第819堀:海の都に到着
海の都に到着
Side:ユキ
「うわー、すごいよー!!」
「すごいのですー!! 本物の海なのですー!!」
「ふふっ、そうね。こんなすごい景色、初めて見るものね。でも、本当にすごいわね」
「ええ。この海の遥か先に私たちの大陸があるのかもしれないなんて、信じられないです」
そんなことを言って運転席側に広がる海岸を見つめるちびっこたち。
「いや、騒がしくてすみません」
「いえいえ。我が国の風景を楽しんでいただけて何よりです」
そう、俺たちはすでにシーサイフォ王国の領土に侵入……じゃなかった。領土に入っている。
「しかし、今更ですが、軍を置いてきてしまってよかったのですか? 一応、ハイデンの国境沿いまではゲートで移動しましたが……」
俺たちは車で先行する形でシーサイフォ王国へと到達したが、どうやっても車の移動速度にはついてこれないシーサイフォ軍の主力が戻ってくるのはしばらく後になるわけだ。
「構いません。あの軍は陸軍ですからな。最近は平和なものですので、ちょうどいい訓練の機会です。しかも、ゲートを使い国境までは楽に移動できたのです。これ以上何かしてもらっても兵が怠ける原因ですからな」
「そうですか」
こういうところはしっかりしている様だ。
しかし、あの軍は陸軍、ということは、きちんと兵士を用途で分けているってことか。
シーサイフォと戦争になれば本当に厄介だな。
「それに、ユキ様たちウィードのことも含めて、ハイデンの協力を得られたことは最優先で伝えるようにと厳命されておりますので」
「それほど、シーサイフォの状態は悪いのですか?」
「いえ、元々ハイデンに魔術を教えてもらう予定でしたので、習得期間を3年とみておりました」
「3年か……」
「失礼ながら、レイク将軍。流石に3年で魔術の習得は厳しいかと」
レイク将軍の言葉に苦言を呈したのは、もちろんハイデン代表のカグラだ。
まあ、当然の話ではある。
たった3年で魔術を極めるまでは求めないにしろ、実用レベルで使えるようにできるのであれば、どこの国にも魔術師は沢山あふれているはずだ。
というか、そんなことを容易く成功されれば、ハイデンの魔術国家としての地位が失われかねない。
それこそ、この新大陸での大戦のきっかけになりそうだが……。
まあ、そこらへんは考えても仕方ないか。
その前にシーサイフォ王国が立ち行かなくなれば、シーサイフォの人々にとってはいずれにしろ終わりだからな。
で、俺の考えを肯定するように、カグラの言葉に対してレイク将軍はこう返す。
「無理は承知です。ですが、何かしらの海の魔物への対抗手段を是が非でも手に入れなければならない状況になっているのです」
「属国や友好国に海での状況は既に伝わっているということですか?」
今の苦境が近隣諸国にまで伝わっているからこそ焦っているのか?
「……詳しくは伝わっていないと思います。なにせ存在しないはずの魔物に襲われて、軍船、しかもシーサイフォ王国の海軍が沈められたなどという話は、今のところ荒唐無稽なおとぎ話として信用されないでしょう」
「そういう意味でも時間がないということですね」
「はい。まあ、外交の連中がどのように説明しているかまでは詳しくは知りませんが、期限として3年で結果をと言っていましたからな。そこらへんが現状を誤魔化せる最大の時間なのでしょう」
なるほどな。
まあ、不幸中の幸いというか、近隣諸国ではシーサイフォの海に出没している魔物問題は、いまだ眉唾な話ということになっているのか。
でも、これ以上は大やけどになりかねないから、ここまで焦っているわけか。
まあ、シーサイフォ王国としても、最高戦力であるはずの海軍が実は使いものにならないなどという状況になればかなりまずいと認識してるわけだ。
「なるほど。それで魔術というわけですね」
「はい。わかりやすく国力を示威する手段としては、魔術が一番いいだろうという決断がでたわけです」
「となると、私たちウィードが表に出ても、インパクトは極めて薄いですかね?」
「その可能性があります。まあ、ユキ様たちの実力を知れば、国内の方は落ち着くでしょう。しかし……」
「国外を説得するために、ハイデンの名前がいるわけですね」
「はい」
ま、そりゃそうだ。
ハイデンと協力して海の脅威を何とかする。あるいは打ち払った。というなら各国は納得もするし、魔術大国ハイデンと組んだのだから妙な考えはしないだろう。
だが、ウィードと協力して、以下略といっても、近隣諸国はそんな名前も知らない小国にまで助力を頼んだということは、シーサイフォの国力は相当落ちている。などと判断されかねないわけだ。
こっちとしても、そんなくだらないことで戦乱なんてのは勘弁だからな。
「世の中、難しいですね」
「ですな。簡単にはできておりません。ですが、このようにウィードの皆様はもちろん、魔術大国ハイデン、フィンダール帝国、ハイレ教の代表をお迎えしての帰国とすることができたのは喜ばしい限りです」
レイク将軍はこういう時でもこちらをちゃんとよいしょすることを忘れない。
まあ、紳士的な対応というべきか。
そんな感じで雑談をしながら海岸を進んでいると、どんどん人通りが多くなってくる。
こちらを見て唖然とするだけでなく、中には驚いてへたり込む人もいるから少し申し訳ない。
「人が多くなってきたねー」
「レイクおじさん。もうすぐなのです?」
「ええ。フィーリア嬢の言う通りです。目の前の丘を越えれば……」
そうレイク将軍がいう間に、マローダが丘を越えて目に飛び込んできたのは、大きな入江を囲むように町が存在していて、その真ん中に突き出した岬には立派なお城が立っているという、どこかの絵画にでもなりそうな構図の風景だった。
「「「おおー!!」」」
その光景に、アスリンたちだけでなく、カグラたちも含めて驚きの声を上げる。
「あら、すごいわね。多分だけど、あの線みたいに見えるのは城壁かしらね?」
「たぶんそうです。でもそうなると、かなり大きな城下町ですね。海岸にそって町を作っているんですね」
「ええ。我が国自慢の王都であり、最大の漁港、軍港をも兼ねているのです」
そう言われて見てみると、お城が存在する岬を境に、半分が漁港、半分が軍港と分かれていることに気が付く。
あからさまに、船のサイズが違うからな。
「絶壁の上にお城があり、下れば港に城下町。そしてそれを囲むように城壁があります。そして、背には海。これを攻略するのは至難の業でしょう」
「だね。陸から攻めれば、海から迂回されて後ろを突かれる。海から行けば陸から手痛い迎撃を受けるし、何より海戦を得意とするシーサイフォ軍とぶつかることになるね」
スタシア殿下とエージルは将軍として、このシーサイフォ王都の攻略難易度の高さを話している。
この2人は職業病だな。
「スタシア将軍にそう評価していただき何よりです。まあ、城下町に関しては、大きくなるにつれて、城壁を追加している感じなのですが。と、ユキ様。向かう先は、ここから見える岬の王城から一直線の場所に門がありますのでそちらに」
「了解」
ということで、高い丘を下り、シーサイフォ王都へと俺は車を進める。
王都に近づいていくと、どうやら向こうもこちらの接近に気が付いたようで、門にたどり着くころには、兵士たちが大勢集まってきていた。
このパターンは変わらんな。
まあ、初めて見る乗り物だけど。そこまで警戒しなくてもと思うのだがな。
あ、ちなみに、今回はマローダー4台で移動しているので、そういう意味では確かに脅威に見えるかもしれないな。
しかし、そうして集まってきていた兵士たちに対して……。
「ハイデンより、レイクが戻ったと伝えよ!!」
と、レイク将軍が一喝すると、即座に兵士たちが敬礼をして直立不動になるあたり、しっかりと教育が行き届いている。
レイク将軍の勇名もあるのかもしれないが、こうして滞りなく進めるのはありがたい限りだね。
「しばらくお待ちください。すぐに話を付けてきます」
そう言って、レイク将軍は車から降りて、門の奥へと消えていく。
王様に話をしに行ったんだろう。
先ぶれも何もなく突然戻ってきたからな。
いやー、車という移動方法は何度見ても罪だね。
相変わらず道中で、伝令兵を追い越していたからな。
「うわー。なんか日焼けしている人が多いね」
「海が近いからなのです」
「海の照り返しが原因だっけ?」
「そうそう。ラビリスの言う通り、日焼けしている人が多いのは海からの照り返しもあるからだ。通常は直射日光だけだが、海からの照り返しもあって肌が黒くなりやすい」
これが、海辺に住む人たちが日焼けをしていることが多い理由だ。
「でも、シーサイフォ王国の人たちからすれば私たちのほうが珍しいみたいですが」
「まあ、車じゃしのう」
ここでようやく助手席でダウンしていたデリーユが口を開く。
「具合はよくなったか?」
「……なんとかのう。しかし、海岸はうねうねしておってつらいわ」
なんか知らんが、海岸のうねった道で酔ったみたいだ。
普段はそんなことは無いんだがな。
「今度から酔い止め飲むか?」
「うむ。そうしよう。というか、とりあえず車から出て外の空気を吸ってくる」
「おう。車からあまり離れるなよ。レイク将軍が一言言ってくれているとはいえ、警戒されているのには変わりないからな」
「わかっておる。ただ、ちょっと車の外にでるだけじゃよ」
そういって、デリーユは車の外にでてドアに背を預けてのんびりする。
「そういえば、後ろからついてきているみんなは大丈夫かな?」
アスリンがそう言って、後ろで止まっている車を見つめる。
「一応連絡を取ってみるか。無理に我慢している連中がいないか確認だ」
ということで、コールで連絡を取る。
「二号車、三号車、四号車。体調不良者、まあ酔った人とかいないか?」
『こちら二号車、キルエです。ドレッサたちは特に具合が悪いということはなさそうです』
『三号車、タイキです。ルースたちは問題なし、ミコスたちは……、そうか問題ないです』
『……四号車、サーサリです。こちらに乗っているレイク将軍のお付きの人たちは平気とのことです』
「了解。もし具合が悪い人がいれば遠慮なく言うように言ってくれ」
『『『了解』』』
とりあえず、他の車に体調不良者はいないようだ。
そんなことをしていると、不意にドアがノックされ、デリーユがこちらに話しかける。
「ん? どうしたデリーユ」
「どうやら、レイク将軍が戻ってきたようじゃぞ」
デリーユの言葉に門の方へと視線を向けると、車を囲んでいた兵士達が道を開け、奥からレイク将軍が誰かを引き連れてやってくるのが見える。
「誰を連れて来ていると思う?」
「さあのう。とはいえ、関係者でないわけは無かろう」
「そりゃそうだな」
そんなことを言っている間にレイク将軍たちが車の前までやってきてたので、俺は車を降りてレイク将軍を出迎える。
「皆様、お待たせいたしました。馬で先導いたしますので、ゆっくりとついてきていただけますか?」
「わかりました。で、そちらの方々は?」
「はっ。我が国の宰相を務めている……」
「アクアマリンと申します。遥々遠方のハイデンよりお越しいただき誠にありがとうございます」
そう言って、若い女性が出て綺麗な礼を取る。
これが、シーサイフォ王国の宰相?
いくら何でも若くないか?
とはいえ、そういう質問をするには場所が悪いか。
「はい。よろしくお願いいたします。アクアマリン宰相殿。では、案内を……」
そう言いかけたその間に、アクアマリン宰相がずさーっと近寄ってきて。
「この乗り物に乗っていいでしょうか!!」
目を輝かせて言ってきたのだった。
そしてようやくシーサイフォ王国へ到着!!
迎えに出てきたのは若いアクアマリン宰相。
彼女は一体どういう人物なのか。




