第822堀:お船を出しましょう
お船を出しましょう
Side:ドレッサ
あーあー、相変わらず、こういう時は容赦ないわよね。
私は、アクアマリン宰相の目の前で……あくまでユキの常識の範囲での手加減をしている様子を見てそう思っていた。
まあ、ああでもしないとなかなか納得しないのはわかるけど、もっと他にやりようはないのかしらと思ってしまう。
でも、あれは私たちが今後動きやすくするための方策なのよね。
やっぱりこれが最善なのかしら?
と、そんなことを考えているうちに、アクアマリン宰相はユキの言うがままに軍港へと案内を始める。
ぶしつけな視線を向け、なにやら文句がありそうだった重臣らしき人たちも、すっかりおびえた様子だ。
……やっぱりやり過ぎな気がする。
「こちらが、軍港になります」
アクアマリン宰相に案内された軍港は、私にはいたって普通の軍港だ。
あ、普通って言うのは、私が故郷で見ていた様なということ。
ユキが造った軍港とは全然設備が違うわ。
底も浅く、大型船に乗るには一度小舟で沖の方へ行くしかないタイプだ。
まあ、桟橋がいくつか立っているけど、それもそこまで奥行きがあるわけじゃないし、接舷できるところは全て船で埋まっている。
使用している大型の軍船は、地球の図鑑で見たことがあるガレオン船に近い気がする。
この船を見れば、遠洋航海に本当に出ていたのだなということはわかる。
と、私が軍港を見てそんな感想を抱いていると……。
「おー、お船だ。ヴィリお姉すごいよー」
「そうですね。大きい船ですね」
ヒイロとヴィリアは目を輝かせて、軍船を見つめている。
私は船なんか見飽きているので、ユキの空母とかじゃないと驚かないけど。
で、私たちがそんなことをしている間にも、ユキは話を進めていく。
「これらの軍船で遠洋から近海までの防衛を行っているわけですか?」
「はい。そうなります」
「魔物はあの装甲を破ってくるというわけですか」
「いえ。そういうのはごくまれで、基本的には、海面から跳躍して甲板に飛び乗ってくるケースがほとんどのようです。そうですよね、レイク将軍」
「ええ。ですが、その甲板まで飛び上がろうとする勢いで装甲に当たる例も多々ありますので……」
「それで装甲を破損というわけですね。しかし、その話だと、そうそう沈没は起こらないように思えますが?」
確かに、甲板に上がってくるのが基本で、狙いを外れたのが装甲に当たっているだけ。
それならそうそう沈没の要素にはなりえないわよね。
船が沈没するのは、船底に穴を開けられるか、もしくは大きく揺られて転覆ぐらいしかありえない。
「いえ、生き残ったものたちから聞いたところでは、それでは埒が明かないと思ったのか、船にタックルを仕掛けてくるようになったそうです」
「それで、装甲が破れてということですか。厄介ですね」
なんて厄介な魔物がいたものね。
船に乗り込むのが無理となれば、船を沈没させればいいじゃないということになったのね。
思ったよりも頭がいいわね。
でも、それって今後その攻撃に特化してくるとまずいんじゃないかしら?
私がその結論に至ったように、ユキも当然……。
「しかし、そのような行動をとり始めたということは、被害は加速度的に増えているのでは? それとも、その群れのみというわけですか?」
「被害の方は増えていますが、沈没は最近抑えられています。そのような行動をとると知ってからは警戒を厳にしています。なに、一度の突撃で破られるほどやわというわけでもないですので」
「ああ、そこまで強力というわけでもないのですね」
「そうです。その攻撃を受け続ければ危険ですが、一度や二度攻撃されてからでも十分に対応は間に合うのです。とはいえ、繰り返し警備に出て何度も遭遇すれば、そのあとは修理に時間を割かれることになりますが」
「ダメージを負ったままではさすがに次の戦闘には耐えられないというわけですね」
「ええ。そういうことです」
そっか、確かに、耐えられても戦闘を重ねて行けばダメージがたまる。
それを補うための修理だけど、その分海上戦力が減るということ、そして残っている船もダメージを受けて……。
「このままじゃ、ジリ貧ですね」
「はい。いずれ、修理が間に合わなくなり、制海権を失うでしょう。そうなれば我が国は……」
破綻する。
それもただの破綻じゃない。
シーサイフォ王国が大国であり続けるその栄光を支えた海軍が大きく数を滅らしたなんてことが周辺諸国に知られれば、こぞって反旗を翻す領主が出てくるはずだ。
今までシーサイフォ王国がどれだけ善政を敷いていようが関係ない。
今後の安全が保障されないというのは、領主としては死活問題だ。
助けてくれない主君など必要ないもの。
そして、最後にはシーサイフォ王国はなくなる。
「そのような結末を避けるためにも、皆さま方の力をどうかお貸ししただけないでしょうか? 皆さまのご助力があれば海の魔物などに遅れは取らないでしょう」
と、アクアマリン宰相たちはそういう。
流石にあの案山子木端微塵を見て、私たちの事を信用したようね。
無茶をした意味はあったってこと。
で、その懇願にユキは……。
「ええ。もとよりそのつもりでこちらに来たのです。ですが、私たちは所詮20人にも満たない集団ですからね。全海域をカバーすることは不可能でしょう。それはわかっていますか?」
「はい。それはわかっています」
「では、当初の予定ではどのようにして、海の魔物に対抗するつもりでしたのでしょうか?」
「当初の予定では、というか、今も方針はほぼ変わりません。皆様の実力のお陰で、より実践的なものに出来るかと思っています」
「実践的に?」
「ええ。予定では、ハイデンから来た魔術師を講師として、そのまま船に乗り込んでもらい、現場で魔術を教えて貰いつつ、撃退ということを考えておりました」
なるほど。それなら確かに効率はいいかもしれない。
ただ、魔術がそんな短時間に覚えられるかはわからないけど。
「本来はハイデンの魔術が魔物にどれだけ有効かというのを見るのが目的の一つだったのですが、練兵場で見せていただいたあの力ならば、魔物を撃退するのは十分だと確信いたしました」
まあ、カグラの魔術攻撃はそれなりに威力はあるし、フィーリア、デリーユの攻撃を受けて無事な魔物なんて、スティーブたちぐらいのものよ。
そんなレベルの魔物が海にいるなら、今頃シーサイフォ軍は制海権はなくしているわね。
というか、海を放棄して内陸を攻めて、いや逃げているわね。
「だってよ、カグラ」
「いや、ユキもでしょう」
「もちろん、ユキ様たちウィードの方々もです。レイク将軍が見れば納得するといったのは、その通りでした」
「それは良かった。さて、そちらの軍港や船を見せてもらったので、こちらも船を見せないと不公平ですよね」
「はい?」
その言葉に、アクアマリン宰相と後ろのお爺様さまたちは首を傾げる。
当然よね。船なんてどこにも持っているようには見えないもの。
まあ、アイテムボックスにはアレが入っているんだけど。
「場所は確認しましたし、奥の方なら水深も十分でしょう。多少波が立つでしょうが」
「えーと、ユキ様。いったい何を……」
「私たちも自前の船を持ってきてるんですよ。それを使って、シーサイフォ王国の助力をしようと思っていましてね」
「はあ。どこから船を廻してきているのでしょうか。近づいてくる外国船があるとの報告もありませんし、皆様がそのような船を持ってきているようには見えませんでしたが……」
「ああ、アイテムボックスという能力がありまして、そちらに入れているんですよ」
「……軍船が入るほどのアイテムボックスがあるなど聞いたことがありませんが」
「まあ、見ていてください。といいたいのですが、先ずは船を出す許可を頂けますか? いきなり出して乗り込まれて荒らされても困りますので」
「はぁ。そのぐらいは……。伝令!!」
こうしてアクアマリン宰相はユキに許可をだしてしまう。
あーあー、とは思いつつ、私たちもあの船に乗れないなら海の魔物とやりあう気なんてないけどね。
そんなことを考えながら、ユキが今から起こす喜劇を見つめる。
無論、ほかのみんなも止めようとはしない。
これからの行動に絶対必要だというのがわかっているから。
「では、いきますよ?」
「……はぁ、どうぞ」
アクアマリン宰相の理解が全く追い付いていないらしく、気の抜けた返事をすると……。
フッっと巨大な空母が水面に出現する。
「はぁ!?」
その威容を目の前で見せられたアクアマリン宰相は驚きの声を上げたが、空母が出現した衝撃で大きくないとはいえ津波が押し寄せてくるのを見て。
「ちょっ!? 退避!!」
あまりの驚きに呆けていたものの、そこは海と共に生きる者だけあって、津波を見た瞬間退避を指示するのは流石。
まあ、ユキや私たちがいるから障壁を使って津波を完全に防ぐんだけど。
「「「……」」」
目の前でその津波を完全に防がれたことで、唖然としているアクアマリン宰相たちをよそに、ユキは話を続ける。
「やっぱり、どれだけ静かに出しても波は立つか」
「ユキ。ここで実験せんでもいいじゃろうに……」
「許可を頂けたんだ。存分に利用しないとな。ついでに、被害はない」
「はぁ。相変わらずじゃのう。ま、よい。船体の様子はどうじゃ? 出した時に変なダメージを負っておらんか?」
「そこも調べないといけない。さっさと移動だ。アクアマリン宰相、あの船に移動します」
「え、え、え……」
私たちとしては通常運転だけど、アクアマリン宰相を筆頭にシーサイフォ王国の人たちはそうもいかない、現状についていけていない。
とはいえ、フォロー役のレイク将軍がいるから……。
「宰相。そして皆様方、まずはユキ様の言葉に従ってあの船に行くことが大事かと、周りの兵たちは巨大な船の出現に殺気だっておりますし、我らが率先して安全だと証明しなければ」
「はっ、そうです。伝令!! あの船?は客人が用意したものです。攻撃を加えないように厳命しなさい。レイク将軍と私の連名での命令です」
「「「はっ!!」」」
そう言って、伝令の兵士たちが慌てて走り去る。
でも、伝令が間に合うかしら?
ああいう巨大な船が現れて、大人しくしているのかしら?
まあ、乗り込めないようにそこらへんはちゃんと防衛機能は働いているけど。
「さ、こちらの船で向かいましょう」
「……意味が分からない。いつの間に、こんな船が……」
気が付けば、今度はクルーザーが目の前に出現しており、それに乗り込む私たち。
しかし、アクアマリン宰相たちは混乱していながらもそれでも歩みを進めてクルーザーに乗り込むのはすごいと思う。
それだけ、祖国を守りたい気持ちが強いということだから。
とはいえ……。
ぶおぉぉぉぉ……!!
「なに!? このスピード! お、落ちる!?」
「座って下さい宰相!!」
普通のスクリュー船でそこまで速いものではないのだけれど、シーサイフォ王国の人たちにとっては脅威の速度みたい。
「でも、この程度で驚いてたら空母の速度を言ったらどれだけ驚くのかしらね?」
「あまり脅かしすぎてはだめですよ。これからこの人たちと仲良くやっていかないといけないんですから」
「そうは言ってもね……」
ヴィリアの言うこともわからないでもないけど、空母に乗ってから後も驚かせずにやっていくのってかなり難しい気がするんだけど?
正直な話、海の魔物との勝負よりも面倒な気がするわ。
ということで、私がその片方の空母を預かることになると思うと気が滅入るわ。
色々な意味で……。
さあさあ、まだまだ序の口なのは皆さんしっているでしょう。
シーサイフォ王国の皆さまはどう行動を起こすのか?
これからの動向が気になるところです。
え? 海の魔物は? さあ、それよりもまずは背中、味方を掌握しないとね。




