第777堀:国の対応と偵察報告
国の対応と偵察報告
Side:ミコス
『また大佐ーっ!! っていうか?』
『いや、いらねっす』
スティーブ将軍とジョン将軍の会話が真っ暗な画面から聞こえてくる。
「はぁ、あいつら結構余裕だな」
そんなことを言うのは、私たちのユキ先生。
朝のシーサイフォ王国の約1万の復興支援軍が来たという報告にたいして、スティーブ将軍とジョン将軍に指示を出して、即座に動いてくれた。
「緊張するよりは、よろしいのではないでしょうか」
「ですねー。というかスティーブさんたちがこんな会話をするゆとりがない方が問題だと思いますけど」
確かに、キルエさんやサーサリさんの言うように、将軍たちの会話には余裕があるし、辺境伯も無事のようだから、戦いにはなりそうにないので安心した。
「ほっ」
知らず知らずに私は安心してほっと息をつく。
「ミコス」
それをユキ先生に聞かれてしまったようで、声をかけられる。
話合いの邪魔をするつもりはなかった。
「あ、す、すいません。決して眠くなったとかいうわけじゃ……」
「ああ、怒ったんじゃない。なにかやたらと安心しているように見えたが、何かあったか?」
「えーと、実家が辺境伯様の領地の近くでして……。その、辺境伯の寄子なんですよ」
「そうか。ミコスのご両親たちはこの地方にいるのか」
そう。私の両親はこの地方の一部で小さくはあるが領地を運営している。
まあ、領地はあると言ってもこんな辺境だし、そのさらに辺境の片隅の領地だから、田舎も田舎なんですけどねー。
とはいえ、シーサイフォ王国の復興支援軍が来たって言われた時は心配した。
戦になれば、どう考えても兵士を出すように言われるだろうし、流石に辺境伯の総数じゃ勝てそうにないもんね。
ミコスちゃんが無事に生き残って、両親が死ぬとかは嫌だし。
とはいえ、こんな私情で心配かけちゃいけないよね……。
「すいません。今は、シーサイフォ王国の動向を調べることが最優先ですよね」
安否の確認をしたいけど、それはまた後日だ。
どうせ、戦いは起こっていないから、無事に決まっているよね。
「いや、家族の心配をするのは当然だろう。というか、それなら、ミコスの両親に頼んで、ゲートを置いてもらうか?」
「え?」
謝ったら、普通に許して理解をしてくれたユキ先生は優しいと思ったけど、なんか意外な方向に話が向かっている。
「ユキ。いきなりどうしたの? なんでまたゲートをミコスの両親のところへ?」
流石にカグラもユキ先生に質問をする。
どうして、私が家族を心配することと、ゲートを開設するのがつながるのだろうか?
「ん? そりゃ、ミコスが両親と簡単に会えるだろうし、ミコスやソロが脅された件もあるからな。いざというときはすぐに助けられる手はずは整えておきたい」
「ユキ先生……」
やばい。ユキ先生超優しい。
というか、両親に配慮してくれるってことは……そういうことだよね?
ミコスちゃん、ユキ先生のお嫁さん決定!?
「まあ、それに問題のシーサイフォ王国に対する国境の守りにも使えるだろう」
「でもそれなら、辺境伯様に……」
カグラは私のお嫁さん決定が気に入らないのか、ケチをつけてくるのだが……。
「辺境伯とは直接的な面識がないし、ゲートの設置に関しての交渉に時間がかかる可能性もある。それなら、ミコスを通じて説得しやすいミコスの両親の所がいいだろう? しかも、辺境伯のような大規模な土地でもないから、目を向けられることもないだろう。秘密裏に置きたいからな。と、これは、ミコスの実家に失礼な言い方だな。すまん」
「いえいえ。田舎なのは間違いないですからー。あと、うちの領地にゲートを置くって件はミコスちゃんに任せてください!! 両親を必ず説得してみせますよ!!」
「……」
実際なにもない田舎ですからね。
ふっふっふ。まさか、両親がしがない貧乏領主なのがここで役立つとは。
カグラ、そんなに睨んでもだめだよー。
これは、ハイデンを守るために必要な措置だから!!
私がお嫁さんに行くことを含めて!!
「まあ、ちゃんと土地を使わせてもらうことに関しては、報酬を支払うといってくれ。希望通りに支払えるかは、そっちの希望を聞いてからになると思うが」
「了解です。でも、あんまり心配はいらないと思います。小心者なんで……」
他国の王配に何か要求できるとは思えない。
「とはいえ、それはシーサイフォ王国が敵の場合でしょう? 今はそこまでの事態には見えないのだけれど?」
「確かに、事態は逼迫していないな。まあ、そこは良いことだよな」
ちっ、カグラ余計なことを!!
どんな状況だろうと、私の実家にゲートを開いてもらえれば、あとはそのままなのに!!
そんな思いを込めてカグラをにらんでいると、カグラもこちらをにらみ返す。
ぐぬぬぬ。
「というか、キャリー姫やハイデンの動きはどうなっている?」
でも、ユキ先生は、私ことミコスちゃんとカグラの女の争いは気付かず、純粋に仕事の話を進める。
「え? ああ、姫様の方は、というより、ハイデンの方では一応使者を送ったそうよ。王都への案内を兼ねて」
「王都に復興支援軍を入れるのか?」
「上層部的には、引き込んで武装解除をさせたいみたい。そこまでできれば、逆に安心だろうって、それが出来なければ敵って判断ね。ついでに、王都まで進軍させることによって疲弊させることも目的にあるみたい」
まあ、それは分かるけど、私にとっては実家のことが心配だったんだよね。
王都や国のことを守るという前提なら正しい対応なんだろうけど、ミコスちゃんの実家は守ってくれない内容……。
「……なるほどな。それもありではある。しかし、向こうに侵攻の意思があれば、王都は致命傷を受けることになると思うが、そこら辺はどう考えているんだ?」
「一応、ハイデン王都で軍の非常招集をかけているわ。約3万」
「多いのか少ないのか悩むところだな」
ユキ先生の言う通り、微妙だなー。
なにせ、今の軍の中には……。
「その3万の中には、この前のフィンダールとの戦の功績で魔術師隊入りを果たした人たちも含まれるわ」
「ほぼ新兵を導入ね……」
「仕方ないわ。以前の魔術師隊は……」
そう、学校の卒業生が多く入ったばかりで、著しく練度が低いのだ。
そして、その原因は、カグラの婚約者だったエリート魔術師隊の隊長が叡智の集とかにそそのかされて、アクエノキの手先になってしまっていたのだ。
その大半は、ユキ先生たちの手助けで、ほぼ捕縛されて、そのまま投獄後、処刑された。
まあ、カグラを含めて公爵家への暗殺未遂および、その他諸々の罪状もあったから、当然の結果なんだけど、そのおかげで、ハイデン国内の魔術師兵力はがくんと下がった。
処刑された人たちは、一応優秀だったみたい。
だから、穴埋めで功績のあった魔術学院の生徒たちが入っているんだよねー。
「あのエリートだけしか魔術師がいなかったわけじゃないだろう?」
「それでも、かなりの数が叡智の集に入ってたことが分かって、処罰されたのよ。その穴埋めに卒業生が入れられたのよ。普通はあり得ないけど、卒業生たちには、バイデでの防衛戦で持ちこたえたという戦果があった」
「ああー。そこが来るか」
「ええ。実際はユキたちのおかげで生き延びただけで、大したことはしてないのに……」
そうそう。なのに、というか、今回のアクエノキの騒動で、武勲を上げることになってしまった魔術学院の卒業生たちがかなり魔術師隊の部隊に組み込まれているんだ。
当初は私も、就職先が決まったとか喜んでいたけど、これは喜べないよ。
いまごろ、王都の魔術師隊に配属されて喜んでいた先輩たちは顔を青ざめさせているんじゃないかなー?
だって、また実戦だし? 実力があってのことじゃない。運がよかっただけだ。
と、ミコスちゃんはカグラと同じことを考えていたんだけど、ユキ先生は……。
「まあ、そう言ってくれるのは俺たちの力を信じているからだろうが、俺がカグラに召喚されるまで、持ちこたえられたのはカグラたちの実力だぞ。決して無能だったわけじゃない。そこは勘違いするな。運がよかったとかいう話じゃない。あの絶望的な戦況で逃げ出さず最後まで戦えたんだ。学院生たちの力のおかげだ。そこは認めてやれ」
なぜか、そう卒業生たちをフォローするユキ先生。
「……そう、ね。でも、ユキは何でそんなこと言うの? 楽観的な考えは基本的に嫌いでしょう?」
そうそう。ユキ先生って最悪に備えて動くようなタイプだし、そこらへんはシビアにというか正直に卒業生たちはだめだっていうと思ったのに。
「いや、評価するところは評価するぞ。というか、あの防衛戦を生き抜いて、未だ軍に志願したいというやつも相当大物だと思うぞ。普通はあんな厳しい経験をして軍に志願しようとは思わないさ」
「なるほど」
「確かに、そうですね」
「あと、そういう風に舐めているわけじゃないだろうが、下に見ていると痛い目を見るからな。侮ることでもないさ。まあ、戦力的には不安なのは間違いないが」
そっかー。うん、ユキ先生らしい考え方だ。
というか、そういう風にちゃんと働きを見てくれる人じゃないと、ミコスちゃんたちなんて今頃配置換えされてるだろうし。
私自身が今まで外交官としてベストな仕事をこなしたとは思っていないし。
頑張っては来たけど、まだまだ足りないって思うところは沢山あるもんね。
「こちら司令部。S隊、J隊応答せよ。定時報告の時間だ」
と、そんなことを考えていると、定時報告の時間になる。
余計な心配なんだろうけど、スティーブ将軍やジョン将軍は無事に偵察できたんだろうか?
『こちらS隊。シーサイフォ王国の駐留地の偵察に成功』
『こちらJ隊。同じく偵察に成功。既に合流している』
ほっ、やはり余計な心配だったようで、既に偵察は終えているようだ。
「思ったよりも早かったな。せいぜい小一時間ぐらいしか経ってないぞ。で、銃らしき物の判断はついたか?」
『ついたっすよ』
『こっちもだ。まあ、面倒極まりない』
「もったいぶらなくていい。結論を言え」
『へいへい。結論から言うと、間違いなく銃っす』
「「「……」」」
その言葉に、司令室にいた全員が静まり返る。
……銃が軍に配備されている。
それじゃ、ハイデンに勝ち目はない。
ユキ先生たちが使っているアサルトライフルを向けられたら、魔術師なんて関係ない。
というか、強い弱いなんて関係ないから、あの武器は……。
これは、ひどいことになる。直感的に私はそう思ったんだけど……。
『とはいえ、火薬式のではなく、魔術式だけどな』
そんな続きがあった。
「どういうことだ?」
『詳しくは戻ってからするっすけど、一種のエンチャント、魔術付与武器っすね。銃に似せた杖ってのが正しいと思うっすよ』
『だな。まあ、モノは確保したから俺たちは撤退するが、何か聞きたいことは?』
「……シーサイフォ王国の連中がハイデン王都を襲おうとしているように見えるか?」
『いや全然。上官たちはぐっすり状態っすよ。動向を探りたいなら、まだ調べるっすよ?』
「……そうだな。スティーブ隊はそのまま残って動向の調査。ジョン隊はその銃に似せた杖を持って帰ってきてくれ」
『『了解』』
なんか、風向きが変わってきた感じだけど、気を抜けないのは確かだよね。
エンチャント武器ってことは、魔術関連だしなどと考えていると……。
「あ、そうだ。ジョン隊は部隊を二つにわけて、ミコスの実家の領地へゲートの設営を、最悪の事態の時は、ミコスの家族や領民を助けられるし、そこを起点に相手のかく乱を行う」
「え?」
『了解。では行動を開始します』
私が驚いている間に、通信は終わって、ユキ先生がこちらを向いて……。
「すまんな。状況がよくわからんから、保険をかけておく。ミコスのご両親には事後承諾という形になるが、あとで挨拶に行くからその時はよろしく頼む。もちろん用件が終われば撤去もするから」
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえ!! 撤去しなくていいです!! ゲート開通万歳!!」
シーサイフォ王国の連中よくやった!!
これでミコスちゃんは大勝利となった!!
「……」
横のカグラがほほを膨らませているけど、カグラの実家だってつながってるじゃん!!
私の所が駄目な理由がないもんねー!!
こうしてハイデンにとっては悪い報告が、ミコスちゃんにとっては運命の日となったのであった。
ま、ハイデンの方はそれだけ人数いて、挨拶しないなら敵とみなすぞって意味合いがつよいかも。
とはいえ、巻き込まれる新兵諸君は大変だろうが。
そして、銃の形をした杖。
それは何をいみするのか?
そして、皆様にご連絡がございます。
「なろう」にて「誤字脱字報告機能」なるモノができたようです。
誤字脱字を報告してくれる皆々様方。一度ご利用してみてください。
あ、あとDMMの事前登録にてようやくSSR出現。
雪だるまの自由なブログにて詳細を報告中 http://snowbookman.diary.to/




