第805堀:整いつつある戦力
整いつつある戦力
Side:ユキ
「……という感じで、カグラ嬢ちゃんたちの訓練は順調だな。ほれ報告書だ」
「おう。ありがとう」
俺はモーブから説明を受けつつ報告書を見ると、その中には魚……ではなく、魚タイプの魔物に食われている写真が多々ある。
ギャグムービーならともかく、リアルの魔物との戦闘映像なら、戦死確認動画になるな。
「何も知らぬままつれて行ってたら、まじでやばかったかもな」
「そこは同感だが、装備品で補えるからそこまでの心配はないだろう?」
「その装備品も絶対ではないからな。ま、経験をさせることも大事だよ。というか、シーサイフォの問題は魔物だけじゃなくて銃器のこともあるからな」
「やっぱりそこか」
「ああ」
タイゾウさんたちとも相談はしたが、やはり大概の魔物よりも身内の方が怖いという話になる。
海なんて、タイゾウさんが用意した空母に乗っていれば特に問題ないはずだ。
空母すら破壊するような魔物がいるようなら、とてもじゃないけど渡海なんて無理だろう。
どれだけのサイズなんだよって話になるからな。
それこそ大怪獣決戦だよ。
まあ、船に乗り込まれて破壊される可能性もあるにはあるが、その場合、敵のサイズはおのずと小さいものに限られてくる。
そのサイズなら対処は可能だ。
それに、シーラちゃんをリーダーとする海の魔物たちも連れて行くから戦力的に心配はない。
となると、やっぱり背後が気になるよな。
「とは言え、海の問題が解決しないと、シーサイフォとの交渉はしにくいだろう?」
「ま、そこは地道にやるさ。だから、その間、ドレッサたちの方の面倒を頼むぞ。嫁さんたちもつけるけど、海の魔物の対処とかはモーブたちの方が上だからな。近海の防衛は任せて、俺たちは海の奥深くに原因を探しに行く」
「暇に飽かせて、何となくで海の魔物を呼んで戦うようなことをするんじゃなかったな……」
「その経験が役に立つんだから喜べよ」
俺がなぜカグラたちの訓練をモーブたちに任せたかというと、今こぼしたように、モーブたちが暇なときに海の魔物を呼んで、相手のホーム、つまり海で戦った経験があるからだ。
本人たち曰く、今まで手を出すことが出来なかった魔物とやりあってみたい。
ということで、片っ端からいろんな魔物をダンジョンマスターのスキルで呼び出しては戦ってたそうだ。
おかげで、こうして役に立っているんだから、何事にも手を出してみるもんだよな。
「ま、手伝えっていうなら、手伝うがな」
「助かる」
「なんか今度おごれよ」
そう言って、モーブは部屋の外へと出て行きかけたが、唐突に止まって。
「俺もな。銃の方が気になる。そっちの方だけは気を付けておけよ」
「ああ」
「余計なお世話だったか。じゃあな」
モーブはそう言って、今度こそ出ていく。
それを見送っていた嫁さんたちが……。
「モーブさんがあそこまで踏み込んでいうのはめずらしいね」
「ええ。そうですね。おそらく冒険者としての勘というやつでしょう」
「……冒険者の勘、ですか。意外とバカにはできませんわね」
「ん。モーブは普段はだらしなくても、こういう勘は鋭い。勝負所は必ず勝つ」
意外に思うかもしれないが、嫁さんたちのモーブへの評価は高い。
元々ミリーの知り合いというのもあるかもしれないが、奴隷として嫁さんたちを見い出してきたこともある。
モーブにはしっかり人を見る目もあるし、あの戦争を無事に生き抜いたという実績もある。
家族や仲間を失うことになったことは、運には恵まれていないように見えるが、無事に生きていることはきっと幸運なのだと思う。
まあ、本人はこの状況を決して幸運だとは思わないだろうがな。
と、そこはいいとして、銃に関してのことだ。
「モーブの勘がささやいている、か。霧華」
「はい。何でございましょう。主様」
「シーサイフォの銃に関して、モーブが気にしているみたいだ。向こうに着いた後は霧華たちを呼び込むから、そのまま調査に移ってくれ。ザーギスたちのおかげで、新大陸でも安定して活動できるようになっただろう?」
「はい。ザーギス殿たちの開発によって活動可能時間は飛躍的に伸びました。しかし、皆様が到着した後に私たちを呼び込むのではなく、私たちが先行してシーサイフォ王国に乗り込むこともできますが?」
「いや、先行は無しだ。場所によっては魔物がどういう状態になっているかはいまだによくわかってないからな。何かあっても、撤退がすぐにできる範囲での活動が望ましい。俺たちが先に行くほうがそういうのもわかるはずだ。特にシーサイフォ王国では到着後即座にダンジョンを展開する予定だしな」
そうでもしないと、艦船の展開なんてできやしない。
その場で艦船を建造する荒業か、シーサイフォ王国の船に乗ることになる。
俺としてはどっちも勘弁だからな。ウィードはウィードで船を出す。
そして、立場をはっきりさせる。
空母という概念は理解できないだろうが、話を聞く限り、向こうは木造船しかない。
こっちの巨大な鋼鉄製の艦船を見れば、嫌でも力量差を認識するだろう。
「そういえばユキさん、タイゾウさんの話だと空母を出す予定でしたよね? 空母ってことは飛行機も載せるんですか?」
「ああ、そういえばそうですね。空母なんてものを出すならただ船に乗るだけではないのでしょう?」
「ですわよね。でも、艦載機以前に、戦闘機すらDPで購入していませんわよね?」
「ジェット戦闘機は高すぎ。ゼロ戦はもろいから使用禁止で、今ウィードに存在する航空戦力は飛竜部隊だけ」
「みんなの言う通り戦闘機はいないが、クリーナの言う通り飛竜部隊がいるから飛竜部隊を派遣することになると思う。とはいえ、海中戦が主だから基本的に飛竜部隊は待機になるだろうけどな。万が一のためにってやつだ」
空母に戦闘機というか航空戦力がないとか笑い種だからな。
船員はスティーブ隊とジョン隊でまかなうし、これはドレッサとモーブの乗艦する方も同じだ。
「そう言えば、船の名前ってどうするんですか?」
「あー、いや、全然名前を付けることを考えてなかった」
どうせDPで呼び寄せるものだしな。
下手に名前を付けても名前負けすること請け合いだろう。
「アスリンに頼んでみるか?」
「アスリンのセンスが悪いとは言いませんが、くーちゃんとか、うーちゃんとかになりそうですね」
「くーちゃん型空母1番艦くーちゃん、くーちゃん型空母2番艦うーちゃんですか。実に可愛らしい名前ですね」
「ん。3番艦はぼーちゃんで決定」
「よし、少し考えるか」
リアルにそんな名前になりそうで怖い。
いや、別にアスリンが悪いってわけじゃなくてな、こういう名前はちゃんと付けておかないと後で困るのは確かなんだよ。
それを思い出しただけで、決してアスリンの命名が嫌だったとかそういうことはない。
「じゃあ、女性の名前ってどうですか? 船の名前とか乗り物には女性の名前を付けることが多いって聞きますよ」
「確かに、そういう文献は見たことがありますね」
「しかし、その場合、ユキ様が誰の名前を付けるのかというので揉めそうですわね」
「というか、私たちの名前を付けて轟沈したら、なんか縁起が悪い気がする」
よし、嫁さんの名前は却下だな。
そうでもしないと、サマンサの言う通り揉め事の原因になりかねないし、クリーナの言うように、轟沈した時は縁起が悪いからな。
とはいえ、適切な名前といってもな……。
空母だろう? 蒼龍飛龍とかは、まあ二次大戦のこともありゲン担ぎには微妙だな。
どっちとも沈没しているし……。
「うーん。いい名前なー。普通なら昔の有名人とか、偉人の名前を付けるんだよな……。って、ああ、いいのがいたな。ご利益になるかはわからんが……」
「え? ご利益ありそうな名前ってどんな名前ですか?」
「そんな方はいましたか?」
「ああ、日本の偉人とかですか? ミスタートーゴーとか」
「ん。ヤマモトイソロクとか」
なぜか、サマンサとクリーナの口から、東郷平八郎と山本五十六の名前が出てくるかは知らんが、日本の偉人の名前を付けるつもりは無い。
理由を他に説明するのは面倒だしな。
だから、誰もが納得できる名前となると……。
俺は何も書いていないA4用紙を取り出して、そこに大雑把に筆ペンで名前を書く。
「まあ、もともとはニミッ〇級なんだが、そこは目をつぶってもらうとして、ルナ型空母ネームシップ一番艦ルナ。二番艦がリリーシュでいいだろう。仮にも女神様たちなんだし。沈んだら沈んだですっきりするし」
なんて後腐れのない名前なんでしょう!!
我ながら名案すぎるな。
沈んだら、ルナの加護が足りなかったってことで責任転嫁できる!!
「くぉぉらぁぁ!? 私の聖名を付けておいて轟沈とかふざけるんじゃないわよ!?」
そう考えた瞬間執務室に顕れる駄目神。
この脊髄反射というか、阿吽の呼吸で現れる速度をみると……。
「お前、本当は暇なんじゃないか?」
「そんなわけないわよ。全く、私が目をかけてやっているのに、一向に信仰のしの字もわかないわよね」
「ダンジョン作る能力を与えただけで、後は出来高制にしたことのどこに目をかけているのか教えてほしいんだが? チートスキルじゃないからなこれ。ただの経営力を試されるだけだからな?」
まあ地球上の会社経営よりは税金だの、経理だのと細かいことは関係ないから、その分楽ではあるが、その代わりに命が軽いハードコアな世界だし、ダンジョンの作成能力があろうが、駄目な奴はだめなわけだ。
ということで、今というか、昔から俺は仕事で右に左に大忙しなんだよ。
まあ、学生の頃よりは幾分マシではあるが。
「イフ大陸に繋げたのは、お前曰くご褒美だったよな?」
「……そんなこともあったわね?」
「ヒフィーやノーブルと音信不通になったあとのお前のアフターフォローが悪くて問題になったよな?」
「それは、連絡を取らなくなったあいつらが悪いわ」
「ウィードの一角に勝手にお化け屋敷を作ったよな?」
「作ったきりほったらかしにしているからよ。いまや、あのお化け屋敷は大盛況よ。連日、失禁はもちろん、失神者も当たり前に量産しているんだから!」
ルナの言う通り、あのお化け屋敷は本当の肝試し場所となっている。
費用はルナ持ちで遊ばせている。
こいつにはおもちゃを与えているほうがいいと判断した結果だ。
「どう聞いてもお前に利益があるばかりで、俺に利益のある話は一個も無いんだが?」
「……それより、問題は船の名前よ!!」
うわ。露骨に話そらしやがった。
「というか、名だたる武勲艦もいずれは沈むんだよ。名前が刻まれるだけ名誉だろう?」
最新空母ルナ級一番艦ルナ:〇年〇月〇日シーサイフォ沖にて、魔物に襲われ轟沈。処女航海の出来事であった。南無。
まさに、航海史上笑い種の終わり方だな。
わざと轟沈させることも考えねばなるまい。
でも、そのための予算がな……。
今まで貯蓄してきたDPのおよそ3分の1を消費することになり、その予算申請をしたら嫁さんたちに冷たい目で見られたのは当然の話だ。
戦車とか、倉庫で埃被っているのが現状だからな。
いや、もちろん訓練では使っているけど……。
とはいえ、海の魔物でどんなのが出てくるかわからない以上、こちらが用意できる最高の船を用意する必要があるのは当然だ。
シーサイフォ王国が魔物なんぞに落とされることになったら、それこそ新大陸は大混乱だからな。
そんなことを考えていると、ルナは口を出してくる。
「いや、生き残って無事退役したのもいるでしょうに」
「そんな幸運艦には見えん。というより、維持費だけでも大変なのに、艦載機は飛竜で補っている状況だからな。この状況では空母はただの海上要塞としての機能しかない。地球と同じような文明国が相手となると落ちる可能性は高い」
迎撃のための武装がないから。
いや厳密には弾薬がない。
近接防御火器システム、通称CIWSとか、馬鹿みたいに弾薬を食う。
そして、対空迎撃ミサイル、短距離SAMは一発一発が超高価。
ここまではとても用意できなかった。
むろん、現代戦闘機も先ほど言ったように飛竜で代用だ。
悲しい限りの張子の虎って感じだな。
で、口は災いの元とはよく言うもので……。
「よーし。わかったわ。私がその艦載機とかもろもろご褒美として上げようじゃない!! 私の懐の大きさに感涙するといいわ!!」
「「「はぁ!?」」」
あまりに唐突な発言に俺たちは驚きの声を上げる以上の反応できずにいる隙に……。
「船はダンジョンの海のほうに置くわよ。はい、置いた!! ちゃんと中を確認した後、アイテムボックスにでも回収しなさい!!」
「ちょっ!? おまっ!?」
俺が文句を言おうとした瞬間……。
『緊急警報、緊急警報、ダンジョンリゾート区の海にて、巨大艦船が突如出現!! これは訓練ではない!! 総員直ちに配置につけ!! 巨大艦船の出現により、漁港で巨大艦船出現時に発生した高波による被害が出ています!! 至急、救助部隊は……』
「くぉらぁぁぁぁあ!?」
「あらー。波は考えてなかったわー」
……この女神本当にどうにかしてくれ。
前門の魔物、後門の銃。そして、上空の駄目神。
戦力が一気に増えたのに全然喜べないっていうのはすごいよなー。
でも、いくら強い武器を持っていても油断すればおわり。
チートだから大丈夫なんて思えるのはなかなか頭がお花畑だよな。
とはいえ、ひとまずは出現した空母の被害処理と、物資確認という超ド級のキツイ仕事が待っている。
納品確認とか地獄よほんと。




