第789堀:穏やかなお仕事
穏やかなお仕事
Side:スティーブ
『……という感じで、思ったよりもハイデン内部は荒れているな』
「聞けば当然って感じの話っすけどね」
おいらは、夜の草原のただ中。夜露に濡れながら大将からの連絡を受けているっす。
その話によれば、田舎者というわけじゃないっすけど、防衛のために呼び出した貴族たちが、現在のハイデンの事態を把握しきれず、昔のままの感覚で動いているので色々問題があるとのこと。
まあ、家に帰ってみれば、自分の部屋がなくなってりゃ驚くっす。
そして、怒るって反応も当然っすよね。
「で、そこの問題はどう解決するっすか?」
『そこらへんは、俺たちを巻き込んで喧嘩を売ってきたから、キャリー姫と結託して嵌めて、そんなにやりたいなら設営準備を任せて、その横で戦闘訓練を見せつけたから、もう文句をいうことはないだろうさ』
「どれぐらいの規模の訓練っすか?」
『それは、カグラたちもいたからな。カグラたちを混ぜた時は、ちゃんとそこまでレベルを落とした。まあ、デリーユ対ミリーの一対一の訓練の時は、地形が多少変わるレベルだったな。草原が荒野になった』
「……それは相手さんは心折れたっすね」
ウィードにある訓練用階層でやるような訓練を外でしたわけっすよね。
そりゃ、もう文句を言えるわけないっすよ。
どっかの格闘バトル漫画並とは言わないっすけど、それでも地形が変わるような戦闘っす。
そんなのをみた、普通の人たちが怯えないとかないっすね。
「じゃ、大将たちが暴れた結果、ハイデン内部は大人しくなったわけっすね?」
『一応、訓練を披露したあと、そこのトップが頭を下げに来たからな。今後表立ってウィードや大陸間交流同盟に喧嘩を売ることはないだろうな』
「それは何よりっす。あとは裏でこっちに迷惑をかけない程度に足の引っ張り合いでもしてくれっす」
『だな。それがこっちとしては助かる。で、そっちはどうなんだ?』
「そうっすね。こっちは……」
おいらはそう言いながら、遠くに見えるシーサイフォ王国の軍に目を向けると……。
「本日も特に変わりなし。日中穏やかに進んで、今は夜になったのでのんびり晩御飯中っすね」
シーサイフォ王国の復興支援軍は今日も今日とて、粛々と移動をして夜の休息中。
変な動きはないから、監視をしているおいらたちとしては楽でいいんすけどね。
『中の様子や書類などは?』
「潜入している連中からは特に報告なし。普通にハイデンの手助けをするぞっていう話っすね。書類の方はまだ調べられてないっす。基本、羊皮紙で丸めたものっすからね」
『それを調べるのは難しいか』
「そうっすね。流石に簡易的なテントの指令室とはいえ、いや、テントだからこそっすね。兵士が常駐しているし、ちょっとした物音でも直ぐにばれるっす。迂闊に手は出せないっすよ。魔術とか、薬を使って良いなら話は別っすけど」
『それは駄目だな。現在は既にハイデンの領土内だ。下手に指揮官とかが不自然に気を失ったり寝たとかなると、誰かに襲われたということを警戒する。そうなると……』
「それを理由にハイデンと戦争をする理由になるっすよね」
『ああ。だから強硬的な偵察は禁止だ』
というわけで、相手を魔術で眠らせて好き放題っていうのはできないっす。
まあ、相手もしっかりとした魔術武器を持っているっすから、対抗される可能性もあるっす。
そうなれば、本当に開戦っすからね。
そうなると本末転倒、おいらたちが必死に穏便に済ますために頑張ってきた意味が無くなるっす。
『……これ以上の詳しい情報収集はこちらに到着してからがいいか』
「まあ、ここまで調べて何も出ないとなると、何か動きがあるとしてもハイデン王都に着いてからっすよねー。ここまで徹底しているとは思わなかったっすよ」
てっきり道中の他に誰もいないところだと本音を漏らすかと思っていたっすけど、それもなし。
こうなると、ハイデン王都に来てから何か起こるとしか考えようがないっす。
「でも、ここまでくると、本当にハイデンの復興支援に来たとしか思えないっすけどね。ハイデンに着いていきなり、戦争だーって言っても、兵士が付いてこないっしょ?」
『まあな。とはいえ、警戒しないわけにはいかない。この復興支援のためと称する派兵は、何が目的かよくわからんからな。ようやく大陸間交流同盟が出来たっていうのに、同盟国がいきなり戦争とかなったら、他の大陸の連中はハイデンと交流するのは被害を避けるために躊躇うか、積極的な参戦をしてハイデンや、その敵国に対して影響力を持とうとするだろうな』
「特にジルバっすね」
『あのおっさんは血の気が多い。昨今、ようやく大人しくなっているんだ。これ以上問題を増やしたくない。そのためにも、できうる限り穏便に行く』
ハイデンだけ、新大陸だけのことで済めばいいっすけど、そうもいかないっすからね。
飛び火するのは確実っすからねー。
黙っていればっていうのはあるっすけど、大将たちが新大陸に来ていることは既に宣言しているっすから、無理っすよねー。
「ま、本当にただの復興支援だということを祈るっすよ」
『神に祈るか?』
「冗談。とりあえず、自分の運にっすね」
『それがいい。どう考えても神にご利益はないからな。俺たちの場合』
寧ろ、敵対ばっかりだから呪われてるっすよね。
そしてルナの姐さんは、こっちのことには基本ノータッチ。
まあ、一緒に飲むことはあっても、仕事の話はしっかり分けてるっすから、そう言う意味ではしっかりしてるっすよね。
「あ、神で思い出したっすけど、結局、シーサイフォ王国の動きにはアクエノキは関係ないっすか?」
『アクエノキの方は別の国にいて、あまり動きを見せていないからな。まあ、詳しく調べたわけじゃないから、何とも言えんが、関係している可能性は低いな』
「となると、やっぱりシーサイフォ王国は別の所から情報を得て、軍を動かしたって事っすよね?」
『まあ、普通に考えるとそうなるな。そういう意味ではある意味やりやすい。妙なペーパーパワーを使われて面倒なことにとかはそうそうならんだろう。もちろん油断は禁物だけどな』
「そりゃそうっすね」
『ともかく、引き続き警戒してくれ』
「おいっす」
こうして、おいらの報告は終わり……。
「隊長。ラーメンですよ」
「さんきゅー。これが仕事の時の唯一の楽しみっすよね」
「ですねー。そして今回の監視は楽ですからね」
「そうっすね。と、今日は醤油っすね」
蓋を取って、箸をとり口に運ぶ。
ズゾゾッー……。
うん。美味いっす。
「あー、うまい。なんつーか、野外キャンプしている気分っすね」
「灯りは一切付けられないですけど、そんな感じですよねー」
「「あ」」
とお互い空を眺めていると、不意に夜空を横切る流れ星。
願いを言いそびれたっす。
そんな感じで、おいらたちはシーサイフォ王国の監視を続けて……。
『明日には着くか』
「そうっすね。そっちからも姿を確認してるんじゃないっすか?」
『確認してるな。キャリー姫たちは、多少緊張しているな』
「結局何もわからなかったっすからね」
『本当に何が目的かさっぱりわからないよな』
そう。おいらたちの情報収集能力を持ってしても、シーサイフォ王国の目的は結局探れなかったっす。
悪意無し、目的不明、あるのは復興支援のために来たという最初から聞いていた答えだけ。
「いい加減覚悟を決めて、書類、資料のある場所探ってみるっすか?」
『……微妙だな。今までの監視の手ごたえとして、バレそうか?』
「何度か偵察はしたっすけど、ちょっとこっそり覗き見るのには適してないっすね。強引にいくっすか?」
ご丁寧なことにしっかり警備をしているっすから、魔術などの搦め手が使えない状況ではちょっと厳しいっすね。
テントの中もそれほど広いとは言えないっすし、その場に誰かが入ってきたら光学迷彩で隠れても接触する恐れがあるんっすよね。
『それは無しだ。せめてハイデン国外に出て行ってからだな。ハイデン国内でやるのはまずい』
「そうっすよね。まあ、こっちはいいとして、結局、キャリー姫の方はどうなったっすか? 少しは落ちついたっすか?」
おいらとしては、正直、シーサイフォ王国よりも、不安定なハイデン内部の方が心配っす。
どう考えてもトラブル続きなのはハイデン内部っすからね。
『今のところは、あの公開訓練から後、目立った反発はないな』
「表向きはっすね。裏では色々っすか?」
『まあな。元々、大国の1つだったからな。そう言うところのプライドというか文化、風習が根強いんだろうな』
「シーサイフォ王国にちょっかいだすってのは?」
『今のところなさそうだな。流石に今回の失態で、シーサイフォ王国の使者たちとの接触は国王から直々に禁じられたからな』
「まあ、下手をすれば、戦争っすからね。今までのことを考えると同席はさせられないっすね」
『国益を損なう可能性が高いからな。そこまでになると、周りも誰も擁護できないし、流石にそこまでやるつもりはないらしい。というか、ここ半月ほどでようやく、ハイデンの置かれている状況を把握したようでな。お姫さんに謝罪を入れてきた』
「あ、そういうレベルっすか」
情報格差がひどいっすね。
そう思っていると、大将から更なる説明が入るっす。
『ま、ここ半年で、国の中枢が様変わりしたとか、地球でも結構なことだよ。革命とかそう言うレベルだ。日本なら、衆議院解散してそれから選挙があって、内閣をまた固めるって話だからな。人事とか細部の調整を合わせると、半年じゃ無理だ』
「あー、地球の日本に住んでたわけじゃないっすけど、ネットニュースで見たっすよ。確かにそれから考えると混乱していて当然っすよね」
『今回の場合は、内部にハイレ教会というか、アクエノキが紛れ込んでいたから余計に、本当に地方領主たちは何も知らなかったというわけだ。で、そこら辺が考慮されて処罰はシーサイフォ王国との交渉に参加させないというやつだけで済んだ』
「まあ、連絡しそびれたのも悪いっすからね」
『そういうことだ。別にあの伯爵だってお姫様に意地悪をしていたが、国に対して反逆するつもりじゃないからな。事態を把握したら素直に謝っていた。まあ、無論、前王の娘が活躍するのが嫌な奴はもちろんいるけどな。そこはどこにでもある話だ』
「確かにっすね」
誰かを羨んで、妬むっていうのはよくあることっすよね。
『そんな感じで、シーサイフォ王国にちょっかいを出す連中は実質いなくなったな。戦争なんて、誰も望んでいないからな』
「そりゃよかった。でも、この場合おいらが無能だったんすかね?」
『いや、スティーブたちは指示に従っただけだろう。後は、ジョンと合流して、いざというときに備えろ。こっちも、ダンジョンの探知範囲にシーサイフォの軍を確認した』
「了解。おいらたちは引くっす」
『おう。お疲れ。まずは休暇をとれ』
「休みにはいった途端、呼び戻されるってことにならないといいっすけどね」
『それは、シーサイフォの連中に聞いてくれ。まあ、コールの探知からは特に怪しい反応はないな』
「そりゃよかったっす。おいらはウィードに戻って銭湯にでも行ってくるっすよ」
そう言う風に、おいらの穏やかな監視任務は終わり、ウィードに戻るのでした。
さてさて、何事もないといいっすけどね。
「で、隊長。風呂はいいですけど、飯どうします?」
「んあ? ああ、さっさと家に戻ってアルフィンに顔見せないといけないっすから。お前らは適当に食って合流っす」
「もう、アルフィンさんと夫婦っすね」
「……お菓子がなければっすねー。あ、お前らも……」
「さ、飯だ飯だ!!」
ちっ。
しかし、あれだけは本当につらいっす。
また、お菓子の山が出てこないことを祈るっすよ。
あれ? 仕事が終わったのに気苦労してないっすか?
久々に、というか初めての穏やかな現場の仕事を終えてもどると、家で地獄でありました。
そろそろ、砂糖の食べ過ぎで死にそうだね。
あ、でもこの世界には回復魔術があるから安心だね!!
がんばれスティーブ!! 負けるなスティーブ!!
君の活躍をみんな待っている!!
あと、ゲーム楽しんでいるようで何よりですね。
SSRが続く報告もあって羨ましい限りですよー。
こっちは、課金しててそんなにだからねー。(白目)
無課金で楽しむのが一番いいよ。
とはいえ、自分のゲームだからね。
課金はしないと、と思うわけヨ。




