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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
果ての大地 召喚編

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713/2202

落とし穴100堀:産後の戦い

産後の戦い




side:リエル




「ふっ、ふっ、ふっ……」


僕はそんな息を吐きながら、ウィードの公園で走り込みをしている。

なぜかって?

それは……、ダイエットの為。

僕だけではない。

僕の後ろには3人、僕と同じように真面目な顔をして走りこんでいる。

その3人は、トーリ、カヤ、ミリー。


つまり、つい最近まで妊娠していたメンバーだ。

僕たちは、新大陸への召喚事件のせいで、極端に行動を制限され、大人しくしていることになったのだが、それが災いした。

結果、僕たちは4人とも産後に10キロ近く増という悲劇を突き付けられた。


『えーっと、ちょっと肉付きがよくなりましたね』


と、優しい表現をしてくれたのは、僕たちの健康診断をしてくれるルルア。


『そ、そうですね。ふくよかになりましたね』

『……そうね』


ラッツもそういってごまかすけど、エリスに至っては視線を逸らす始末。


『もともと、細かったんだし、顕著に太ったように見えるわよね』


と、セラリアの心無い、いや、正直な言葉の一撃により、僕たちはダイエットを開始しようとしたのだけれど……。


『別に無理に痩せる必要はあるのか? 俺はその程度でリエルたちを嫌いにはならないが』


そう言って、ユキさんは別に気にしていないというんだけど……。


『流石に、旦那様が用意してくれたウェディングドレスが着れなくなるのはどうかと……』


キルエの言葉に僕たちは着てみたのだけれど、チャックが上がらなかった。

その状態は僕たちも流石にまずいと思い、真剣にダイエットを始めたんだ。

だって、思い出の大事なドレスが着れないほど体型が変わったとか、ありえないし!!



そういう理由で、ユキさんたちが学院で色々やっている間に、僕たちは僕たちで厳しい戦い、体重計と向き合っているんだ。

まったく減らない体重。

美味しいユキさんやみんなの手料理に、ウィードに存在する美味しいお店の誘惑。

ここでようやく僕たちは気が付いた。ウィードは女性たちにとって脅威の場所であると。


今まで、僕たちは体を動かす仕事が主だったので、好きなだけ食べていても体重が増えることがなかった。

だけど、よくよく考えれば、ウィードに来る前までは、ガリガリとまではいかないけど、完全な痩せ型だったし、こんなに毎日たらふく食べることもなかった。

それが、ウィードにきて、ユキさんから美味しい物をたくさん食べられるようにしてもらい、スレンダーと呼ばれる体型になったのだ。

それで、妊娠ということであまり動かず、家で食べて寝るだけの生活が続けば誰だって太る。

食欲は旺盛だったからね……。

ユキさんやみんなもお腹の子供たちに栄養をということで止めることもなかったし、美味しかったので止まらなかった。

ある意味自業自得な話。



……でも、でも、これだけ走ったんだから、ちょっとだけ、喫茶店でお菓子を食べてもいいよね?



「リエル!!」

「はっ!?」

「……正気に戻る。まだ走って10分も経ってない」


気が付けば僕はトーリとカヤに両腕を確保されていて、目の前にはミリーが立っていた。


「リエル。我慢よ。ここで走りきっても、私たちは3食以外は食べないの。ちょっとはないの。わかるわね」

「あ、あううう……」


最初からわかってはいたけど、改めて言われるとつらい。

貧乏なわけでもない、食料がないわけでもない、僕がお店にいって注文するだけで、食べられるのに、それができない……。


「セラリアもルルア、デリーユ、ラッツ、エリス、キルエもこの道を通ったの。覚えているでしょう?」

「うぐぐ……」


そう、僕たちほど太ってはいなかったけど、デスクワークタイプのセラリアたちもこうやって減量にいそしんでいた。

僕は動くタイプだし関係ないと思ってたけど、現実は違った。

新大陸の召喚誘拐事件も相まって、セラリアたちよりも多めに丸くなってしまった。

こんなに、こんなに、こんなに、ダイエットが辛いなんて。


「つらいわ。本当に辛い。それは私がよくわかってる。妊娠する前から、お酒のんで、おつまみ夜中に食べてたからね。そのたびに、日中はこうやって地獄のダイエットよ。ふふ……」


ミリーが死んだ目でいう。

なるほど。ミリーの体型が変わらなかったのは、日々の努力の賜物なんだ。


「リエル。辛いの私たちも一緒だよ。だから、頑張ろう」

「……その通り。私たちも一緒に頑張る。あと、ユキの優しさに甘えないように。あれはこの場合に限っては猛毒。私たちをコロコロのプクプクにするための罠。別に恰幅のいいおばちゃんが悪いという意味ではない。私たちはユキと一緒に頑張っていかなければいけない。そのためにもスリムな体は必要」


そうだ。

僕たちはまだまだユキさんの手伝いをするんだ。

美味しい物を食べるためにユキさんと一緒にいるんじゃない。

ユキさんを助けるために、一緒にいるんだ。

デブじゃユキさんの足手まとい。そんなのは嫌だ!!


「うん!! 僕、頑張ってダイエットするよ!!」

「頑張ろう!! リエル!!」

「……4人なら必ず痩せられる」

「そうね。4人もいるし、ダイエット経験者も他にいるから、きっとできるわ」


僕たちは公園で今一度、やせると決意を固め、友情を深めたんだ。


「ねえ。おかーさん。リエル様たちなに言ってるの?」

「……えーと、きっと大きくなればわかるわ。女の子なんだから」

「???」


そんな親子のやり取りがあれば……。


「聞きましたか奥さん。リエル様たちもやっぱり大変なんだって」

「当然よ。あんな綺麗な体型簡単に維持できるわけないじゃない。セラリア陛下だって毎日剣の訓練欠かさないんだから」

「でも、大変よね。ケーキも我慢しないといけないなんて」


奥様達のささやきも聞こえてくる。


「……ちょっと、場所変えましょうか」

「「「うん」」」


ミリーの提案で、僕たちは公園から軍事訓練場の方へと移動をする。

流石に、いい大人4人がダイエットで走り回って、喫茶店に行くのを我慢しているっていうのを見られるのはね。



「というわけで、場所使わせてー」


目の前には執務室で書類仕事を片付けているスティーブが僕たちの話を聞いていた。


「はぁ、ダイエットっすか。いや、そんな理由で使用許可が出せるわけねーっすよ!?」

「そこをお願い。セラリアの時にも貸してたんでしょう?」

「あー、セラリアの姐さんたちっすね。公園から苦情があったっすからね。鬼気迫る表情で、女王陛下や重鎮一同が目が据わった感じで、喫茶店にふらりとしたりしながら走りこみしているって」


あ、セラリアたちも同じ感じだったんだ。


「ま、軍事訓練ということでグラウンドの貸し出しは構わないっすよ」

「じゃそれでお願い」

「へいへい。グラウンドに出る前に使用申請の紙があるからそこに書き込んでくださいっすね。武器の使用はまた別なんでそこは注意してくださいっす。走り込みとか、基礎的な運動だけっすから」

「わかった。ありがとう」


そういって、部屋を出ようとすると、スティーブに呼び止められる。


「あ、そうそう。アルフィンが新作を作ったんで、ちょっと食べて行かないっす……か」


ふざけたことを言い出したスティーブの首元には僕やトーリが抜いた小太刀や剣が突き付けられていて、カヤとミリーは魔術をいつでも撃てるようにしている。


「ねえ、スティーブ。これって僕たちをおちょくってる?」

「スティーブ。私たちは何しに来たのかな? もう忘れちゃった?」

「……相変わらず、デリカシーがない」

「それとも、私たちをコロコロにしたいわけ? ああ!?」


そう私たちがお話すると、スティーブは慌ててタッパーをしまう。


「あ、あははは、ちょっとだけならいいかなーと思っただけっすよ。無茶な我慢はよくないっていうっすから。それに、おいらがアルフィンのお菓子作りで苦労しているのは知っているっしょ!?」


そういわれて、僕たちも武器を引っ込める。


「ああ、そう言えば、まだアルフィンはお菓子作ってるんだ」

「そうっすよ。今じゃ、聖剣使いのメンバーも顔を引きつらせているっす。部下たちはそこまで甘いの好きでもないっすからねー。はぁ、また教会に寄付っすか」

「えーと、ごめんね。スティーブ」

「……スティーブも大変なのね」

「でも、流石に度が過ぎるなら注意しなくちゃいけないんじゃない?」

「いや、それはミリーの姐さんの言う通りなんすけどね。ウィードでいつかお菓子職人になってお店出すって意気込んでるのを見るとっすね……」

「「「あー」」」


それを否定するのは辛いかな?


「まあ、最近はおいらたちが無理して食っているのも知ってるみたいっすから、教会とか学校の子供たちに分けてあげてって言ってくれるっす。でも、渡すのはいつもおいらや聖剣使いのメンバーだけっす。そっちに直接持ってきたことはないっしょ?」

「うわー。そういえばそうだ。でも、尚のこと断り辛いねそれ」

「だね。わかっていても、なるべくスティーブやスィーアたちに食べて欲しいんだろうね」

「……愛が物理的に重い。胃に重い」

「カヤ、上手いこと言ったつもりだろうけど、どうなのそれ? でも、アルフィンの気持ちもわかるわね。好きな人に食べて欲しいって気持ちもあるし、さらに同じ人に食べてもらうことで味の違いとかを確認しやすいものね」


なんというか、スティーブも色々大変なんだ。

で、不意にスティーブが異常なことに気が付いた。


「ねえ。そういえば、なんでそれだけお菓子食べてるのに、スティーブってやせてるの?」

「あ、そういえば。何かコツでもあるの?」

「教えろ。さもなくば……」

「イフ大陸で撮影した野生のゴブリンスティーブ生写真が、ウィード内でばらまかれることになるわよ」

「なんすかそのひどいいじめ!? というか、何もやってないっすよ。あれじゃないっすか? これでも大小色々と仕事はあるっすから、カロリーとか消費してるんじゃないっすか? おいら、長期にわたって引きこもったことないっすからね。リエルの姐さんたちだって、仕事している時は太ってなかったすよ」

「なるほど」


やっぱり、仕事をしていると太りにくいのかな?

食っちゃ寝がやっぱりダメなんだね。


「幸い、ここには誘惑するような施設はないっすし、基礎訓練メニューもあるっすから、その通りにやってれば飽きないですむんじゃないっすかね?」

「へー、そんなのあるんだ」

「いや、リエル。私たちの警察でもあったからね?」

「……腕立てとかそういうの?」

「へー。そういうのがあるのね。じゃ、それやってみましょう」


ということで、グラウンドに出て、軍事訓練基礎メニューとか言うのが大きく張り出されていたから、その通りに運動をしていると、気が付けば帰宅時間になっていて、思ったよりも体を動かせて満足だった。


「うーん。なんか思いっきり動いたね」

「そうだね。ちゃんと飽きないように色々な運動を組み合わせているのがよかったね」

「……基礎は大事」

「そうねー。なんか明日筋肉痛になりそう。お風呂でゆっくり揉まないと」


そんなことを言いながら、家に帰ると……。



「4人ともお帰り。今日はトーリの大好物のステーキだから、遠慮なく食べてくれ」



と、ユキさんからの地獄の宣告があり、その日はトーリはお代わりを3度もした。



「ううっ……。今日のダイエットが無意味に……」



ダイエットとはやはり果てしなく厳しい道のりみたい。

がんばれ、トーリ!!


「明日はリエルの好きな焼き魚だからな、楽しみにしてくれ」


僕たちにとって最大の敵はユキさんのようだ……。

あんな風に言われたら食べないわけにはいかないじゃん!?






久々に落とし穴。

まあ、産後は大変。

そして、天高く馬肥ゆる秋となり、さらに体重注意警報が鳴り響くでしょう。

皆様も食べ過ぎにはご注意を。


で、コメントで複数あったのですが、秋天の親とされる八岐大蛇ですが「父親」という勘違いしている方がいますが、このストーリー上では「母親」となっております。

秋天初登場時に「遠呂智母様と同じ……」という発言をしておりますので、ご理解ください。


ま、あっちを見ている人はわかるよね。



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