第795堀:とれたてが美味い
とれたてが美味い
Side:デリーユ
ザザーン、ザザーン……。
寄せては返す波の音。
射し込むきつい日差し。
見渡す限り広がる水平線。
透き通った綺麗な綺麗な海。
うむ。相変わらず、見事な海じゃな。
まあ、今はまだ整備中で一般の観光客には解放しておらんから、ガランとしておる。
妾たちはもちろんプライベートビーチが存在するから、人混みに困ることなく海水浴は楽しめる。
とまあ、妾のことはいいとして、今はシーサイフォ王国の連中じゃ。
レイク将軍の希望により、水産業と魔物を見せることになって、ここまで連れてきたのじゃが……。
「「「……」」」
青い海と白い砂浜を見て固まっておる。
シーサイフォ王国の海がどんなものかは知らぬが、ここまで絵となる海はそうそうあるまい。
地球の美麗な海岸百選から選び抜いた、海岸じゃからのう!!
とはいえ、このまま固まっているようでは話にならぬから……。
「レイク将軍。大丈夫ですか?」
「はっ」
ユキが声をかけて正気に戻す。
「いや、申し訳ございません。あまりに見事で綺麗な海ですな」
「気に入っていただけて何よりです」
「しかし、ここもダンジョンの中なのですな?」
「ええ。ここもダンジョンの中です」
「……驚嘆するほかないですな。本当に凄まじいですな、ダンジョンというのは」
「褒めていただき光栄ですね。では、こちらに。ここは砂浜で水産業を営む場所ではございませんので」
「確かに、港、桟橋が見当たりませんな」
「ちょっと歩きますがこちらです」
そう言ってユキは砂浜に背を向けて、森の方向へと足を進める。
水産業と言って良いのかはわからんが、この海で穫れる魚などをまとめる市場というか、港は砂浜があるこの場とは反対側に存在している。
お客が来るようになった時に、海で仕事をしている人の邪魔にならないようにという配慮のためじゃ。
じゃあ、別の階層に作ればという意見もあったが、そこは経費の削減を含め、わざわざ分ける必要があるのかという話になったんじゃよな。
と、そんなことを考えているうちに反対側にある港へたどり着く。
この階層は細長い島が海の中央にあるような配置で、島の両側で水産業海域と海水浴海域とに分かれており、相互の行き来は意外と簡単じゃ。
「ここが、我がウィードの水産業を担う港ですね」
「これは……」
やはり、当然の反応というべきか、目の前に広がる港の威容に驚きを隠せないレイク将軍率いるシーサイフォ王国のモノたち。
どこからどう見ても立派な港じゃし。
船も地球産のスクリュー式の鉄鋼船タイプと見慣れない物であり、なにより……。
「おーい。上がって、一杯やらねーか?」
「いえ。まだ仕事中なんで」
「そんな堅いこと言うなって。いいホタテが採れたんだ。食おうぜ。いっつも世話になってるんだから。な? 大将にもちゃんと言うって。昼休みってな」
「そう、ですね。今から昼休みですね」
「おうおう。そうだそうだ。昼休みだ! よーし、みんな売り物にならないの集めて飯だ!」
「「「おー」」」
傍から見れば、海の男たちの昼休みなのじゃが……。
「あ、あれは、ま、魔物ですか?」
「ええ。海から上がってきてるのはサハギンという半魚人系の魔物ですね。まあ、人に近いんで言葉での意思疎通が容易なので便利ですね。で、あとから来ているのが……」
「「「うおっ!?」」」
サハギンの後ろから人のサイズはあろうかというタコが上がってくる。
クラーケンタイプの魔物で、本来の姿はかなり大きいのじゃが、流石にそのままのサイズで陸に上がると邪魔になるし、前にミリーやリエルに食われかけたのがトラウマになっており、普段からこうして魔物として人となるべく交流しておる。
まあ、タコは美味いからな。ゆでてよし、焼いてよし、揚げてよし、飯に混ぜて炊いてよし。
「よお。タコちゃんも一緒に食おうぜ」
コクコクと頷くタコちゃん。
「タコ……ちゃん?」
「ええ。クラーケンのタコちゃんといいます。な、タコちゃん」
ユキがそう叫ぶと、タコちゃんたちがこちらに気が付いて、手、というか足を振ってくる。
ついでに、一緒に昼を食べようといっていたサハギンと漁師の親父もこちらに気が付き。
「あ、ユキ様。すみません。すぐに仕事に戻ります」
「ユキの大将。ちょっとの間だけ見逃してやってくれ。俺が誘ったんだ。今日はたまたまで……」
気まずそうにすぐに謝ったり、フォローに回るが、ユキがそんな心の狭い男であるわけがなく……。
「ちょっと昼休みを取ったぐらいで文句は付けないから、心配すんな。まああまり羽目を外して、周りの連中から苦情が上がったら注意するからな。そこは気を付けとけよ」
「はい。ありがとうございます」
「がははっ!! それなら心配いらねえな。なあ、みんな」
「「「おう」」」
親父がそう言うと、色々な魚を持ち寄っていた、親父たちも元気よく返事をする。
全員グルなら文句を言う連中もおらぬか。
「サハギン。お主らだけで楽しむと文句もあるじゃろう。部下も呼んでやれ。どうせ海水浴場は開いておらぬし、水難事故の心配はないじゃろう」
「そうですね。いいですかね。親父さんたち」
「おうおう。構わねえ。漁に出ている連中もいねえ。なあ?」
「はい。今のところ人は海上にいません」
そんな感じで、いざ宴会に移ろうとしたところで……。
「ん? そういや、大将。見慣れない人たちを連れているな?」
ようやく、妾たちがシーサイフォ王国のモノたちを連れていることに気が付く親父たち。
普通なら、こういう扱いを受ければ、高貴な人物は怒ることもあるが、どうやら、レイク将軍たちはあまりの驚きのために全く反応出来ておらぬな。
まあ、この程度のことで怒るような連中であれば、底が浅いとわかるし、付き合いなぞしてやらぬよ。
そんなことを考えていると、ユキがレイク将軍たちを紹介しはじめる。
「ああ。いつもの新しい国の人だよ。ダンジョンの中に海って言われてもあまりなー」
「「「ああ……」」」
あっさり納得する親父たち。
こういう案内で訪れたお客は今日が初めてではないからのう。
「えーっと、これは俺たちから挨拶したほうがいいのか?」
「あー、あとで案内してもらえると助かるけどな。レイク将軍どういたしますか?」
「あ、はい。直接漁師とお話させていただける機会はありがたいです。そして、そちらの……サハギン殿とタコちゃん殿でしたかな? 彼らともお話をさせていただけますかな?」
「私としては構いませんが……。どうだお前ら?」
「構いませんよ。私たちの方が同席していいか聞きたかったですから。大抵、魔物と聞くとちょっと引きますからね。あと香りですかね」
サハギンがそう言うと、隣のタコちゃんも頷く。
まあ、引かれる理由としては、どうしても生臭いからのう。
汚いという意味ではなく、磯の香りじゃからな。
海の香りに慣れていないと辛いからのう。
と、そんなことを考えていると親父たちが……。
「じゃあ、大将。これから一緒に飯はどうだ?」
「んー。どうしますか?」
「構いません。ウィードで穫れる海の幸を共に楽しめるならこちらとしても願ってもないことです。お前たちもいいな?」
「「「はっ」」」
ということで、妾たちは港で急遽宴会に参加することになったのじゃが……。
「よし!! 魚とお酒万歳!!」
「……ミリー飲みすぎるなよ」
「あまり飲んじゃだめだよー」
「そうなのです。ミリー姉様はお魚だと、ついついよく飲む癖があるのです」
うちの酒飲みがはしゃぎ始めたのがちょっと心配じゃな。
アスリンやフィーリアにまで注意されているのが、皆の心配の度合いが高い証拠じゃ。
「では、私たちもお手伝いをいたします」
「ですねー。お魚を捌くのはウィードに来てから慣れましたから任せてください」
キルエやサーサリは流石メイドというべきか、迷うことなく調理の手伝いを申し出る。
妾もあちこち旅をしていた関係で、料理はできないことはないが、ここは専門家に任せるのが一番じゃと理解しておるので、大人しくしておくことにする。
で、妾が大人しくしている横で……。
「……初めて見る魚ですな。ヘビみたいだ。これはなんという魚で?」
「これは、アナゴですね。意外とうまいんですよ。ちょっと捌いて見せましょうか」
「ほほう。ユキ様は料理をされますので?」
「ええ。好きですよ。というか今では王配などという立場ですが昔は、一般人でしたからね」
「……いったい何があったのでしょうか?」
「話すと長いですねー」
そんなことを話しながら、ユキがアナゴを器用に捌いていく。
頭にキリをドスッと刺して固定し、器用に腹を開く。
「器用なものですな。しかし、このアナゴというのは美味しいのですか?」
「ええ。ちゃんとした調理法を採れば美味しいですよ。まあ、アナゴはかなりぬめりなどがあって、あまり食べられている地方が少ない魚ですが……、こうすれば……」
ユキはそう説明しながら、しっかりと下処理をしていき、最後には……。
「こうして、串に刺したあとは、炭火で焼いて……」
そして取り出したのは秘伝のタレにべったりとつけて、再び焼くと香ばしいいい匂いがあたりに漂ってくる。
とはいえ、かば焼きは何度もタレにつけて焼きを繰り返すことで本当の美味しさにたどり着くものじゃからな。
まだ我慢じゃ。
と思っていると、周りもいい感じに料理が出来てきて、いたるところからいい香りが漂ってきて……。
「おう。レイクの旦那たち、大将のそのかば焼きはあと少し時間がかかるから、先にこっちを食べな。ミリーちゃんも、デリーユの姐さんも美味いぞ」
そう言って、差し出されるのは、アサリのバター醬油焼き。
なんという……、しかし、客人の手前……。
「いただきまーす!」
そんな葛藤とは無縁のミリーが迷いなく、酒を片手に大ぶりのアサリをパクリといく。
「んんんーー!! 美味しい!!」
そりゃ美味いじゃろうて。
「あんな感じで、美味しいですよ。まあ、無理にとは言いませんが」
「いえ。いただきます。しかし、ユキ様は?」
「ちゃんといただきますよ。デリーユ。俺の分を取ってもらえるか? もちろんデリーユたちも食べてくれよ」
「あ、うむ。任せておけ!」
ユキの許可も下りたことだし、遠慮なくいかせてもらおうではないか!
そして、アスリン達も動き出しており……。
「はーい。レイクのおじちゃん。これ食べてねー」
「美味しいのですよ」
「ははは。お嬢さん方がそういうのであれば、試さない訳にはいきませんな」
こうして、慎重なレイク将軍たちも、遠慮なく食べ始め……。
「よーし。いい感じ!! じゃ、一杯だすわよー!!」
「「「おー!!」」」
ミリーが調子に乗って、酒を振舞い始めて、昼間っからの宴会が始まるのであった。
「ユキ。よいのか?」
「酒が入れば口も軽くなるだろう。別段飲まなくても、普通に魚を楽しめばいいだけだからな」
「なるほどのう」
シーサイフォ王国のモノたちは、目の前で旨そうに酒を飲むミリーたちを前にどこまで我慢ができるのか見ものじゃな。
まあ、妾は我慢する理由は無くなったので食って飲むがのう!
「ほれ。ユキ。あーんじゃ」
「おう。あーん」
うむ。こういうのは良いのう。
正直に言おう。
まじで取れたて、釣りたて、美味い。
スーパーのパックに入れられているやつとは全く違うから。
一度港のとれたて食堂とか言ってみたら、美味しくて驚くと思う。




