第693堀:ガイドさんたちによる説明
ガイドさんたちによる説明
Side:ユキ
「知り合ったのは、リテア聖国ができる前じゃな。のちに聖女と呼ばれることになるリテア殿が無名じゃったころじゃ……」
渡りに船というか、棚から牡丹餅というべきか、
ハイエルフの国の女王ミヤビは、これから向かう獣神の国のトップの獣神と知り合いだった。
「当時はまだ旅の回復術師でな。どこで拾ったのか知らんが、傷ついた白い虎を連れて、休ませてくれと門番に頼んだのが付き合いの始まりじゃ」
車で獣神の国に向かう途中で、獣神と知り合った経緯を話してくれる。
まあ、簡単に言えば、当時、入国希望者が待機する街も存在せず、ただひっそりと存在したハイエルフの国にたどり着いたのがリテアだったらしい。
でかい世界樹は、魔術を使って認識できなくしていたのだが、リテアにはそれが通じず、そのことを不審に思い、最悪のことを考えて拘束をしつつ、招き入れたらしい。
そりゃそうだ。聖女リテアは、今じゃ胃の痛い2人になっているが、愛の女神リリーシュと農耕神ファイデの娘である。ちゃちなとは言わないが、下手な精神干渉系の魔術が効くわけがない。
「そして、保護してみたらびっくりじゃ。ああ、うむ。リテアの元とはいえ聖女がいる前で言い辛いのじゃが、彼女はな、リリーシュ神、そしてファイデ神の娘じゃったのじゃ!!」
「「「な、なんだってー」」」
驚愕の事実!!
いや、知ってたけど、ここは驚いておかないと怪しまれるので、全員で驚いたふりをする。
ちなみに、この話を知らない、カグラたちやアマンダたちは、盛大に驚いてくれたので、ありがたい。
「……後ろのイフ大陸、新大陸の使者殿たちはともかく、ユキ殿たちは知っておったのか?」
あ、だめでした。
「それとも、信じておらぬのか? 妾はこの目で見たのだぞ!! ステータスを見せてもらったのじゃからな!! 嘘じゃないぞ!! いや、リテア聖国にとっては驚愕の事実かもしれんが、別に他意があるわけではない。ここだけの話にしてくれれば良いのじゃ。けっして嘘ではないぞ!!」
違った、嘘だと思われたと必死になって弁解している。
まあ、リテア聖国の秘密を知っているって話だしな。
下手をすると国家間トラブルだもんな。
それらを察して、ルルアが代わりに説明を始める。
「ある程度知っていましたというのが正しいでしょうか? 古い文献で信憑性があやふやで議論中でしたので」
「……ああ、なるほど。ということは迂闊に言わぬほうがいいか」
「はい。悪いことではないですが、リテア聖国からの公式な発表ではなく、ハイエルフの国から言われると色々問題になるかと」
「そこはいいとして、獣神に関しては?」
「おお、そこじゃったな。リテア殿が連れた獣神じゃが、当時はトラという名前でな」
白い虎の名前はトラ。安直過ぎんだろう。
「で、リテア殿の素性がわかってしまったのでな。誰もリテア殿やトラに手出ししようとは思わなかった。むしろ恩を売るために、積極的にサポートした」
そりゃな。神様の子供だし、喧嘩を売ったらどうなるかわからないよな。
援護に回った方がお得なのは正常な判断だ。
「その甲斐あってか、無事に傷をいやした獣神トラとリテア殿はこの国から旅立っていった。その後、リテア殿は我が国を庇護してくれるほどの大国を築き上げた。ありがたいことじゃ」
「ん? 獣神のほうは?」
「うむ。リテア殿と共にいるのは、当時魔王のことや、国を建国したこともあって難しくてのう。しかもリテア殿は人族じゃ、なので、妾を再び頼ってきたので、近場にあった獣人の村においてもらったのじゃよ。我が国で匿ってもよかったが、この国の立場上簡単に門を開けることもかなわん。同族でもなし、リテア殿が訪問しやすい場所がいいと思ってな。リテア殿も同意してくれた」
「なるほど。つまり、聖女リテアはこの国の事情を把握して、黙っていてくれたと?」
「そうじゃ。ルルア殿も知らぬようだったし、最後まで秘密を守ってくれたようじゃな。義理堅いことじゃ」
義理堅いね。
夫婦喧嘩に挟まれて、忘れてたとかじゃないだろうな?
神と名のつく関係者には迷惑という認識しか今の俺にはないからな。
そう、俺が神連中に対しての未だ変わらぬ評価を考えていると、不意にリエルが口を開く。
「あのー、ミヤビ様。獣神様のことは聞いたことがあるんですけど、お話ししたって話は聞いたことがないんですけど、喋れるんですか?」
そうだ。獣神とはいえ、獣。
人の言葉喋れるのか?
「うむ。そこは心配いらぬ。念話? 魔力を振るわせての会話は可能じゃった」
「そっかー。でも、そうなると、僕たちの出番は減るかー。がっかり」
「リエル殿。そんなに落ち込むことはないぞ。妾は出不精じゃし、リエル殿たちがまずは説明しに行った方が、すんなりいくじゃろう。お願いできるかのう?」
「あ、はい。任せてください」
「……任せて」
「うむ。頼むぞ」
リエルたちにもちゃんと気を遣ってくれるところは、流石は長い間女王はやっていないな。
これなら、近いうちに残念女神たちと顔を合わせても問題ないだろう。
ショックを受けても俺のせいじゃないと言ってはおくけどな。
と、そんな会話をしている間に、マローダーからマイクロバスに切り替えた俺たちは獣神の国の近くへとやってきたのだが……。
「そこの不審な馬車!! 止まれ!!」
と、盛大に威嚇されたというか、兵士たちが盾を構えて完全に戦闘態勢に入っていた。
なんでだろうと思いつつも、蹴散らすわけにもいかず停車して様子を伺っていると、1人の兵士がこちらに警戒しながら近づいてきた。
「昨日、村人から見たこともない化け物が街道を走っているとの報告が入っている!! それに関しての話が詳しく聞きたい!! そちらの代表は降りて説明を求める!!」
ああ、未だに車を見たことない人はいるだろうし、ほとんど交流がない地域だから、警戒されたわけか。
とりあえず、降りて説明するしかないが、相手さんは犬?狼?の獣人さんだし、説明はトーリに任せて方がいいだろう。
ということで、トーリたちを連れて車から降りる。
「俺がこの車、馬車の代表で、ウィードからきたユキだ。そして……」
「護衛のトーリと申します。……ユキさんはウィードの王配です。そちらには事前に連絡はしたはずですが?」
「ウィードの? 確かに話は聞いていますが……流石にこれは……。なにか証拠になる物などはお持ちではないでしょうか?」
まあ、自動車を見たこともない人にとっては恐るべきものだよな。
トーリは不満そうだが、俺としては当然の反応だと思う。
ついでに、村人の報告でここまで出張ってきてるんだから、兵士としては真面目だろう。
いきなり襲い掛からず誰何してきたんだし。
ということで、リテアからもらった手紙をトーリ経由で渡してもらう。
一応、ウィードの代表として会いにきているから、身分の低い人相手に直接渡せないのが面倒だよな……。
「……確かに確認いたしました。しかし、見慣れない乗り物ですので、同じようなトラブルがあるかと思われます。ですので、案内をと言いたいのですが、街道の化け物がウィードの方々が乗ったこの乗り物とは断定できませんので、我が隊はこのまま辺りの捜索をさせていただきます。代わりにと言っては何ですが、こちらをお持ちになってください。私の階級章となります。これと私から渡された旨を伝えればトラブルは避けられるかと思われます」
とまあ、よくできた兵士さんで、その丁寧な姿をみたトーリたちも不満はなくなったのか、差し出された階級章を丁寧に受け取る。
「ご丁寧にありがとうございます。ですが、いつもこのように警戒、出動されているのですか?」
「いえ、今回は見たとこもない化け物が出たということと、ウィードの王配様が見えられるということで、いつもよりも警戒を厳重にしておりました」
なるほど、つまりこの警戒網に引っかかったのはある意味、俺たちの自業自得というわけか。
しかし、交流がないところに行くと、当然の反応ではあるよな。
ということで、誤解は解けたので、道を確かめてから再び移動を開始する。
その間、今後は交流のないところでは馬車を使うか? とみんなに相談してみたが、安全性を考えると、馬車より車の方がいいと言うので、馬車は却下となった。
あ、ちなみに、兵士さんは伝令兵を出してあちこちに俺たちのことを報告してくれたのだが、伝令兵よりも、俺たちが獣神の国へつく方が先だろうな。追い越したし。
だけど、車の移動速度が速いおかげで、他の兵士とは会わなかったし、追いかけられることもなかった。まあ、俺たちが向かってきたルートの警戒はあの兵士さんたちがやっていたので当然と言える。
そして、王都が見えたので、手前で車を降りて、あとは徒歩で向かうと、遠目で車が見えていたのか、大勢の兵士がこちらに向かってきていた。
ハイエルフの国は世界樹が大きかったおかげで、こちらも結構前から降りられて警戒されずにすんだが、こっちは壁が見えてから降りたので、兵士の目に留まったのだろう。
「止まれ!! ここを妙なモノが通らなかったか!! それとそちらの身分を明かされたし!!」
同じように聞かれ、特に隠す必要性もなかったので、ウィードからの使者であることと、車の説明をし、そのまま護衛?をされながら、獣神の国王都へと入って行った。
王都と言っても小国、そしてハイエルフの国のように世界樹などという、名物もなく、ただ城塞がそびえた簡素で、自然が多い町という感じだ。
不思議なのは、城塞の後ろに壁を挟むことなく、平坦な森が広がっていることだろう。
あれでは魔物が入ってくるのではと思ったが、王都の案内を務めてくれた隊長さんの話によると獣神様があの森を仕切っているので、こちらまで魔物が来ることはないそうだ。
逆にあの森に無断で立ち入るのも禁止されていて、無断で立ち入ると厳しい処罰があるらしい。
まあ、神様が住む場所だから当然か。
そんな説明を受けつつ、王が待つ城へと到着する。
「ねえ。いまさらだけど、なんで獣神の国なのに、王様なの?」
カグラは至極尤もな質問をすると、リエルが答える。
「あはは、そりゃそうだよ。ハイレ教だってハイレンが女王様ってわけじゃないでしょう?」
「ああ、そういえばそうね」
「祀っているだけで、実際には王様がこの国をまとめているんだと思うよ。ね、ユキさん」
「情報だとそうだな。獣神の庇護を求めて集まった人たちがこの国を作った感じだからな。ミヤビ女王が言っていただろう? 元は村においてもらっただけだって、きっとそれが始まりなんだよ」
「ええ。ユキ様の仰る通り、我が国は獣神様が住んでいた村を中心に発展いたしました。当時は今よりも国の興廃が激しく、そのたび難民が生まれました。その中で迫害などされた獣人も多く、そういった人たちが獣神様のことを聞きつけて、こちらに集まったとされています」
町中はやはりというか、獣人が多く逆に人族は少数だ。
しかし、ハイエルフの国とは違って門は閉じているわけではないので、普通に交流はあるようだ。
だが、上の方は外に関心がないと言ったところか。
ま、話ができればそれでいいんだから、特におせっかいを焼く必要もないだろう。
俺は特に不安を持つことなく、そのまま城へと入って行くのだった。
左に御覧に入れるますのは……。
とガイドさんの説明を聞くのは年を取って落ち着いてきてからであり、
学生の時はせわしなく喋っていた気がする。
みんなもそうじゃね?




