第828堀:エメラルドの王
エメラルドの王
Side:ユキ
「あれは絶対寒いですよ」
「……タイキ君が寒かったのはわかった。でもとりあえず、今は女王との謁見だ」
なぜか、謁見の間の玉座は冷たいという話にこだわるタイキ君だが、なんかトラウマになることがあったんだろうな。
と、いかんいかん。俺たちは謁見に来たんだ。
流石に他国の謁見の間で主を無視して雑談をしているわけにはいかん。
「では、こちらに」
そう言って、アクアマリン宰相がわざわざ俺たちの案内係を務めること自体でも、いかに俺たちを重要視しているかがわかる。
普通は宰相が自ら案内をすることなどありえないからな。
宰相なんてポジションは王の横に立って補佐に努めるものだ。
まあ、入ってゆく順番はハイデンのカグラ、フィンダールのスタシア殿下、ハイレ教のエノラ、最後にウィード一行の俺たちだ。
ハイデンやフィンダール、ハイレをないがしろにするわけにはいかないからな。
しかしながら、なぜか今回の謁見はアスリンたちも含めてとのご要望だ。
子供はご遠慮とかいうかと思えば、そういうことはなかった。よほど警戒しているのかね?
ああ、フィーリアのぶっ壊しがいけなかったかな?
とりあえず、アスリンたちもこういう謁見の間はセラリアの付き添いを何度もやっているし、ほかの場所でも謁見の経験があるので粗相をするようなことはないけどな。
で、そんなことを考えている間に、女王の前へ着いた。
その姿は、年齢という概念をどこかに置いてきたかのような風貌で、まだ20代といっても信じられるレベルの人だ。
……この世界の女性の容姿レベルはやはり総じて高い気がする。
というか、ハイデン王のやつ、わざと黙ってたな。
はあ、容姿や性別のことはいいとして、一応相手の方が立場が上なので、礼を取ろうと思った瞬間……。
「礼を取る必要はない。こちらから招いたのだからな」
そう女王に言われて全員の動きが止まる。
だが、その中で唯一口を開いたのが……。
「母上!! いえ、女王陛下! それでは我が国が甘く見られます!」
おそらくは先ほど話に出ていた王子だろう。
一応威厳というのが見られる。
まあ、若造って感じだけどな。
「控えろ、ルイ。ハイデン、フィンダール、ハイレ教は我が国と同等。しかも向こうから訪問してきたならともかく、こちらの都合で来てもらって、甘く見られるも何もない」
「しかし……」
「それに、そちらのウィードの王配もおられる。膝を折らせて首を垂れさせることが後々どう影響するかわからん」
「……失礼いたしました」
「よい。心配しての事というのはわかる。だが、以後は口をはさむな」
「はっ」
うーん。素直に下がったな。一応の意思表示か?
王子が先んじて文句をいって叱責を受けることで、臣下たちが何か余計なことを言うのを事前に止めた。って感じか?
「失礼した、お客人。私は、このシーサイフォ王国の女王、エメラルド・シーサイフォという」
エメラルド・シーサイフォねぇ。なんというか、宝石と海になぞらえた名前が多いな。
こういう名前を付けるのがこの国では一般的なのかね?
戦国時代に跡継ぎの幼名が同じってやつだ。
「しかしながら、ハイデンに声を掛けたつもりが、ここまで多くの者たちが集まってくれるとは思わなかった。我が国を救ってくれようとする偉大な御三家の方々、そして、遥か遠き国よりまいられた英雄殿たちよ。遠路はるばる、シーサイフォまでよく来てくれた。まずはそのことに深い感謝を」
そう言って、礼を述べる女王。
随分仰々しい言い方をするな。
まあ、ちゃんとバカにしていませんよってアピールだろうな。
そして、こんなすごい人たちが来たのだと周りに示すためか。
で、その挨拶に返事をするのは、ハイデン代表のカグラだ。
「お礼を申し上げるのはこちらです。温情厚き女王陛下のご支援のお陰で、ハイデンの民たちは飢えに苦しむことなく、寒さに震える者も少なく済みました。ハイデンを代表して、御礼申し上げるとともに、貴国の窮地をしり、ハイデン王より救援の責任者をまかされました、カグラ・カミシロと申します。若輩者ではありますが、よろしくお願いいたします」
「うむ。カグラ殿の魔術の才は、報告を聞いておる。そして、現場も見せてもらった。流石御三家といったところか。これからよろしく頼む」
「はっ。必ずやご期待に応えて見せましょう」
そう言って深々と礼を取るカグラ。
しかし、必ずや期待に応えるねぇ。
いまさらだが、日本人なら全力を尽くしますってところだが、こういうところは外国だよなーって感じだな。
「そして、スタシア殿下。わざわざフィンダールより来ていただいて感謝する」
「いえ。私はたまたま居合わせただけです。私の今の立場としてはウィードの付き添いという意味合いが強いです。ウィードへの外交官でもありますので」
「ほう。スタシア殿下は将軍職を辞されたのか?」
「陛下の勅です。新しい時代の先駆けとなれと。しかし、私の名をご存じでいらしたとは、誠に光栄です」
「なに。同じ女で頑張っている者がいると聞いてうれしくてな。じゃが、新しい時代の先駆けか……。それはハイレ教も同じ意見かのう、司教殿?」
「はっ。ウィードはまさに時代の先を行く国でございます。私もハイデンのではなく、ウィードの付き添いでこちらに来た次第でございます」
スタシア殿下、エノラはウィードのために来たと強調して挨拶をする。
ウィードを両国とも気にかけているってことを言ったわけだ。
「フィンダール帝国、ハイレ教の言っている事は事実かな、カグラ殿?」
「はっ。間違いございません。私もウィードにこの命を救われた身でありますから」
「……ふむ。随分評価をされているようじゃな。ウィードの王配殿?」
「過分な評価にこれからの行動に緊張するばかりです。と、自己紹介が遅れました。ウィード国で王配を務めており、参謀の職を賜っておりますユキと申します。夜分にもかかわらず拝謁のお許しをいただき、深く感謝いたします」
俺も無難に挨拶を返す。
俺は立場は王配だからな。相手が国主、女王であるなら礼を取らないといけない。
今までの連中は状況が状況だったから、雑な対応になっただけで、普通はこういうのが当たり前だ。
「気にするなユキ殿。普通ならば明日の朝や昼になってから顔合わせの機会を設けるべきなのだが、こちらの事情で予定を前倒しにしただけじゃ。礼を言われることではない」
ま、夜の謁見なんてそうそうないよな。
それだけ、シーサイフォ王国にとっては重要なことというわけだ。俺たちの訪問が。
とはいえ、空母を出したのが決め手になったんだろうな。
そんなことを考えていると、エメラルド女王が口を開いて話を始める。
「通例なら、まずはお互いの国の状況でも話して、のんびり会食とでも行きたいが、今はそうもいかん。後日改めて席を設けるので、無礼の程は容赦してほしい。で、わざわざ急ぎで夜に呼び立てたのは、言うまでもなかろうが、あの巨大船じゃ」
やっぱりその件か。
まあ、予定通りでこっちとしてはありがたい限りだ。
面倒な下っ端会議より、上で決めてもらった方が簡単だからな。
「あの船の所有はウィードと聞いているが、それに間違いはないか?」
「はい。あの船、空母は間違いなく、我が国の船でございます」
「くうぼ? まあ、呼び方はあとで詳しく聞くとして、いかにして、あの場所にあのような巨大船を出現させたのかを聞きたい。そして、あのような巨大な船をどうやって作った?」
おー、こいつは交渉を知らんのか?
空母という機密事項の塊のことをそう簡単にペラペラ説明するわけないじゃん。
まぁ、流石に素直に話すとは思っていないだろうし、こっちの出方を見るための質問かね。
「呼び出した方法は、私たちも魔術が使えますので、アイテムボックスの応用で、ですね。船の作り方に関しては造船の専門ではございませんので、作ったとしか申し上げられません」
いや、作ってはいないけどな。どっかの駄女神が持ってきたのを回収しただけだ。
さて、俺の返答に納得できるかな?
とはいえ、何を言われてもこうとしか言いようがない。
「魔術か。カグラ殿の魔術のすごさは聞いていたがウィードも魔術が盛んなのだな。……船の作り方に関しては、専門でないとわからぬのは当然か。いや、私もいろいろ焦っているようだ」
なんか、一人で納得した。
周りの人も特に声を荒げることもない。
あの王子がなんか文句をいうかなーとか思っていたが、そんなことないから、やっぱり最初のあれは演技の可能性が高いな。
そんなことを考えていると、女王は引き続き話を始める。
「そうだな。まずはここからだ。正直な話、なぜ貴国が我が国を助けてくれる? 宰相からはハイデンとフィンダール、そしてハイレ教の安定のためとは聞いているが、それだけでは、私としては納得がいかん。何を目的にこの国へと来た?」
「何をと言われましても、そちらとしても隣国が荒れるのは困るではないですか?」
「うむ。それはわかる。だが、ユキ殿を見てそれだけではないと直感がささやいている。何が目的だ?」
何が目的か、ね。
いざ聞かれるといろいろ困るな。
「それは国と国とのやり取りですから、色々あります」
「否定しないか。……ウィードという国の力はあの船を見れば理解できる。生半可なものではない。おそらく、我が国どころかハイデン、フィンダール、ハイレ教をまとめて滅ぼすことも可能だろう。違うか?」
「流石に無理ですよ」
国民の総意的にも、俺的にも。
虐殺するメリットがないですから。
「……だといいが。しかし、私が感じている不安を、臣下たちも感じている。なので、ある程度明らかにするほうが、後々やりやすいとは思うぞ」
「なるほど」
確かに、得体の知れない目的がある人物とは行動を共にできない、というのはわかる。
まあ、得体の知れない目的があると指摘したのは、女王なんだが。
その話を聞いて周りの信頼を得られないと持っていくわけか。
上手いな。やはり女王を務めているだけある。一筋縄ではいかないか。
「まず、誤解を解いておきますが、私たちにとって人に対しての敵対の意思はありません。それだけはまずご理解ください」
「人か……。つまり、ユキ殿の目的は魔物そのものか?」
「ええ。我が大陸では魔物が普通に生息しており、その脅威に対して日常的に対応を求められています。そして、その強さ、被害の大きさももちろん知っております。だからこそ、ハイデン、フィンダール、ハイレ教での魔物騒ぎには迅速に対応いたしましたが……」
「次は我が国だったということか」
ハイデン、フィンダール、ハイレの裏側にはアクエノキってのがいたからというのもあるが、そこまで話すとただの頭がおかしい人になるからな。
「左様です。次はシーサイフォ。一口に魔物と申しても、それぞれに善し悪しはございますが、話をうかがう限り、此度はどう考えても人に害をなすものです。私たちの国がある大陸では、そうした害ある魔物への対策には最大限の協力をすることになっております。明日は我が身ですからね」
「なるほど。魔物に対しての脅威の認識が違うのか。そちらの大陸では魔物とはそれほどのモノなのか?」
「一国が魔物の軍勢に呑み込まれてつぶれたという話は、最近でこそございませんが、歴史を紐解けばよくある話ですね」
「それほどか……。うむ。そちらの行動理由はよくわかった。今日のところはこれまでじゃ。あとは臣下と話をさせてもらう。明日には、もうちょっと込み入った話を聞きたいと思う。よろしいかな?」
「ええ。こちらとしてもお願いしたく存じます」
ということで、女王との謁見はまずは無事に終わった。
意外と気を抜けない相手だな。
そんなことを思いつつ俺は謁見室から出ていくのであった。
エメラルドビーチとかいうよね?
まあ、名前の由来はそんな単純なもの。
さて、この面会のあとシーサイフォの方々はどう動くのでしょうか?
エメラルドの王




