落とし穴7掘:学校問題
学校問題
side:ラビリス
学校もリテアの移住が始まってさらににぎやかになってきた。
珍しい事に、獣人やエルフの子供までいた。
この子供たちはなんとクラックがお金を出していた孤児院からきたのだ。
わざわざ、孤児院にいるのになんでこちらに移動したのかといえば…。
「あそこにいても、子供たちの未来はない。獣人やエルフの子供などは特に、見世物や愛玩動物のように扱われるだけだ。だから少し後ろめたいが、彼等を優先で連れてきた。その代り、その孤児院で働いている人たちを何人か連れて来たので、学校でどうか役立ててほしい」
とのこと、クラックも色々大変だったのね。
来た子達のほとんどは酷い栄養失調でしばらくは入院が必要な子もいたし、そのまま亡くなった子もいる。
その時のユキの表情は何とも言えなかったわ。
無表情なのに、涙も見せないのに、大事そうに亡くなった子の亡骸を抱えて、墓地でお墓を建ててた。
その子の知り合いか友達なのかはしらないけど、ユキの手厚い弔いに涙を流しながらもちゃんとお礼を言って頭を下げてた。
それを見たユキは、とても難しそうな顔をしていたわ。
多分ユキは…いいえ、私から言うべきことじゃないわね。
その亡くなった子に関することだけど、その時治療に当たっていたエルジュ様が酷く取り乱していたわ。
食べ物が無くてひどくお腹だけが膨らんでガリガリになった子をみて絶句してたし、その子がもう助からないと知ると、必死に何度も回復魔術をかけていた。
亡くなっても魔術をやめないエルジュ様に付き添っていたセラリア様が宥めていたんだけど、タイミング悪く、治療院に来た一般の人が、その子の一部分を見て魔物だとおもったらしくて、笑ってしまったの、そしたら、エルジュ様は……
「笑わないで!! やめて!! この子は今日まで必死に生きてたのに、この体はその証なのに…笑わないでよ!!」
エルジュ様が大音量でその一般の人に怒鳴りつけたの。
もう凄い睨みと一緒にね。
その一般の人は、エルジュ様の発言で、子供だと知ると素直に謝って立ち去って行った。
そのあとはその子を抱えて泣き続けるエルジュ様をセラリア様が一喝して復帰させたわ。
「いい加減にしなさい!! その子は亡くなった。あとはユキに任せない!!」
「いやです!! 私が弔ってやらないと……」
「同じ様な子を見捨てるの?」
「…っつ!? そんなわけ…」
「なら、エルジュのやるべき事はその子を抱いて泣くことじゃないわ!! 後は任せて、救える命を救いに行きなさい!! みんなから聞いたわ。エルジュも私達と同じ覚悟をもって生きると決めたと。ならば、しっかりそれを行いなさい!! お飾りでないのなら!!」
「ぐすっ…ユキさん。この子お願いします。私は次の患者を治療します!!」
エルジュ様はそう言ってその子の亡骸をユキに預けると、すぐさま駆け出して行った。
「強くなったじゃない…エルジュ」
そんなエルジュ様を嬉しそうな、悲しそうな目でセラリア様はみていたわ。
と、話がずれたわ。
今学校で問題が起こってるの。
ああ、訓練所や住民で起こる問題よりもう幾分マシよ。
だって……。
「男子ちゃんと野菜食べなさいよ!!」
「いやだよー!! 野菜美味しくねーもん!!」
食事の好き嫌いなだけ。
種族間のトラブルは無いに等しい。
なぜかって?
「エルフの男子もいるじゃない!! エルフは菜食主義でしょ!!」
「同族の癖になんて恥!! さいてー!!」
「黙れ!! 基本菜食主義なだけだ!! ここのごはんを食べて肉が嫌いなんかなるか!! 野菜より美味いから食う!! 何の問題がある!! この草食動物め!!」
「いいぞ!! いいこと言った!! お前等だって肉残してるじゃんか!! ちゃんと食べろよ!!」
こんな感じで、男の子と女の子で別れて、お互い文句の言い合いをしてるのよ。
「黙りなさい!! この肉食動物め!!」
「ねえ、せんせーだって野菜食べる方がいいよね?」
そうやって、質問を振られるのは私のユキ。
そして、皆の視線がユキに集まる。
「そりゃ、野菜は食べたほうがいい」
「ほらみなさい!! せんせーを困らせないようにしなさい!!」
「っぐ!! 先生、なら肉は残していいんですか!!」
「無論、お肉も食べたほうがいい」
「ほら!! お前等もせんせー困らせるなよ!!」
「うるさいわよ!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出してしまった。
どうするのよユキ?
そうやって目配せすると、ユキはため息をついて喋り始める。
「つまりだ、出された物は残さず食べてくれると、先生はとっても嬉しい。だから、残さず食べたアスリン、フィーリア、ラビリス、ヴィリア、ヒイロには後でチョコアイスをあげよう」
「「「ええええーーーー!!」」」
「無論、今からちゃんと食べた子もアイスをあげよう」
「「「やったーーー!!!」」」
そうやって餌を出すと、子供達はあっさり食事を平らげる。
代わりにユキは疲れた顔をしている。
うん先生って大変ね。
「……ということがあったんだよ」
「そりゃ、子供なら当たり前ですね~」
「そうですね」
そして旅館で晩御飯を食べたあと、学校の時の事を話して、お茶を飲みながら雑談をしていた。
「まあ、そう言うのはお兄さんが作ったカレーやシチューに野菜もお肉も混ぜればOKじゃないですか?」
ラッツはそう言って解決案をだす。
うん、名案だとおもうわ。
「毎日、カレーやシチューでいいんだな?」
「あ、いえ嫌です」
うん、私も嫌だわ。
「そうですね。問題はちゃんと食べる様になることですから、誤魔化す様な料理は避けたほうがよいのでは?」
エリスはそう言って、普通に地道に慣らしていくことを勧める。
「僕はほっといてもいいと思うよ? 大きくなれば、大抵食べられるようになるって。子供ってさ敏感だから野菜とかは特に味が独特だから嫌うんだよ。無理に慣らす必要もないと思うけどな」
リエルはほっとけばいいと思うらしい。
うーん、言ってる事はわかるけど、子供の健康の為でもあるのよね。
「何事も切っ掛けがあれば大抵の事はどうにでもなるわ。私も剣を持って戦場に紛れたのが始まりだし」
セラリア様がそう言うけど……。
「「「それは違う」」」
皆声を揃えて否定。
「でもな…切っ掛けね。何かイベントがあれば…でも…」
「ほら、私のいった事わかるでしょ?」
「いや、セラリアみたいな、泳げない奴は海に落とせばそれなりに泳ぐってやつじゃなくてな。こう皆で野菜取りとか、お肉をさばいて食事すれば、食べないなんて事はないんじゃないだろうか?」
「いい案だと思いますよ?」
「…お野菜とるなら、私の管理してるいい場所がある」
「お肉って狩るの?」
「子供達にどうやって狩らせるのよ?」
「僕はよく狩ってたけど?」
「リエルと同じにしないでよ…」
そうやって、色々話が盛り上がっていく。
「まあ、一回は実験しないとな。ヴィリアとヒイロでも連れて一回やってみよう。あの二人が唯一残さずいつも食べてくれるからな」
…あの2人は基本お野菜嫌いよ。
でも、誰かさんにほめられたいからいつも無理して食べてるけど。
今度、2人が来るのが楽しみだわ。
はーい前半は少しくらい話でしたが、後半はのほほん。
学校生活は穏やかです。




