落とし穴105堀:年越しの贅沢
年越しの贅沢
Side:ユキ
「さぶさぶ……」
「寒いねー」
「寒いのです」
「寒いわね」
「今日もより一層という感じですね」
そんなことを言いながら、俺と、アスリンたち4人組はウィードの街を歩いていた。
しかし、この寒さの中にも関わらず、ウィードの商業区は非常ににぎわっている。
それも当然、現在の日付は12月29日。
年越しまであと2日と迫っているのだ。
ウィードの年越し、正月は賑やかにというのが、もはや定番になっているので、ウィードの住人たちは、来たる年越し、正月に向けての準備に大忙しなのだ。
いや、商売をする側も稼ぎ時なので、どの商店も歳末セールなどと銘を打って、集客に力を入れている。
このクソ寒いのに、店舗外に店員がでて呼び込みをしているのだから、どれだけ頑張っているのかよくわかると思う。
「みんなも、年末のじゅんびだねー」
「お正月の準備もなのです」
「そうね。私たちも大掃除したし」
「あとは、食材の買い足しですね」
そう、俺たちも周りの人たちと同じく、年越し、正月の為の食材を買いにきたのだ。
DPで取り寄せができるじゃないかという意見はもう嫁さんたちからはでない。
こういう時に、給与として支給されているお金を使わないと、俺たちのお金は財布にたまる一方なのだ。
普通の収入なら、なるべく抑えつつとか思うが、俺たちはこのウィードの運営側で、それ相応の額を給与としてもらっている。
それを使わずにいるとウィードの経済活動の妨げになるとまでは言わないが、俺たちがわざわざ商業区に来て買い物をしているということが、さらに購買意欲を掻き立てるし、色々相乗効果があるのだ。
自ら年越し正月の散財を促しておいて、お金を使わないというのは気まずいというのもある。
「今日は、御餅とかお酒だな。魚、お肉は市場を見てだな」
「お魚屋さんっておもしろいよねー」
「図鑑で見たこともないのがいるのです」
「お肉も珍しいのがあるわよね」
「冒険者ギルドからも色々放出してますからね」
そう、魚屋や肉屋はウィードができてからの流通経路の簡略化により、新鮮な魚や肉の流通が大幅に増え、一般家庭でも気軽に手に入れられる金額に落ち着いてきたのだ。
それにより、需要の拡大。ウィードだけではなく、各国に新鮮な魚やお肉を輸出している国は大儲けである。
まあ、お肉に関しては、今の所冒険者ギルドが一番儲けている。
冒険者が倒す、魔物のお肉という奴だ。
この転送ゲートができてから、魔物討伐による肉の入手は冒険者ギルドの大きな財源となっている。
腐らせることなく、売りさばくことができるからだ。
ウィードではダンジョンモンスターだけなので、お肉が手に入らない。ダンジョンでは魔物はドロップアイテムだけになるので、こういうところは、ダンジョン外にある冒険者ギルドだけの稼ぎ方と言えるだろう。
今の所、豚や、牛、羊などの食用繁殖を行ってはいるが、まだまだ数年である。食用として生産体制が確立するまでは時間がかかる。
魚に関しては、国土の問題があって、海や大きな川があるところに限る。
こればっかりは仕方がないとしかいいようがない。
まあ、その分、水害などの対策がいるのでそういうメリットデメリットを理解していればトントンだろう。
だが、そういうところを理解していない国が、海や川を持っている国をうらやんで、色々いざこざが起きているらしいが、そういうのは4大国のロシュールとか、ガルツとか、リテア、ルーメルで話し合って決めることである。
こんなところまでウィードが顔を出したら、それこそ問題になりかねないからな。
あくまでも、ウィードは流通手段を貸し出しているだけの小国家であるというスタンスでいなければ、他国が不安になるだろう。
あくまでも、このロガリ大陸の国際問題の解決は4大国、ないしこれに魔族の国、ラストが加わって決めることになる。
まあ、この5大国の連合軍を無視して喧嘩など吹っかければ、潰されるのは目に見えているので、大規模な戦闘などは起こっていない。
せいぜい、国境小競り合いぐらいらしい。
ま、そこはいいとして、俺たちの基本的な食事は、地球の魚、お肉がメインなので、異世界の市場を見るのは色々楽しいのである。
ラッツやミリーにとっては物珍しいものではないが、アスリンたちや俺にとっては物珍しいものなので、食材を買うついでに、見物もしていこうと思っているのだ。
……ま、女性陣はそんなことよりも、年明けの福袋確保作戦会議を行っているので来ていないというのが真実だったりする。
今年も、俺はまた駆り出されるのかと、萎えてくるが、嫁さんたちが散財するのはこの福袋系だし、楽しみにもしているので、それに付き合うのも夫として必要なことだろうと思っている。
で、そんなことを考えながら、まずはお餅やお酒の確保のために、商業区のスーパーラッツへ。
年末のせいか、さらに人が多いように見える。
「あ、ナナちゃんだー」
「ナナー」
アスリンとフィーリアはこの店舗の店長である、妖精族のナナを見つけて駆け寄る。
どうやら、商品の補充を行っているようだった。
「ん? あ、アスリンちゃん。フィーリアちゃん。いらっしゃい。お買い物?」
「うん。お兄ちゃんたちと買い物にきたんだよ」
「年末の御餅とお酒の確保なのです」
「そっかー。あ、ユキさん、ラビリスちゃん、シェーラちゃん、こんにちは」
2人と話しつつ、俺たちが近づいてきたのに気が付いて挨拶をするナナ。
流石店長というべきか、そんな風に話しつつも、作業はやめない。他の働いている店員の見本となるよい店長である。
「おう。こんにちは」
「やっほー、ナナ。大変そうね」
「こんにちは。ナナさん、やっぱり年末って感じですか?」
「そうですね。こうやって、私が売り場の補充してるぐらいですから。普段なら、今頃は、裏で発注とか事務処理ですよ」
だろうな。
コンビニなどの小さい店舗ならともかく、こういうスーパーでは毎日の仕入れとか、シフトの管理とか、経理とかで店長は基本裏側だ。その店長までもが表にでて他の店員でもできる仕事をしているということは、忙しい証拠である。
となると、長話をするだけ、ナナの負担になるな。
「忙しいところ悪かった。適当に眺めて、御餅とお酒買っていくよ」
「はーい。私がおすすめするといっても、ユキさんの故郷の品物ばかりですからね。私が案内やおすすめするのは難しいですから」
「いや、きっとナナの方が日本の商品については詳しいと思うぞ。そういう話は落ち着いたときにでもしよう」
何せ既にスーパーラッツに勤めてというか、スーパーラッツがウィードにできたころからいる最古参であり、勤務年数は3年以上。
そういう俺は、店舗経験は近くの駄菓子屋のばあちゃんの代わりに留守番をちょろっとした程度だ。
どう考えても、ナナの方に商品知識の軍配はあがるだろう。
「そういっていただけると嬉しいです。じゃ、今度お正月明けぐらいにお話しでもしましょう。ごめんね。アスリンちゃん、フィーリアちゃん」
「ううん。いいよー。お仕事頑張ってね」
「頑張るなのです。そして、お正月明けにお話し一杯するのです」
「うん」
そういって、別れる寸前に聞きたいことが思い浮かんだので、そのまま聞いてみることにする。
「そういえば、ここで買い物が終わったら、生鮮市場のほうで、珍しい、お魚やお肉、果物でも買おうかなーと思っているんだが、何かこれって言うのはあるか?」
「えーっと、わざわざ、市場で買うってことは地球の物じゃなくて、こっちの物ってことですよね?」
「そうそう」
現地で生きて、俺たちの知り合いでもあるナナなら、ハズレを勧めるとは思えないから、聞いてみようと思ったのだ。
「うーん。……あ、ルビーボールなんてどうですか?」
「ルビーボール? なんだか、ブドウとか、サクランボみたいなイメージが浮かんだけど?」
「はい。似たようなものですね。でも、綺麗な赤色で透き通っているので、宝石の名前がついています。美味しいですよー。前住んでいたところでは普通に採れました。まあ、ブドウやサクランボと違うのは、ひと球で生っているんです。数が取れないから高級ってウィードに来てから知りました」
「へー」
やっぱり、こっちでも珍しい特有の食べ物って言うのはあるみたいだ。
宝石の果物か。探してみよう。
「ありがとう。探してみる。沢山あったらナナの分も買っておく」
「わ。本当ですか。ありがとうございます。じゃ、がんばって探してきてください!!」
ナナの目の輝きが増している……。
なんか、絶対見つけてきてって感じになっている。
やべえ。なんか地雷踏んだ気分。
とりあえず、その場でナナの希望を断ることはできず。
話を適当に切り上げて、御餅とお酒を確保して、スーパーラッツからでて、市場に向かっていると……。
「フィーリアちゃん。るびーぼーる探そうね」
「ナナが美味しいっていったから絶対見つけるのです」
と、2人は張り切っている。
それを見たラビリスとシェーラが……。
「これで見つからないとかは、酷いわね」
「……最悪、DPで取り寄せですね。というか、相場はいくらぐらいなのでしょう?」
「市場に流れるくらいだから、そこまでぶっ飛んで高いわけじゃないだろう? というか、シェーラは王族の食事で出てこなかったのか?」
「そうね。シェーラなら食べたことがあるんじゃない?」
「……あるにはありますが、今と昔では既に相場が違いすぎます。美味しいのは認めますが、まだゲートがなかった時は、妖精族が好む魔力の果実の宝石と言われたほどです。実際、普通の人が食べれば魔力が全部回復すると言われるぐらい、回復力の高いものです。そのくせすぐ駄目になりますから……」
「……となると、今の相場はわからんな」
「シェーラの話を聞く限り、一般的なアイテムどころの効果じゃないわよ?」
普通に果物として美味しく、さらに魔力大回復までついたときたら、そりゃーお高いだろうな。
見つかるといいな。アスリンとフィーリアの為にも。
と、思っていたら、簡単に見つけることができた。
「みつけたのです!!」
「わー。すごーい。宝石みたいだー。ねえ、おじさんこれって、るびーぼーる?」
「おう。よくしっているなお嬢ちゃん。って、ウィードの住人なら知ってて当然か、なにせ妖精族が住んでるからな」
と、3人で賑やかに話しているところを俺たちが覗き込むと、意外なことが判明する。
「あれ? 高くないわね?」
「いえ。十分高いですけど……。十分に一般でも買えるレベルですね。魔力を回復する効果もあるのになんで?」
2人の言う通り、どっかの王室御用達というレベルの値段ではない。
せいぜい、一個、ひと球、サクランボサイズで200円といったところだ。
十分高いが、まあ、ブランド品ならよく見るレベルだ。
アレだな。お歳暮とかに贈るぐらいの値段。
ビールよりは確実に安い。
まあ、王室御用達は選ばれたルビーボールだろうし、比べるのもアレだろうがな。
2人の会話が聞こえたのか、おっちゃんはアスリンとフィーリアから視線をはずしこちらを見て口を開く。
「そりゃー、このルビーボールはせいぜい持って4、5日がいいところだからな。回復薬としては下の下だな。ただ美味しいだけの果物ってところだ」
「なるほど」
4、5日しか持たないって言われると、地球なら十分かもしれないが、流通システムができていなかった、このアロウリトでは致命的だ。
4、5日なら採れる場所から、せいぜい、隣町ぐらいまでが限界だ。
「ま、最近はウィードのおかげで腐らせる前に売れるから、それなりに売れるようにはなったが、その分数が捌けるから、売り上げ単価は下がったな。昔は貴族とか金持ち、王族様たちに食べて貰うぐらいが精一杯だったけどな。ま、美味いものが多くの人に食ってもらえて、喜んでもらえるから、俺はそれでいいと思う」
どうやら、売り上げ単価が下がったことによるウィードへの恨みはないらしい。
「というか、売り先が増えて、ある意味前より儲かっているからな。戦争が少なくなったとはいえ、魔力を使う仕事は多いからな。このルビーボールを定期的に買って行ってくれるところは多い。ウィードのゲートのおかげだな」
なるほど。
そういう意味でも、ちゃんとウィードのゲート流通システムは喜ばれているようだ。
「と、話はいいか。どうだい? ちょっと高いが、味は保障する。もうちょっと高めのルビーボールもあるぜ? どうだい、兄ちゃん。妹さんたちに買って行ったらどうだ?」
「むー。私はお兄ちゃんのお嫁さんだよー!!」
「そうなのです。お嫁さんなのです!!」
「おおっと。こりゃ失礼をしました。旦那さん。奥さんに美味い果物はどうでしょうか?」
そうすぐにアスリンとフィーリアの訴えに答えて切り替えるおっちゃんは凄いと思い……。
「じゃ、高いのを200個で」
「200!? やすくなったとは言え、結構するぜ? 俺から言っておいてなんだが、無理してねえか?」
「大丈夫だよ。これでもしっかり稼ぎはあるんでね。ほい」
そういって、俺は200個分の額を渡す。実に約一個500円で、トータル10万円ほどの出費だ。
普通の家庭じゃかなりきついが、今の俺はこれぐらいじゃ財布はびくともしないので問題なし。
「まあ、貰うものはもらったから、俺からは何も言わないが。無理だけはすんなよ?」
「わかってるって」
そんなおっちゃんの気遣いに癒されながら俺たちはその場を後にした。
いや、いいお土産ができたな。
味見して、デザートに使えるなら色々作ってみよう。
年越しには少し良いものを。
という人は多いでしょう。
普段は安いもので済ませているところを、ワンランク上の品物にしたりとかはあるんじゃないでしょうか?
しかーし、年越し、正月での食べすぎにはご注意を。




