第631堀:それぞれの動き
それぞれの動き
Side:ユキ
「……んー」
俺は書類作業をいったんやめて一息つく。
すると、リーアからお茶が出される。
「はい。お茶です」
「ありがとう。……ふぅ」
温かいお茶を飲んでホッとする。
しかし、なんというか、世の中上手くいかないな。
「なんじゃユキ? 浮かない顔をして」
「いやー。カグラは無事にウィードに行ったけどさ。俺とは全然顔を会わせようとしないだろう? 確実に嫌われた」
まあ、いじめをしていたようなもんだから、当然の反応ではあるが、俺としては、悪気はなかった。
「カグラが横にいるから、便利に使ってしまったのが失敗だったなー」
「「……」」
2人は俺の言葉に特に何も言わない。
フツーなら仕方ないとか言ってフォローしてくれるが、それがないということは、やはり2人から見ても、やり過ぎだったんだろう。
「ま、悔やんでも仕方がない。カグラがウィードで静養して今後頑張ってくれることを祈ろう。ソウさんやカンナさんには謝ったし、何かあれば相談に乗ってくれるようにはいったからな」
「……相変わらずじゃな」
「……まあ、ユキさんだし」
「すまなかった。気が付かなくて」
俺が言い訳じみたことを言い出して、流石に苦言をいうデリーユとリーア。
女の子を吐いてぶっ倒れるまで使って、後始末がこれだ。
苦言を言われて当然だろう。
「ああ、いや、悪い意味で言ったわけじゃないぞ」
「いつも通りのユキさんでよかったなーって話です。カグラもユキさんのこと嫌っていませんよ。今度会ってあげてください」
「そうじゃな。本当に悪いと思っているなら、こわがらずにしっかりと機会を設けて謝るんじゃな」
「分かった。ハイレ教の裏にいるペーパー共をどうにかしたら、ゆっくりとカグラと話す」
「はい。その調子ですよ。ユキさん」
「……なんつーか。お見合いに行くような感じじゃな」
「人に許しを請うってのはなかなか度胸がいるんだよ。小心者でな」
「……小心者という意味を調べんといかんな。まあ、妾が言えたことではないか」
そんな話をしたあと俺は書類仕事を再開する。
「……というか、お見合いになりそうだよねー」
「……そこは、カグラがどこまで、ウィードで味方を増やすかじゃな」
「……楽しみー」
「……まあ、こちらからもフォローがいるじゃろう」
お見合い?
はっ、そうか。
今回の失態は確かに、俺の配慮に欠けた結果といえるが、カグラにとっては、エオイドとの仲を深めるための絶好の機会ということだ。
ソロの時もいい男を見せたし、その前のウィードにちょっと訪問した時も、アマンダとエオイドがサポートとしてついていたのだ。
今回も、カグラと一緒にウィードに下げる予定だし、安全なウィードでお見合いというわけになるんだな。
そこまで、仲が進んでるとは思わなんだ。
あとで、タイキ君に連絡を取って、こっそりウィードでのカグラたちの様子を伺おう。
そして、こう、できる大人として、後押しをしてやろうではないか。
俺が落ち込んだままでは、カグラも色々気にするのは目に見えているし、デリーユやリーアの言う通り、次あった時はしっかり謝って、特に思うところはなく、ウィードで勤務に当たってほしいといえばいいのだ。
そうすれば、カグラは俺のことを気にしないで済むだろう。
俺にハイレ教の事を押し付けてすごく申し訳なく思っているというのが、カグラが倒れた根本的な原因だからな。
ペーパーほど用途もない神連中が余計なことをしなければ、俺もカグラもハイレ教に煩わせられることはなかったのだ。
そうだ。すべては、奴らが悪い。
フィンダールの方も、ハイレ教の暗躍があるということで、こっちが詳しく調べるまで動けないし、元々、馬での移動で簡単に行き来できない。
弟殿下がジョージンと入れ替わりに帝国に戻って色々調査しているが、今回のスプラッタの件をジョージンはしるなり、慌てて、ハイレ教への調査を止めるように手紙をだした。
黒かもしれないどころか、真っ黒、シュバルツ、ノワール、ブラックときたもんだかららな。
下手につつけば、フィンダールの方も、帝国VSハイレ教という地獄の宗教戦争勃発になりかねないのだ。
というわけで、カグラたちが安心して恋愛を進めるためにも、俺たちがこの新大陸で安全に動き回るためにも、ハイレ教の背後にいる中級ペーパー以下派をトイレに流してやらねばいけないわけだ。
スッキリ綺麗にしてやるわ。
「よーし。頑張るか!!」
俺は気合いを入れ直して、書類整理に取り掛かる。
いやー、簡単なことだったんだ。
全ては奴らが悪い。ただ一つの真実である。
だから、今までのツケは支払ってもらう。それだけなのだ。
完膚なきまでにぶっ飛ばす。
俺が、学生の少女をいじめたなんぞ不名誉な誤解を与えやがって!!
名誉棄損だ!!
「……絶対。勘違いしておるな」
「……ま、ユキさんが元気になって良かったよ」
よし、まずは、ハイレ教の総本山に対して、スティーブに誘導を任せて、飛竜隊による高高度からの誘導対地気化弾攻撃の検討を……。
「はいはい。落ち着かんか!!」
「辺り一帯消し飛びますから!?」
「大丈夫。誰も何をしたかなんてわからないから」
気が付けば、あぼんという奴だ。
勝手に天罰だと思うだろう。
あと、生きている奴がいるとすれば、それはペーパーの一派に決まりだ。
死んだ奴は敵だ。死んでないやつはよく訓練された敵だ。
……ん? 魔女裁判っぽくね?
とまあ、こんな感じで色々はっちゃけたりもしたが、現場のスティーブに調査の詳細を聞いて、ちゃんと追いつめる手順は踏んでいくことになるのであった。
Side:スタシア・フィンダール フィンダール帝国 第一王女
「……間に合うと良いのですが」
そう深刻そうにいうのは、ジョージンだ。
先日、ハイデン魔術学院の近くで起こった誘拐事件の調査の結果、叡智の集とハイレ教の繋がりと関与が認められて、私たち上層部はかなり慌てた。
確かに、ハイレ教が怪しいというのは、ハイデン王都で起こった事件から聞き及んでいたが、てっきり叡智の集がかく乱のためにそのようなことをやっているとしか認識がなかったからだ。
ハイレ教は今や周辺国家でも当たり前の国教であり、女神が世界を救ったという証でもあった。
だからこそ、魔物を使役したということが信じられないでいたのだが、ソロという学生誘拐事件での犯人の拠点を探すうちに辿り着いたのが、学院の近くにあるオーノックにあるハイレ教会。
その地下の様子は映像や写真で確認させてもらったが、言葉では言い表せない状態だった。
確かに、戦場であれば、命を落とすことはあるが、あそこまで遺体を徹底的に破損させることはない。
いや、拷問などであれば、必要に迫られればするが、それを、学生になど……。
しかも、ハイレ教が行っていて、マジック・ギアを生産させるためだとは。
あそこまで狂っているハイレ教を下手につつけば、フィンダールもハイデンの二の舞になりかねない。
「間に合うでしょう。ただの警戒だけです。ジョージは陛下に今回の事を報告するだけで、フィンダール内部をどうこうする権利はありません。そもそも、ハイレ教が敵であるという事実で、陛下が短絡的な行動をとるわけがありません。ジョージンもそれはわかっているでしょう」
「……そうですな。いや、私としたことが失礼いたしました。何やら、とても胸騒ぎがしましてな」
「胸騒ぎですか?」
「ええ。オーノックの教会での気が狂ったかのような地獄。それを利用して、マジック・ギアの作成。そして、訪問したカグラ殿の誘拐示唆。どうも、アージュ様のことが頭をよぎりまして」
ジョージンに言われて、私もようやく気が付いた。
なぜ、気が付かなかった?
私もどこかで未だに、ハイレ教を信じたいという気持ちがあったのだと、理解してしまった。
「……あの事件。リラ王国が暴走したのを手引きしたのは……」
「はい。ハイレ教の可能性が高いです。アージュ様が攫われたときも、誰が内通者だという話が挙がりましたが、結局密偵がいたということで落ち着いてしまいました。しかし、それを簡単に知ることができる相手がいたことに今さらながら気が付きました」
「……ハイレ教」
「はい。彼らなら、何も苦も無く、姫様たちの予定を知ることができるでしょう」
「そして、魔力が高かった、御三家と関係のあるフィンダール王家の一員であるアージュ様。今回の事件と符合するところが多すぎます」
ドンッ!!
私は思わず、テーブルを叩いていた。
「つまりだ!! 私の妹は、材料にされたということか!! 魔物を呼び寄せるために!! ハイレ教の連中に!!」
「……落ち着いてください。下手に動くことはできません。マジック・ギアの生産がどれだけされているかもわかっていません」
「分かっている!! わかってはいるが!!」
この目の前に、私たちから大事なものを奪ったうえ、国をもてあそんだクソ共がいるのに私たちは何もできないのか!!
この怒りをどこにぶつければいい!!
「……堪えてください。私も帝都にもどった折には、一緒に進言をいたします」
ジョージンも震えた声で言っていた。
そうだ、私だけではないのだ。
あの手紙を受け取った、ジョージや陛下だって、同じ気持ちになるにきまっている。
だから、ジョージンは心配したのだ。
事態は私たちよりも深刻だ。
目の前に、妹の命を奪ったかもしれない連中がいるのだ。
そう考えると、不安が増してくる。
相手は、女神ハイレン様と争った神を名乗る連中だ。
どこまで力を溜めているのかわからないので、陛下やジョージが理性的であることを祈るばかりだ。
しかし、なぜ今頃とおもったが、ルナ様曰く、ハイレ教に潜んで信仰とか横取りして、力の回復狙ってたんじゃないかという話だ。
ついでに、ハイレ教を貶めることもできるし、魔物も作れる、一石三鳥ね。などと言っていた。
クズでしかない。
ちなみに、ルナ様の方は、ゴーストであるソウタ様とニホンの神様談義などでちょくちょくこちらに顔を出している。
最初はなんだこの頭のおかしい女はと思っていたが、言葉では言い表せない、神であるという威圧をだされて、私もジョージンも信じるしかなかった。
その中、ユキ様だけが、ルナ様の頭を叩いて、ふつーに話していることに、私たちは本当に彼らと敵対しなくてよかったと思ったぐらいだ。
だが、だからこそ、因縁があるとはいえ、ユキ様たちに任せていいのか?
私たちこそが、戦うべきではないのか?
そういう考えが浮かんでは、国の為にというのが浮かんでは消える繰り返しをしていたら、不意に人が部屋に入ってきた。
「スタシアお姉様。失礼します」
「……キャリー」
キャリー姫だった。
私のもう1人の妹と言っても間違いではない、大事な家族だ。
「ハイレ教の凶行や今後の予定などはご存知だと思います」
「……ああ」
キャリー姫は冷静に口を開く。
恐らく、私が独断専行などをしないようにと思っているのだろう。
私よりも立派になって、私もちゃんとしなければと、思っていると……。
「今回の事は、確かにユキ様たち、ウィードに任せることになりました。ですが、私たちが個人的に手伝ってはいけないなどという理由はありません」
「は?」
なにか、キャリー姫の言っていることが頭に入ってこなかった。
とんでもないことを言っている気がする。
「どうせ、この学院でのんびりすることだけが、今のところの仕事です。適当に話し合いでもしていると、ごまかして、私はユキ様に頼み込んで、一個人として、ハイレ教の総本山の殴り込みに参加するつもりです」
「い、いや。それは、危険が……」
「危険など百も承知です。ですが、それよりも私は、このまま事態をユキ様達に任せるわけにはいきません。アージュ様の仇をとるのです。それに、私が教会内で死亡するようなことがあれば、どうあがいても強制調査は避けられないでしょう。なにより、私はユキ様たち率いるウィードが味方にいれば、木っ端と言われた神などおそるるに足らないと思っております。実績もご存知だと思いますが? ということで、スタシア殿下はどうされますか?」
……ああ、何も恐れることはない。
今はただ進むのみか。
「その話、乗った」
「流石は、スタシアお姉様」
「ちょ、ちょっと!? 姫様方!? そんなことを言われても、ユキ様が承服するわけが……」
「では、偶然に教会の方であうだけですね」
「なるほど。偶然ならしかたがないな。ジョージン」
「ああ、もう!? わかりました!! えーっと、そうだ、ヒイロ殿!! ヒイロ殿!!」
ジョージンがそう叫ぶと、横の部屋に待機していたヒイロがやってくる。
相変わらず、かわいい子だ。
「どうしたの?」
「実は……」
そういうことで、私たちは、ヒイロ経由でユキ様たちと一緒に、個人的にハイレ総本山調査に同行することとなったのであった。
そして復讐は暗く、昏く、動き出す。
彼女たちがその先に見るものとは……。
普通なら、まあバッドエンドとか、復讐を果たして、未来へ。とかになるんだろうけどね。
どこかの、ストーリークラッシャー4人組の1人とすでにいるから、定番なエンドにはならないであろう。




