第797堀:海洋問題
海洋問題
Side:ユキ
「そうですか、やはり私の直感は間違っていなかったようです。ハイデン王が言っていた通りでしたな」
「そうさ。レイク将軍。ウィードに任せておけば問題ねえ。と、それよりも今日は飲んで楽しもうや」
「そうですね。いただきます」
そういうと、笑顔で漁師たちと盛大に飲み食いを始めるレイク将軍。
やられた。
これで、断るのがとても難しくなった。
というか、まさか、そんな理由でハイデンに訪れたとは思わなかった。
俺がよくやっている手だが、国家機密をあえてばらすことで、共感を求めるという方法だ。
このままシーサイフォ王国に対して援助をせず、それがばれれば、国民だけでなく、大陸間交流での信用も落ちる可能性が出てくる。
たとえ大陸間交流には参加していないとしても、困っている国を見捨てたってな。
とりあえず、そのあとは、飲みすぎたというレイク将軍たちを宿に送り届けてから、緊急の会議を行うことになった。
「やられたわね」
セラリアがそう言うと、嫁さんたちがうんうんと頷く。
みんな同じ認識のようだ。
「とはいえ、戦争って方向じゃなかったのが不幸中の幸いですねー」
「ラッツの言う通りだけど、今度は海の魔物問題よ? いったい何をどうしろっていうのよ?」
ラッツの言う通り、戦争とかそういう方向じゃないのは良かったが、ミリーの言うように、海の魔物問題の解決となると、大自然を相手にしろということだからな。
かなり難しいと思っている。
「ま、詳しくは調べないとはっきりしないが、かなり長期戦になるだろうな……」
海洋調査とか地獄だよ。
そのための予算や人員をどこから引っ張ってくるんだよ。
そもそも……。
「海の調査の責任者なんて誰がやるんだよ……」
「「「……」」」
そうこの中に、海を専門とするメンバーなんて……。
「えーと、私は元々海に面した国家の出身だから専門家までとは言わないけど、協力できると思うけど」
いた。
ドレッサだ。
綺麗に焼けた小麦色の肌。海の近くで生活しているという証をもつお姫様がいたじゃないか!?
「よし!! といいたいが、冒険者ギルドでやっている清掃による諜報活動と、俺の護衛からは外れることになるけどいいのか? ドレッサの希望とはズレていないか?」
「あ、うーん……。聞きたいけど、それでこの家から出るなんてことじゃないのよね?」
「ん? そりゃないぞ」
今やドレッサも家族だしな。
今更、部署が代わったからって追い出すことは……。
「あぁ。もしかして、独り立ちしてみたいって話か? それなら、家を用意……」
「ちがう!! 違うからね!! 私はずっとここにいるからね!!」
「そ、そうか」
何をそんなにムキに……。
というか、それって結婚しない宣言に聞こえるんだが。国を返還したいと思っているノーブルにとって、後継者のいないお姫様であるドレッサには返しにくくなるぞ……。
「ユキさんの鈍感はいいとして、問題の要点は、魔物が増えてきたことです。私にはとある心当たりがあるのですが、ユキさんはどう思いますか?」
「……エリスの言うように俺にも心当たりはある。皆も同じだろう?」
俺は鈍感の部分に対して抗議しないようにして、そのままエリスの質問に答える。
どう考えても藪蛇にしかならないからな。
まあ、そこは良いとして魔物が増えた原因として、もうこの場にいるメンバーなら誰でもあの顔が浮かぶだろう。
だから、皆と言ったのだが、抗議をする者たちがいた。
「ユキ。私も確かに、ハイレン様が原因かも? と、ちょっとは思ったけど、ここ数年の話でしょう? 最初からハイレン様が原因だって言うのはこじつけじゃないかしら?」
「そうです。……まあ関係が無いとは言いきれませんが、ハイレン様が犯人というのは……」
「ハイレン様は我がハイレ教の主神です。そのような言い方は流石に容認できません」
それは、新大陸のメンバーだ。
まあ、こじつけと言えばこじつけだが、この状況で疑わないという選択肢はない。
「別に、犯人として処罰するって話じゃない。事情を知っていそうなのは、ハイレンだって話だ」
ということで、本人にお前が何かしたかと聞いたところ……。
「え? 最近なにかやったかって? そうねー。年末年始が終わってゆっくりしているわよ。あー、あれね。ようやく私たちは正月休みってやつかな。ん? なによみんな。変な顔して、何か変なこと言った?」
わざわざ本人を連れて来て質問してみればこれだ。
ハイレンになにか心当たりがある様子はない。
しかし、なんとか聞きださなくてはいけないのも事実。
だって、この駄目神があの新大陸で、魔物を排除する結界を構築した本人なのだから。
「そうか。何も知らないのならいい。……ちょっと待っててくれ。ソウタさんとエノルさんに話をする」
「んんー? 何かあったの? 私に話していいのよ」
「いや、面倒な数字の話だからな。予算をちょろまかしたとかいう話だ」
「私がそんなことするわけないじゃない!」
「そう言う意味で聞いているわけじゃない。申請し忘れってのがあるのかって話だよ」
「あー……。ちょ、ちょっとまっててね。思い出すから。えーと、確か帰り道の駄菓子屋は経費で……」
そんな些細な金額じゃねーよ。
これから、シーサイフォ王国の問題対応に予算をかなり持っていかれるって話だからな!!
ということで、俺がハイレンと話している間に、他の嫁さんたちやカグラたちから事情を説明されたソウタさんたちに聞いてみることにする。
……ハイレンはお菓子の経費で頭がいっぱいみたいだからな。
「で、どう思いますか?」
「うーん。正直な話、ハイレンが意図的に何かをしたというのはなさそうですね」
「うむ。あのバカが意図的に魔物が出現するような解除をするとも思えん」
「では、間接的に、無意識にというのは?」
「それは否定できませんが、カグラの言う通り、ここ数年の話ですからね」
「それだけでハイレンの責任というのは、いささか酷じゃな」
まあ、それだけで犯人扱いするつもりはない。扱いするつもりはないが……。
「関係者として、ハイレンを連れて行くべきですかね?」
「「……」」
俺の質問に口を閉ざしてしまうソウタさんとエノルさん。
犯人でないにしても、状況を改善するには、ハイレンの力があればと思うのは当然のことだろう。
とはいえ、ハイレンをまた矢面に立たせるようなことを、この2人が許すわけもないか……。
その証拠に、こうして口を閉ざし……。
「連れて行きたい気持ちはわかりますが、被害がさらに広がる可能性が……」
「じゃな。あのハイレンを連れて行くという選択肢は確かにあるが、それは傷口に塩を塗るだけな気がしてならぬな」
「そっちですか」
コクコクと頷く2人。
「ハイレンが向こうにいって事情をしれば、どんなに引き留めようが勝手に動き回るのは目に見えていますからねー」
「ソウタの言う通りじゃ。アレは突っ走るのは得意じゃからな。心配じゃ。迷惑をかけないのかが」
なるほど。ハイレンを連れて行くこと自体がアウトですか。
「お2人の話はわかりました。しかし、どうしてもハイレンを連れて行く必要があれば、一緒に来てくれませんか? せめて、被害は少しでも軽くしたいので」
「……ええ。こんな老人でよければ」
「……正直、老骨にはきついのう。が、仕方あるまい。アレの世話をすると言ったからな」
すごく不本意そうにうなずく2人。
なるべくハイレンは使わない方向で頑張るしかないな。
そんなことを考えていると、話を聞いていたラッツが口を開く。
「そういえば、なんでシーサイフォ王国だけが魔物の脅威がと叫んでいるのでしょうか? 海に面しているのはシーサイフォ王国だけってわけでもないでしょう?」
「俺もそれは疑問に思って聞いてみた。答えは……」
「答えは?」
「シーサイフォ王国以外の、海に面した国は基本的にシーサイフォ王国を盟主、主とする属国に近いらしいんだよ」
「あー、つまり、実質海側の国はシーサイフォ王国の領土ってことですか」
「そうだ。だからこそ、対処が追いつかなくなったわけだ」
そう。シーサイフォ王国がわざわざ内陸まで応援を求めた理由はここに起因するのだ。
「大陸を囲む広域の海の警備なんて無謀ね。そんなに船を並べられるわけもないのに」
ドレッサの言うように、属国の要請により警備網を拡大していって人手がたらなくなり、被害が大きくなっていったわけだ。
「でも、不思議ですねー。それなら、近隣の国に助けを求めたらいいのに」
「先輩。それは魔物って時点で信じてもらえないからダメなんだって」
「あ、そっか」
「いや、意外と鋭い指摘だ。ミコスの言う通り、近隣に助けを求めればいい話だったが、それをせずにハイデンへとわざわざ話を持ってきた理由はわかるか?」
俺がそうカグラに聞くと、少し考えるそぶりをして……。
「おそらくだけど、シーサイフォ王国は隣国に弱みを見せたくなかったからかしら?」
「正解だ。まあ、そもそも他国を頼るってことは、そうそうない。その後の交渉の席で譲歩を求められるし、下手をすると、国力が落ちているとみられかねない。侵略を受けるきっかけだな」
「ああ、だから、ミコスちゃんたちのハイデンに来たってことかな?」
「……そうですね。我々はフィンダールとの戦争。そして、ハイレ教の裏にいたアクエノキの陰謀により死者こそ少なかったですが国の力は大きくそがれましたし、立て直しで精一杯なのは、カグラ殿たちがよく知っているでしょう」
「そうね。あれで、ハイレ教も大忙しよ。未だに後始末に追われているモノ。だから、私たちというか、ハイデンに事情を話してもいいと思ったのかもね」
「エノラの言うことが俺の予想に近いな。ハイデンに話してもこちらを攻める余裕などないと判断したこともあるだろう。それに最初にソロが言った、魔物を信じないって話も含めると……」
「ハイデンほど、シーサイフォ王国が助けを求めるのに適した国はなかったということですか?」
スタシア殿下の答えに俺は頷く。
意味もない所に交渉などいかない。
何らかの意図があってやってくるのだ。
「しかも、魔物との戦闘もあったと聞けば、シーサイフォ王国にとっては渡りに船といった感じだ。まあ、このまま放っておけば、シーサイフォ王国の主要産業が壊滅しかねないからな」
海が使えなくなるというのはそれだけ大きな痛手だ。国防にも確実に影響が出てくるだろうな。
だからこそ、レイク将軍という勇名を馳せる人物がでてきたってことだな。
「それで、ユキ。紹介したハイデンとしては、ウィードがシーサイフォ王国に対してどう動くのかを聞いておきたいんだけど」
「ウィードとしても、魔力調査の意味としても、今回の海の魔物の出没範囲拡大を調査しなくちゃならないのは間違いない」
カグラの質問には、俺は素直にそう答える。
大陸間交流にしても、魔力調査の意味でもこの事例は是非とも研究したいところではあるが……。
「とはいえ、いきなり行くといっても何をどうすればいいのかわからないし、まずはシーサイフォ王国が当初はどんな目的でハイデンに訪れたのかをはっきりする必要があるな」
「え? ユキ先生。それはもう、魔物のことでって……」
「ソロ。それはただ非公式な宴会の席で話していただけだ。正式に話を受けたわけじゃない。めんどうだが、そういう手続きが必要なんだ。そして、ハイデンに対しても、シーサイフォ王国との仲介をしてもらう人員や手続きなどがいるだろうからな。手続きだけでも面倒が多いんだよ」
来てください。ハイ、行きます。とはいかないのが国同士のやり取りだ。
「ということで、明日朝一に、レイク将軍からの話を正式にきいて、シーサイフォ王国の要請に応じて、動くことになる。いいな?」
「「「はい」」」
はぁ、戦争ではないが、今度は言葉の通じない魔物が相手ですか。
なんか呪われている気がする。
って、そうか。
俺には駄目神から呪われていたな。
「なに? お菓子はちゃんと経費であげていたよ。思い出したのよ。美味しいケーキ屋さんで買って一人で美味しく食べたの。ちゃんとレシートとって申請してたから」
「「「……」」」
俺が視線を向けたとたん、そんな経費の使い込みを自白するハイレン。
……こいつをシーサイフォに呼ぶことにならないよう頑張ろうと、強く思うのであった。
この海洋問題について、一応ハイレンは何も「知らない」無自覚なのかはわからないけど。
しかしながら、わざわざ連れていけば地雷にしかならない。
ということで、ユキたちはこれから正式にシーサイフォ王国の要請を受けて動くことになる。
だが、海洋の専門家をどうするのか?
本当にドレッサに一任するのか?
魔物の種類は一体何なのか?




