第802堀:対策会議
対策会議
Side:ユキ
「……ということで、ウィードはシーサイフォ王国の支援に向かうことになりました」
俺は、レイク将軍たちがウィードから帰ったあと、自宅の一室でそう報告をする。
報告している相手は……。
「なるほど。意外というべきかと思ったが、聞いてみれば当然の話だな」
「ええ。そうですね」
「でも、水中に潜む魔物相手に、水上から戦うってきつくないですか? というか、シーサイフォ王国の人たちは今までどうやって戦ってたんですか?」
もちろん、タイゾウさんたちだ。
とりあえず、レイク将軍たちと話して今後の方針は決まったが、未だに戦うためのノウハウはないのだ。
このようなことを相談するには、同じ故郷の人たちに限るだろう。
海のノウハウはないにしても、タイキ君でも知っていることはあるし、年の功のソウタさん、そして、第二次世界大戦を生きていたタイゾウさんがいるのだから、これ以上ないぐらいのメンバーがあつまっている。
俺たち程度の知識でと思う地球の人々も沢山いるだろうが、これにはちゃんとした理由がある。それは……。
「タイキ君。聞いて驚け。水の上から魔術銃で銃撃、あるいは弓矢で射る、あとは甲板に飛び込んできたのを袋叩きするぐらいしか、今のところ方法がないらしい。あ、銛もあるみたいだぞ」
喜ぶといい。この全く参考にならない戦い方。
あのシーラちゃんを半分にしたサイズ相手に、効果の低い魔術銃に弓矢、果ては銛ときたもんだ。
ただの自殺志願者としか思えない。
というか、よく今までシーサイフォ王国の連中が生き残ってたなと思ってしまうぐらいだ。
この世界の海上戦法はぜんぜん当てにならない。
俺たちのガバガバな知識の方がまだ当てになるかもという最悪の事実。
「うわぁ……」
「それはまた原始的ですね」
「といっても、俺たちの知ってる水中戦にしたって、魚雷とか爆雷でも撃ち込むつもりですか?」
「まあ、大型の魔物には有効そうですが、割りに合わない気がしますね」
「はい。割に合いませんね」
俺は当然のように否定することなく、即座に頷く。
5メートル級の魚一匹一匹に魚雷を一発ずつ撃ってたら資金、DPがあっという間に尽きる自信がある。
「ユキ君が私たちに相談してきた理由も納得だな。私たちになにか妙案がないかを聞きたいんだな?」
「はい。ということで、何かこの現状を打破する方法は浮かびませんかね?」
そう。4人も集まっていれば何か一つくらいはましな方法が生まれるのではと期待しているのだ。
今のままでは、安全に魔物退治をできないことはないが、お金がものすごく飛ぶ。
というか尽きる方が先に来るから、ナンセンスだ。
「ふむ。まずこれは駄目だとわかっていても一応挙げておこう。魔物の徹底的な駆除だ。シーサイフォ王国が行っている直接的な監視と排除が一番わかりやすいな。駆除できる数には限りがある。それでも、運が良ければ、シーサイフォ王国一帯の海域は危険だと、魔物たちが認識してくれる可能性はあるだろう」
「とはいえ、広大な海で出合う都度に魔物を駆除したところで、氷山の一角がせいぜいでしょうな」
タイゾウさんの言うように、海上警備と魔物退治が一番わかりやすくて、一般の人には安心できる方法ではある。
実際死体があるんだからな。
だけど、ソウタさんの言うように、根本的な解決にはならないし、基本的にきりがない。
まあ、実際に魔物たちがシーサイフォを危険な海域だと認識してくれる可能性もあるにはあるが、それは高望みしすぎだろうな。
「ですよねー。じゃあ、何か根本的な解決がいるわけだけど、そっちにかかりきりってわけにもいかないか」
「タイキ君の言う通りだな。根本的な解決を図っている間に魔物の出没地域がさらに広がれば、おそらくシーサイフォ王国は経済破綻することになる。それまでに何とかしなくてはいけない」
タイゾウさんの言う通り、主要産業が無くなってしまえば経済破綻する。その結果内乱というコンボにつながる可能性も高い。
そういうのは、本当に勘弁だ。
周辺国の安定のためにも、今回の要請は受けて実績をあげないといけない。
だが、問題の魔物を押しとどめるにしろ、退治するにしろ、結界を張るにしても、誰かが原因を調べて、シーサイフォ王国の海域の安全を維持する必要があるわけだ。
「一応、そのためにドレッサを責任者とする援軍の派遣は認めてはもらったんですけどね」
「え? ドレッサをですか? いや、さすがにそれは。いくら元王女様だからって……」
と、とっさにタイキ君は難色を示してきた。
まあ、ドレッサは元お姫様とはいえ、今は一介のウィード国民だ。
いや、俺たちのことをいろいろ手伝ってくれてはいるから、一介のウィード国民に比べれば色々能力がある。
だが、流石に他国に責任者として派遣するというのは無理があるのはよくわかる。
しかしながら、意外と、タイゾウさんやソウタさんは、特に否定することなく……。
「いや、案外いい手かもしれないぞタイキ君」
「え?」
「そうですね。ドレッサさんが未熟というのはシーサイフォ王国だって百も承知でしょう。実際レイク将軍は若者を育てるためと言ったんですよね?」
「はい。そう言いました。お互い若者が育つ場所が欲しいと」
「ということは、そういう方向で認める。あるいは動いてくれるということだな」
「そうですね」
「え? どういう意味ですか? ドレッサを鍛えるって話ですよね?」
どうやら、タイキ君だけついていけてないようなので、いったん説明を入れることにする。
「ドレッサを鍛えるって目的は間違いないけど、それはシーサイフォ王国にウィードの常駐軍を置くことにもなるんだよ」
「でも、常備軍っていっても、ドレッサが責任者じゃ色々まずいんじゃないですか?」
「そこだよタイキ君。若者の訓練とわかっていて上官がいないわけないじゃないか」
「あ」
タイゾウさんにそう言われて、タイキ君もその理論に気が付く。
そう、若者の訓練で上官がいないわけがない。
訓練の指導という名目で、いつでもウィードのメンバーを送り込めるわけだ。
実質、シーサイフォへの出入り自由の権限を得たわけだ。
「つまり、俺たちは、じゃなくて、ウィードはシーサイフォに拠点を得たってことですか? 報酬として」
惜しい。
確かに、シーサイフォ王国への出入り自由が認められたとなると、拠点を手に入れたも同然だ。
しかし、それだけじゃない。
が、その勘違いを俺が指摘する前に、ソウタさんが後を引き継いで説明を始めてくれる。
「ちょっと違うけど、それに近いですね。ウィードへの報酬云々というのは、実際働いて見せないと、国としては支払いをしたくない。これはわかりますか、タイキ君?」
「はい。わかります。ウィードがいくら有名といっても、それはロガリ大陸、イフ大陸だけの話であって、新大陸ではそこまで名前は広がっていませんから、そもそも信用がないんですよね?」
「そうです。知らない国に下手に手伝われて、これといった成果があがらなかったのに、報酬を支払うわけにはいきません。というか、国としては絶対事前には支払いたくはないでしょう?」
「それはわかりますけど、流石にそれはないでしょう……」
「といいたいですが、今のところ新大陸では無名に近いウィードではその心配をしなくてはいけない。信用が低いですからね。そこで、若者の訓練と称してシーサイフォ王国に常駐軍を置き、ウィードの力を示してやるんです。そうすることで、シーサイフォ王国内で影響力を増すことが出来るんですよ。それが報酬につながるというわけです。レイク将軍はそのやり方を認めてくれたというわけですね」
ウィードの戦力を知っていながら、自国にその常駐軍を許可するような話をするということは、この事実を使って対価を得ろということだ。
ま、シーサイフォ王国のトップが万一俺たちの実力を知っていたら、常駐軍なんて絶対に認めないだろうけどな。
だが、俺たちのことを知るよしもないから、そんなことは言わないだろうという、レイク将軍の判断があるんだろう。
「なるほど。そういうことですか。でも、いいんですかね? それってレイク将軍の立場がまずくなりません?」
「それをタイキ君が言うかい? タイキ君は国民のために、勇者という立場を捨て去って亡国の徒という汚名を着せられても、ランクスを落としたんだろう?」
「……あー、そういうことですか」
タイゾウさんの説明に納得するタイキ君。
俺もタイゾウさんの意見に半分納得だ。
「ま、そういう気高い誇りっていうのもあるだろうが、このまま手をこまねいていれば、シーサイフォ王国は倒れることになるとわかったんだろうさ。だからこそ、無理を通した。ウィードを連れてくるために、俺の無茶な提案を飲んだわけだ」
あなたの国で軍と指導者の訓練させたいんだけどいいかい?ってバカな提案をな。
そして、さらなる報酬の要求も予想してだ。
俺たちがシーサイフォに行くことで起こる問題も予想していないわけもないだろうからな。
「無理って言っても、現状、ウィードを連れてくる意味を正しく把握しているのって、レイク将軍だけでしょう?」
「ありがたい話だよな。だからこんな無茶な話を通せるんだよな。いやー、名が売れてなくてよかったな」
「最近は、ウィードの名前を聞けば、ロガリ大陸もイフ大陸も警戒するからな」
「当然の反応ですけどね」
「そりゃそうでしょう。今までどれだけ巻き上げてきたか」
「いやいや、正当な報酬だよ」
「あ、いや。わかってますけど。ノリとして」
そんな冗談を言って笑うが、実際タイゾウさんの言うように、ロガリ大陸やイフ大陸の連中相手には、うっかり露骨なことが出来なくなってきたのは事実だ。
こちらの価値を正しく把握して、俺たちの動きを知っているから、正しい付き合い方というのはわかっているのだ。
とはいえ、タイキ君の言う通り、今まで散々巻き上げてきたからこそ、警戒しているんだけどな。
その経験がないシーサイフォを相手に巻き上げてやるよ!!
払えなくならない程度にぎりぎりの感覚でな!
「で、報酬として狙うのは海ですか?」
「それは欲しいな。でもいま一番欲しいのは、あの魔術銃の開発者の情報だな」
そう。もともとシーサイフォ王国と話し合おうと思ったのは、銃モドキの兵器の存在だ。
ウィードの海を見せた時に要求をしてみたが、明確な返事を避けたことからも、その銃もどきの開発者はかなり重要度が高いとシーサイフォの上層部は思っているわけだ。
つまり、あの銃以外にも何かがある可能性が高いということ。
その秘密に近づくためには、長期的にシーサイフォにいる必要があるというわけだ。
まあ、霧華たちに誘拐させるって手もあるが、今はまだその段階じゃない。
それに伴う他の問題が大きすぎるからな。
「ああ、なるほど。ユキ君がシーサイフォ王国を重要視していたのはそこだったな」
「そういえばそうでしたね。色々話が大きくなっていて、すっかり忘れていましたよ。あ、忘れていたで思い出しましたけど、今回の話は水中の魔物に対処するいい案でしたっけ?」
「そうそう。シーサイフォ王国に対して恩を売る方法だな」
「ふむ。ドレッサ君たちの訓練兵というのは今後のシーサイフォでの利権のためには必要ではあるから、やはり明確な討伐の成果は必要だろうな。それとは別に、原因を探る別動隊がいると思うんだが」
「そうですね。現状を考えると、それが一番ですかね」
そんな感じで話は進んでいき、見せ餌というか、シーサイフォ絶対防衛ラインを守る部隊と、原因を探る部隊で編成を分けるというのがベストだということになった。
あとは、どう編成を分けるかだよなー。
因みに、使用艦はタイゾウさんのおすすめで決まった。
これはまあ、言うまでもないよなー。
話の流れで「シーサイフォ王国を無償で助けよう」という風に思ってしまっている人もいるかもしれませんが、本来の目的は新大陸の安定、そして魔物のが活動範囲を広げている理由が魔力枯渇減少に関わっているかもしれないのです。
つまり、人助けではなく、自分の目標のためにユキたちは動いている。
そして銃の開発者は一体だれなのか?
シーサイフォ王国を警戒して原因を掴めるのか?




