落とし穴102堀:森の中のエルフ大樹海を知らず
森の中のエルフ大樹海を知らず
Side:エリス ウィード会計課 副課長 エルフ族で弓、射撃が得意
トクン、トクン……。
自分の鼓動がうるさいと感じる。
すぅ、はぁ……。
自分の呼吸も耳障りだ。
落ち着け、落ち着いて呼吸を静かに、静かに……。
私はそう自分に言い聞かせて、じっと、スナイパーライフルKar98Kを構える。
スコープを覗くと、建物の中に人が複数人いる。
いや、具体的には3人。
『こちらミリー。エリス。配置に着いたわよ』
『こちらラッツ。こっちもOKですよ』
『……こちらカヤ。カバーの配置に着いた。あとはエリスの指示で動く』
耳に無線での連絡が届く、MAPを見ると、目標の建物を挟み込むように、ミリーとラッツが配置について、カヤが私の目の前の岩陰に隠れている。
「了解。目標があと1人見えない。3人だけかもしれないけど、そっちからは確認できる?」
『いえ。こっちからは目標は見えないわ』
『私の方も目標は見えませんね』
『……カバー地点からは二階に3人うろついているのは見えるけど、エリスの言うように1人見えない』
「最大4人だけど、この人たちは3人で動いているのかしら?」
『別に時間はあるのだし、出てきたところを狙えばいいんじゃない?』
『そうですねー。迂闊に今攻撃して、屋内に籠られると困りますし』
そう、私たちは今、パソコンのネットゲームをしている。
具体的にいうならプレイヤーズノーサーチバトルフィールド、略してPNBF。
そこまで大きくない島に100人が無手で降ろされ、建物などに落ちている武器を拾って最後の1人、または1チームになるまで殺し合うゲームだ。
ゲーム。つまり、ユキさんの故郷、地球で流行っているゲームだ。
ネットゲームは特別にルナさんが許可を出しているようで、無駄な情報は送れないようになっているが、こういうことはさせてもらえるようになっている。
というか、そのルナさんも……。
「ぐわー。そんなのありー!? 早く、早く!! しぬー!?」
「ああー、うっさい!? そんなに叫ばなくても聞こえるわ!?」
「はいはい。今行きますからねー」
「援護するぞ、タイキ君」
そんな騒がしい声が、ヘッドホンからではなく、後方から聞こえてくることからわかると思うが、仲良くプレイしているのだ。
『あはは……。ルナさんは相変わらずね』
『ま。ルナさんのいいところでしょう』
『今は正直うざい。……目標消えた!? エリス!!』
カヤに言われて画面を見ると二階にいた3人が姿を消していた。
「目標、二階から移動。おそらく出てくる。構えて」
『『『了解』』』
今はルナさんが死にそうなのはどうでもいい。
まずは目の前の敵を排除して、安全を図らないと……。
そう思いながらスコープを覗いていると、家のドアが開いて、警戒しながら目標の3人が出てきた。
やはり1人足りない。
元々から3人なのか? それとも私たちと遭遇する前にやられたのか? それか、未だにどこかに伏せている?
『狙えるわよ』
『こっちも』
『カバーもいける』
3人は既に家から離れて警戒しながら近場の森へと足を進めている。
未だに最後の1人は見当たらない。
ここでやらなければ、逆に待ちかまえられかねない。
やるしかないか。
「みんな。撃って」
『『『了解』』』
パン、パパン、パン。
そんな銃撃音が辺りに響き渡る。
敵は被弾した後、すぐに回避行動をとるが、遮蔽物の無い場所では弾丸はよけられない。
すぐに3人ともダウンになる。
そう、ダウンだ。KILLしたのではない。
「みんな、気をつけ……」
パン。
私が注意を促す前に、発砲音が響く。
『うわっ!? ご、ごめん、ヘッドショットで一発』
『どこから!?』
『発砲音は森のほうか……。きゃっ!?』
パパパンッ。
『ごめん。やられた』
一瞬のうちにミリーとカヤがやられた。
なんて腕前。
『目標発見。カヤの言う通り森の方向60度』
となると、私の横!?
慌てて私は側面の確認をすると、木の陰に身を伏せている残りの1人を見つける。
あんなところにいた!?
私は連絡を取らずにすぐに照準を合わせて、引き金を引く。
パパパンッ!!
「KILL!! ラッツはすぐにミリーとカヤの救護。私は物資を回収するわ」
『『『了解』』』
1チームを排除してすぐに次の行動に取り掛かる。
が、そう上手くもいかないようで……。
パパン!!
「撃たれた!? どこ!?」
『発砲音は右!! 草原、開けた方から!!』
さっきの銃撃音で他のチームがやってきたわね。
咄嗟にラッツに言われた方向から見えないように木の裏に隠れる。
ビシビシビシッ!!
木に銃弾が当たる。
方向は間違いなかったけど、どうする?
物資の回収はできていない。
「ラッツ。2人は?」
『こちらミリー。大丈夫。復帰したわ』
『……こっちも。ラッツに回復してもらってるから大丈夫。幸い回復アイテムはあるから、全快できる』
『というわけですが、そっちは物資の回収できなさそうですね』
「無理ね。そっちから、攻撃できる? こっちは頭押さえられてて、顔を出せないわ。敵は遮蔽物に隠れながら移動している。数は2」
『2人ですか、なら建物を壁に狙えるかやって……』
ラッツからそう連絡を受けているときに、不意にエンジン音が鳴り響く。
ドドドド……。
「どこ!? 近づいてない!?」
『うげっ!? 敵とは逆方向から車!!』
ラッツからの連絡で、そちら側に目をやると、確かに車がこちらに走って……。
パパパ……。
私に向かって発砲してきた。
「見つかってる!? このままじゃ挟まれる。家の方まで走るから、徒歩で来てる連中をけん制して!!」
『『『了解』』』
私はそういうなり、一気に木の陰から飛び出して、家の方へと走る。
銃撃が私を追いかけるように響く。
でも、車から発砲なのでそうそう当たらないのが幸いで、何とかラッツたちと合流を果たす。
「徒歩の連中は?」
「倒せてないですね。遮蔽物に隠れて終わりです」
「……もうちょっと近づいていたなら一気にやれたけど、遠かった」
「顔を出した瞬間にばれたからね。発砲もしちゃったし、こっちの位置はばれちゃったわね」
やれてなかったのは、ちょっと痛いわね。
「車の方はどうなりましたか?」
「私が建物に移動したのを見たら、すぐに離れて行ったわ」
「じゃ、向こうの2人の敵とは関係なしかしら」
「……チームなら挟み込んでると思う。それか、回収に行ってる」
車の連中は今隠れている2人とは無関係そうね。
「どうする? ここで構えてあの2人をやる?」
「それはどうでしょう? もうここで随分ドンパチしてますし、また横やりが入るかもしれませんよ?」
「……微妙な所。背中を見せれば撃たれる可能性もある。一応、建物を背に逃げれば退避できる可能性はあるけど。物資は奪われるかも」
……ラッツの意見も、カヤの意見もわかる。
もうここで遭遇戦を連続でしているから、他のチームが漁夫の利を狙ってきている可能性は十分にあるし、かといって、ここから無事に離れられるかというと難しいし、先ほど倒した敵が持っていた物資は全部、今来ている2人に奪われる可能性がある。ここで移動してしまえば、先ほどの戦果は敵を減らしただけで、弾薬と回復薬を消費した分、今後の戦闘は厳しいものになるだろう。
「残りの弾薬と回復は?」
「私の方は、さっきダウンしたから、回復薬が空っぽね。弾薬はほとんど撃ってないから減ってないわ」
「……同じく」
「私の方に回復薬がありますから、それを分けましょう。ちょうど一つずつありますよ。弾薬は今の所問題なしですね」
「私は、運よく被弾していないけど、回復薬はないのよね。……うーん。よし、ここは離脱しましょう。先ほどの戦闘では回復薬の消費があったけど、一応補える状態だし、別の場所で取ればいいわ。ここに留まる方が危険。どう?」
「「「賛成」」」
全員賛成したので、倒した相手の物資は悔しながらも放置して、建物を背に、森の方へと離脱をする。
幸い、車で走り去った連中は森の中で待ち構えているというわけでもなく、安全に森を進んでいると、立ち去った建物の方向から激しい銃撃音が聞こえてくる。
「おー、やっぱり他のチームが来ましたね」
「移動して正解ね」
「……あれに巻き込まれていたら、時間以内に範囲内に離脱できなかったかも。ほら、次の範囲でた」
「ほんとだ」
カヤに言われてMAPを開くと、次の戦闘範囲は北の方向になっている。
私たちは戦闘範囲外にいるので、時間内に戦闘範囲内、バトルフィールドに行かなければダメージを受けて最終的には死亡してしまう。
このルールが、このゲームの凄いところだ。
島全体を戦場としてはいるが、制限時間ごとに戦闘範囲がランダムに小さくなっていくので、ずっと同じ場所に隠れているという戦法は使えないし、安定した安全な場所というものは存在しない。
毎回、MAPの範囲で多種多様な戦闘が楽しめるのだ。
武器の回収運、そして戦闘範囲の運とかなり運に左右される。
「どこかで車探さないと」
「都合よく見つかりますかねー」
「……バイク二つでもいい」
「とりあえず、開けた場所に出るときは警戒してね。あと後ろも、いつ撃ちあいが終わってこっちに来るかわからないんだから」
運よく乗り物が見つかるとは思えないし、たぶん徒歩ね。
そう思いながら歩いていると、森の先に道路が見えてくる。その先は山なりになった森が存在している。
「向こう側の森に敵は見える?」
私はスコープを覗きながら警戒をするが、私の眼には敵は映らない。
「こっちも見えないわ」
「同じく、見えませんね」
「……後ろからの発砲音が途切れた。聞こえなくなったというより、終わったとみるべき」
「うだうだ悩んでる暇ないわね」
後ろの連中は慌てて戦闘範囲内に移動開始するだろうし、下手すれば私たちが後ろから撃たれかねない。
ここは一気に走り抜けるしか……。
「と、ちょっと待って、道路、西側に車両発見」
「お、マジですか? おお、あったあった」
「……ジープ。まあ、この際しかたない」
「ちょっと遠いし、戦闘範囲からは遠ざかるけど、あれを手に入れるわよ」
「「「了解」」」
私たちは森を盾に、車へと近づいていく。
戦闘範囲が狭まってきて、これで車が使えなかったら、かなり厳しい戦いを強いられるだろう。
「敵は……いるようには見えないわね」
「そりゃー、もう範囲が狭まっていますからね。車を見つけて放置するわけないでしょう」
「……私とエリスがカバーするから、2人は車の回収を」
「そうね。それでお願い」
「「了解」」
私とカヤは倍率スコープを持っているので、遠距離からの狙撃が容易い。
ミリーとラッツは主にマシンガン系なので、どちらかというと近距離戦向きなのでこういう行動に移りやすい。
何度かこのゲームをしているうちに、そういう武器持ち、役割になっていた。
「……マシンガンで近距離戦とか、不思議」
「そうね。私たちの常識で言えば近距離戦なんて、剣とか槍だったのにね」
『今更ながら、スティーブたちが剣を持つのを嫌がるのがわかるわ』
『ま、当然ですよね。わざわざ自分が死ぬ危険がある、斬り合いになんか行きたくありませんって。こっちは銃で敵の手の届かない距離から撃てばいいだけなんですから』
ユキさんたちの世界から言えば、私たちの世界で当たり前の斬り合いの距離は格闘戦とか近接戦、インファイトとか言われて、近距離戦よりもさらに近い時の戦いを指すことになっている。
しかも、剣などではなく、体術とナイフが戦闘の主だ。
まあ、取り回しのいいナイフの方が剣よりもいいというのは理解できる。
剣を振るう距離ならハンドガンで撃った方がいいのよね。
……ユキさんはさぞかし、この世界に来て、戦い方の古さに頭を抱えたでしょうね。
そんなことを考えながら、ミリーとラッツが車に接近しているのを見ていると……。
パパン!?
発砲音が鳴り響き、私の視界が暗転する。
ダウンした!?
「撃たれたわ!! どこから撃たれたのかわからない!!」
「……私も撃たれた」
どうやら、カヤも撃たれたらしく仲良くはいつくばっている。
『え!? ちょっと待ってください。車ですぐに』
『ラッツまっ……』
バババババ……。
どうやら、待ち伏せされていたらしく、ミリーとラッツも銃撃を受けて、車の陰に隠れるが……。
ドカッーン!!
と、車が銃撃に耐えられず爆発炎上。
車を盾にしていたミリーとラッツも巻き込まれて死亡。
ランキング15位 と表記がでて全滅したと出る。
そして、私は自分を殺害したプレーヤーの名前をみると……。
Steve>Rlis kill AK7
「ん? Steve? すてぃーぶ? スティーブ!?」
私が聞き覚えのある名前を見ると同時に席を立ち、スティーブ達の執務室に行くと……。
「いやー、さっきのは上手くいったっすね」
「先に見つけた俺を褒めろ」
「ナイスだった。スラきちさん。おかげでどっちも楽にやれた」
「だけど、おらのやった人、kayaって人だったけど……」
「はは、そんなわけねーっすよ。こんなプレイ人口が100万越えている中で会うわけないじゃないっすか。おいらがやった人もRlisとか書いてたけど、あんな間抜けなわけ……」
「間抜けで悪かったわね。しょぼいエルフで悪かったわね」
「へ? って、エリスの姐さん!? え? さっきのマジでエリス姐さん?」
「そうよ。あー、もう、くやしー!?」
「ちょ、ちょっと、ストップ!? おいらたちもプレイ中だから!?」
「……よし、スティーブは戦死した。残念ながら」
「だな。俺たちは、戦った相手に敬意を払い次へと進もう」
「だべな」
「お、おまえらー!? 助けろっす!?」
遠距離戦でスティーブに負けるなんてー!?
いや、経験の差から負けて当然だけど、エルフとしての矜持から納得できないー!!
「あー、エリスもエルフとしてやっぱりプライドあったのね」
「みたいですね」
「……でも、作戦負けみたいなもんだし、スティーブは悪くない。性格は悪いけど」
とまあ、私たちもみんなで仲良く過ごしています。
次は負けないわ。
でも、いままで一度も勝てないのよね。
世界は、ゲームの中は広いわ。
スティーブたちだってあの後、信じられないくらいの長距離射撃でやられたし。
私はまだまだ、大海を知らない蛙だったんだなと思った。
世界は広い。
たとえ射撃の名手でも、ネットの廃人には勝てないのだ。
ユキ、タイキ>スティーブたち>エリスたち ぐらいがゲーム内の腕前
まあ、そこはいいとしてPUBGはようやく早期アクセスから正規版になったね。
自分も腕はよくないので50回に1度ドン勝できればいい方です。
なおこれより、年末落とし穴スペシャルへと移行することをお許しください。




