第823堀:海を征く
海を征く
Side:ユキ
「よーし、点検を……といっても無理か」
「無理ですよ。ニミッ〇級って本来総員約4000名はいるんですよ? スティーブ達もいないのに確認なんてできませんって」
「だな」
俺はそういいつつ、空母に乗艦を果たす。
「……船が、空を飛んだわ」
「……すさまじい船ですね」
そう言って、驚いているアクアマリン宰相とレイク将軍。
いや、空を飛んだって大げさな。
回収班がいなかったから、魔術で宙に浮かせただけ。
あ、船が空とんでるか?
だが、二人の様子を見るに、流石にシーサイフォにはこの空母サイズの船は存在してなかったか。
まあ、空母に驚いてなかったら、こっちが驚くとこだ。
魔物にこのサイズの船が沈められているという意味だからな。
そういう意味では、安全性が一段と上がったわけだ。
「とりあえずCDCに行くか」
「ですね。あそこに行けばある程度、船体の異常はわかるはずですから」
ということで、俺たちはそのまま空母の中を進んでいって、CDCへと到着する。
「「「……」」」
CDCの見慣れぬ設備にさらに驚きで固まっているシーサイフォ王国一行だが、今はとりあえず無視して船体の確認が先だ。
さっそく俺が指示を出して、といっても良いが……。
「ドレッサ」
「え? なに?」
「この二番艦リリーシュはドレッサに預ける。これからの指揮をやってみろ」
「……でも、船員がいないわ」
「とりあえず俺たちが部下だ。あとで増援は連れてくる。まずはこういう事態に際しての指示を見せてみろ」
この船は二番艦リリーシュ。
近海の警戒と警備のため、ドレッサが最高責任者として乗艦する船だ。
今後その指示は艦長でもあるドレッサが行うべきだろう。
でどうする、ここで引くか? それも仕方がない。
だが、その場合はデリーユたち嫁さんの中から代役を立てるしかないな。
そして、もうこの土地で責任者の立場はドレッサには回ってこないだろう。
それは、ドレッサもわかっているはず。
「……わかったわ。ただいまより、ルナ級空母二番艦リリーシュの艦長をこのドレッサが務めます!!」
「は? なにを……」
アクアマリン宰相が理解ができないという顔をしている。
まあ、理解してもらう必要はない。シーサイフォの連中が驚いている状況を使ってドレッサを押し込むのが目的だからな。
「まずは、アイテムボックスから取り出した際の損傷がないか調べます!! ヴィリア、ヒイロ、船体のコンディションを確認!!」
「「はい!!」」
「ユキとタイキはレーダー及び火器管制システムにエラーがないか確認!!」
「「了解」」
「デリーユたちは、本国へリリーシュの通信システムで連絡をお願い」
「うむ。任せておけ」
「アスリン達は艦内各所の実地確認を、異常があったら連絡」
「「はーい」」
ということで、まずは滑り出しはOK。
適切に全員に指示を飛ばす。
まあ、護衛がいないのはあれなように見えるが、このメンバーだと仕方ないか。
人数は足りないし。
と、そんなことより、俺も火器管制システムの状態を確認しないとな。
ドレッサに頑張れとか言っておいて、俺が仕事をしないとか、流石に格好付かないからな。
「……よし、火器管制システムにエラーは無しと。タイキ君そっちはどうだ?」
「レーダーシステムにもエラーはないですね。でも武器弾薬とかはどうなっているんですか? そっちも確認は必要でしょう?」
「そっちは別枠で出す予定にしてる。スティーブたち船員が乗船してから必要物資だけを補充提供ってつもりだ。そうでもしないと、アイテムボックスから取り出した衝撃で滅茶苦茶になりそうだからな。特に戦闘機とか」
「あー、そっちが壊れたら大惨事でしたね」
「そうなったら、目もあてられん」
ただで手に入れたとはいえ、壊しても仕方がなかったねで済むレベルを超えているからな。
そんな感じで、俺たちがドレッサに報告をすると、続けて他の皆も報告をすませる。
「最低限のチェックでは異常はないと。では、後は船員を集めてからということになります。ユキ様。よろしいでしょうか?」
「わかった。他に何かあるか?」
「現在の泊地の水深は危険水域です。よろしければ、十分な水深が確保できる位置に移動したいです。その誘導に、シーラちゃんたちをお願いしたいです」
「了解。だが、そこはアクアマリン宰相と相談してからになる」
さて、ここでようやくアクアマリン宰相の出番だ。
「アクアマリン宰相。この船を動かすために、さらに人員を呼び寄せたいのですがいいでしょうか?」
「人をですか? どこか近くに待機しているのでしょうか? そのような話は……」
「いえ、ゲートを使ったものです。レイク将軍からお話は聞いているかと思いますが?」
「まさか、本当にそのような……。いえ、失礼いたしました。ウィードで人を呼んで動かしてもらえるのであれば、こちらとしても人を割かなくていいのでありがたい限りです。そして、ゲートというモノが見られるのならばぜひ見てみたいですので」
「御許可いただきありがとうございます。では、この空母に設置してある、ゲートを起動いたしましょう」
「へ?」
さらに何を言っているのか分からないという顔になるアクアマリン宰相率いるシーサイフォ御一行だが、それでいい。
冷静になられちゃ負けだからな。
「デリーユ、スティーブたちに通達。1100より二番艦リリーシュのゲートを稼働して、艦の点検を始めるってな」
「了解。こちら空母リリーシュ。司令官より通達、1100より二番艦リリーシュのゲート開通し乗艦。艦の点検を開始する。スティーブ隊は必要部隊を……」
俺がそうデリーユに伝えると、早速艦の通信機を使ってウィードに連絡を取る。
本来の無線通信機なら連絡が取れるわけがないのだが、魔力通信機能を組み込むことによって、距離に関係なく通信が可能となっている。
まあ、実際この距離が届くか心配だったが、ハイレンの魔力妨害がなくなった今、通信は非常に良好のようだ。
「では、ゲートの方をご覧に入れましょう。こちらへどうぞ」
ということで、俺たちは、アクアマリン宰相を連れて、最初に入ってきた艦載機格納庫の方へと戻ってくる。
「最初は、本当にできるのかと心配でしたが、意外とできるものですね」
「驚きですよねー。空母にゲートがつなげられるなんて。これで本当の移動要塞ですよ。人員、物資の補給し放題ってすごいですよねー」
後ろからついて来ているキルエとサーサリの言う通り、当初はさすがに移動するようなサイズの物体にゲートの設置は無理じゃないかという意見が大半を占めていたが、空母はそのサイズが規格外だ。おかげで、ゲートを設置するに何も問題なかった。
というかゲートもそのサイズを選べるからな。所詮転移トラップの一種だから。
で、置けるサイズのゲートを置いてみたら、意外と簡単に動いたし、空母が移動してもゲートの接続に異常は起こらなかった。
まあ、遠方の別大陸にあるダンジョンにだって繋がるんだから、空母の上に繋がっても別に不思議じゃないよな。
タイゾウさんやザーギスは興味が尽きないようだったが、いつまでも実験に付き合うわけにはいかなかったので、こっちに持ってきたわけだ。
「よし、稼働までまだ時間はある。ゲートの動作確認をするぞ」
「「「はい」」」
ゲートの稼働を始める前に、ちゃんと最終確認をする。
傷でもあって正常に動かないとかは勘弁願いたいからな。
そういうことで、ゲートの状態をみつつ、このゲートを設置するにあたっての検討を思い出す。
『もともと、遠方のダンジョンと繋がるゲートというシステムがあるんだ。実際、イフ大陸、新大陸共に、距離はとてつもない。それから考えると、空母にゲートが設置できてもおかしくないと思わないか、ザーギス君?』
『タイゾウ殿の言う通りですね。そもそも、ゲートがつながる要件は魔力があるか否かというところですからね。その理屈から言えば、ゲートを設置する場所が確保できるのであれば、空の上でも設置可能でしょう』
『空の上か。今度は巨大航空戦艦で実験してみる必要があるな」
『ええ。そうなれば、より精度の高いデータが得られることでしょう。果てはゲートの自力開発も可能になるかもしれません』
『それはいいですねー。いつでもハーゲンダッツを買いに行けるドアのようなゲートが欲しいですから』
『『『ふふふふ……』』』
と、マッド共は既に空母から、空へのゲート設置を夢見ている。
恐ろしい限りだ。研究者の野望に果てはないという証明だな。
しかし、いずれ空というルートを開拓しないといけないのも事実だが……。
「天空の城とかないことを祈る……」
「そんなのがあれば、夢と希望が広がる前に、空の国家の存在を考えないといけないですからねー……。ついでに魔物も」
「そこだよなー。だからこそ、この空域での航空試験を選んだんだが……」
俺がただ空を飛びたいだけなら、ウィードの地上に滑走路でも作ればいいだけだ。
DPが足らんとか色々理由は付けているが、そんなのは所詮単価、物資の質を落とすとかでやりようがある。
ジェット戦闘機でなくとも、ゼロ戦とか半世紀前の飛行機を持ってきてもよかったわけだ。
だが、ワイバーンの例から言って、未知の魔物という空の脅威がいるかもしれないということで、見送ってきた。
しかし、新大陸はハイレンのお陰で魔物がいないことは現状確認できている。
つまり、新大陸は魔物の危険を感じることなく自由に空が飛べるということだ。まあ、それも怪しくはなってきているが。
と、そんなことを話し合っている間に、ゲート稼働時刻になり、スティーブたちが無事やってくる。
「……これより、空母リリーシュの点検整備を開始するっす」
「おう。頑張れ。あと、その前に、ちゃんと責任者兼艦長のドレッサに挨拶して来いよ」
「了解っす」
俺を恨みがましい目で見ながら、スティーブたちは俺の目の前から去っていく。
「……ユキさん、流石にむちゃぶりじゃないですかね? スティーブたちゴブリンだけで空母二隻の管理を任せるとか……」
「別にスティーブたち一部隊だけじゃないからな。あとでこっそりジョンとか、ほかの魔物たちも入れる。というか、そうでもしないと空母が正常に動かせないからな。ゲートでの移動があってよかったよ」
「……普通にオーバーワークですけどねー」
「人を乗員として導入できればいいけどな。機密関連がなー」
「そこが問題ですよね。こんな近代兵器を見たら、大陸間交流同盟も色々とまずいでしょうし」
過ぎたる力は相手に恐怖しか与えないからな。
これ以上、相手を不安にさせる要素は何としても隠しておくしかない。
まあ、そのせいで、スティーブたち魔物部隊は空母二隻をゲートを活用して維持することになったわけだ。
もちろん不眠不休とか無理をさせることはない。
ちゃんと休みを取らせないと精度が落ちるし、スティーブたちの不満がたまるからな。
「既に不満たまりまくりに見えますけどね。いつかやるって言った休みはどうなったんですか?」
「いつかちゃんとやろうとは思っている。と、冗談はいいとしてこれが一段落つけば、休みを入れる。いい加減謀反起こしそうだからな」
「ボイコットとか普通にしそうですよねー。俺ならまちがいなくします」
タイキ君から見てもスティーブたちの扱いは酷いようだ。
俺もついつい無茶をさせてたなと再認識する。
スティーブたちは使いやすいからなー。と思っていると……。
「各部署より報告が上がりました。船体、航行に問題なしとのことです」
「ありがとう、スティーブ。よし、ドレッサに連絡。空母リリーシュの稼働準備完了。今からシーサイフォ王国の海を進む。警戒を厳とせよ!」
「「「はっ!!」」」
ということで、こうしてこの世界初かどうかはしらないが、俺たちは初めて、この異世界の海を航行することになったのだった。
はい。RPGでは船を手に入れてからが本番ですよ!!
ドラ〇エなら未踏の大地に足を踏み入れ全滅とか、海のしびれクラゲにしびしびされて全滅とかよくしただろう!!
3のトラウマだもんな!!
で、物語は中盤ってところだ。
そう、この必勝ダンジョンも中盤!! かどうかは知らない。
まあ、気長に付き合ってくださいな。
いい加減、オー〇でも集めますかね?




