第818堀:仲間は海の国へ
仲間は海の国へ
Side:セラリア
「……なるほど。ジャーナ男爵とはうまくいったわけね」
私は報告書を見ながらそう言う。
「まあ、もとより、頭がまともな人なら、断る理由もないですからねー」
「ラッツの言う通りだけど。まあ、そもそも王命でもあるから、断りようもなかったでしょうけど」
「でも、村の人たちに受け入れられてよかったよ。ねえ、トーリ」
「そうだね。仲が悪かったら色々やりにくいから」
「……村の人たちと仲がいいのはいいこと」
私の見解にみんなからも意見の声が上がる。
エリスの言うように、元より、ジャーナ男爵領の件はトラブルが起きたり、断られる可能性は限りなく低かった。
当たり前の結果がでただけ。
実際の状況を聞いてさらに安心したってところね。
そして、領民とも良好な関係を築けている。
領民との不仲は本当に避けたいところだからね。
そしてその良好な関係を築けた主な理由は……。
「スーパー銭湯に予算を割いて正解だったわね。おかげでスムーズに話が進んだみたいで、今も経過は良好のようね」
「あんな辺鄙な、というのはミコスやジャーナ男爵には失礼ですが、小さな村にお兄さんがスーパー銭湯を作ると言ったときは驚きましたけどね」
「まさか、王都から人を招き寄せるのが目的とは思いませんでしたわね」
「……ん。ユキは相変わらず考えることが突拍子もない。とはいえ、これでジャーナ男爵領とハイデン王都は深く繋がったともいえる。これで、有事の際はまずハイデンの軍が動くことになる。おかげで、こっちの手が割かれなくて済む」
そう、このジャーナ男爵領の間借りした土地に不相応なほど豪華な建物を建てたのはそれが目的。
何かあった時は、ハイデン軍が動くため。
私たちがこれ以上出張ればハイデンの面目が丸つぶれだし、ハイデンの認可の下で一般開放もしているウィードの施設をハイデンが守れなかったとなれば国家間の問題となるし、国内からも非難轟々よね。
とはいえ、そのためにゲートでこちらの力を借りているという間抜けさはあるんだけど、そこは目をつぶっておきましょう。
軍人や一般人がジャーナ領に来れば、必然的に、私たちウィードの施設や駐留部隊を見ることになる。
それで、未だに残るウィードへの反発を押さえようというのが、ユキの副目的だ。
ハイレ教の暗躍の際は戦わずに戦争が終わったこともあり、くすぶっている武闘派の連中も未だいるのが悩みだと、ハイデン王が言っていたからね。
そこの解決案をここで提供したわけ。
「完全に防衛や治安維持を任せることはないけど、それでもクリーナの言う通り、私たちの戦力を割くことは避けられるわね。ウィードの施設もジャーナ領民から有志を募って運営することになっているし」
「ちゃんと現地の雇用も考えている所がユキ様ですわね。これでジャーナ領民とも親密になりますし、ハイデン軍、および観光客から領民への横暴も少なくなるでしょう。こういうのはどうしても何かしら少なからずありますから」
「そして、隣接とまでは言いませんが、辺境伯への牽制にもなるでしょう。ミコスさんに手を伸ばしてきたといいますし、ここまでやっている中、露骨に話を進めるとも思えません。王家に喧嘩を売って、ウィードにまで喧嘩を売る行為ですから」
辺境伯への備えもばっちり。
これで心置きなく……。
「ユキたちは後方を憂えることなく、シーサイフォ王国に進めるわけね」
これで、大本命への移動ができるわけ。
色々回りくどかったけど、これをやらないとダメっていうのが国は大変よね。
「結構時間かかったよねー」
「だね。で、もう、ユキさんたちは出発したんだっけ?」
「……時刻的にはそろそろハイデン王国を出るはず。既にジャーナ男爵領を出て国境を抜ける寸前」
私もカヤにつられて部屋の時計を見ると既に11時を回っている。
昨日の夜から急遽出発準備をしていたシーサイフォ王国軍は、朝のうちにハイデン王都からジャーナ男爵領へと移動して、そのまま国境を目指している。
「昨日の今日でずいぶん無理をしたわね」
「ゲートの有用性をハイデン、ジャーナ男爵領、そしてシーサイフォ軍の人たちに見せつけたいんでしょうね~。これで、偉い人だけじゃなくて、一般兵もウィードの技術力を知ることになるわけです」
「そして移動時間の短縮はありがたいよね」
「ま、それを向こうの人たちがどう見るかだけど」
「この程度で、こちらを危険視するならそれまでよ。ユキさんの邪魔をするなら掻っ切ってやるわ」
ミリーの発言は極端すぎるとは思うけど、邪魔するなら実力行使させてもらう。
なによりシーサイフォ王国が敵対してきたときに備え、シーサイフォ内部に友好派を作るのにいいモノね。
ウィードとまともにぶつかりあうのを避ける者がシーサイフォにいるのはいいわ。
それがいざというとき敵の足を引っ張ってくれることでしょう。
まあ、その筆頭がレイク将軍たちなのだろうけど。
と、そんなことを考えていると、ミリーの発言にリエルが反応する。
「でもさ、ここまでしておいて、喧嘩を売ってくる奴っているのかな? シーサイフォは海の問題でそんな余裕はなさそうだけど」
「リエルの言うことはわかるけど、ろくでもないことを考えるやつっていうのはどこにでもいるからね。ほら、アクエノキとか」
「……そういえばそんなのがいた。あっちの動きはどうなの?」
確かに、そういえば最近はアクエノキの動向を聞いていなかったわね。
「霧華。いるかしら?」
「はっ。ここに」
「で、アクエノキの状況は?」
「アクエノキはいまだにシーサイフォ王国とは別の国にいます。特に動きらしい動きは見せていません。今回の事とは無関係であり、このトラブルに乗じて動こうという気配もありません」
「……話を聞く限り、今のところはシーサイフォのことに集中できそうね」
「はい。ですが、油断は禁物です。こういうときこそ事態は急に動きますから。……なのに主様は私たちの先行を認めてくれませんでした」
「ま、そこは仕方がないでしょう。ハイレンの結界の影響がどんな形で現れるかわからないし、霧華たちをそんなことで失うわけにはいかないわ。即時離脱できる状況を整えてからあなたたちを動かそうという夫の意見は当然よ」
霧華たちは確かに部下ではあるが、使い捨てになどできない。
だからこそ影響がないとわかっている夫たちが先行しているのだ。
道々でコアを使って拠点を増やしていけば何とかなる。
もし夫たちに何かあっても展開した拠点を使って即時離脱もできるでしょうし。
「心配なのはわかるけどね。ユキさんたちが何かに襲われたら……って」
「いやー。トーリ、その心配はいらないよ。だって、ユキさんたち、あの車に乗って移動してるんだし」
「……そう。いつものマローダーに乗っている。アレを壊せるやつは現代兵器ぐらい。しかも戦車砲の直撃レベルじゃないと無理」
そして、私たちがあまり心配をしていないのは、今回は歩きや馬車ではなく、レイク将軍と供回りを伴っての自動車移動だからだ。
徒歩だと流石に止めたかもしれないけど、車で時間がさほど掛からないのなら、ということで許可を出したのよね。
「普通なら数か月の道のりをわずか、1週間ほどですからねー」
「まあ、車ですから」
「車は早いんだけどねー。ハイエルフの国とか、獣神の国みたいに警戒されないといいんだけど」
「……そこはちょっと心配だけど、レイク将軍がいるから問題はないと思う」
「旦那様たちのことは基本的に心配はいらないでしょう。そういう下準備は元から万端怠らない人ですし。今の懸念は、シーサイフォ王国で別動隊を務めるドレッサです」
「「「……」」」
ルルアにそう言われて沈黙する私たち。
ユキに指名されて、厳しい訓練を繰り返してるのは知っているけど、やはりまだまだ粗い。
ユキの狙いは知っているし、賛同はしている。
もちろんドレッサも自分が十全に務まるなどとは思っていない。
囮だと知った上で、それでもそれをちゃんとこなそうと頑張っているドレッサを見ると、どうしても心配になる。
「そこまで心配なさらなくても、指導員として奥様たちはもちろん、私たちも控えますので、特に問題はないかと思いますが?」
霧華がそう言ってくれるが、問題なのは心の方なのよね。
「私も物理的な面では心配していないわ。今のドレッサをどうこうできる人物が向こうにいるとは思えないもの。とはいえ、周囲から認められないことにドレッサがどこまで堪えられるか心配よね」
「……なるほど。そちらの問題ですか」
霧華も私の言いたことが分かったようで、困った顔をしている。
さて、どう議論を続けたものかと思っていると、ラッツが口を開く。
「セラリアの心配はわかりますが、そんなことを言ったら、私たちもそうでしたからね~」
「ですね。いつかこういう時は来るものだから。かつて、セラリアにいきなり部隊長を任されたときは驚いたわよ」
「……悪かったわね」
そういうこともあったわね。
リテア聖国とのけじめと、敵対勢力の排除のために、私はエリスやラッツたちを即席の部隊長に据えたわよ。
「あの時、リテア聖国側にいた身としては、皆様が初陣とはとても思えませんでしたけどね」
ルルアが苦笑いしながらそう答える。
「当時のことは私たちは知りませんが、そんなことがあったのですね」
「……ん。聞いたことがある。ルルアとセラリアが軍を率いて正面からぶつかった」
「いえ。そんなことになってたら私は生きていません。その時対峙したのはリテア聖国の中の反対派の連中だけでした」
「まあ、その時の政治状況はいいとして、当時は人材も少なかったから、エリスたちに部隊長をしてもらったわね」
「あはは、そんなこともあったね。でも、大体セラリアが敵を圧倒してくれたからね」
「リエルは暴走してたもんね」
「……あの時はひやっとした」
ああ、確かリエルが魔物部隊を率いて、ちぎっては投げてちぎって投げてをやっていたんだっけ?
そのあと敵に囲まれて大変だったって報告書を見た気がするわ。
「とまあ、私たちもこんな感じでしたし、ドレッサにとってはここが頑張りどころってことだろうと思いますよ?」
「……なるほどね。ここがドレッサの頑張りどころか」
「ええ。人生万全な準備なんてできはしないわ。でも、空母に、私たちの支援に、モーブたちも出向くのよ。心配するより信じてあげたらどう?」
エリスはそういいながら、見つめてくる。
「……確かに。そうね。ドレッサはかつて祖国と家族を失ったけど、それでも今も頑張り続けている。私よりもはるかにつらい経験をしているのよね。それを信じてあげないといけないか」
「意外と、ドレッサに対してセラリアは気を使いますね」
「なんか、私の小さいころを見るようでね。ほら、剣の腕を鍛えてたとか、城下町にでてたとか。エルジュはエルジュで可愛い妹だけど。ドレッサもね」
「そうですね。確かに、性格的にはセラリアに似ているかもしれませんね。でも、旦那様に対してはどうも素直になれないですよね。そこはずいぶん違いますね」
「あー、それは思うわ。どう見てもあれなのに、じれったいわよね」
「ヴィリアやヒイロといっしょとみられていますからねー」
「案外、シーサイフォでの責任者よりも、そっちが問題かもね」
そう私たちは頑張る若者の未来を憂うのであった。
「というか、海の利権はしっかり確保できるようシーサイフォとは交渉してもらわないとね」
「ええ。おいしい海の幸がありますから」
「ウィードにいるのは地球の海の幸。この世界にも独特の美味しい魚介類がいるはず!!」
一応、魔力枯渇減少の為とはいえ、完全なただ働きはありえない。
海があるのだから、そこをぶん取るのよ。
と、こんな感じで、私たちの野望も多少あったりするのよね。
ということで、ようやく後ろを固めたので、シーサイフォ王国へ一直線のユキたち。
それをセラリアたちは見送っているわけですが……。
そんなことより海の幸だよ!
異世界の海が手に入るんだよ!!
やったね!!




