第803堀:海で遊ぼう?
海で遊ぼう?
Side:エノラ
ザッパーン!!
そんな感じで、荒波が防波堤に打ち寄せる。
私は今、なぜかウィードでの海水浴の季節が終わり、すっかり静まり返っている海岸に来ている。
水着で。
「……ユキ殿がせっかく海に水着で来てくれっていってたのに、なんでカグラたちがいるのよ」
「いや、それは私のセリフだし。その水着、この前ユキと海水浴に行った時のとはまた別物よね? わざわざ買ったわけ?」
「べ、別にそういうわけじゃないわよ。たまたま、気に入ったのがあって買ってあったから、今日着てみただけよ。というか、カグラもこの間と別の水着じゃない」
「私もたまたまよ。でも、そんな露出の多いビキニで? 普通のビキニより、ずいぶん小さいわよ? なに変態なわけ?」
「あら? カグラの貧相なスタイルじゃこの水着は着れないからって嫉妬かしら?」
「それぐらい着れるわよ!! というか、スタイルは私の方が胸大きいし!!」
「はぁ? それってデブって意味でしょう!」
「エノラこそ、メリハリのない貧相なスタイルでしょうに!」
「「ああ!?」」
そんな感じでカグラと一触即発の状態でにらみ合っていると……。
「なに、盛っておるか。ふむ。カグラは清楚で、エノラが攻めといった感じかのう」
そんなことを言いながら、デリーユさんがこちらにやってくる。
その横に一緒にいる、ミコスとソロはなんというか、悲しそうな表情をしている。
まあ、その気持ちはわかる。
ミコスとソロはどう見ても、無難な水着。ワンピースタイプ。
とはいえ、ミコスは私やカグラよりも立派な胸があるから、目を奪われるスタイルだ。
ソロもソロで、あそこまでぺったんこだと、可愛らしく見える。
だが、だが、その前を歩いているデリーユさんは、競泳水着という運動用の水着を着ているのにも関わらず、物凄く色っぽかった。
同じ女として、完全に負けていると認めざるを得ない圧倒的な差。
「ま、どのみちそんなことを気にしている暇もなくなるじゃろう」
「あのー。そういえばなんでユキ先生は、ミコスちゃんたちに海に集合なんていったんですか?」
気が付けば、私が絶望している間に、ミコスがここに集まった理由を聞いていた。
「ん? キャリー姫から聞いておらぬのか? お主らは妾たちというか、ウィードから派遣する予定のシーサイフォ派遣軍に同行する予定じゃろう?」
「それは聞いていますが、なんでそれで水着に着替える必要が?」
「それはもちろん、おぬしたちの水上、水中訓練に決まっておる。まあ、あくまでも立場は外交官ではあるが、流石に未知の魔物が多い場所。何かトラブルがあれば、妾たちが助けられるとも限らないからのう。ユキにしっかり鍛えてくれと頼まれて、ここにおる」
なるほど。ユキ殿から個人的に呼び出されたわけじゃなかったのね。って、何をそんなに残念がっているのよ。
と、デリーユさんからの話を聞いてる間にも、さらにまた誰かが、コテージの方からやってくる。
「おや、カグラ殿、エノラ司祭様、お早いですね」
そう言いながら現れたのは、こっちもこっちで、すごいボディを持っているスタシア殿下。
なぜか、チューブトップタイプなのに、色気がすごい。
あの鎧の下はこれだけ均衡のとれた体だったのね。
思った以上に女性らしい。
額から鼻に斜めに入る傷があるが、それでもスタシア殿下は美人だ。
「「……」」
「ん? 二人とも、何か元気がないようですが、ミコス殿、ソロ殿、一体何があったのでしょうか?」
「あー、いや、何もなかったというか……」
「あはは……」
放っておいてくださいと言う気力すらもない。
仕事の集まりなのに、てっきり遊びと思っていたとか、恥さらしもいいところだ。
でも、結構ユキたちの集まりって遊びってことが多いのよね。
……実際半数ぐらいは遊びなのよね。
楽しいからいいんだけど、こうして勘違いもしてしまう。
って、違う違う。私の気が緩んでいるだけで、ユキ殿たちは全然仕事と遊びのメリハリは付けている。
相手に責任転嫁とか最低じゃない。
ハイレ教の信者として、というか、司祭としてあるまじき行為だわ。
と、己を恥じていると、またコテージのほうから声が聞こえてきて……。
あ、ちなみにコテージ内に転移ゲートがあるので、皆そこから出入りしている。
で、現れたのは……。
「ひゃっほー。海だーって、ナニコレ? 荒波じゃない!? これでどう遊べっていうのよ!!」
「いやいや。ハイレン、ユキの話を聞いてなかったのかい? 今日は、訓練だって言っていたじゃないか」
「そうだっけ? でも、海って遊ぶところよね?」
「……」
ハイレン様となぜかエージル将軍が一緒にいて……。
……あ、まずい。頭が痛くなってきた。
と、頭を抱えていると、さらに人がやってきて……。
ズパン!!
そんないい音を立てて、ハイレン様の頭をハリセンで叩いくエノル様がいた。
「お前は本当に何も聞いておらんな!! 今回はシーサイフォの魔物に対応するための訓練じゃと聞いておろうが!!」
「いったー!? いったーーー!? エノルのばかー!!」
エノル様は、お歳のわりには、というか死者の割には軽快に動けるのよね。
って、そこが問題じゃない。
「エノル様、ハイレン様。これは一体……」
「ん? おお、エノラたちか、わしらも同じようにシーサイフォに向かう可能性があるからのう。そのための訓練じゃよ」
「ちょっとー!? 私はハリセンで思いっきり叩いておいて、エノラたちには何もしないの? 絶対遊ぶ気満々の格好じゃない!!」
「「「……」」」
ハイレン様にそう指摘されて、何も言えない。
すみません、エノル様。遊ぶつもりでした……。
「あほ。若者たちが浮かれていて何が悪い」
「えー。それなら私だって若いよー」
「やかましい! 少なくとも、エノラ達よりは上じゃ、もうちょっと慎みを持て」
「二人とも仲がいいのはいいけど、これから訓練だからね」
「あ、あの、エージル将軍、デリーユさん、先ほどから訓練といっていますが、私たちには海に来いというだけで、詳細の連絡が来ていないのは通達ミスでしょうか?」
カグラが恐る恐る、事情を知っていそうな二人に話を聞いてみる。
こういうところは流石って感じよね。
度胸がある。下手したら怒鳴られるかもしれないのに。
「ん? ユキが伝え忘れ? どうだろう、デリーユは何か知っているかい?」
「特に何も聞いておらんな。てっきり聞いておって、そんな格好をしていると思ったぞ」
「いや、流石に訓練だと判っていればこんな格好しませんよ」
「ふむ。となると、わざとか。まあ、天候が調整できる海が荒れているのも珍しいからな。おそらくわざとじゃろう」
「ああ、なるほど。そうして、私たちを鍛えようというわけですね。となると、一度海に入ってみる必要がありますね」
なぜかスタシア殿下は素直に現状に納得し、荒れている海へと歩いていく。
「ちょ、ちょっとスタシア殿下危険ですよ!」
そのためらいのなさに、慌てて私が声を掛けながら走り寄ろうとすると、いきなり海面が盛り上がって、いや、海から何かが出てきて、スタシア殿下に襲い掛かる!
「スタシア殿下!?」
「お。さっそく来ましたか」
スタシア殿下はそう言うなり、すぐに指輪のアイテムボックスから剣を取り出し、すっと構えたかと思うと、そのままその何かを切り払う。
私の目には一瞬すぎてわからなかったけど、切り落とされたそれが私の目の前に降ってきたので正体を確認する。
ドズンッ。
「きゃっ!?」
「エノラ大丈夫?」
「え、ええ」
「おっと、すみませんでした。しかし、この足は……」
そう言う私たちの目の前に落ちている物は……。
「タコの足じゃん。しかも特大。持って帰らない? これって美味しいんだよね」
「ミコス先輩。今は一応訓練中ですけど……」
「持って帰ってよいぞ。まあ、この訓練が終わればじゃがな」
「それって、どういう意味? 訓練って意味が……って、うわわぁぁぁ!?」
そう言いかけた、ハイレン様がタコの足に捕まって空中に持ち上げられる。
「「「ハイレン様!?」」」
まさかハイレン様が襲われるとは思っていなかったのか、スタシア殿下も慌てて叫ぶが……。
「ふむ。こう来たか。というか、エノルは慌てておらんのう」
「ユキ殿が裏におるのはわかっているからな。特に心配はしとらん。というか、もっと灸をすえて欲しいくらいじゃ」
「まあ、そういうのはいいけど。とりあえず、僕たちは目の前のタコの魔物をどうにかしないと、訓練がいつまでも終わらないんじゃないかな?」
後ろにいる、エノル様たちはなんかのんきな雰囲気で、少しも慌てた様子はない。
まあ、ユキ殿がいるから心配はいらないってのは同意だけど、あの人の場合は訓練には遠慮や容赦がないから、命の危険や大けがの心配はないけど、ひどい目に合うっていうのは、カグラたちから聞いている。
地獄の特訓ってやつ。
確か、レベルとしては、ルナ様にお願いされて体験してしまったお化け屋敷のレベルらしい。
だから、目の前でハイレン様がつかまっているのを見て安心してはいられない。
「あの、デリーユさん。なんとかしてくれませんか?」
なので、一応この場での最高戦力である、魔王デリーユさんに助けを求めてみると……。
「ん? いや、妾は監督官だからのう。いざということがあれば助けるが、今のところ助ける必要もなかろう。助けを求めるなら、隣のエノルかエージルじゃな」
あ、そっか。デリーユさんは監督か。
確かに、私たちを助けちゃったら、訓練の意味がないわよね。
「じゃ、エノル様は」
「わしも無理じゃ。年寄りらしくさせてくれ」
「ですよねー。となると、お願いします。エージル将軍なんとか助けて下さい」
残るはエージル将軍だけになったので、切実に頼むと……。
「はぁ。まあ、この中じゃ、私が一番未熟者か。そして、雷の魔剣は使えないか……。難易度が高いねー」
そんなことをぼやきながら、ただの剣を手に。
「カグラたち!! 相手はデリーユじゃないんだ! ちゃんと動けば勝てる!」
「「「はい!!」」」
そう励まされて、私もその通りだと思いしっかり返事をする。
「おい、またんか。人を化け物みたいに言うでないわ」
後ろでデリーユさんが何かを言っているがそれは無視して、私たちはタコの腕に対して攻撃を始める。
だって……。
「話してないで、早くたすけてよー!? ぬるぬるするー!? いやぁぁー!?」
目の前で、私たちの女神様がつかまってひどい目にあっているから!!
「カグラ電撃は禁止! ハイレン様まで感電する! 炎メインでけん制!」
「はいっ!!」
「スタシア殿下、タコの足を切り落として、救出をお願いします。それができる腕があるのは、殿下だけです」
「任せてください」
「あとは、二人の援護だ、タコの足は一本だけじゃないからね!! 邪魔をさせるな!!」
「「「はい!!」」」
流石、エージル将軍。
判断と指示に迷いがない。
おかげで安心して、指示に従える!
こうして、私たちの壮絶な海での戦いが始まるのだった……。
海は危険がいっぱいなんだよ!!
本当なんだよ!!
みんなも大きいタコに襲われたことがあるだろう?




