第715堀:おてがみをとどけましょう
第715堀:おてがみをとどけましょう
Side:アスリン
私たちはお兄ちゃんの執務室に呼ばれていた。
しかもお仕事が終わっている夜。
これは結構珍しいことなの。
お兄ちゃんたちの外交のお仕事は基本的に、リーアお姉ちゃんたちがやってて、私たちは、イフ大陸のベータンや、新大陸のハイデンでの治安維持活動とその他諸々のお手伝いなんだ。
勿論、学校でお勉強してお友達と遊ぶのも大事だけど。お兄ちゃんはよほどのことが無い限り、私たちに残業をさせることはないんだ。
だから、今回のことはよほどのことが起きたんだと思う。
「何が起きたんだろうねー?」
「フィーリアたちにお手伝いできることならいいのですが……」
「私たちがお手伝いできないことで、私たちを呼んだりしないわよ」
「ええ。そのとおりです」
私たちはそんなことを話しながら、いつもの4人でお兄ちゃんを待っていると、お兄ちゃんがやってきた。
これも珍しい。
お兄ちゃんが人を待たせることは、作戦以外ではないんだ。
時間ぴったりにきて、他の人を待たせるようなことはしない。
「ごめんな。まったか?」
「ううん」
「来たばかりなのです」
「ええ。2人の言う通り、待っていないわよ」
「で、何があったのですか? 私たちを呼ぶなんて珍しいですが」
シェーラちゃんが私たちを呼んだ理由を聞くと、お兄ちゃんは困ったような顔で答える。
「ちょっと、仕事というか、お使いを頼みたい」
「お使い? どういうこと、お兄ちゃん?」
お仕事じゃなくて、お使いっていうのはなんでだろう?
「お仕事っていうのには大げさなんだ。ただ、手紙を届けたいんだけど、相手が相手なんで、ウィードの郵便局を使うわけにもいかないんだ」
「んにゅ? 機密文書かなんかなのです?」
私たちに届けてほしいお手紙ってことはそれだけ大事なのモノなはずだけど、なんかお兄ちゃんは難しそうな顔をして……。
「いや、どうだろうな。手紙の内容は見てないんだ。ほら、この間、俺たちが獣神の国に行っただろう? その時に、獣神のトラから、リリーシュとファイデへの手紙を預かったのはしっているだろう?」
そういえばそんなことあったかも。
「ああ、そんなことがあったわね。まだ、渡してなかったの?」
「そう言うな、ラビリス。2人の仲が悪くなる内容だったら不味いから、どうするか協議してたんだ」
そうかー。リリーシュお姉ちゃんとファイデおじちゃんが喧嘩するような内容だと困るもんね。
「私たちにその役目をということは、どうするかは決まったのですか?」
「ああ。2人を集めて一緒に渡すのではなく、個別で渡そうということになった。そして、周りに誰かがいて、良い内容であれ、悪い内容であれ、話を聞き出してフォローをするという手筈になったんだが……。外せない仕事が入った。ハイエルフの女王陛下がお忍びでウィードに来たんだ」
「なるほど。それで急いでいるんですね」
うにゅ?
ハイエルフの女王様が来ているのことに、お手紙のなにが関係あるの?
私とフィーリアちゃんはよくわからなくて首を傾げていると、ラビリスちゃんが答えてくれる。
「ハイエルフの女王は、獣神トラとお友達。お手紙を受け取った時にも一緒にいたわね。だから、まだリリーシュ様にお手紙を渡していないと知られたら……」
「約束したのに、お手紙渡していないのは駄目だね」
「そうなのです。お約束したからには渡さないとだめなのです。職務怠慢なのです」
なるほど。怒られちゃうから、慌てて渡そうと思っているんだね。
「正直に、言うのもありだろうが。そうなると、リリーシュやファイデのことだけでなく、他の神様のことまで話すことになるからな……」
「それは現実的ではありませんね」
「ただ頭がおかしいと思われるのがオチね」
みんな、神様がウィードに出入りしているなんて思わないよねー。
ルナお姉ちゃんやリリーシュお姉ちゃんなんかはウィードに住んでいるし。
「ということで、明日俺がミヤビ女王を相手にしている間に、リリーシュに手紙を渡してほしいんだ」
「リリーシュお姉ちゃんだけでいいの? ファイデおじちゃんは?」
「男のファイデは俺から渡す。お酒のみのついでだな。そして、アスリンたちは手紙を渡してそのままどんな内容の手紙だったか聞いてきてくれ。一応、ヒフィーやノノアからも聞いてみる予定ではあるが、子供相手の方が話しやすいこともあると思う」
「分かったのです」
「私が子供扱いなのは、ちょっとアレだけど、まあわかったわ」
「今ここで、リリーシュ様とファイデ様の喧嘩が激化するのは困りますからね。承りました」
そういうことで、翌日私たちは大事なお手紙を届けにいくことになりました。
「ま、届けるとは言っても、ウィードの中の移動だし、特に何かあるわけないわよね」
「油断は禁物ですよ、ラビリス。最近のウィードは多くの人が出入りしているのですから、窃盗などの話はトーリさんからよく聞きます」
「泥棒にお手紙はわたさないよ」
「そうなのです。アスリンとお手紙はフィーリアたちが守るのです」
「そうね。私たちがアスリンと手紙を守るわ」
「ええ。だからアスリンはお手紙をよろしくお願いします」
「うん」
ということで、やる気をだして出発したんだけど、いつもの慣れた道なので、特に何も問題なく教会にたどりつく。
教会は御祈りで訪れている人がいるけど、平日の朝だから、数が少なくてガランとしている。
「えーっと、リリーシュお姉ちゃんはどこかなー?」
「そういえば、朝に来るのは初めてだから、どこにいるのかわからないのです」
「多分、朝は教会の中でお祈りでもしているんじゃないかしら?」
「……司祭としては当然のことでしょうが、リリーシュ様ご本人がご自分に祈りをささげるのはどうなのでしょうか?」
「そういうのは言わないでよ」
「ごめんなさい。ラビリス。不意に気になって……」
そんなことを話しつつ、教会の中に入ろうとすると……。
「そこのあなたたち、こんな時間に何しているの?」
教会の前で掃除をしているシスターさんに呼び止められた。
「え?」
「うにょ?」
意外な人に呼び止められて驚いていると、シスターさんはヤレヤレといった感じで私たちに近づいてきた。
「もう、学校をさぼってきちゃだめよ? あそこはあなたたちの為になる場所よ? リリシュ様が優しいからって、甘えすぎちゃダメなんだからね?」
どうやら、教会に授業中にきている学校の子がいるみたい。
おさぼりはいけないんだ。
でも、どうしておさぼりしてるんだろう?
「貴重な情報ありがとう、シスター。でも、私たちはさぼりで教会に来たわけではないの」
「へ? じゃあ、何をしにきたの? 学校はいいの?」
シスターさんはラビリスちゃんのことを知らないのか、普通に問い返す。
「シスター、ご心配ありがとうございます。学校には、公務として外出すると連絡が行っているので問題ありません」
「こ、こうむ? ああ、公務。いや、子供が何を難しいことを……」
シェーラちゃんのことも知らないみたいだ。
新しく入った人かな?
でも、ラビリスちゃんやシェーラちゃんも知らないなら、どう説明したらいいのかな?
この人は、別にいじわるで言っているわけじゃなくて、心配して言っているみたいだし……。
そんな風に悩んでいると、教会の中から、リリーシュお姉ちゃんが出てきた。
「はい。朝の御祈りはおわりですので、今日も一日頑張りましょうねー」
そう言って、朝の礼拝に来ていた人たちを送りだしていた。
助かった、リリーシュお姉ちゃんに説明してもらうと思っていると……。
「リリシュ司祭様。あの、なにか変なことを言っている子供たちが来ているのですが」
シスターさんが先にリリーシュお姉ちゃんに話しかけていた。
「変なことー?」
「はい。公務でリリシュ司祭に会いに来たとかで……」
「こうむー?」
お姉ちゃんは相変わらずのんびりした口調で、首を傾げながら私たちの方へと顔を向けて……。
「あー。アスリンちゃんたちねー」
「お知り合いのお子さんでしょうか?」
「あはは、違うわよー。彼女たちは、ウィードを作り上げた最初の9人よー。あ、でもシェーラちゃんは違ったわね」
「え? 最初の9人というと、奴隷から、女王陛下を支えたという……」
「そうだよー。私たちはその9人のうちの3人だよー」
「そーなのです」
「ま、こんな小さい子が代表って言うのは信じられないのは分かるけどね」
「というか、リリシュ司祭様。私が仲間外れのような言い方は嫌です。私も今ではウィードを支る、この3人といつも一緒なんですよ?」
シェーラちゃんはそう言ってリリーシュお姉ちゃんにぷくーと頬を膨らませ抗議する。
かわいいよー。
「ごめんねー。そんなつもりはなかったのよ。で、このシェーラちゃんは、ガルツの王女様で、ユキさんに嫁いできたのよー」
「ガ、ガルツのお姫様ですか!? ちょ、ちょっと待ってください。ということは、この子たちが公務と言ってたのはのはうそではなく……」
「ええ、本当よー。この子たちは、お仕事でこっちに来たのね。いつもさぼってきてる子たちとはまた別よー」
のほほんとリリーシュお姉ちゃんがそう言うと、シスターさんはバッと膝をついて頭を垂れる。
「も、申し訳ありません!! いつもの子供達と思ってしまいました!!」
「ごめんなさいねー。彼女はウィードに来てから一月も経ってないからまだ慣れてないのよー」
「別にいいよー。心配してくれたのは分かったし」
「そうなのです。そのシスターさんはいい人なのです。というか、それよりも……」
「仕事の件はいいとして、いつも来ている、子供の件はあとでちゃんと聞かせてもらうからね?」
「ええ。まさか、学校をさぼっている人がいるとは思いませんでしたが、それを庇っているというのは見過ごせません。子供達は勉強をするのが将来の為になるのです」
ラビリスちゃんとシェーラちゃんは学校をさぼってきている子がいることの話をすんだけど、なんかリリーシュお姉ちゃんは困ったような顔をして……。
「うーん。言っていることは分かるんだけど、正しいから、将来の為になるからといって、押し付けるのは良くないわー。子供たちはそういうこともよくわかっていないからー。楽しくないことは苦痛になるわー。そして苦痛なことは誰だってしたくないものよー」
「ですが、そんな甘えは世界では通用しません!! こんなに整えられた、ウィードの学校教育が苦痛というなんて、一体どの生徒ですか名前を教えてください!! 私自ら話をつけます!! ここまで恵まれた環境で、そのような……」
「シェーラちゃん、まってー。確かに、シェーラちゃんの言う通りよ。でも、私はいいことだと思うのー。子供たちに遊びたい、と思う余裕ができてきたんだから。今まで辛かったんだから。まあ、当然度が過ぎればあれだけど、まだ、きつく言う段階じゃないとおもうのー」
「しかし、他の子供たちが真面目に授業を受けている間に、さぼるというのは……」
なんか、シェーラちゃんが熱くなってるけど、今は別のお仕事できているんだから、そっちをこなさないと。
私はそう思って、シェーラちゃんに話しかける。
「ねえねえ。シェーラちゃん」
「アスリン、どうしたの? 今ちょっと、リリシュ司祭と話すことが……」
「えーと、大事な話なのは分かるけど、今はお兄ちゃんの頼まれたお手紙届けないと」
「あっ、そうでした」
私はお手紙を取り出してそう言うと、シェーラちゃんは思い出したようで、落ち着いた。
そして、お手紙は当然リリーシュお姉ちゃんの目にもとまって……。
「お手紙―? 私にー?」
「うん。お兄ちゃんが獣神の国に行ったときに、預かったんだけど、お仕事が忙しくて、渡すのが遅れてごめんなさいってお兄ちゃんが言ってたよ」
「ユキさんは、大変だから仕方ないわよ。お手紙ありがとー。でも、誰からかしらー?」
「えーと、リテアさんからだよ」
「!?」
私が手紙の送り主の名前を言うとビシッと顔が固まる。
まあ、そうだよね。リリーシュお姉ちゃんの子供からのお手紙だし。
そんなタイミングを見計らって、待機していたヒフィーお姉ちゃんとノノアお姉ちゃんが現れて……。
「リリシュ。今後のハイレンの教育予定について……っていったい何かありましたか?」
「……いつもニコニコ顔のあなたが珍しいわね」
「あ、えっとね。リテアさんからのお手紙届けたんだけど……」
「リテアって……」
「そういうことね。リリーシュ、ここじゃなんだし、一旦、あなたの部屋に行きましょう」
「あ、うん。そうねー。ごめんね。ちょっと用事ができたから、またねー」
そう言って、リリーシュお姉ちゃんはヒフィーお姉ちゃんたちに連れられて、教会から出ていく。
恐らく家の方にいったんだろうけど……。
「あ、あのー。司祭様がいくなって私はどうすれば?」
残されたシスターさんは困った様子で私たちに聞いてくる。
「えーと、どうすればいいのかな?」
「いつもの通りに教会をやればいいのです」
「そうね。一か月もいるんだし、いい加減なれているでしょう」
「ですね。それに他の職員もいるでしょうし、心配することはないでしょう」
そう言って、立ち去ろうとすると……。
「今日は、私と、リリシュ司祭様だけなんですー!! た、たすけてー!!」
と引き留められて、そのまま私たちは教会で色々お仕事をすることになりました。
ということで、リリーシュに対してはアスリンたちが。
現在、ユキはミヤビを案内中。
そして、学校問題の発覚。
これはデリケートな問題だよね。
それはいいとして、リリーシュはどうなのるか? そして、ファイデは?




