第756堀:大会議の前の食事会
第756堀:大会議の前の食事会
Side:ユキ
さて、大陸間交流宣言は行われ、各国の紹介が終わり、お昼の1時には既に会議場の一般客は退出となった。
これから、大会議の始まりだからな。
政治的な話になるわけで、一般人は見学することはできない。
「意外と、盛大にやったな。息子よ」
「だな」
「盛大にやらないと意味ないからな」
俺はロシュール王、ガルツ王と雑談をしている。
今は、まだ大会議の準備中というか、その前の立食会だ。
腹が減っては戦はできんってやつだな。
十分に休憩を取ってから大会議の予定だ。
2人とも、皿に好きなものを取って食べている。
普通、王など立場の高い者は毒見役などが存在するのだが、この場においてはそういう心配はないので、思う存分食べている。
ナールジアさんの毒無効の指輪を付けているからな。
あ、この場だけじゃないな。この指輪は今後のためにもプレゼントされているので、毒による暗殺が出来なくなり、老衰や急病でもない限り、代替わりはあり得ない状況になった。
まあ、それよりも各国の王は、心置きなく暖かい飯を食えるようになったのが一番うれしいようで、嬉しそうにご飯を食べているのが多い。
「盛大にな。これでロガリ大陸の国民には、同盟が成ったと伝えられたわけだ」
「そして、これに反発するものは平和を乱す悪という図式が出来上がったな」
流石、長い間王様というか、汚い政治の世界に身を置いていただけあり、俺の意図はわかっているようだ。
そして、意外なのは……。
「うむ。これで、我が国もようやく国交が開けると言うものだ。うむ。美味い」
そう言って、同じように皿に好きなものを盛って食べながら来るのは、ルーメル王だ。
今回の大会議でさえ、また外交官だけで済ますかと思えば、こういう空気は読めるようで、普通に参加してきた。
まあ、今回の大会議に代理をよこすなら、これからの連合内では白い目で見られるから、ある意味当然ともいえるが、今まであえて大きな行動を起こさないでいたルーメルが動いたのは、やはり驚きもあった。
「まあ、ここでルーメルのが来なければ頭の中を疑うところではあるが、これまで来なかった理由を聞いてもいいか?」
「だな。ラスト王国での魔王退治の時も専守防衛で逆に攻めて上がることはなかったからな。てっきり、ラストとルーメルで問題が出てくると思ったぞ」
「こちらも、そんな余裕がなかった。あの後、すぐに海側から別の国の訪問があったからな」
「ああ、そういえばそんなことを言っていたな」
「ただの訪問で済めばいいが、そうもいかなくてな。勇者殿たちを派遣することになったりして色々大変だったのだ」
「なんじゃ。勇者殿たちを海の向こう側に送り込んだのか? なんと無謀な」
この世界の海を渡るとか、本当に無謀極まりない。
地球の二次大戦中の大戦艦でも嵐には勝てないといわれているのに、大怪獣がいるこの世界で、木造船で渡海とか自殺行為だろう。
とはいっても、あいつが空母を呼び出しているのは知っているんだが。
あいつも大概だし、あいつを抱えた国も色々頭が痛いだろう。
現代兵器の制御を握っているのはあいつだけなんだからな。
だからこそ、迂闊にこちらと手を結ぶことはできなかったわけだ。
下手するとあいつと、各国で戦争になりかねないからな。
だからこそ、勇者たちと本命を遠ざけて、こっちの様子を見ていたって感じか。
とはいえ、ルーメルは誘拐した連中だから、自業自得ともいえないこともないんだが。
ともあれ、勇者たちとアレは無事に生きているので、こちらも向こうからアプローチがない限りはとくに動く理由はない。
「仕方がない。勇者殿たち以上の少数精鋭は存在しないからな」
「そっちもそっちで、新しい大陸を見つけたとは大変そうじゃな」
「大変なんてものじゃない。言葉は通じないし、文化も違う。意思疎通だけでも苦労だ。まあ、魔術で言葉だけは通じるようになったが、それでも行き来にもさらに苦労だ。そっちのゲートがあればなぁ」
「そこはいずれですね。今すぐというわけにもいきません」
ルーメルが発見した新大陸の世話までしている余裕は今の俺たちにはない。
「いや、わかっている。ユキ殿たちはあちらの、ハイデン王、フィンダール王、そしてハイレ教が存在する新大陸の対応で忙しいのだろう?」
「ええ。お恥ずかしい限りですが」
「未知の国の相手だ。それも新大陸となれば忙しいのは当然だ。まあ、何かあれば助けてはもらいたいが」
「緊急の時に協力は惜しみませんよ。そのための大陸間交流同盟ですからね」
「ありがたい。そして、今までまともに連絡すら取らず申し訳ない」
そう言って、ルーメル王は頭を下げる。
珍しい、というか、地球の日本人を抱え込んだんだ。下手に表に出すわけにはいかないよな。
アレもついているんだし、よくこっちに参加することを決断してくれたもんだ。
まあ、こっちが敵に回る可能性は低いと見たんだろうな。
ここまできていまさら各国の王を集めて虐殺する理由もないもんな。
やるならもっとやりやすい、効果的な所を狙うもんな。
「いや。そちらも苦労したのだろう。ランクスの様に勇者殿を出汁にして何か支援を願いでたわけでもなし」
「そうだな。あの時は我が国とロシュールが戦争状態だったが、それでもローエルと手を組んで森の魔物を退治してくれた人格者たちだったとか」
「はは、そういうのは無用と言われていたのでな。こっちの狙いは外れたな。皆の盟主になろうと思っていたのだがな」
「はは、お前がそんなことを考えるわけなかろう」
「お前も随分下の暴走で苦労したようだな」
「まあな。先達のお2人に色々教えてもらったのに不甲斐ない限りだ」
なぜか、ロシュール王とガルツ王は仲良くルーメル王と話している。
いや、仲が良くても不思議ではないが、しかし、普通に仲がいいだけには見えない気がする。
「失礼ですが、3人はどこでお知り合いに? いや、とても仲が良さそうに見えましたもので」
「おお、そういえば、息子は知らなかったな」
「婿殿。じつはな、このルーメル王。若いころは私たちと同じように冒険者でな」
はぁ!?
いや、ロシュールの親父は昔、冒険者で遊んでたってのは聞いたぞ。兄がいたので皇位継承権は低かったとかなんとか。
「はは、お二人には腐っていたころの私を叩き直してもらってな。兄貴分のようなものだ。実の兄貴はクソだったからな」
「まあ、本人はルーメルを高めようとしていたんだろうがな……」
「それも空回りではな。まあ、私も兄が倒れてからだったがな」
「おかげで、勇者殿たちを呼んだあとも兄貴の信奉者どもに足を引っ張られる始末だったからな」
……この大陸のトップどもは全員おこぼれで王様になった口か。
だから、そこまで領土への野心がなかったのか。
部下の連中が勝手にやりあっているだけのイメージは確かにあった。
とはいえ、その部下をちゃんとまとめられないから、色々問題が起こったのも事実か。
真剣な戦争ではなかったから、矛を収められたというのもあるんだろうな。
そんなことを考えていると、別の方向から声がかかる。
「おー、ロガリ大陸の王たちも俺と同じかー。俺もイフ大陸では傭兵やっててな。兄貴たちが勝手にくたばってさー」
そう言いながらやってきたのは、皿に山ほどの食べ物を乗せ食べているローデイ王だった。
その後ろから、サマンサと宰相のロンリが蒼い顔をしてついてきている。
「陛下。この場ではもっと威厳を。そして、他の大陸の王たちに失礼な」
「へ、陛下っ!? ご歓談中に割り込むような形になってしまい、も、申し訳ございません!!」
宰相のロンリはすぐに注意をして、サマンサはすかさず頭を下げる。
なんというか、手慣れている感じがするな。
嫌な慣れだな。
「いや、かまわない。しかし、ローデイ王も我らと同じか」
「こう、王になると窮屈なものがあるからなー」
「臣下の忠義はうれしいのだがな、過保護だと大変だな」
「そうそう。別に心配いらないのになー。うかつに城下に飯も食いに行けない」
「それは、難儀じゃな。ほれ、ウィードなら安心して行けるうまい飯屋は沢山あるからな。わしはガルツ王とよく飲み食いしにいっているぞ」
「そうそう。ゲートがあるからな、適当に約束して城を抜け出して、ロシュール王と食べるのさ。そうだ、ルーメル王もローデイ王もゲートが開通したんだし、一緒にどうだ?」
何を話してんだ、この義理の親父たちは。
俺たちを過労死させる気か!?
「おおー、いいなー。ロガリ大陸とイフ大陸懇親会だな!!」
「ふむ。ルーメルは警戒の為にゲートが遠いが、懇親会なら出ないわけにはいかないな」
ローデイのブレードのおっさんはいいとして、ルーメル王まで乗り気だよ。
ルーメルは今まで他国を警戒していたんじゃないのかよ。
このままではウィードは野生の王どもが闊歩する魔の町となってしまう。
そうなれば、俺たちの労働時間は延びるに決まっている。何としてでも阻止しなければ!!
そうだ、他の国を巻き込めば……
俺はそう思って振り返ると、後ろにはイフ大陸のジルバ王とエナーリア王、そしてアグウスト王が立っていた。
「相変わらず、人の迷惑を考えない奴め」
「そして、抜け駆けもさりげない」
「私も誘ってほしいものですな」
ん? ジルバ王は一応非難したと思ったら、後半は何か仲間に入れてくれみたいなニュアンスになっている気がするんだが……。
「ジルバのが迷惑とか言うか? こういうのは誘ったもの勝ちだろう? そして別に抜け駆けでも何でもない。お前らも一緒に来ればいいじゃないか、無論アグウストのも一緒に来るだろう?」
「ちっ、仕方がない。私もその懇親会には参加だ。ウィードでの食事をお前だけに満喫させるなどあり得ん」
「ご一緒させていただけるのでしたら何も問題はないですな」
「だな。一緒なら問題ない」
あれー、こいつらも乗り気だよ。
隣で控えている、俺の嫁さんたちやエージルはというと……。
「……不味いことになりましたね」
「ん。これで私たちの忙しさは倍になる」
「まあまあ、いいじゃないか。これで各大陸の王たちの親交が深まるならもってこいだろう?」
確かに、エージルの言う通りではあるんだがな。
しかし、こうなると、新大陸の方も放っておくわけには……。
「いい話をしておりますな。よろしければ私たちもその懇親会に参加させていただけないでしょうか?」
「新参者ではありますが、皆さまとは仲良くやっていきたいですからな」
さっそく、ハイデンとフィンダールも参戦。いや、参加したいって言ってきたよ。
これでほとんどの国が懇親会参加決定で、残っているのは……。
「と、そうなると、エクスやホワイトフォレストも呼ばないとな。仲間外れにしたらジルバの様に文句をいうかもしれんからな」
「誰だって、この状況で懇親会に呼ばれなかったら文句の1つでもいう」
「まあ、ジルバの抑えて置け。エクスも、もちろん参加させてもらう」
「同じく、ホワイトフォレストも参加させていただきます」
やっべー、大陸間同盟懇親会になっているよ。
ん? でもどこか足りない気がするんだが……。
そう思っていると、後ろから声がする。
「……その懇親会。勿論我が国、リテアも参加いたしますわ」
「私、ラスト王国もちろん参加いたしますが、ちょっと、アルシュテール殿あちらで休憩しましょう」
振り返ると、そこには鬼気迫った顔のアルシュテールが立っていて、その迫力に各国の王が息を飲む。
そういえば、面倒な貴族の処理が残っているからな。その関係で頭が痛いんだろう。
そして、それを華麗にフォローして遠ざけたリリアーナ、ナイス。
「……ロガリ大陸でも、やはり女性は強いのだな」
「ああ、ビビったぜ」
「いや、どこでも女性は強いものだぞ……」
そんな感じで、昼食休みは過ぎて行き、女性の国家元首は侮られることなく、会議を始められたのは、僥倖と言っていいのだろうか?
会議の前の腹ごしらえ兼、交流会。
まあ、この大陸間交流会議は各国の立場を決める戦いと変わりないからね。
そして、ここではローデイ王の天衣無縫と、意外なルーメル王の話が聞けました。
さて、こちらでの田中たちの出番はまだないから、安心してね。
でも、こっちも向こうの問題の話は色々想像がついてくるんじゃないかな?
結局、ユキたちが忙しくなることに変わりはないんだけどね!!




