第827堀:嫌な視線
嫌な視線
Side:タイキ
「おーおー、随分とこちらをにらんでますねー」
俺は、空母の甲板から、並走しているガレオン船の乗員を眺めている。
ああ、こちらをにらみつけているのは、ガレオン船に乗っている上級将校たち。
一般の水兵さんたちは、こっちを見て驚いている暇もなく、あわただしく動きまくっている。
偉そうというか、一般水兵と違う服を着ている士官たちが空母を見て険しい顔をしているというわけ。
「ま、初めて空母の性能を目の当たりにしたら当然の反応だろう」
横に立っているユキさんも、同じように並走しているガレオン船を見下ろしている。
ニミッ〇級空母の全高は41メートル。まあ、アンテナとブリッジも含んでいるから、大体甲板の高さは20メートル前後だ。
対して、ガレオン船は大きいものはそれなりに大きいが、多くは精々甲板迄10メートルぐらいで、マストを含めて30メートルあるかないかぐらい。
さらに、船の全長では圧倒的にこっちがでかい。
なので、思わず顔をしかめるのはしかたないよな。
「あっという間に置いて行かれましたからね」
「逆に帆船でエンジン駆動のスクリュー付きに並走できたら驚きだよ。で、まったく追いつけなかったから、ピリピリしているんだろうな」
「そりゃー宰相の話によると、海上での戦闘には自信があったみたいですし、それが置いて行かれたとなれば当然ですよ」
「やっかいだな。アクアマリン宰相やレイク将軍がどれだけ抑えられるか」
「完璧にってのは無理でしょうね」
並走している船の士官たちは本気で睨んできているから、ちょっとやそっと話し合ったところで和解できるとはそうそう思えない。
とはいえ、そんな後ろ向きなことばかり言っても仕方がないので、一つ冗談を言ってみることにする。
「意外と、あの視線は仲良くなりましょうっていう、シーサイフォ独自の厚い信愛の表現かもしれませんよ?」
「いいえ。残念ながら、シーサイフォにそのような珍妙な信愛の表現方法は存在しません」
「これは、アクアマリン宰相、それにレイク将軍」
気が付けばシーサイフォ王国の二人も俺たちと同じように並走しているガレオン船を見つめていた。
で、その視線を受けた士官たちはすぐにこちらから視線を外して、各々作業を始める。
露骨だね。それは宰相たちも感じたらしく、顔をしかめている。
「彼らが、あなた方にも反発している者たちですか?」
「はい。だからこそ並走して来ているのです。命令では並走の指示は出していないのですが」
「若いですからな。並走して自らの実力を見せたかったのでしょうな。しかし、あっという間に置いて行かれましたからな。いま、彼らが並走できているのはこの船が合わせているというのがわかっているからこそ、睨んでいるのでしょうな」
睨んだところで船の性能は上がらないと思うけどなー。
そんなことを考えているうちにユキさんが話を進める。
「ふむ。逆に考えましょう。彼らを説得できれば、シーサイフォ軍との連携、協力はスムーズにいくということでしょう」
「……その意見は分かりますが、レイク将軍どう思いますか?」
「ふむ。面白い発想ではありますが、ああいう若者が大人しく従うとは思えませんな」
俺もレイク将軍の意見に賛成。
なにか言った位で言うことを聞くなら今頃反発なんてしていない。
そして状況が状況だ。国家存亡の危機にあって国の上層部と方針に反発しているような連中だ。
本来なら反逆罪適用でしょっ引くレベルだ。
でも、ユキさんはとりあえず、最初から叩き潰すつもりは無いようだ。
まあ、話もしていないし、ここで遠慮なく叩き潰したらシーサイフォ王国との間に溝ができるか。
「まあ、難しいとは思いますが、対話をあきらめてはいけませんよ。若者たちのために貴重な軍艦を二隻も失いたくないでしょう?」
「「……」」
いや、ユキさんは完全に脅しをかけてきたな。
軍船二隻の損失と、バカ共の説得の二択とすれば、どう考えてもバカ共の説得だ。
というか下手すると彼らは消されるな。
ユキさんはやると言ったらやるからなぁ。
「ともかく、まずは話をしてみましょう。それで対応を考えるということでいいのでは?」
「……そうですね。まずは会議をしてからですね」
「はっ、では陸に戻ってさっそく艦長たちを集めたいと思いますが、遠方に出ている者もとなると、数週間はかかるかと……」
「まずは、この軍港にいる艦長たちだけでいいでしょう。任務に出ている者たちはこちらに戻った際に順次説明していくことにします。その場合だと時間はどれほどかかりますか?」
「今待機中の者たちだけならば、明日にでも……いえ、明後日には揃えられます」
「……そうですね。こちらで一度事前説明をする必要もあるでしょう」
その必要な説明が怖いモノじゃないといいけどな。
「では、その旨を伝えてください」
「はっ」
ということで、入江前で停止して、クルーザーで再び軍港へと戻ってきた。
あ、ドレッサ、ヴィリアたちは空母リリーシュの管理があるのでそのまま待機。
上陸メンバーはユキさん、デリーユさん、キルエさん、サーサリさん、アスリンたちに加え、カグラたち新大陸一行、エージルさん、俺たちだ。
本当にここ最近のウィードの人員不足はきついな。
半数が外部メンバーだよ。
しかも、ウィードメンバーの半数以上がアスリンたちちびっこだからなー。
まあ、煽りの意味もあるんだろうけど、交渉に立てるメンバーが少ないっていうのは本当につらいな。
俺も、外交官メンバーを育てないとこんな風になるのかなーとゾッとしているうちに、俺たちの乗ったクルーザーは軍港に到着する。
「おー、見事に水平線に夕日が沈んでゆくな」
「あ、本当ですね」
そういえば、もうそんな時間か。
いろいろバタバタやってたからな。
とはいえ……。
「……ふむ。遠くまで来たもんじゃのう」
「ええ。こうして海に日が落ちるところを目の当たりにするなどとは思っていませんでした」
「いやー、ここまで来たかいがありましたね。皆さんに写真でも撮って送りましょう。本物の夕日ですし」
と、デリーユさんたちはこの素晴らしくも雄大な光景を楽しんでいる様だ。
俺も、海育ちじゃなかったから、この風景はとても綺麗に見え、魂を奪われている。
そんなことを考えながら風景を眺めていると、アクアマリン宰相たちがこちらに来て……。
「どの方も初めてこの光景をみると思わず見とれてしまいます」
「それはそうでしょう。素晴らしい光景です。ですが、自然は厳しいですね」
「ええ。この海にはこの様な綺麗な時もありますが、ひとたび荒れ狂えば、私たちでは完全に手に負えません」
そうだよな。海って、自然って綺麗なだけじゃない。
災害っていう脅威が常に付きまとう。
シーサイフォ王国の人たちだって長年そういう災害と向き合ってきたはずだ。
「ですが、こうして今まで共存してきたのです。私たちの生きる糧です。それを失いたくはありません。いえ、私たちが海から離れるときはおそらくシーサイフォではなくなる時でしょう」
そう、アクアマリン宰相がいうと、レイク将軍も頷く。
本人たちも海を失うということはどういうことになるのかをはっきり理解しているみたいだ。
「では、それを避けるために。これからよろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いいたします」
軍港で改めて、ウィードの王配とシーサイフォの宰相がお互いに握手をする。
お互いを正しく認識してのことだ。
ここからようやく始まるわけだ。
まだ、海の魔物退治は始まってすらいないからな。
「では、私は会議の準備の為に、行動を開始いたします」
「はい。軍部の連中にはよく言って聞かせてください」
「かしこまりました。では、失礼いたします」
レイク将軍はそう言うと、さっそく走って行ってしまう。
今から、跳ね返りの説得や待機している艦長たちの招集をしないといけないんだからな。大変だよな。
「さて、レイク将軍が軍部と話し合いをしている間。私たちはどうしたらいいでしょうか?」
「そうですね。明後日までごゆっくりと言いたいのですが、まずは、あの船について陛下に説明していただけないでしょうか? 流石にあのサイズの船が現れて、説明をせずにいるというわけにはいきませんので」
「陛下というと……」
「はい。シーサイフォ王国の統治者、エメラルド・シーサイフォ女王陛下に」
ということで、俺たちは城に戻って控室で待機している。
ま、当然の話だよな。
許可をもらったとはいえ、あんな超巨大船がいきなり現れたんだから、事情説明をしないわけにはいかないよな。
しかし、女王陛下ってシーサイフォ王国のトップは女かい!?
男尊女卑のこの地域でよくもまあ……。
と、俺がそう思ったように、ユキさんも同じことを思ったようで……。
「シーサイフォ王国では、女性が国のトップにいるというのは普通の事なのでしょうか?」
「いいえ。歴代の中で、エメラルド陛下は都合2回目の女王です」
「ふむ。色々事情がおありなのでしょうが、国内では女王陛下による統治に納得は?」
「今の所問題はありません。陛下の即位に際しては色々あったと聞き及んでいますが、それらを全て納得させての即位となりました。なにより、すでに陛下は王配殿下との間にご子息であらせられる王子殿下をもうけており、跡継ぎ問題もありません」
「なるほど。そっちに関しては問題ないということですね。しかしながら、今の所は、ですか?」
「はい。魔物の問題が深刻となってきており、この問題を解決しない限りは、跡継ぎがいようがいまいが……」
跡継ぎがいても解決する問題じゃないからな。
海を喪失しては、息子に国を任せても貧乏くじもいいところだ。
「……なるほど。女王陛下は今回の問題の解決を図った後、責任を取って退位するというわけですか」
「流石は、王配であられるユキ様。話が早くて助かります。今回の被害は見過ごせるものではありません。どこかで誰かが大々的に責任を取る必要があります。ですが、このような状況で軍人の首を切るわけにもいきません」
だから、女王陛下がまとめて責任を負って退位して、あとを王子に任せるってわけか。
無事に解決できれば。と条件が付くが。
と、そんなことを話しているうちに、控室にメイドがやってきてアクアマリン宰相に耳打ちをする。
「わかりました。今から向かいますと伝えなさい」
「はい。かしこまりました」
「皆さま。陛下の準備が整ったようです。長旅と航海の疲れもあるかと思いますが、今しばらくお付き合いください」
普通はこんな素早い謁見はあり得ないからな。
普通は使者が来ても、しばらくは待機だ。
そのうえ、俺たちは飛び入りだしな。
前もって会いに行きますと言っていたわけでもない。
そんな状況だから、普通なら一週間、下手をすると一ヶ月待たされてもおかしくない。
それが、この国に来て二日目の夜に謁見だ。
どれだけ、向こうがこちらとの顔合わせを優先したかがわかる。
「しかし、どこの謁見の間も作りは似たり寄ったりですよね」
「まあな。そこらへんは共通でよかったと思うべきじゃないか? 下手にわけわからない謁見場所があっても困るだろう?」
「まあ、それはそうなんですけど。きっとこの扉の向こうにはだだっ広い広間があって、奥に玉座があるんですよ。あれって寒いんですよね。椅子なんて大理石の豪華な作りですから、冷たい冷たい」
「あー、セラリアもそんなこと言ってたな。まあ、普通に座布団とか、敷物敷いているぞ?」
「うちは、そういうのは無いんですよね。真っ白な大理石の椅子に、キラキラの冷たい鎧。いやー、冬とか最悪です」
「夏は涼しそうだな」
と、ユキさんと謁見室前の大扉を見ながらそんなくだらない話をしていると……。
大扉が開き、奥の玉座にケープを足にかけている女性の姿が見えた。
やっぱり寒いよな。
と、今から話し合いがあるのにそんなことを考えているのであった。
すんなり受け入れられる……わけもなく、やはりこうした勢力は出てくるのは仕方がない。
さてさて、こいつらに対してどうするのか?
そして、シーサイフォ王国のトップは女王。
さて、どこかでシーサイフォ王国のトップを国王とか言っているところがあったらいってください。
すぐに修正しておきます。
あと、明日3月29日は特別な日なので、追加更新をいたします。
皆さんお楽しみに。
なんでかわかるかなー?




