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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

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第821堀:なんで連れてきたのか

なんで連れてきたのか



Side:アクアマリン・ビーチ シーサイフォ王国宰相



私はやっと今日一日続いた長い会議を終えて執務室に戻り、会議の間にもたまり続けた書類仕事を進めている。

いくら国の危機とはいえ、いや、国の危機だからこそ、こういう書類仕事は無くならないし、こういう時こそきちんとこなさなければならない大事な仕事だと、おじい様がよく言っていた。


『私たちがサボれば、多くの国民が困ることになる。だから、私たちは手を止めてはいけないのだよ。まあ、時にはちゃんとした息抜きも必要だがね』


そうにこやかに、休むことも大事だと言っていたけど、ここしばらくとてもそういうゆとりはない。

なにせ、魔物がシーサイフォを支える主要産業の場である海から現れたのだ。

この由々しき事態は、シーサイフォ王国始まって以来の危機だ。

既に海軍の総戦力の内10分の1が損耗。

現れた海の魔物がどれだけの脅威であるかがわかるだろう。


しかしながら、そんな魔物の強さ以上に痛かったのが、初動が遅れたこと。

魔物が現れたと報告を受けたにもかかわらず、当初は半信半疑で対応が遅れに遅れて、気が付いたときには既に沖合の制海権を失い、後退を余儀なくされた。

正直な話、どれほど強大であろうとまだ相手が国や人のほうが良かった。なにせ今回の相手は言葉の通じない魔物。交渉もできない。

相手は単に獲物を見つけたといわんばかりに襲い掛かってきて、多くの軍船が沈められただけでなく、一般の漁船にまで被害が出て市井にまでチラホラ魔物の噂が出回っている状態だ。

このままでは、我が国は生命線ともいえる海を失うことになる。

だから、起死回生の策として、ほぼ博打もいいところではあったがハイデンに救援要請というか、復興支援という名目で軍を派遣して代わりに魔術師を連れてくるという案をだしたのに……。


「……レイク将軍。本当にどういうつもりですか?」


レイク将軍が予定よりもかなり早い時期に帰ってきたかと思えば、連れてきたのは女子供の集団。

私がこうして詰問したくなるのも当然だ。

我が国はこのままでは内陸に戦争を吹っ掛けなければいけない状態に陥るというのに、連れてきたのが、女子供の集団。

これには文句を言わずにいられないが、そこは相手がレイク将軍。

まずはなぜそのようなものを連れ帰ったのか言い訳を聞いておこうと思ったわけ。


「そう言われましてもね。私はこの国を救いうる最高の手段と判断したものを用意したまでです」


私の問、いえ、非難の言葉にレイク将軍は自分はきちんと仕事をしたと答えるだけ。



「あの者たちのどこが、国を救う最高の手段ですか。ハイデンから連れてこれたのは小娘一人。ああ、オマケが何人かいたけど、それも学生と子供がほとんど。ちょっとマシなのは、フィンダール帝国のスタシア殿下とエノラ司教だけね。とはいえ、お二人も海戦はしたことないだろうから、実際には役に立つ可能性は低い。我が国のことをなめているでしょう? 違うのですか?」


これが本気で援軍を出した陣容というのなら、ハイデンやフィンダール、ハイレ教は落ちたものだ。

まあ、そういう事ならある意味、この後楽かもしれない。海という生命線が無くなれば内陸にそれを求めるしかないが、バカ共相手なら戦いやすいだろう。


「極めつけは、だれも聞いたこともない小国にすぎないウィードとやらの王配殿。そんな国の王配がわずかな供回りを連れてきただけで、一体なんの役に立つっていうのかしら? おかげで、爺様たちの視線がいたいわよ。あとで絶対山のような文句が来るわね」


客人の前だから、レイク将軍を叱責するのはぎりぎり踏みとどまっていたけど。

あの場であの王配が連れてきていたお子様たちが騒ぎでもしたら、たたき出してたところよ。


「まあ、その誤解も明日には解消されるでしょう」

「明日には解消って……。ああ、ウィードが色々見せたいものがあるとか言っていたわね。別に今更、そこらへんに転がっているような交易品を見せられてもね……」


シーサイフォ王国は海から得られる海産物はもちろん、内陸の岩塩とは違う海から採れる芳醇な塩を提供することによって、莫大な利益を上げている。

それらの資源と交換に、各国からは多くの交易品が集まり我が国を豊かにしている。

なので、今更どこぞの小国がちょっとした交易品を持って来たとしても、たかがしれているでしょう。


「アクアマリン宰相のお気持ちはよくわかります。私も最初は何の冗談かと思いました」

「ああ、そういえば、ウィードのことはハイデン王から紹介されたといっていましたね」

「ええ。話を聞いてもハイデン王はいったい何を言っているのかと、アクアマリン宰相と同じ気持ちでした。ですが、ウィードを訪れてそのような考えは綺麗に吹き飛びました」

「はぁ? ウィードを訪れたって、ウィードはハイデン国内の自治区か何か?」


レイク将軍が何をいっているのかさっぱりわからない。

ハイデンに交渉をしに行って予定より早く帰ってきておきながら、なんでさらにウィードに行くことになるのよ?


「それも非常に説明しにくいですね」

「……レイク将軍。さっきからあなたの回答は要領を得ていないものばかり。一体何がいいたいのか教えてください。先ほどの話を聞くと、下手をすれば職務を放棄して他国であるウィードに出向いていたということになるのですが?」

「職務は放棄しておりませんが、ウィードに出向いたのは事実です。その点についてはハイデン王の紹介と推挙があったので断るわけにはいかなかったのですが」

「……そういえば、そうですね。はぁ、とりあえず、今話を聞いても話す気がないのはわかりました。あとは、明日ウィードが用意するものを見てからもう一度問いましょう」

「はい。そうしていただけるとこちらとしても、それがありがたいです」


そういって、レイク将軍は執務室から出ていく。


「まったくもう。なんで聡明なレイク将軍があんなあいまいな返答をするのよ。……ともかく魔術習得プランは根底から考え直さないといけないわね」


私は、机の上に置かれているハイデン魔術技術習得に関しての資料を目を通すだけで胃が痛くなる。


「あんな挨拶で気おされていた小娘が、海軍の軍人相手に指導できるとは到底思えないし、魔術の腕前があるとも思えない。あれは形だけの対応ってことになるわよね……。となるとこちらからなるべく聞き出して、いや、何かしら教導用の教材は持ってきているだろうから、それを受け取ってこちらでやるのが……」


しかし、胃が痛かろうが、やらなければいけないことには間違いない。

戦争で疲弊した国などに援助を求めたのは間違いだったということ。

でも、こんな結果を5、6艦隊の連中に知られると厄介なのよねー……。

と、そんな感じで、私は今日も夜遅くまで書類仕事をしてから、レイク将軍のいう疑問が解消されるはずの翌日を迎えたのだったが……。



「海を貸してほしい?」


ウィードの王配であるユキ様が最初に言った希望は、まったく意味不明だった。


「はい。少々見せたいものがございまして」

「えーと、海に何か?」

「ああ、すみません。目的を言わないと分かりませんね。海に船を浮かべたいので、軍港など水深が深い、広い港の一角を貸して頂ければと思っているんです」

「……」


正直に言おう。

目的を聞いてもこの男が何を言っているのかさっぱり意味が分からなかった。

確かにウィードからいろいろ見せたいものがあるとは聞いていたが、軍事機密も含まれる軍港を訳もわからずそうやすやすと貸し出すわけにはいかない。

というか、どこかの国の間者ではないかと思う。

こういう騙り者はどこにでもいる。

ウィードなんて聞いたことがないし、でも、なぜかレイク将軍は信じているのよね。

……全く意味が噛み合わない。

そんな感じで、私が悩んでいると、レイク将軍が出てきて……。


「ユキ様。申し訳ないですが、こちら側は全くウィードのことを知りませんので、先に一度練兵場の方でいろいろ見せて頂いた方が納得しやすいかと」

「ああ、すみません。レイク将軍に見せていたもので、ついもう信頼されているものかと思っていました。では、そうですね。カグラ外交官殿たちの実力も含めて見せるほうがわかりやすいですね。アクアマリン宰相、練兵場をお貸しいただけますか?」


そんなことを言ってきたので、私たちとしてもウィードの方々というか、カグラ殿たちの実力を合法的に調べるチャンスなので……。


「ええ。構いませんよ」


私は快く了承した。

これで、向こうの実力が足らないとわかれば、完全に後方の置物だ。

ハイデンには苦情を入れて、ついでに世間の評判をがた落ちにさせてやるわ。

ハイデンの国力がそれで落ちるなら私たちにとっては今後の展開としても有利だからね。

使い物になるのなら、ちゃんとした対応をする。

まあ、それでも海の魔物に対してどこまで対応できるかはわからないけど……。

正直な話、私や爺様たちも、たとえハイデンから大きな協力が得られたとしても、そう簡単に解決する問題ではないという判断だ。

ただハイデンと協力すれば、今後の展開としては魔術大国と良好な関係を保っているということで、海の魔物問題が解決してないとしても、近隣諸国が敵対してくる可能性は少ないだろうという判断もある。

と、そんなことを考えているうちに、練兵場にやってきて……。



「レイク将軍。皆さんの不安を取り除くためもありますので、多少派手におこなってもいいでしょうか?」

「……本音を言えば、やめてほしいのはやまやまですが……。事実を知らしめるためには仕方がないでしょう。ですが、せめて修理は……」

「ああ、そこらへんは調整しますし、壊した分はこちらで修復しますよ。ということで、カグラ外交官殿。まずは目標へ火力を集中させて撃ってみようか」

「はい。行きます!!」


壊すってどういうこと?

なんか変に気合を入れているカグラ外交官の様子が酷く不自然だ。

目標であろう案山子一体ぐらい壊されたところで、必要経費で……。


ズドーン!!


パラパラ……。


「「「は?」」」


爺様たちと同じように私もまともな反応ができずに、思わず声が漏れてしまった。

全く何が起こったか理解できない。

何が起こったか聞こうかと思ってるすきに……。


「よし、次はフィーリア行ってみるか。ドカンといっていいぞ」

「はい、なのです!!」


次はカグラより小さい女の子が自分の体以上の大きなハンマーをかざして軽々と振り下ろすと……。


ドガン!!


「「「……」」」


ハンマーを食らった案山子は、そのまま地面にめり込んで埋まってしまった。

どういう力よ!?

一体何が起こっているの!?


「よーし、次はデリーユ行ってみようか。ここは度肝を抜く一撃で頼む」

「うむ。任せておけ」


今度はデリーユという王配付きの華奢な護衛が出てきたと思うと、案山子に目にも止まらぬ速さで接近し。


「ふっ」


そんな掛け声と共に、拳を突き出し……。


バギィ!!


という音を立てて、案山子が足から折れて、向こうの防壁まで飛んで行き、大きな音を立てて止まった。

拳だけで案山子があんなに!? と思っていると……。


「ほれ、もういっちょ」


そういって、彼女は反対の拳を突き出すと、なぜか既に壁にもたれかかっている案山子が……いや、壁ごと粉砕して穴が開いた。


「「「……」」」


あまりの常識外れの事態に私たちは全然反応できないでいると、ユキ様はさらにこんなことを言い始める。


「さて、締めは範囲攻撃ですかね」

「ちょーっと待っていただきたい。範囲となると、被害がものすごくなります。壁の修繕でも大変ですので、どうかこの辺で」

「あー、それもそうですね。では、修理したのちに、軍港の方を見せていただいてもいいでしょうか? アクアマリン宰相殿?」

「え、ええ……」


私はそう返事するしかできなかった。

だって、そうでしょう?

レイク将軍の言ったように、とても言葉では言い表せない凄さを彼らは秘めていたのだから。







当然というか、裏では結構疑っていました。

そう、いました。

世の中さ、言葉でわからないなら見せるしかないんだよ。

こうして、ユキたちはシーサイフォ王国でちゃんと立場を確立していくのでした。


まあ、まだ序の口というのは皆さんにはお分かりかと思いますが。



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