第798堀:欲しいのは知識
欲しいのは知識
Side:ミリー
「では、正式なシーサイフォ王国からウィードへの要請として、海洋問題について手を貸してほしいということでよろしいですか?」
「ええ。ですが、問題点が1つ」
「なんでしょうか?」
そう言って、ちゃんとした執務室でユキさんとレイク将軍が、シーサイフォ王国の要請を受理することで話が進んでいる。
幸い、戦争というわけではなかったですが、代わりに海の魔物への対処という非常に難しい問題が浮上してきてしまったのよね。
以前から冒険者ギルドで仕事をしているけど、水中にいる魔物の対処ってかなり難易度が高いのよね。
難易度が高いっていうのは、死亡率が高いってこと。
魔物としての強さはそこまでなくても、水中では人は動きが物凄く制限されるので、魔物の方が有利になり、その結果敗北することがよくある。
しかも水の中だ。敗北して逃げられればいいが、そのまま水中で溺れて窒息、果ては引きずり込まれて死亡するケースが多い。
特に大型の水中の魔物相手にはほぼなす術がない。
海軍を持つレイク将軍たちが救援を求めているところから考えると、かなり強力な水棲の魔物がいるってことよね。
それこそ、軍船を落とすレベルの。
そんな魔物というと……。
と、そんなことを考えている間にも、ユキさんとレイク将軍の話は進んでいく。
「ウィードへの報酬のことですか?」
「はい。私たちはウィードに対して支払える報酬が存在しないことです。ハイデンの方は、復興支援ということで、押せたと聞いているのですが……」
「なるほど。ハイデン王はこういうところが抜けていますね」
「さて、考えてはいるでしょうが、そこは何とかなると思っているのではないでしょうか?」
「何とかねー。そうだ、よろしければ、軍が所持している魔銃を作った人物を紹介していただけませんか?」
あ、そういえば、今回ウィードが特にシーサイフォ王国を警戒していたのは、携行していた武器が銃だったことよね。
その情報を得られるなら、対価として十分に認められる。
まあ、本音で言えば経費分ぐらいは回収したいけど……。
で、その対価に対する返答はどうするのかしら、レイク将軍。
「私の一存で是とは言えませんが、陛下に伺いを立てることはできます」
ありきたりな答えが返ってきたわね。
「なるほど。やはりあの銃を作った人物はシーサイフォ王国にいるわけですね」
「まあ、隠すようなことでもありません。無論、我が国が誇る立派な人材ですから」
「ああ。引き抜きの可能性を警戒されたのですね。もうしわけない。私たちの国というか、大陸間交流同盟では技術交換交流なども行っています。まあ、主に便利な道具を作る知識や技術の共有、伝授ですね」
「なんと。これほどの知識や技術を提供していると?」
「ええ。ですが、ほかの同盟国にもお願いしていますが、習得していただくには、技術者にウィードに来ていただくことと、大陸間同盟に入っていただくこととなっていますので。この技術、知識を習得できる人物がシーサイフォにいればですが」
なるほど。ユキさんは技術の交換、習得という餌を投げてきたわね。
流石にこれは見逃せないでしょう。
というか、実際、シーサイフォ王国と大陸間交流同盟が結ばれれば、まっさきにウィードに来る技術者は、あの銃もどきを開発した人でしょうね。
これで、隠す意味はなくなったんだけど、レイク将軍はどうするのかしら?
「ふむ。人材の派遣はしていただけないということでしょうか?」
「流石に人手がたりません。ああ、別に銃の知識を提供しろという話ではないですよ。あれは、シーサイフォ王国が国家を守るための兵器ですからね。こちらとしては、船の知識とか、海の知識が欲しいところですね」
「海の知識ですか?」
「ええ。私たちのほうでは、水中にも魔物がいるというのが当たり前で、あまり航海術が発展していないのです。それに伴って、造船技術もですね」
「……なるほど。流石に軍船の情報は流せませんが……」
「それは国防に関わることですからね。普通の漁船に関しての情報でいいですよ。ああ、もちろん軍船を公開して貰えればありがたい限りですが」
「わかりました。私たちに港を見せていただきましたし、陛下にお話ししてみましょう」
「お願いします。まあ、海洋の魔物をどうにかしてほしいという話ですから、いずれにしろ港に行って船は見ることになるでしょうけどね」
「ははっ、そうでしたね」
そう言って、笑うユキさんとレイク将軍。
んー。特にレイク将軍に反応は無しか。
技術関係の派遣については、銃を開発した人を寄越さないつもりかしら?
まあ、機密保護のためにはあり得ることだけど、こういうことを知った本人が大人しくするとは思えないのよね。
ナールジアさんとか、ザーギス、コメット、エージルとかをリアルで見てきているから。
あと、港を見せろとか船を見せてくれってことは、どうせ海の魔物の対策で見せることになるから問題ないとみているのかしら?
「と、未来の話が弾みましたが、支援が成功した暁にはそういう報酬を用意していただけるとありがたいですね」
「はっ。どのような報酬になるかはわかりませんが、必ず御礼は致します」
「では、いざ出発! というのは気が早いですね。ほかに見学したいところなどはありますか?」
「このウィードを全て知りたいですが、そうはいかないでしょうな……」
そうねー。今のウィードは娯楽施設を楽しむだけでも、3日じゃ足りないわね。
というか、初日は港を見て終わって、今日は2日目だから、あと2日で楽しむのは不可能ね。
そんなことを考えていると、レイク将軍が何かを思いついたようで……。
「……しかし、そうですな。私たちは先ほどの理由で、魔物という生き物について調べております。それに関係するところがあれば伺いたいのですが?」
「なるほど。魔物のことがわかる場所ですか。そうなると……」
ユキさんはなぜか私の方に視線を向けてきて……。
「それならミリーの分野ですね」
「へ? 私ですか?」
なんで私が魔物に詳しいみたいな話に?
ユキさんの言っていることが咄嗟に理解できないで、混乱していると、横にいたデリーユがつついてきて。
「何をぼけておるか。冒険者ギルドに魔物の情報があるのは当然じゃろう」
「ああー。最近産休で忘れてたわ」
確かに、冒険者ギルドほど魔物に詳しい組織もないでしょう。
「彼女は?」
「私の妻の1人で、ミリーといいまして、冒険者ギルドがある区域を取り仕切ってもらっています」
「ぼうけんしゃというと、探検家のことですか?」
「当たらずとも遠からずですね。冒険者というのは……」
そこからユキさんが私たちを交えて、冒険者の説明を始める。
アスリンたちのような子供にもこなせる仕事から、凶悪な魔物の退治まで幅広い仕事だと。
「なるほど。魔物を退治することもやっているのですな」
「ええ。ですから、冒険者から集まる魔物の情報も多いですし、弱点などの特徴もしっかり把握しているのです」
「そういうことですか。私たちが敵対している魔物の情報もあるかもしれないということですね」
「ええ。どうでしょうか? 今後の私たちの助けにもなりますからね」
「是非とも見せていただきたいです。頼めますかミリー様?」
「あ、はい。構いませんよ」
魔物の知識を共有するのは冒険者というか、魔物が普通に闊歩しているロガリ大陸では当然のことだから。
命にかかわるからね。
まあ、極秘扱いになっている魔物もいるけど、そういうのは滅多に出ない魔物の場合が多い。
主に貴重な素材を落とすレアな魔物ね。乱獲されると、そこの冒険者ギルドとしては先が不安になるから。
逆に、強い魔物は絶対近づくなって教えるのよね。
と、そんなことはいいとして、ロックさんに連絡をして、魔物の資料を用意してもらおう。
ウィードの魔物図鑑は写真付きでかなり詳しく解説しているので、他所から冒険者が魔物の勉強をするために訪れるほどだ。
それほどまで詳しい理由は、ウィードが出来た当初から冒険者ギルドの要請で、ダンジョンマスターの能力を使って魔物を呼び寄せては記録していったから。
正直な話、この図鑑の中にレイク将軍たちが頭を悩ませている魔物が載っていると、対処が楽なんだけどなー……。
「……ほお。これはすごい。皆、しっかり調べるんだ。これがシーサイフォを救うカギになるやもしれん」
「「「はっ」」」
そう言って、レイク将軍たちは魔物の図鑑を開いて読みこんでいく。
その姿は真剣そのものだ。
まあ、本人たちが言うように、シーサイフォ王国の命運を左右するかもしれないことだから当然だけど、国の重鎮がこうして冒険者ギルドに来て本を読むっていうのは変な感じね。
「……で、ミリー。今回のお客さんはどこの大陸のどういう身分の方々だ?」
「毎回毎回。もうちょっと事前連絡くれない? 私たち冒険者ギルドの対応が悪いと評判が落ちるのは勘弁してほしいんだけど。あと、私の仕事が終わらないんだけど」
私はレイク将軍たちを横目に、ロックさんやキナに問い詰められたり、責められたりしていた。
「ロックさん。今回のお客さんは、新大陸の方です。あと、キナ。仕事は突然舞い込むものよ」
「あっちの方か。全然魔物がいないんだったか」
「むきー!? 私が残業ばかりになるのはミリーのせいだからね!!」
実は、こういう話は初めてじゃないのよね。
イフ大陸のほうだけじゃなく、ロガリ大陸からの要請も多い。
まあ、未発見の魔物や、口伝だけで存在する魔物が数多くいるから、その確認の為にダンジョンマスターのスキルで呼び出して観察することは多いのよね。
その情報を調べて帰って、危険な魔物であれば効率よく討伐したり、希少な魔物であれば逆に保護するという感じで各国が動いている。
希少な魔物ってなによ? と思うけど、聖剣使いのアルフィンみたいなアルビノや、金毛で生まれてくる魔物もいるから、そういう魔物に高値がついたりするみたい。
「で、その魔物がいない新大陸の人が一体なんで魔物図鑑なんかを?」
「そりゃ、ギルド長。物珍しい魔物でも買って帰りたいんですよ。よくあるじゃないですかー」
「そう言う方向なのか? それにしては、やけに真剣に調べている気がするが……」
そう言ってロックさんは私に視線を向けてくる。
キナの言う通り、ただの魔物を買って帰りたいという話ならどれほどよかったか……。
「実は……」
私は今回の話をロックさんたちにする。
元々、こういう問題については、冒険者ギルドとその町、村のトップが話し合って決めることが多いのよね。
この場合は、ウィードの国のトップというか代表、つまり私。
「……ということなのよ」
私は30分程度で簡単に今までの経緯を話した。
「なるほどな。海に魔物が現れ始めて、その対処の為にここにか……」
「海かー。一度、現役の頃に行ったことがあるけど、海の魔物って厄介だよ」
「キナは海での戦闘経験はあるわけね。ロックさんは?」
「すまないが、俺は内陸の仕事ばかりだったな。まあ、それでも水中の魔物が厄介なのはよくわかる」
そう言って、私たちは再び調べているレイク将軍たちに視線を向ける。
その姿は真剣そのものだ。一言一句見逃すまいと本をしっかり読みこんでいる。
何か情報があればいいんだけど……。
と、私はユキさんたちと一緒にレイク将軍が調べ終わるまで待つのだった。
まずは敵の情報を集めるのが先。
そして、敵が魔物なら、冒険者ギルド以上に情報があるところはないだろう。
冒険者ギルドに、海洋魔物の情報があるかどうかはわからないけどね。




