると……。
ボガン!!
一際大きな音がして、窓から見えている船のマストが突然折れた。
「いよいよ本格的にやってるなー。船はあまり壊さないでほしかったんだが……」
「ヴィリアたちの安全が最優先よ」
「そうだな。これでマランを含めてこの艦隊はヴィリアたちのことを認めるだろうよ」
そう言いながらも、どんどんボロボロになっていく船を見て、補償はどうしようかと悩む俺であった。
出撃時
「ヒイロ、いっきまーす!!」
「ヴィリア、出ます!!」
「……アニメの見過ぎね」
そして船は酔う人は結構酔う。
小さい船ほどね。




