表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
大陸間交流へ向けて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

908/2206

第760堀:一応平和

一応平和



Side:タイゾウ



「美味しいわね。あ、こっちの大根おろしもいけるわよ」


そんな明るい声が横から聞こえてくる。

いや、何ともやりづらいな。と、一番やりづらいのは彼女を部下に持つタイキ君か。

とはいえ……。


「ビッツ殿。よければ私にもその大根おろしのたこ焼きを頂けないかな?」

「ん? 食べるのかしら、意外ね。タイゾウ殿はこういう屋台の食べ物を食べたそうには見えないのだけれど……」


そう言いつつも、ビッツ殿は私に大根おろしとポン酢がかかったたこ焼きを渡してくれる。

昔の彼女を知っているが、今の彼女を見ればどれだけ歪められて育てられていたかわかるな。

そんなことを思いつつ、たこ焼きを受け取る。


「いや、これでも田舎の貧乏な家の出でね。こういう食べ物はよく食べていたものさ。いや、こういうのはごちそうだったかな」


いつも芋の煮っころがしで、まれに米が食えればいい日だったな。

そして、たまーに縁日なんかに行くと、母や兄がこっそり貯めていてくれたお金で、私たちにごちそうとおもちゃを買ってくれるわけだ。

懐かしい記憶を思い出しつつ、たこ焼きを口に入れる。

ソースとはちがう大根おろしとポン酢がよく合う。

いや、最初はどうかと思ったが、意外と美味しいな。


「うん。美味い」

「私にもいただけますか?」

「ええ。どうぞヒフィーさん」

「ありがとうございます。あむっ。……うん!! 美味しいですね」


妻のヒフィーも気に入ったようだ。

たまに無理をして食べている時があるが、今回は本当に美味しいようだ。

まあ、イナゴの佃煮は私が一人で食べるとしよう。

と、そんなことを考えていると、ビッツ殿が未だに私を見つめていることに気が付いた。


「どうかされましたかな? ああ、会議の場でちょっと騒がしかったですかな?」

「あ、いえ、違いますわ。これがごちそうと聞いて……。その、タイゾウ殿も……」

「ええ。タイキ君から聞いていると思いますが、私は戦争を知っている世代でですね。とはいえ、貧乏で食事がろくになかったのは、別に戦争のせいではないですから、お気になさらなくていいですよ」

「そう……ですか」


ふむ、気になっているようだな。


「ビッツ殿。確かに、貴女が王女として取った行動は、多くの人を苦しめたということに違いはない。そこにいかなる理由があろうと、最後に選択を預けられたのは間違いなく貴女だ。その責任はある」

「……ええ。そうですわ」

「だが、全て貴女が悪いというわけでもありません。貴女を諌める者もいなかった。それが問題です。私が経験した戦争も、誰もかれもその戦いに疑問を持たず、いえ、反対する意見は押しつぶし、無理にやった結果が国の崩壊でした。それは、国民が全て悪いというわけでもないですが、国の上層部を止められなかったというのも原因の一つでしょう」


そう、確かに戦争に引き込まれたのは上層部の判断不足などがあるだろうが、あのような状態になるまで、戦うことはなかった。

国家総動員体制、物資は極限にまで無くなり、地方の村々どころか都市でさえ飢餓状態に近い最悪の状態だった。

あの時点で、人々は日本という家長を止めるべきだったのだ。


「……それでいいのですか?」

「正直な話、ビッツ殿に恨みを持っている人もいるでしょう。王女、ランクス王家の名の下、傍若無人に振る舞っていた輩がいるのですから。過去は変えられない。ならば、未来を良くしていきましょう」

「未来ですか?」

「ええ。人の歴史とはそういうモノです。失敗して、それを教訓として、また試す。私がよくやっている研究、実験と同じですな」


そして、私がそういうと、ヒフィーさんも微笑みながら……。


「そうですね。私も女神でありながら、失敗ばかりです。友を失って、友の大事にしていた人たちを利用し、そして果ては友も道具として使っていました」

「ヒフィー様が?」


ヒフィーさんも昔は、な。

とはいえ、あれしか手段がなかったのも事実だった。

せめて、私の技術がその負担を軽くできればと思って協力したんだがな。

しかし、行動に移す前に、ユキ君たちがやってきてそれを阻止された。

今となっては懐かしい思い出だ。

それはヒフィーさんも同じようで、懐かしそうに微笑み。


「ええ。私もビッツ殿と同じように、自分が正しいと思う道を進んでいる所をユキ殿に止められました。まあ、今の状況はユキ殿がいたからこそ実現できたことですから、あれはあれで間違っていないと今でも思っていますが」


確かに、ユキ君が持っている技術があったからこそできたことで、それが無ければどうしようもなかっただろう。


「とはいえ、今が間違ってないと思いますし、なら、今をよりよくしていこうと思いませんか?」

「なるほど。確かにそうですわね。私が悔いたところで、過去が変わるわけでもないですし、今からということですわね」

「はい」


男の言葉よりも、神であり同性であるヒフィーさんの言葉の方が届いたか……。

そう思っていると、タイキ君が話しかけてきた。


「なんか、話の腰折ってすいません」

「いや。彼女が良く成長していくのはいいことだろう。そう言う意味でもランクスの周辺国は安全になっているとみていいかな?」


そう、今話すべきは、ロガリ、イフ大陸の小国の動向だ。


「表向きは大人しいですね」

「表向きか」

「ええ。ロガリ大陸は一番早く大陸同盟が成ったとはいえ、不満を持っている小国はやはりあります。まあ、主にウィードへの嫉妬ですかね。同じ小国なのにそういう技術を有しているだけで、優遇されるのは……ってやつです」

「ふむ。ありがちな話ではあるな。で、動きは?」

「今のところは、何も。14大国を敵に回す気はないみたいですから。しかし、不満を小国内で共有している感じです。俺の所にも話が回ってきました」

「話とは具体的には?」

「今度の小国が招待された際には、ウィードの利益を分けるように迫ろうって話ですね」

「迫るか。脅すという意味でいいのかな?」

「恐らく。ウィードのことは運が良かっただけの国と思っているようで」

「ウィードの女王セラリア殿はロシュール王国の次女だったはずだが? そこを無視してか?」


一体何を考えている。

新参国ではあるが、ちゃんと後ろ盾はしっかりしている。

ロシュールだけではない、ガルツにリテア、そして今では14大国が認める国家だが……。


「元々セラリアさんは将軍として名を馳せていましたからね。あまり交渉能力がないと思っているみたいなんですよ。自分たちならもっと上手くやれるから、ゲートの管理を任せろって感じでいうみたいですよ。人手が足りないところも文句を言うみたいですね。ほら、エリスさんたちって元奴隷じゃないですか。そこをついてってやつですね」

「すべて逆効果だな。ユキ君は元からそう言うのを織り込み済みでエリス君たちを迎え入れ教育を施している。彼女たちの怒りを買うぞ。無論ユキ君もいい顔はしないだろう」


彼は非情な現実主義ではあるが、それは政治や戦いに関してだけであり、妻たちにたいしてはとても優しい、かなりの愛妻家だ。

そこを刺激しようと思っているとは面倒な。


「まあ、ここら辺は事前にユキさんに相談して対処はしようとは思っています。いまさら小国の連中に足を引っ張られるのは面白くないですし」

「当然だな。いまさら小国にどうこうできる流れではないが、反発されるのは迷惑だからな」

「とまあ、ロガリ大陸の小国は今のところそんな感じです。ああ、もちろん普通に喜んでいる国もありますけどね。で、タイゾウさんの方はどうなんですか?」

「こちらも似たようなものだな。いや、ウィードが陸続きではないぶん、存在をいぶかしんでいる所が多いという感じか。問い合わせが何度かヒフィー神聖国に来ている」

「なんでまたヒフィー神聖国に? 大国に問い合わせればいいだけでしょう?」

「大国が示し合わせて、そういうことにしているのでは? と考えているようだ。そしてヒフィー神聖国に問い合わせてきたのは、回復魔術師を各国に派遣してきた実績からだな」


我が神聖国は各国へ治療師の派遣を行っている。

まあ、大抵戦争に駆り出されて死んだり、心に傷を負って戻ってくるので、その結果、ヒフィーさんが怒ったんだが。


「ああ、そういえばそうでしたね。ヒフィー神聖国だからこそ問い合わせてっとことか。でも、大国が示し合わせてこの状況を作るって何を疑っているんですか?」

「話を聞く限りでは、大国がお互い不可侵条約を結んで、今のうちに後方の反発の強い国を潰すのでは? と考えているようだ。ジルバで、今回の大陸間交流会議を開く前にR魔剣を使って反旗を翻していた国が潰されたからな」

「そっかー。不安になる実例があるのかー。スティーブが鎮圧したやつですよね?」

「そうだ。スティーブ君が内部に毒をまいて、動けなくなったところをジルバ帝国軍がなだれ込んでという感じだ」

「で、その後の反旗を翻した小国の処理は?」

「無論。軒並み主要人物は処刑だな。しかしながら、国民には手を出すことはなかったそうだ。まあ、ジルバ帝国としては無用な反発を招く理由はないだろう」

「もともと、大陸間交流を開始するための鎮圧でしたからね。それで無用な略奪しても面倒なだけですもんね」

「そんなことよりも、大陸間交流を推し進めた方が、あらゆる面で利益があるからな。とはいえ、ウィードの存在を怪しんでいるところから見れば……」

「今度は自分のところかも?って思うわけですね」

「そうだ。特に領土欲が強いところはな」


今まで、大国同士の争いに乗じて、領土を広げてきた国にとってはこれ以上の領土拡大ができなくなる。

そこが痛手と思っているのだろう。

だからこそ、逆に攻められるかもという不安があるわけだ。

どこの世界にも、そういう武功を立てるしか自分を示す方法を知らないものがいるのだ。

なんのために軍人という己がいるのかを忘れてな。

軍人も国民も、国が求めることは、極端な話を言えば自国の利益だ。

わかりやすい利益を得る方法が今までは戦争だっただけで、これからも戦争が利益になるわけではない。

これからの時世、戦争を起こせば逆に周りから白い目で見られることになる。

それは大陸間交流という同盟の中では致命的な失態だ。

それが理解できてないのだ。


「幸いなのは、ウィードに何か仕掛けようという話がヒフィー神聖国には届いていないことだな。まだ大国の様子をうかがっている感じだ」

「大国に結託して反逆するっていうのはありそうですか?」

「今の所、そういう動きもないな」

「なんか、微妙な所ですね。これは喜ぶべきことなんですかね?」

「まあ、平和なのは間違いないから、喜ぶべきことだろうな」


そう言って、一旦お互いにお茶を飲み、たこ焼きを食べる。

まだ暖かさが残っていて十分に美味しい。

これがこうして食べられるのだから、平和なのは間違いない。


「とはいえ、ロガリ大陸、イフ大陸共に油断をしていい状況ではない。まあ、それはいつでもなんだが」


僅かな油断が致命的になるというのは、人生の常だ。


「ですねー。油断をすれば一気にですからね。ひとまず、この話をユキさんに伝えて、どう動くかですよね」

「そうだな。それがいい。とりあえず、この状態ならば、ユキ君なら新大陸の方に取り掛かるだろう。あちらの方が心配だからな」

「あー、シーサイフォ王国でしたっけ? なんかスコップとかオーバーテクノロジーを持ち込んでいますよね。日本人がいないといいんですけど」

「そこは何とも言えないな。まあ、ひとまずは何事もなく大陸間交流会議が終わるために頑張ろう」

「はい。そうですね」


私とタイキ君はそう言って、窓から覗く夕日を見つめる。

祈るのではなく、自らの手で成功させる。

それこそ、私たち人の力なのだから。







とりあえず、平和な大陸間交流期間。

しかし、これからの火種は確実にくすぶっている。

まあ、それはタイゾウさんの言うようにどこでも当たり前のことなのだけれどね。

それに対して備えておく、対処をするっていうのが、生きるってことだね。


そして、10月28日にご報告がございます。

私事ですが、まあ、ケジメなのでお付き合いくださいませ。

ああ、小説更新がーとか、アニメ化ーとかじゃないから、ご安心くださいませ。

本当に、私事です。


後書きと、ブログで報告させていただきます。

どうぞお楽しみに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ