第721堀:驚愕の一日 いや、本当に
驚愕の一日 いや、本当に
Side:ミヤビ・ヤシロ
「では、今日は解散で、また明日の9時に旅館の前で集合ということで」
そのユキ殿の声に妾たちは高ぶる気持ちが押さえられずにこう叫んだ。
「わかった。では、皆の者行くぞ!!」
目の前に広がる、未知の街を探索しつくすのじゃ!!
我が夫の世界の光景をこの目に焼き付け、体感するのじゃ!!
「「「おう!!」」」
そう言って繰り出した、ウィードの商店街。
他にも色々見るべきところはあるが、それは国家が管理するような場所が主になるので、案内なく立ち入ることはできないし、立ち入れたとしても、説明無しには理解するのはきつい物ばかりだろう。そういうのはまた後日、ユキ殿にゆっくり案内してもらおう。
というか、ユキ殿も言ったように、この場所を見せられて、いや、魅せられてじっとできるわけがないからな。
他の説明で時間を取るなど無粋というモノじゃな。
本当に気が散って仕方がない。
だからこそ、ユキ殿の計らいはありがたい。
これで、存分にウィードの様子を見て楽しむことができるというモノじゃ。
決して、遊ぶとか、そう言うやましいことはないのじゃ。
これは、仕事。そうハイエルフの国の興廃をかけた大事な調査なのじゃ!!
「陛下。とりあえず、先ほどの露店で売っていた甘い匂いのする、タイヤキなるモノを食してみたいのですが」
「いやいや、宰相様。それよりも、あそこのたこ焼きなるものが」
「陛下。ここは焼きそばを!!」
周りの臣下がごちゃごちゃうるさいのう……。
「落ち着けい。ここは、露店で無駄に腹を膨らますことなく、あのけーきとかいうモノを食するべきじゃろう。お勧めと書いておったからな」
妾がそう言うと、一瞬で静まり返る臣下たち。
ふむ。相変わらず、忠誠心の厚いやつ……。
「宰相様。陛下が言う、けーきというのは、若い女性に人気とか言ってましたが、陛下の御年は確か……」
「うむ。齢600歳は超えるはずだ」
「若い女性?」
「うむぅ……」
……こいつら。
「妾も長生きしていて別に年寄り扱いは構わぬがな。一人の女性として認めぬような発言は死にたいか?」
「「「いえ。滅相もございません」」」」
「おぬしたちは、もうちょっと、女性への配慮を覚えよ」
だから、エルフは増えんのだよ。
主に、男どものせいで。
女性はいつでもいつまでも乙女なのじゃ。
さて、さっそくけーきという物を食べようではないか!!
「ふぅー……。素晴らしものじゃなった」
「「「うっぷ……」」」
そして妾は2時間ほど満足して、元の場所へ戻ってきていた。
「いや、ケーキは素晴らしいな。あのようなお菓子が、世界には存在しているのだな。いや、トウヤの世界だったか」
素晴らしいな、このウィードは。確かに、けーきなるものはトウヤが妾が好きそうだと言って、食べさせられたらと言っていたのだ。
しかし、残念かな。トウヤはあまりお菓子作りは得意ではなく、ふつうの料理は上手かったのだが、これまで食べる機会がなかったのだ。
満足満足。
まだまだ、食べたいが、臣下の行きたいところもいかねば、なるまいて。
ケーキはまた後日来ればよい。
と、そう思っていたのじゃが……。
「宰相様。甘い物は当分見たくはありません。なんで高級品を見てこんなことを思うんでしょうか? 確かに最初はおいしかったのに……」
「飽きが来るというものだ。いくらおいしい物とはいえ、食べ続ければ飽きてしまう」
「しかし、陛下は永遠と食べておられました。我々より小さなお体なのに……」
「永遠ではなく延々だ。いや、あながち永遠で間違いないな……。まあ、それはいいとして、女性は甘い物はよく食べると昔から言われておるからな。感覚が違うのだろう」
「女性はお金がかかるのですね……」
「むう。その通りだな。財布と常に相談しなければ……」
……こいつらに配慮は無用じゃな。
とはいえ、妾にも問題はあったか。
「よし、次はくれーぷなるものを食べに行くぞ!! ケーキに負けず劣らずのおいしい菓子と、ケーキ店にいた若い娘が教えてくれた。その者の好意を無駄にしてはならぬ」
「「「えー、まだ甘い物を食べるのですか!?」」」
「当然じゃ。とはいえ、お主らには甘い物がつらいとは思わなかったな。そこは配慮が足らなかったのも事実。お主らは各々先ほど興味を示していたものを食べるとよいじゃろう。くれーぷなるものは、先ほどの露店と同じような売り方をしているらしいからな」
「「「おー」」」
そういうことで、妾たちは露店で売っている食べ物を食べてみたのだが……。
「うむ。このたこ焼きや焼きそばも侮りがたいな。そして、たい焼きこれは……、ケーキやクレープとはまた違った美味しさがあるのう」
「いやー、焼きそばはおいしかったですな」
「たこ焼きもおいしかったですねー」
「……うっ。たい焼きはおいしかったはずなのに、もう甘い物はいいや……」
なぜか一人は口を押さえておったが、妾たちは軒並み満足して、最終目的地へと向かう。
その場所の名は……。
「来たぞ!! スーパー銭湯!!」
「「「おー!!」」」
みんな楽しみにしていたお風呂。
宿の風呂とはまた違った種類のお風呂があると書いてあったので、妾たちはここで夜まで過ごすと決めていたのじゃ。
もちろん、ユキ殿から特別招待券もいただいたので、妾に死角はない!!
「よし。妾は女じゃからな。お主らは男湯じゃ」
「……当然の話なのですが、女性の護衛を連れてくるべきでしたな」
「何を言っておるか。いや、女性兵士が役に立たぬとは言わぬが、妾は、トウヤと一緒に何度も危機を潜り抜けてきたのじゃ。お主がおらぬ方が、ある意味では生存確率は高いわ。そしてない物ねだりをしても仕方あるまい。次に気を付ければよいし、まさか、妾にここまで来て風呂に入るなとかいうか?」
「流石にそこまでは。では、陛下、お気を付けて、時間は……」
「そうじゃな。大体8時半頃にここに集合して、食事は一緒にじゃな」
「「「はっ」」」
ということで、妾は久々に部下を伴わずゆっくりと風呂に入ることになったのじゃが……。
「ほほう。これはすごいのう。露天風呂はあっちで、こっちは軟水を用いた体に良いという風呂か。そして向こうは薬湯。貴重な薬草、香草を使っているのか。蒸し風呂、打たせ湯? すごいのう!!」
久々に童心に戻り、さっそくお風呂へと思っていると……。
「あ、駄目ですよー。お風呂に入るならー、まずはあちらで体を洗わないとー」
風呂場にいるほかのお客から、そう注意を受けた。
確かに、入り口の看板でそういう注意書きがあったし、宿でも同じようなことが書いてあった。
共有風呂じゃからな、綺麗に使うための基礎というやつじゃ。
道理はわかる。妾が完全に舞い上がってただけじゃな。
「すまぬ。初めて見るものばかりで舞い上がっておった」
素直に頭を下げて謝る。
人の上に立つものが、人が生活するうえでのルールを破れば、だれもルールを守ったりしなくなる。
「いえいえー。私もお楽しみのところー、お邪魔してごめんなさいねー」
その者もそう言って、妾から離れていく。
「うむ。間違っている者を見て見ぬふりをせず、ちゃんと道を正してくれる者がいるのだな」
去っていった者の後姿を見ながら感心する。
ルール違反を黙認すれば、それが当然、当たり前だと勘違いし、時がたつにつれ、そのことを注意されると、今までよかったのにと不満が高まる。
だからこそ、ルールをちゃんと守ること、そしてルール違反をしている者がいれば、速やかに注意して、諭す必要がある。
これにより、国の秩序が守られるのだ。
ユキ殿はよくよく国を治めているようじゃ。
「と、感心するのはいいが、湯を楽しまないとな」
そうじゃ、妾は風呂を楽しみに来たのじゃ。
まずは、先ほどの者の注意通りに、しっかり体を洗わねば。
ということで、妾は風呂を思う存分堪能して、時間ギリギリまで入って戻ってきたのじゃが……。
「「「おおおお……」」」
なんか知らんが、臣下どもがバカ面下げて、椅子の上で小刻みに震えておった。
「……何をやっておるか。椅子の上で小刻みに震えてけったいな。新手の病気か? それとも、我が国の評判を落としたいのか、言ってみよ。処分してやるから」
この臣下どもは先ほどから、やたらと反抗的じゃ。
ケーキ屋の時は少し付き合わせて悪いかなーと思ったが、間違いじゃったか。
ここはびしっと、しつけておかねばなるまいて。
そう思っていると、宰相だけが飛び上がり、説明をしてきた。
「陛下、違うのです。こちらは、マッサージチェアと申しまして……」
話を聞けば、この椅子はマッサージをしてくれる機械らしく、臣下たちが椅子の上で自ら小刻みに震えていたわけではないらしい。
よかった。変人ばかりを連れてきてしまったのかと、後悔しかけたぞ。
しかし、そうなると、そのマッサージチェアが気になるのは人として当然の事。
ちょうど宰相が立ち上がって空いた席があるので、妾も座ってみようと思うと……。
「あ、一個だけ空いてるわねー。ラッキー」
と、先ほど風呂場で会った女性が座ってしまう。
「こ、こらっ!! そこの者!! そこは、私たちが……」
その行動に妾よりも先に、宰相が文句を言ってしまう。
そもそも、席を開けてしまったお主が悪いじゃろうに……。
しかし、次の女性の行動で妾たちは固まってしまう。
「あー? 何かいいましたかー?」
宰相の言葉に気分を害したのか、のんびりな口調と優しげな表情とは違い、雰囲気は怒りに満ちていた。
その雰囲気に、臣下たちもだらしない面から、一気に真面目な顔になり、妾を守るように集まる。
しかし、妾は気が付いた。この怒りの雰囲気は誰かと似ている。
「……こ、この、無礼者が!! 私たちはともかく、このお方を誰だと……」
「待て」
「陛下!? しかしっ!!」
「待てと言っている」
「はっ」
宰相が激高しかけたのを止めながらも、目の前の女性をつぶさに観察する。
誰と似ているんだ?
なぜ、こんなに危機感がある? この相手ともめるのは命にかかわると、直感がささやいている。
なぜ、思い出さない?
妾がそう考えている間にその女性もこちらを見てくる。
「へいかー? ……ん、その耳はエルフー? でも、この魔力、純度が違うわー? もしかしてー、ハイエルフー?」
「……お主わかるのか?」
「んー。昔、娘から手紙にそんなことを書いてあったのよー。ハイエルフさんは魔力が綺麗だって」
「……娘から? ……っ!?」
その会話で、妾はこの女性が誰と似ているか分かった。
いや、わかってしまった。
娘、手紙でピーンと来てしまった。
「そ、その、少々立ち入ったことをお聞きいたしますが、ご息女のお名前はリテア様でしょうか?」
「そうよー。自慢の娘よー」
やばい。答え合わせにも正解してしまった。
それと同時に、宰相たちも、この妾の質問で目の前の女性の正体に気が付いたようで、顔が青くなっている。
「……し、失礼かと、お、思いますが、お、お名前を、お聞きしても……」
「あー、私はウィードのリテア教会で、司祭を務めているー、リリシュっていうのー、よろしくねー」
そう言われた私たちは五体投地をして、非礼を詫びることとなり……。
「こら!! 何やってんのよリリーシュ!?」
「ノノア? ち、ちがうのよー!?」
「流石に、先ほどのことがあったばかりでこれは、まずいですよ?」
「だからヒフィーもちがうのよー」
「とりあえず、彼女たちをどこか目立たない場所に連れて行かないと……」
「お店の人に空き部屋を貸してもらいますね」
……リリーシュ様に対して、ためぐち!?
いったい何がどうなっておる!?
誰が、誰か説明してくれー!!
ノノア殿のことを聞いて放心していたのからようやく持ち直して、いきさつを改めてユキ殿に話したのじゃが……。
スパーン!!
「お前からばらしてんじゃねーかよ!! どこが神格がにじみ出てばれただ!!」
「いったーい!? ひどいわよー!! なんかー、ルナ様と扱いがにかよってないかしらー? 前はもっとーやさしかったでしょー!?」
「うるさい、この駄目神が!! 間違いなく、あの駄目神の眷属だと理解したよ、こんちくしょー!!」
スパーン!!
「ひどーい!! これだから男はー!!」
「人聞きの悪いことを言うな。というか、ファイデの問題をここに持ってくるなよ!!」
なぜか、ユキ殿がリリーシュ様を容赦なく叩き、妾たちは、さらなる神の存在をほのめかす言葉に、気絶しないように気を保つので精一杯になっていた……。
驚愕の一日じゃよ。いや、本当に。(白目)
一般人にわかりやすい感覚でいうと。
友人の家に遊びにいくと、総理大臣がいて、ほかの国の大統領とかもきてて、さらには、歴史上の大人物までいたって感覚?
いや、わからねーなこりゃ。
あれだな。野球好きの友達の家に行ったと思ったら、甲子園球児のエースがいて、プロ野球選手がいて、大リーガーがいたって感じ?
うん。一般家庭の話じゃないな。
忘れてくれ。
とりあえず、そんな感じ。




