第82掘:神の使い
神の使い
side:シェーラ・クオ・ガルツ ガルツ第7王女
「姫様。よいのですか? この様な事はどう見ても人質かただの慰み者としての扱いです」
私の侍女、キルエがそうやって私を思ってそう言ってくれます。
「良いも悪いもありません。これに相応のお返しをせねば国としての面目が保てないのです」
そう、これは国の威信を保つために必要な事。
例え、ロシュールが内部を魔族に付け込まれたとはいえ、真っ先に頭をさげ、賠償を支払ってきました。
これに頑なに拒否しては、諸外国から理解なしの無能と言われ、お返しをせずに受け取るだけでは、相手の弱みに付け込むしか能がないとみられる。
大国ゆえの弱い所だ。
だが、賠償金に対して、お金で返しては賠償金の意味がない。
だから、ロシュールに相応の謝辞と取れるお返しが必要なのだ。
だが、魔王が活発に動いている今、賠償金に値する武器や防具などを渡すわけにはいかない。
ならば人、しかしいい人材を手放すわけにもいかない。
なら、役に立たない人物を送ればいい。
それが私、第7王女という、もはやお飾りなだけの私を送るのが丁度いいというわけだ。
いなくなっても構わない、それが私だ。
モノのついでに、今回の賠償金をどこから捻出したのかも調べろとお兄様に言われた。
私が万が一亡くなってもそれを理由に調べられると。
第2王女のお姉さまは反対して、自らが嫁ぐと言ってくれたが、流石に無理で私が結局いく事になった。
第2王女のお姉さまは軍の士気の元ともいうお方。
軍部は第3王子のお兄様が握っていますが、お姉さまは武勇の誉高く、オーガテンペストの一撃を防ぎきるという堅牢な防御をもっています。
お姉さまはガルツの象徴ともいうべき、伝承の盾を扱える方。
そう簡単に、ロシュールへ渡してよい人材ではないのです。
「しかし…!!」
「大丈夫。お姉さまがしっかり言い含めているから。私を使い捨てにするような真似は出来ないはずよ」
「……ローエル様ですか」
「ええ、ガルツの祖がもたらしたあの盾を使えるお姉さまの機嫌をそこねるのが、どれだけ国の痛手になるかわかるでしょう?」
「第4王子が小細工しないとは言えません」
「まあね、でもいくら軍部の参謀とはいえ、無茶しないでしょう」
第4王子のお兄様はどうも腕っぷしより、頭を使うタイプのようで、参謀としてはかなり凄いが、どうも正道を間違えそうな気はする。
「キルエの心配はわかるわ。でも、お兄様もお姉様も全員が国の為にと動いてるのよ。暗殺なんてなかったんだから。お家騒動は無いのは知ってるでしょう?」
「ええ、知っています。ですからこそ、今回のロシュールへの姫様をお返しで渡すというのが…!!」
「これも国の為。皆、無茶はするなと言ってくれたでしょう? 大丈夫、別に戦争の火種を作りに行くわけではないのだから」
私がそう言い切ると、キルエは肩を落とす。
「……わかってはいます。ですが、姫様…シェーラ様はこんなに聡明でいらっしゃる。それを……」
「仕方ないわ。どう見ても私は小さい子供だもの。お兄様、お姉様もそれは知ってはいるけど、私を立てると、他が成り立たないのよ」
そうやって、宛がわれた部屋にある鏡をのぞき込む。
そこには銀髪をした兎耳の小さな少女がいるだけだ。
140cmはぎりぎりあるだろうか、いや、この年頃では大きい方だ。
胸もしっかりつかめる程大きいし、腰もくびれて、ちゃんと男性を欲情させる事は出来るだろう。
「しかし、なぜロシュール王は未だ姫様のお相手を紹介してくれないのでしょうか? 私達を軽んじているのではないでしょうね?」
キルエは現在いるロシュール王都で半ば放置されている状況に憤慨しているようです。
「落ち着きなさい。ロシュールは私達の扱いに悩んでいるのです」
「なぜです? ガルツの姫、シェーラ様に何か不満でもあるのでしょうか?」
「違います。その前にお兄様に間者として内情を探れと言われているでしょう?」
「ああ、相手もそのことに気が付いているのですね」
「そうです。さらにロシュールの王族は今の所女性ばかり。分家の公爵は数多ありますが、下手にそこに加えるわけにもいきません」
「釣り合わないし、下手に内情を探られると?」
「ええ、多分なんとか、私に見合い、探られても痛くない相手を探しているのでしょう」
私としては、正直身分が下の相手の方が動きやすいのですが、そう簡単にはいかないようですね。
そして、そのまま数日過ごしていると、私達の相手を紹介するといって王都から私達をつれて、王自らその場所に出向いたのです。
ロシュール王が自ら足を延ばす相手?
いえ、これは私達を納得させるための演技?
しかし、その為だけに王都を離れるなんて……。
「これでもう10日は移動しています。何を考えているのでしょうか? ここまで離れればもう田舎もいい所でしょうに。……まさか、幽閉するつもりでは!?」
「それはないわ。私はあくまでもお返しの王族であって人質ではないの。幽閉なんてすれば、私が連絡が付かない事がすぐバレて、下手すれば同盟は破棄、戦争よ」
「ですが、なんでこんな遠い所に……」
「さあ、そこは分からないわ。でも、問題があれば私が拒否すればいいのよ」
そう、只の厄介払いで地方の領主に嫁がせるような雑な対応であれば、私が一声あげればどうにでもなるだろう。
私を子供と侮っているのか、それともそこまで考えていない王なのか……。
「さあ、シェーラ様お待たせいたしました。お傍様も窮屈で申し訳ありませんでした」
そんな事を考えていると、私達の対応を王都からしていた者がしてくる。
どうやらついたようだ。
「何ですかここは!! ただの村ではありませんか!! 何を考えているのですか!?」
キルエがそう怒鳴って憤慨しています。
しかし、どう見てもただの村です。
見た感じ、新しく建てた物の様ですが……ちょっと、これはいくらなんでも……。
ドゴォォオオン!!
少し遠くで何かがぶつかった音が響きます。
とっさにキルエが私を守るように傍で構えます。
「まさか、私達を亡き者にしようとしているのではないでしょうね!!」
そういって、ナイフを腰から抜いて構えます。
私もそれなりに戦えますが、キルエは群を抜いています。
レベルはなんと45、普通ならば一軍を預かってもおかしくない技量です。
私達を亡き者にするなら、少しこの周りの者では不可能でしょう。
「ちょ、ちょっとまってください。今のは違います。あれは、王とご息女の戯れです」
「「は?」」
そうやって驚いていると、ロシュール王が一人の綺麗な女性を連れてやってくる。
「おー、おー、また腕を上げた様じゃな。しかし、これほどとはな。で、外に迎えだと? ここがダンジョンの街ではないのか?」
「…はぁ、まあとりあえずついてきてください。ここで、色々話すのは不適切すぎます。夫も会議場所につくころには、こちらに来られますから」
そういって彼女はダンジョンの入口を思しき場所へ歩いていき、入口の警備と何やら話をしています。
「ご息女と言いましたね? アーリア様でないとすると、あの方が……」
「はい、我らが戦女神。セラリア様です」
「……ということはここは、今は亡きエルジュ様が治めたというダンジョンということでしょうか?」
「はい、シェーラ様の仰る通りでございます。私も仔細は知らないのですが、セラリア様はどうやら、この度の争乱で活躍した者とご婚約をされたようです」
「……なるほど、それが私のお相手というわけですか」
私達はそのあと、王や王女、大臣達とは少し離れて、ダンジョンを見て回っていきました。
……なんという、なんという事でしょう。
何もかもが違いすぎる。
違いすぎて、言葉が出てこない。
報告すべきは、賠償金の出どころや理由ではない、このダンジョンだ。
「……ロシュール王には感謝しないといけませんね」
「……はい」
キルエは茫然と頷くだけでまだしっかり意識が戻ってないようだ。
今私達は一室を宛がわれて、そこで一旦落ち着いているがこの部屋にしても根本的な技術力が違う。
魔術か何かわからないけど、簡単に水はでるし、お湯も出せて、お風呂に入り放題。
もう夜だというのに、電気? という魔術でボタンを押すだけでしっかり光が灯る。
この技術を何とかガルツへ持ち帰れれば、とてつもない利益、そして民の暮らしも絶対に良くなる。
しかし、ロシュール王はなぜこのような宝の中に私達を連れてきたのでしょうか?
セラリア様は今回の無茶な婚約で王位継承権を破棄。
このダンジョンへその旦那様を追って来たということです。
でも、このダンジョンの利益は結局ロシュールへと戻るのです。
なぜ私を妾として宛がって、利権を分けるようなことをするのでしょうか?
ロシュール国としてはそれはとんでもない損害となるはずです。
「……今考えても何も答えは出ませんね。明日私の夫となる人に会うのです。その時に色々話を聞いてみましょう」
「…様……シェーラ様!!」
「あ、キルエ。ちゃんと元に戻ったのね。どうしたの?」
「あ、あ、アレ!!」
キルエが指さす先には……
「貴女がユキさんに嫁ぎにきた第7王女ですね?」
淡い光と共に、とても綺麗な女性が舞い降りてきました。
「はい。私が第7王女のシェーラです。貴方様は……」
なぜか目の前の女性は私よりもとても高貴な気がしてなりません。
「あら、申し遅れました。私、リリーシュといいます」
「「っつ!?」」
私達は神を語るその女性に不遜だと罵声を浴びせることはできませんでした。
彼女が言っている事は事実だということがなんとなくわかってしまったのです。
「そ、そのリリーシュ様がなぜ私の前に?」
「ええちょっと、ユキさんのお手伝いをしようと思いまして」
「ユキ? 先ほどから言っていますが……」
「ええ、貴女の旦那となる方です」
「そのユキさんにリリーシュ様はお手伝いをすると? 私に会うことがユキさんの手伝いになるのですか?」
「そうです。きっとあの人はこの大陸を救うでしょう。ですが、彼一人ではとても困難です。ですから、貴女に私の加護を授けましょう。貴女も大陸を救うその支えとなるのです」
「私が大陸を救うその支えに?」
「……それは貴女次第です」
彼女はそう言うと、姿が消え、私達を淡い光が包み込みます。
それが終わると、ステータスが勝手に開き……そこにリリーシュの加護が加わっていました。
「……本物…だったのですか?」
「…そのようですね。これは私が嫁ぐ相手は神の使いという事でしょう」
「神の…!?」
これは予想外の出来事ばかりですね。
大陸を救うと神が信じた男、そしてそれを支えろと私とキルエだけにリリーシュ様が加護をくださった。
リテアの聖女よりも、さらに格上の加護。
リリーシュ様という神の名を刻んだ加護。
明日が楽しみなってきました。
神が認めた、私の旦那様。
あら、しかし、どうしたものかしら。
ガルツに連絡をとって大々的に支援したいのですが、旦那様の方針を聞かないと。
side:ルルア
「ただいまー」
リリーシュ様が戻ってきました。
今私達は大慌てです。
ユキさんの、旦那様の子供が安全に産めるようにリリーシュ様の名を付けた加護をいただき、嬉しいのですが、私としては大問題です!!
それをわかっている、旦那様も、セラリア様も、ラッツさん達も頭を抱えています。
「よし、リリーシュ第7王女にも加護を与えてきたわね」
「バッチリです。私の加護は安産、自動回復、逆子無し、ステータス全般上昇、簡易回復魔術の無詠唱と便利ですよ~」
そうルナ…様。
リリーシュ様よりも上の神様の指示の元、私達だけでなく、ガルツの第7王女まで加護を与えてきたのです。
「「よし」じゃねーよ!! 今回の争乱、エルジュの聖女を利用されたんだぞ!! それをリテアが傾く様な、リリーシュの加護、他国の人間に与えまくるんじゃねーよ!!」
そうなのです。
これでは大真面目にリテアの面目が保てません。
まだ、ユキさんの下に集っている皆であるなら、何にも問題は…いえ、問題はあります。
スキル看破の技能、ラビリスの様な人間がいて騒がれるだけでも問題なのです。
「えー、ほら、そこのルルアだっけ? あれリテアの聖女なんでしょう? じゃ問題ないじゃん?」
「んなわけあるか!! そんな簡単に済むなら戦争なんて起こるか!?」
「そこら辺はそっちの問題でしょ? そっちで何とかしてよ」
「ならこっちの判断を仰いでしろよ!!」
「別にいいじゃない、子供が無事に産めるようになるオマケつきよ? ねえ、アスリン、フィーリア」
そうルナ様がお風呂上りのアスリン達にいいます。
その二人は、勿論旦那様の事が大好きなので……
「お兄ちゃんの子供産みます!! すぐ産みます!!」
「兄様!! これで何も心配はいりません!! 神様の加護で無事に産めるんです!!」
もう二人は大興奮状態。
これは否定しにくい…。
本当に旦那様が嫌がるわけです。
厄介すぎます。
「お前のその妙な軽いノリはなんとかならんのか!!」
「だってさ、そっちの故郷じゃ今時「私神です」なんて言われても頭の中疑われるだけよ?」
「そりゃそうだろうよ。俺の時は勧誘だったしな!!」
「まあまあ、ユキさん。私も今後はお手伝いしますし。問題ありませんってば」
「ほら、リリーシュが手伝うって。神様直々よ嬉しいでしょう?」
「こ、この駄目神がぁぁあぁああ!!」
旦那様がそう叫んでいる横で私は放心しそうです。
「あ、あはは……リリーシュ様が今後一緒にお手伝い…。ほ、本国に、アルシュテール様になんといえばいいのか……」
「…ルルア落ち着いてください。心中お察ししますが、まずは、加護を与えた第7王女をなんとしてもこちらの陣営、もとい、お兄さんの妻になってもらわないと」
尚、この報告をコールで後日した際、アルシュテール様は執務室でひっくり返ったそうです。
……当然ですよね。
駄目神ですよ。
どうみてもw




