第830堀:いつだって唐突で
いつだって唐突で
Side:ヴィリア
「はぁぁぁ!? 模擬戦!?」
私はドレッサの叫び声に思わず耳を押さえてしまいました。
まったくうるさいですね。
でも、驚きは理解できるので叱ったりはしませんでした。
なにせ、模擬戦です。
いえ、模擬戦なら今まで何度もやってきています。
しかし、今回の模擬戦は……。
「お兄、海戦をいきなりやれとか無理」
そう、ヒイロの言う通り。
私たちだけで海戦なんてどだい無理です。
砲撃やこの艦の電子兵装を使っての戦闘なんて……。
「そ、そうです。お兄様たちがいるならともかく、私たちだけじゃどうしていいか……」
「いや、海戦は一応講義でやっただろう? いや、実技もやったよな。サポートにスティーブたちもつく」
「そんなの模擬戦っていわないわよ! 敵艦に接舷して乗り込むとか、どこの大昔の戦いよ! 空母でそんな真似できるわけないわ! なに、それとも艦載機だして模擬戦相手吹き飛ばしていいわけ?」
「流石にそれはやめてくれ」
「じゃあ、どう戦うのよ。銃器もダメなんでしょ!」
「そりゃな。模擬戦で死人を出して恨まれるようなことはしたくないからな。というか、接舷なんかしなくても敵艦に乗り込めるだろう?」
「はぁ?」
お兄様の不思議な質問にドレッサが首を思い切り傾げます。
「えーと、ユキ。なんで海戦の模擬戦で私たちが直接敵艦に乗り込むことになるのよ? いや、確かに私たちの身体能力と魔術があれば、敵艦に乗り込むのは簡単よ? でも、それじゃ海戦の意味がないじゃない!」
そうです。ドレッサの言うように、それではただの対人戦闘訓練でしかありません。
なぜそんな戦闘訓練をお兄様は海戦というのでしょうか?
そんなことを考えていると、まずドレッサがお兄様が出したハリセンではたかれます。
パシーン!!
パシン。
ペチン。
「いったー!?」
「あうっ」
「へう」
と、続いて私たちもなぜかハリセンではたかれ?ました。
「3人とも落ち着け。今回は砲撃、或いはトマホークなどの超遠距離戦にはならん。もちろん飛行隊での制空権確保もない。それはわかるな?」
「いや、それは当然でしょう? 相手はそもそもそんな技術は持っていないんだから。というか、そんな攻撃したらそもそも勝負にもならないわよ」
「わかっているじゃないか。だから相手のレベルに合わせる。今後ドレッサたちが侮りを受けることがないように、徹底的にやれ」
「あ、そういうことですか」
「おー。わかった」
「そっちなのね……」
なるほど、お兄様はこの模擬戦で私たちの力を見せつけてシーサイフォに認められろといっているのですね。
「もともと、今の立場は自分には不釣り合いって言ってただろう?」
「うっ。それは言ったけど……」
「それなら釣り合うようになればいい。今なら、幸い模擬戦をしてくれる相手がいるんだ。まあ、油断していると怪我するかもしれないが。ここではっきり力を示せばシーサイフォの連中は認める。これからの海の魔物と対峙するうえで、認めない相手と組むよりはるかにましだろう?」
「それは、その通りです」
「……むう、確かに」
そうか、お兄様は私たちがここで活動して行くために有利になるようにとも考えているのですね。
まあ、私たちは見るからにまだ子供といっていい年ですから、そういうことも必要なのかもしれません。
「まあ、俺たちも一緒に乗り込むしな。船の防衛は任せておけ。あ、ドレッサは指揮官であり艦長だから自ら敵の船に乗り込むようなことはするなよ」
「いやいや、ヴィリアとヒイロの2人だけで敵を制圧しろなんていわないわよね?」
え? 本当に私たちが単独で敵船に?
いや、それは、無理……という前にお兄様が話し始めます。
「いや、そのつもりだ。敵の編成は3隻で一艦隊のようだ。まあ、騎兵とか、戦闘機の小隊単位だな。地球の艦隊編成とは違うが、俺が知っているのは二次大戦当時の編成だから」
「あの時代の編成とこの地の編成を同じ扱いにしないでよ……。まあ、話はわかったわ。一人につき一隻乗り込めってことね?」
ほっ、それなら、ってちっとも安心できませんよ!?
ドレッサも何理解を示しているんですか!?
私一人で敵艦を制圧なんてできるわけありませんよ!?
「あ、あの……」
私は非常識この上ない作戦を止めるために声を掛けようとしますが……。
「そうなるな。残り一隻をどう料理するかは任せる」
「……性格の悪い。それで心を折れってことね」
「さてな。意外と心服して、今後は協力してくれるかもしれないぞ?」
「上司の注意も聞かずに私たちに喧嘩を吹っかける連中が、掌返しで仲良くしたいとか言い出すわけないでしょう」
私の焦りを置き去りに話をどんどん進めていくお兄様とドレッサ。
もうなぜか、敵艦が二隻落ちることになっているんですが!?
「ド、ドレッサ?」
「でもヴィリアとヒイロだけを敵艦に向かわせるなんてできないわ。ユキにとっては訓練も兼ねているんでしょうけど、艦長としてそんな危険なことはさせない。私は指揮官として安全のためにスティーブとブリットたちのゴブリン隊を付けるわ。いいわね?」
「意外と普通の要求だったな。てっきり航空戦力を使わせろとか、トマホークでも撃たせろとか言うのかと思ってた」
「……流石にユキの意図を損ねたり覆すようなことはしないわよ。そもそもスティーブたちを使っていいなら焦ることもなかったわ。で、返答は?」
「ま、いいか。それぐらいは」
「よし! これなら問題ないわ。ね。ヴィリア、ヒイロ?」
「え? あ、はい。スティーブさんとブリットさんがいるなら……」
「うん。スティーブたちがいるならへーき」
しまった。つい許諾の返事をしてしまいました!?
でも、今更無理なんて言える雰囲気ではありません。
私はそうこうしている内に、模擬戦前の挨拶へと赴くことになりました……。
「ほう。そのほうたちが、あの巨大船の艦長と士官か?」
「はっ。私が空母リリーシュの艦長のドレッサと申します。こちらが副官のヴィリアとヒイロと申します」
そうドレッサに紹介されて、礼だけの挨拶とする。
まあ、これでよかったのかもしれない。
なぜか、模擬戦前の挨拶の場にシーサイフォ王国の女王陛下までいるなんて思いもしなかったからです。
というか、いつもなら、お兄様が挨拶をするのに、なんで私たちがメインみたいになっているんですか!?
「ふむ。ユキ殿。会ってみたいといったのは私だが、本当に本当か?」
「本当といいますと、何がですか?」
「この少女たちが、あの船の最高責任者なのか? ユキ殿が嘘を言うとは思わんが、確認は取っておきたい」
ほら、まったく信じられてませんよ!?
私たちがちびっこだから、お兄様の足を引っ張ってしまってます。
でも、らしくない私たちが悪いんです。どうしたら……と思っていると、お兄様は全く気にした様子もなく答えます。
「ええ。間違いありませんよ。彼女たちが間違いなく、あの船の艦長及び士官です」
「うむむ……。そうか、いや、ウィードの士官制度は変わっているのだな。ユキ殿の護衛も女性ばかりじゃしな」
「ああ、まあそうですね。こちらの大陸とは違い、女性でも上の立場に就くことはよくありますからね。彼女たちも強いですよ」
「うむ。それは知っておる。練兵場でその一端を見たからのう。そうか、つまりは、この少女たちも同じというわけか」
「見た目通り、まだ未熟ではありますがね」
「ふむ。お互い様というわけか」
「ま、そういうことにしておいてください。とはいえ、そちらにいらっしゃる方々は不満のようですが」
お兄様がそう言って視線を向けた先には、レイク将軍が率いている軍服を着て怖い顔をした人がこちらを睨んでいました。
「こら、お前は、もっと……」
「レイク閣下。模擬戦とはいえ、ちゃんとした戦いであります。その相手がこのような年端も行かぬ少女たちというのは侮辱であります。シーサイフォが誇る海軍の一員として、このような侮りを甘んじて受けては恥です。なにより、女子供や、果ては非力なゴブリンたちまでをも兵員として動員するような非道な男に……」
「貴様!! 口が過ぎるぞ!!」
あ? コイツ今なんて言った?
ビシッ!!
「ちょ、ヴィリア!!」
「なんですか、ドレッサ?」
「ヴィリお姉。足元」
「はい?」
私はヒイロに言われて、足元をみると、石で出来たタイルが割れていました。
「あら、寿命だったのでしょうか?」
「「「……」」」
なぜかシーサイフォの人たちは全員、蒼白な顔をして黙ってしまっています。
なぜでしょうか?
というか、私は確かあの男が……。
「こほん。では本日の模擬戦は、それぞれの代表がお互い船の旗艦に乗り込み、相手の船に乗る代表者を救出というかタッチできた時点で終わりということでよろしいでしょうか?」
「う、うむ。それでよかろう。お互いの練度も見れるいい機会じゃ。みな、頼むぞ。準備を開始せよ」
「「「はっ」」」
「さて、俺たちも準備を始めるぞ」
「「「はい」」」
と、いけない。
海の戦いというのは、事前の船の準備から始まるモノです。
いえ、すべての戦いは戦う前に勝敗は決しているといいます。
事前の準備が大事だということです。
そして、私は空母の士官です。
私たちはさっそく空母に乗り込む……というわけにはいかずに、シーサイフォの女王様と臣下の方々を案内することになりました。
「……話に聞くだけや、外から見るのと、実際に乗ってみるのとではかなり違うのう」
「そうでしょう。この技術は言葉では言い表せないものがあります」
空母に到着した私たちは、エメラルド女王様の案内をしていますが、基本的にレイク将軍やアクアマリン宰相が間に入ってくれるので、直接の説明はさほどいらないのが助かります。
セラリアお姉様が相手ならそこまで緊張はしないのですが、流石に他国の女王様には緊張してしまいます。
と、そんなことを考えていると……。
「して、ヴィリアだったかな?」
「ひゃい!」
なぜか女王様が私に話しかけてきました。
「そこまで緊張せずともよい。それにヒイロだったか?」
「そーだよ。じょうおーさま」
「こ、こら、ヒイロ。もっとちゃんとした返事を……」
「よいよい。子供はこうでなくてはいかん。なあルイ?」
「はぁ、母上が子供に甘いのは相変わらずですね。まあ子は国の宝と言いますし」
「うむ。して、そのウィードの宝ともいうべきヴィリアにヒイロがなぜ、このような危険なところに参ったのか聞いてみたかったのじゃ」
女王様はそう言うと、ひざを折って私たちの目線に合わせてくれます。
「遊びに来たということはあるまいが、まだ遊びたい年ごろであるだろう? 何を求めてお主たちはユキ殿と共に来た? こう言ってはなんだが、お主たちはまだまだ未熟にみえる。そして、それを理解しているように見える。あの艦長のドレッサ嬢もな。まあ、あのドレッサ嬢が貴族ということは立ち居振る舞いからわかる。だがお主らはよくわからぬ。無理やりというわけでもなさそうだが……」
ああ、なるほど。この女王様は私たちのことを心配をしてくれているんだ。
私が無理してないか、無理やり連れてこられたのではないか。
だから、しっかり答えないと。
「私は、自分の意思でこの場に来ました。お兄様の役に立つために」
「うん。ヒイロも同じ。お兄のためにヒイロたちは頑張るって決めたんだ」
そう、はっきりと私たちの気持ちを伝えます。
「……そうか。ならばもう何も言うまい。模擬戦、期待している」
「はい」
「がんばるよー」
さて、こうなっては逃げることはできませんね。
私たちがお兄様にふさわしい剣と盾であるところを見せつけなければいけません!!
空母で接舷戦闘だってよ?
HAHAHA!!
とはいえ、これが一番お互いわかりあえるやり方だよね。
武器も隠せるし、ヴィリアたちの立場も確保できる。
さあ、ヴィリアとヒイロは敵船を落とせるのか!




