落とし穴121堀:最後のオチ
最後のオチ
Side:カグラ・カミシロ
結局の所、私の運命の人はやっぱりユキなんだというのを再認識した。
だって、いつだって、私の危機に現れて、あっという間に助けてくれる。
これを、運命の人といわずになんといえば言えばいいのか、私には言い表せなかった。
「……この惚気はいりません。削除します」
そう言って、姫様は私が提出した書類にペンで横線を引いて行きます。
「えー」
「えー、じゃありません。今回の事は、ユキ様やルナ様から謝罪はいただきましたが、誰にも連絡せず、勝手にルナ様の命に従った、カグラたちにも問題があるのです。昼食に出ていって行方不明とか、バカにしていますか!! 子供だってお昼休みの時間ぐらい守れます!! カグラだけではありませんよ。ミコスもソロもです!!」
「「「……すいません」」」
そう言われて、素直に謝る私たち。
今、私たちは昨日の事件について、説明をする為に、祖国であるハイデンに戻ってきていたのだ。あ、報告書も徹夜で作った。
理由はさっき怒られた通り。
外交官がお昼休みにでて行方不明になればそれは当然怒られる。
私も理解できる。……大事だよね。
まあ、情状酌量の余地があるとしてもらっているのは、この世界の最上級神であるルナ様の命に従ったということと、ルナ様があんまり怒らないでねと、御神酒を持たせてくれたので、この程度で済んでいる。普通なら左遷で済めばいい方だ。下手をすれば物理的に首が飛ぶ。
因みに、御神酒というのは、大怪我どころか、古傷、欠損、生まれた時からの障害でさえも通常の人と変わらないように治療してくれる、神の奇跡のようなお酒だ。
それは小さいコップ一杯分でもあれば人1人を完全に治癒できるのだが、それが一升瓶で一本丸々。回数にすれば10回以上。
この御神酒の価値は計り知れない。有力者なら、いや、誰だってこんなお酒は欲しがる。
「はぁ……。まあ、今回の事は、先ほど言ったように、お二人から謝罪を受けましたので、対外的にはもう終わりです。ですが、しっかり反省するように」
「「「はい」」」
「というか、ルナ様から頂いた御神酒のことに関しては、正直に言うわけにもいきませんので、万能薬をユキ様からもらったと公表して、必要な者に配っています」
「え? わざわざ御神酒を貰ったことを、公表しているんですか?」
ミコスは不思議そうに姫様に問いかける。
だけど、駄目よ。その問いかけは……。
「公表をしなければ、ただ、貴方たちがふらりといなくなっただけと処理しなければいけません。ルナ様のことは言えない、あの場所のこともウィードの機密で言うわけにはいかないですから、そう報告するしかないのです。そうなると、貴女たちは仕事中に迷子になった無能になります」
「「「……」」」
そう、物凄い価値のある御神酒を秘匿しておくのではなく公表したのは、私たちの立場を守るためだ。
「わかりましたか? 御神酒のおかげで、貴女たちは迷子から、万能薬を手に入れるために行動していたとなったわけです。ですが、これは正直に言ってあなた達にとって厄介なことになるでしょう。ですが、……これもいい経験ですね」
「どういうことでしょうか?」
今度はソロが厄介なことになるのが分からず首を傾げる。
「ソロは分からなくても仕方ないわね。で、そっちの先輩、2人は私の言っている意味は分かっていますか?」
「「はい」」
「では、カグラ。私の代わりに教えてあげて」
「わかりました。今回のことで、私たちは失態を隠すために、万能薬を手に入れたという実績ができました。そして、万能薬は文字通りの効能があります。つまり、今後何かあれば万能薬を手に入れるようにと、色々な所からお願いされるかと……」
「ええ。その通りです。お願いは優しい部類ですね。最悪、武力行使や家族に手を出してくるような連中もいるでしょう。万能薬を持つということは、単に怪我を治せる薬を持っているだけではありません。大金を持っているのと同義です。わかりましたか、ソロ?」
姫様の言う通り、なんでも治せる薬をめぐって、治療のためはまだいいとして、お金や権力を求めて、私たちに接触してなんとしても万能薬を手に入れようとする輩がでるだろう。
で、その説明を受けたソロは神妙にうなずく。
「……はい。でも、それがなんでいい経験になるんですか?」
「それは、ミコスに説明してもらいましょう」
「はーい。えっとね、ソロ。その万能薬を渡せとか、ユキ先生に会わせろとか、無茶言ってくる連中を相手に、無難に収めてみせろってことだよ」
「はい。その通りです。あなた達は外交官です。ウィード相手により良い条件で我がハイデンの利益になることを引き出さなくてはいけません。ですが、今のあなたたちは縁故による外交官就任をしてるにすぎません。成果がなければいずれ、引きずり降ろされるでしょう。私も成果を出せないものをいつまでも外交官という立場につけておくわけにはいきません」
そう、私たちは外交官。
お仕事をしなくてはいけない。
だからこそ、この程度のことは乗り越えて見せろということ。
「幸いというか、意図的というか、ユキ様がルナ様からお詫びを引き出してくれたので、カグラたちの成果になりました。これは、ユキ様がカグラたちに外交官を続けてほしいという意思表示でもあります。邪魔だったのなら、今回の失態でさっさと送り返しますから」
つまり、これからわかることは、ユキはやっぱり私を助けてくれる大事な人ってこと!!
「まあ、二人は理解しているようですから、ソロは、先輩の言うことを聞いてよく学ぶといいでしょう」
「はい。わかりました」
さて、お叱りも時間は終わったようだし、私はそろそバイデに戻って仕事をしないといけない。
ユキに失敗を見られた上に助けてもらったのだから、ちゃんと仕事ができるところを見せないとね。
そう思っていると……。
「さて、注意や指導はここまでで良いとして、これからは報告書について質問をさせてもらいます」
「何かほかに疑問な点でも?」
報告書に何か問題のある書き方があったかな?
いや、私のユキに関することは削除されたし……。
「私が気になっているのは、今回判明したウィードの新たなる戦力のことです」
「戦力?」
「ああ、その存在については、カグラたちは幽霊、お化け、そしてエノラ司教代理に至っては怪物と記載がありました。戦力とは書かれていませんでしたが、カグラが怪我をしたと報告も受けました。それは十分に脅威となり得るモノです。それを知らずにいるのは危険な事だと私は思っています」
姫様のいうことは尤もだが、それはある種とても危険な事だと思う。
だって、ユキが、ウィードが幽霊を陣営に入れていることを危険視しているような物言いだからだ。
敵対を考えていると取られかねない。
というか、ユキと、ウィードと敵対などと言うのは、愚策でしかない。
そういうのは諌めないと……。
「カグラ。そう怖い顔をしなくてもいいですよ。敵対するつもりはありませんから」
どうやら、顔に出ていたらしい。
駄目ね。交渉事は顔色を窺わせないことが大事なのに。
「では、どういう意味で、ウィードの戦力を探るなど……。銃器について知っているだけでもかなりのことですが?」
「質問というのが悪い方向に捉えられてしまったようですね。別に、ここだけの話にするつもりはありません。カグラたちに幽霊の話を聞いた後は、ユキ様に時間をいただいて幽霊に対する認識、対応などを教えてもらおうと思っております」
「対応ですか?」
「ええ。今回のカグラが怪我、そしてエノラ司教代理が全く抵抗できなかったという報告から、幽霊の脅威度は計り知れないと思ったのです。幸い、今回はユキ様やルナ様の部下であったことで、危害を加えられることはありませんでしたが、敵対勢力が幽霊を兵力として使ってきた場合、甚大な被害が予想されます」
確かに、幽霊を兵士として扱って来たら、私たちは成す術がない。
そう思ったが、あることを思い出す。
「あ、でも今回は魔力やスキルを使用できない場所での出来事でしたので……」
「この報告書からは魔力やスキルが使えたとしても、カグラたちの攻撃がどこまで通用するかもわかりません。それを調べるためにも、まずはカグラたちからの意見を聞きたいと思ったのです。納得できましたか?」
「はい。ウィードと敵対という話ではなくて安心しました」
「ええ。私がそのようなバカなことを言いだしたら、殺してでも止めてください。将来的にはどうなるかわかりませんが、今の状況でウィードと敵対するというのは、ハイデンの終わりを意味します」
姫様の言う通り、ウィードに喧嘩を売ればハイデンは終わりだ。
だからこそ、最初の発言に顔を険しくしたんだろう。
「どう考えても、フィンダールやハイレ教もウィードに味方します。よほどウィードが乱心しない限り、ですが。いえ、よほど乱心しても、まず離れるようなことはないでしょう。敵対すれば終わりなのですから」
「ユキやセラリア女王陛下がいますから、そのようなことはあり得ません」
「そう願います。さて、そういうことで、貴女たちが感じた、幽霊の脅威について、説明してください」
そういう理由ならと、私やミコス、ソロは幽霊についての話をしていくことになる。
そして気が付けば、小一時間ほど、幽霊についての話をしていた。
「……その様子だと、神出鬼没で物理的な攻撃が効かず、相手に対して恐怖を抱かせる。そのような感じですね」
「はい。そのイメージで間違いないかと」
「正直、カグラから話も聞いてもいまいち信じられませんわね。そのような者がいれば、なんだってし放題ではありませんか。盗みも暗殺も自由。今まで被害が出たことが無いのが不思議ですわね。しかも元は、生きていた人なのでしょう? 死後、魂となってこの世をさまようのであれば、この世に幽霊で溢れかえっているはずですか? そこのところはどうなっているのでしょうか?」
「流石にそこまでは……」
私は幽霊の専門家ではないので、よくわからない。
「そうでした。詳しくは、ユキ様に聞くといたしましょう。実際、可能であれば、幽霊に会ってみたいですし」
「……えー、それはあまりお勧めしないです」
「「うんうん」」
あれはどうかと思う。
姫様もひっくりかえりそうだ。
いや、日光が照らすところで会えば怖くないのかな?
「心配であれば、カグラたちもついてきなさい。それが一番です。というか、カグラに怪我をさせた相手からなにか引き出せるかもしれないですから」
ここで、私に怪我を負わせたのはエノラですとか言ったら怒られるわよね。
なので、素直に聞き返す。
「え? 彼女にですか?」
あの彼女に何を要求するとか考えもしなかった。
確かに、追いかけられて迷惑を被ったのは事実だ。
「女性なのですか? カグラたちを追い詰めた方は?」
「はい。でも、彼女から引き出せるものは何もないと……」
身一つでこの世界で幽霊をやっているのだから。
と思っていたけど、あることを思い出した。
「あ、そういえば、彼女はユキたちと同じ、近い時間の日本から来たようです」
「ほほう。それは知識面でかなり引き出せるものがありそうですね」
そうか、日本の出身者なら、その知識の価値は計り知れない。
「まあ、勝手に聞き出しては、ユキ様もいい顔をしないでしょう。同席の下、話を聞くようにしましょう。そういうことで、ユキ様とその幽霊の彼女に話を通してください」
「わかりました」
「なるべく早く会いたいとも、お願いしておいてください」
「必ず伝えます」
そういうことで、ユキにその旨を伝えると、防犯上の関係から面会場所の指定や、知識に関しての引き出しはOKを貰えて、後日、姫様と幽霊の彼女、スズキノリコさん?と話した結果、絵が得意と分かって……。
『よーし!! 私はこの世界で漫画の神を超える!!』
「「「むりむり」」」
絵描きになることが決定したのだが、ユキ、タイキ、そしてコメットさんが同時に否定していたのが面白かった。
まあ、神様を超えるなるなんて無理よねー。
そして彼女はアロウリトという世界に漫画とBLという概念をばらまき、ユキに散々叱られるのであった。
「同人でやれ!!」
『何でよ!! 同人は広がるまで一体何年かかると思っているのよ!!』
「腐ってるのはお前の頭の中だけにしとけ!!」
『こうやって、偉い奴は自分の意見ばかりを押し通すのよ!! でも残念でしたー!! すでに、ハイデンとかいうお姫様にBL執筆たのまれてるもんねー!!』
という、会話があったとかなかったとか……。




