第757堀:お茶を飲みながらのお話し
お茶を飲みながらのお話し
Side:セラリア
「おかあさまー。おかえなさーい」
「ええ。ただいま」
そう言って、私はサクラを抱き上げる。
どうやら、私が帰るのを待っていたらしい。
もうずいぶん時間も遅いというのに。
「おかえりなさいませ。セラリア様」
「ええ。戻ったわ。キルエ。そして……、スミレはもう寝ているわね」
キルエにだっこされたスミレはもう寝息を立てている。
「ほかの子供たちは?」
「既にご就寝です。もう23時ですから」
「そうよねー。もう、こんな時間よね」
私は玄関に置いてある時計に目をやると、23時をもう10分は過ぎようとしている。
昼食会が終わり、大会議を始めたのだが、これが大過熱。
まあ、当然といえば当然なんだけど、今後の予定を軽く話したら、交易品の話をいつするのかとか、誰に優先権があるかとか、非常に面倒だったわ。
これで、裏でつながっているエクスやホワイトフォレストがフォローしてくれなかったら、今でもまだ揉めていたと思うわ。
そんなことを考えていると、腕の中にいるはずのサクラの反応がないのに気が付いてみてみると。
「すー……」
寝てしまっていた。
「無理をしていたみたいね」
「そうですね。いつもなら、ほかの子供たちと一緒に寝ていますから。今日は、頑張って起きてセラリア様を迎えるんだといって起きておられました」
「そう。ありがとう、サクラ。さ、スミレも一緒に子供部屋に寝かせましょう」
「はい」
私はそう言って、子供部屋に移動する。
「そういえば、旦那様やジェシカ様たちは?」
「夫やジェシカたちは、この後のほうで忙しいわ。公式の場では私、非公式とまでは言わないけど、アフターフォローは夫たちの仕事だからね。というか、私よりも、ユキの方が各国に顔が利くからね」
「確かに」
子供たちを寝かしつけつつ、キルエと帰ってきてないメンバーの話をする。
今まで、ロガリ大陸、イフ大陸、新大陸と渡り歩いてきたのは夫だけだ。
私もついていきたかったが、女王という立場ではなかなか難しいのよね。
あとで、相手側の国がひっくり返ることが多いし、新大陸にいたっては夫やミリー、そして子供たちの誘拐が始まりときたものだから、下手すると戦争案件だ。
夫だったから、ハイデンへの対応は穏便に済んだが、夫ではなく、私たちが誘拐されていた場合はこんな穏便にはいかなかっただろう。
「私たちや夫は大変だけど、仕事に専念できるのは、キルエやサーサリがこの家を守ってくれるからよ。ありがとう」
「もったいなきお言葉です。それに、私やサーサリだけの力ではありません。奥様たちは料理もすれば、洗濯もおひとりでなされますし、お手伝いも皆さんしてくれますので、さほど手間ではございません」
「それでもよ。家族はキルエとシェーラが来た時よりも増えたし、この家にお客さんが来ることも多くなったわ。それを支えてくれているんだからね」
キルエとシェーラが来た時から考えると、奥さんだけでリーア、ジェシカ、サマンサ、クリーナと4人も増えているし、子供が11人。
お客さんにいたっては、タイキ、タイゾウ、ソウタ、エノル、ほかの神々とかもう沢山よね。
「そうですね。にぎやかになりました」
「最初から十分にぎやかだったけどね」
「はい。最初からこのダンジョンは面白いところでした」
「驚異の塊だったわ。それが、今となっては大陸間交流の要になるなんてね」
「ええ。本当に驚きです。旦那様はここまでお考えだったのでしょうか?」
「さあ、夫は計画は立てるけど、臨機応変に対応していくからね。同じような構想はあったかもしれないけど、これをばっちり予想していたとは思えないわね。いまだに、奥さんを増やすのは嫌みたいだし」
「まあ、ここまでウィードが表にでるなら、多少の政略結婚があると旦那様もわかっているはずですからね」
「本人的には頑張っているんだけどねー」
目下の難敵は夫の潔癖症というべきか、私たちを大事にしすぎというべきか、そこよねー。
「特にハイデンやフィンダールの方は、誰かを招き入れた方が、今後の展開としてはやりやすいかと」
「そう思うわよね。向こうもこっちに受け入れてくれればとは思っているはずよ。というか、キャリーの方は是非ともカグラをって言っているくらいだからね」
「彼女はこちらが見ていて痛々しいですから……」
あれほど、分かり易い子もいないでしょうね。
夫に正論と力そして、知略でぐうの音も出ないほどに追い込まれたってのは、正直自分と同じような感じがしてならないのよね。
「とはいえ、夫の気持ちがね」
「旦那様は女性を道具として見れないタイプですから。というか、元々本当にそういうことと縁のない普通の人だったというのは、本当なんでしょう」
「そうね。前はどうも信じられなかったけど、タイキやタイゾウの話を聞く限り、信じるしかないわね。でも、不思議よねー。あんないい男が、良い歳までぶらぶらしているなんて」
「周りの女性に見る目が無かったことを喜びましょう。おかげで私たちは旦那様に出会えました」
そんな話をしながら、気が付けば宴会場に戻ってきていた。
「そうね。そこは感謝しましょう。と、キルエ、晩御飯は?」
「既に子供たちと一緒に済ませております」
「なら、もう休むかしら?」
「いいえ。私は旦那様たちの帰りを待ちます。本日はサーサリが先に休んでいるので、明日の朝も問題はございません」
「そう。なら、私のお茶に付き合わない?」
「はい。是非とも。よろしければ、大会議の内容を詳しく聞きたく思います」
「私の方も、ウィード内の評判を聞きたいから助かるわ」
キルエは我が家のメイドとしてだけでなく、ウィード内の諜報活動を任せているのだ。
霧華たちが夫の諜報部隊として存在しているが、ここ最近はロガリ大陸、イフ大陸の諜報で大忙しなので、キルエにウィード内の諜報を任せているわけだ。
まあ、メイドということでそう言う噂話からの情報収集によっては、霧華とは全く別の方向からの情報があつまる。
夫曰く、特定の情報を集めるのなら、霧華。大衆の情報を集めるのなら、キルエ。って言っていたわね。
そんなことを考えている内に、キルエが御茶の準備を済ませてやってくる。
「お待たせいたしました。今日は私の判断で熱い緑茶です」
そう言っておかれる湯呑には湯気が立っていて、緑茶の良い香りがしている。
「ありがとう。いただくわ」
湯呑を持って口に近づけ、空気を含みながらお茶を飲む。
ズズッ……。
音を立てて紅茶を飲むのは駄目だけれど、日本茶はこの音を立てて飲むのがいいのよね。
蕎麦とかも、こうズゾゾゾーって啜るのはいいわよね。
行儀が悪いという人もいるけれど、それこそ日本の文化って感じよね。
目で楽しんで、味で楽しんで、そして音で楽しむ。
日本の食文化は奥が深いわ。
「さ、まずは大会議のことから説明するわね。ああ、その前に私が女性だからと言って、侮るような国はなかったわね」
「左様ですか。ハイデンやフィンダールは男尊女卑の傾向が強いと聞いていましたが何もありませんでしたか」
「ええ。不満そうなのは後ろの方にいたけどね。他の連中ににらまれていたらだんまりよ。そこで声を上げられるぐらい根性があるなら、国を作っているわ」
「確かに。では、今後の会議で邪魔になるようなことはないと思われますか?」
「いえ、会議の中で交易品のことに関しては、色々口を出していたわね。交易の価値を認めてどれだけ自分たちの利益を得るかってことを考えているわね。今更ウィードと敵対するのは馬鹿らしいというのは気が付いたようよ」
今更反対しても、利益を投げ捨てて、大陸間連合に喧嘩を売るようなものというのには気が付いたのは僥倖ね。これで当分敵になるようなことはないでしょう。
「……内在的、潜在的な敵というわけですか」
「まあ、そうではあるけど、そういうのは各国も同じような反応があるから、夫はさほど気にしていなかったわね。たしか、おのずと淘汰されるって話だったかしら? 少数派にしかなりえないって」
「今まで文句を言っておいて、いきなり掌返しで、美味しい思いをさせてもらえるわけもないでしょう。貴族には妙なプライドがありますからね」
「そうよね。まずはお詫びを入れてってことになるけど、それもしないで色々口を出していた連中は、今頃各国の王を筆頭に、交流賛成派にちくちく色々言われていると思うわよ」
「追い詰めるには格好の失態ですからね」
「ということで、各国が勝手に交流反対派の連中は抑えるだろうから、私たちが心配することじゃないって話ね。まあ、助力を要請してくるなら話は別だけど」
身内の反発者を押さえるのは各国の仕事。
私たちの管轄じゃないって話ね。
そこまで余裕もないモノ。
「で、キルエの方はどう? ウィードの国民や観光客の大陸間交流に対しての反応は?」
「こちらも、良かれ悪しかれといったところですね。まず、いいところから。ウィード国民や観光客は、あの大陸間交流宣言を聞いて、平和が訪れたと歓喜しております」
「そうよね。そういう意味も込めた宣言だからね」
大陸間交流開始宣言
これは、キルエの言う通り、平和が始まったという証でもある。
つい最近までは国同士の争いは絶えなかったのだから、戦争の辛さを知っているこの宣言の価値は計り知れないモノがある。
特にウィードの国民なんて、初期の住人はすべて奴隷か戦争難民だったのだから。
戦争により住む場所や大事な人を失った者たち。
これを喜ばないわけがない。
冒険者だって必要に応じて戦力として駆り出されることもある。
そして、これはロガリ大陸だけに限ったことではない。
「同じように、イフ大陸のホースト様からベータンも大陸間交流宣言をうけて、ベータンに訪れている人たちは歓喜しているとのことです。反応が悪いのは、新大陸のバイデですね。キャサリン様曰く、まだウィードのことが浸透していないからではとのことです」
「まあ、あそこは急遽参加した国だからね。しかも、参加しているのはハイデン、フィンダール、ハイレ教のみ。向こうは地道にやっていくしかないわね」
「とはいえ、ベータン、バイデともに、この大陸間交流会議に合わせて、お祭り騒ぎで、にぎわっているのは間違いありません。まあ、エリス様はお金が一気に無くなって、経理として頭を抱えているようですが」
「そこは仕方ないわね。今までため込んでた分を放出しただけと思わないと。散々賠償金を巻き上げてきたんだから、還元しないとあちこちで恨みを買うわよ」
今回の大陸間交流大会議の資金は各国の出資を募ってではなく、ウィードの独力で行ったもので、その関係でお金が飛びまくったのよね。
ウィードの財力や技術力を見せるためって、新しく会議場を作ったのが痛かったわね。
建物自体はDPで賄えたんだけど、内装とかはできるだけ大陸の生産品を集めたのよね。
他にお金を回す意味でも。
まあ、私たちの生活はDPでどうとでもなるが、国家を運営していくにあたって、各大陸のお金が減るのが痛いのはわかるけどねー。
「でも、今後の交易で取り返すから結果的には黒字になる予定ではあるのよ。というか、元々巻き上げてきたんだから黒字ではあるのよね」
「なるほど。しかし、エリス様はそう思われていないようですね」
「え?」
キルエにそう言われて振り返ると、エリスが腕を組んで立っていた。
他のメンバーも帰ってきているから、会議場や他の仕事が終わったのだろう。
「あら、お帰りなさい」
「ええ。ただいま。で、セラリア。元々巻き上げたお金だったとしても、それでも、お金がなくなるのは辛いんです。なにせ、私たちは巻き上げたお金を活動資金に使っていたんですから」
「まあ、そうね。私が安易な発言をして悪かったわ」
不味いわ。あの顔はお金の管理をきちんとしろって顔。
迂闊なことを言えばお説教コースね。
なので、さっさと謝るに限る。
「いえ、分かっていません!! 今回の大会議で、経済が安定しているウィードはともかく、イフ大陸のベータン、新大陸のバイデの予算がどれだけ……」
しまった……。
やってしまったわ……。
私はこうして、エリスから現在のウィードの経済状況を教えられる羽目になったのだった。
激戦の一日の終わりのお茶と地雷を踏む。
エリスがそれだけ今回の予算配分に関して頭を痛めていたということ。
迂闊な発言はやめましょうねー。
と、そこは良いとしてキルエの諜報部隊も動いており、一日目は順調といった感じ。
さあ、最後まで乗り切れるのか?




