第585堀:魔術演武
魔術演武
Side:ユキ
さてさて、いざ本日は講義本番。
ウィードという国の名前を売るためにも大事な日であるのだが……。
「私の力をどうぞご覧ください!!」
そういって、派手な動作でアピールするジーマンがなぜか演習場に立っていた。
「なんでこんなことになったんだっけ?」
俺がそう呟くと、横にいたカグラとカンナがペコペコと頭を下げる。
「「本当に申し訳ありません!!」」
2人とも必死だ。
まあ、2人が悪いわけではないのはわかっている。
そして、俺たちが喧嘩を売られたわけでもないのだ。
「申し訳ない、皆さま方。まあ若いモノの背伸びとして見てはくれませんか?」
そう落ち着いた様子で俺たちに話しかけてくるのは学院長だ。
本日の講義は、まずウィードの魔術エキシビジョン? 演武? から始めてこっちの実力を把握してもらうところからという予定だったのだが、昨日会ったジーマン君がなぜか挙手をして、自分の腕を見ていただきたいと言ってきたのだ。
「ええ。こちらとしても学生たちの実力が知れるいい機会ですよ。若者には勢いも大事ですから」
俺が問題ないと返す。
「しかし、あのジーマン君はなんで名乗り出たのでしょうね? 覚えをよくするためでしょうか?」
「それもあるでしょうが、おそらくカグラ君が原因でしょうな」
「カグラが?」
学院長の言葉でみんなの視線がカグラに集まり、ビクッと震える。
「ああ、別に彼女が悪いという話ではないのです。男尊女卑が強いですからな。そんな中、バイデでの戦闘で女性が活躍し、武勲を上げ、褒めたたえられるというのは我慢ならなかったのでしょう」
「「「なるほど」」」
そういう理由か。
そういえば、男尊女卑が強いんだった。
俺たちはそんなの気にすることはなかったからな。
バイデはそもそもキャサリンが治めているし、嫁さんたちが蔑まれるようなことはなかった。
だって、命に係わるから。
まあ、問題にならないように俺が代表ということで動いて回ってはいたんだけどな。
「つまり、簡潔に言うとカグラへの嫉妬というわけだ」
「その通りですね。まあ、それだけでなく彼の父が魔術隊の隊長というところからの気負いというのもあるのでしょう」
ふむふむ。
ただの女は!!というだけではなく、父親の背中を追っているからこそというわけね。
カグラはひたすら迷惑そうな顔をしているが、一応、守るべき礼儀は守っているからこっちとしてはなんとも言えないよな。
そんな感じでカグラを見ていると、カンナがぼそぼそとカグラに話しかけていた。
「ねえ。カグラ、その感じからすると、初めてじゃないわよね?」
「……はい。前々から彼はよく突っかかってきたんですが、まさかここまでとは思わなくて。ごめんなさい。お姉様」
「はぁ、謝らなくていいわよ。私が学生の時もああいうのはいたから。……研究室にも。でも、このままじゃ、この場を任された私たちカミシロ公爵家が舐められたということになるから、彼の次にカグラが出なさい」
「えっ!? で、でも、ユキ様たちに……」
「よろしいですか? 皆さま?」
カンナはこちらを振り返って聞いてくる。
話の内容を言わないということは、こちらが聞き耳を立てていたことは知っていたんだろう。
「構いませんよ。いまから案内役交代と言われても面倒ですからね」
「そうですね。女の代表として、カグラ殿頼みます」
俺とスタシア殿下から許可が出る。
俺の案内交代はともかく、スタシア殿下の女の代表としてというのは心が籠っているよな。
男尊女卑というはやはり根が深いよな。
現代の地球でもまだまだ残っているし。
「「「オオオッーーー!?」」」
そんな話をしているうちにジーマン君の魔術披露はクライマックスに至っていた。
観客の歓声に釣られて見て見たら、大きい火球が空中に浮いていて、ジーマン君が両手を天から地に振り下ろすと同時に落下を始めて、地面にぶつかると爆音と共に土煙が舞う。
「ケホッ。うわ、土煙がサイテー!?」
横にいたリーアが土煙を浴びて不満を漏らす。
まあ、誰だって嫌だよな。
他の嫁さんたちも軒並み不快な顔をしているので、とりあえず風を操って一気に土煙を観客席の無い場所へと吹き飛ばす。
「ゲホッ!? ゲホッ!?」
どうやら俺の風で戻された土煙にジーマン君が巻き込まれたようで激しく咳き込む声が聞こえる。
まあ、ある意味自業自得だ。
ちゃんと魅せる用と実戦用は分けておけって教訓だな。
「あれだけ派手だった割りには地面にそこまで陥没はないわね」
「……あれぐらいに手加減してましたから」
「……なるほど。あくまでも彼はカグラ以上だってことを示したいわけね。でも、さっきの風は?」
「ユキ様ですね。魔力の流れがあったのはお姉様もわかったと思いますけど?」
「ええ。でも、無詠唱でこれほどの広範囲に、しかも方向性をちゃんと操作できるなんてね。……ものすごいわね」
カンナが感心したようにこっちを見てくる。
いや、こっちを感心してくるのはいいけど、ジーマン君への感想それだけ?
学院長、学院長は?
俺がそう思って学院長を見る。
「お見事です。ユキ様。さて……、中位生ジーマン。見事でした。彼の頑張りに拍手を!!」
学院長がそういうと、肩で息をしているジーマン君へ拍手が鳴り響く。
頑張ったことは間違いない。
彼は全力をだして、この舞台にたったことは間違いない。
それは称賛されるべきことなので、俺も他の皆もちゃんと拍手を送る。
君はよくやった!!
見事な道化、ピエロだった!!
「続いて、特位生であり、先のバイデ防衛戦で英雄と称えられた、我がハイデン魔術学院が誇る首席、カグラ君の魔術演武です」
「「「ワァァァァァァーーーー!!」」」
学院長の言葉に学生たちが盛り上がる。
ジーマン君が締めの魔術を放った時以上の歓声だ。
可哀想に、ジーマン君は周りの歓声に面白くないと言った表情をしている。
「いいカグラ。カミシロ公爵家の威信を見せるのよ!! 初代様から続く御三家の力を見せつけなさい!!」
「いや、お姉様。全力を出すと、演習場がボロボロになりますので、ほどほどにしないと……」
カグラはどうどうと苦笑いしながらカンナをなだめようとしているが、そういう心配はいらない。
「気にせずやっていいぞ」
「はい?」
俺の言葉にカグラは不思議そうに首を傾げる。
「元々の目的はウィードの実力を示すためだ。カグラの持てる限りの力で盛大に演習場を荒らしてくれ。それを俺が元に戻す。それはカグラを超えたってことになるからな。無論ジーマン君をカグラが超えたことにもなるから、問題ない。いいですかね、カンナ殿?」
「ええ。ありがとうございます!! カグラ、ユキ様が後始末を引き受けてくれるって言ってるんだから、全力よ!! 全力!!」
「ええー!? 学院長!?」
「まあ、いいでしょう。このままカグラ君が力を示さなければ、きっとジーマン君が何か言ってくるのは間違いないですから。演習場の方は私たち教員も手伝ってもとに戻しますので、遠慮せず、全力で。必要経費でいけるでしょう」
「……そこまでおっしゃるのでしたら」
カグラは渋々といった感じで、立ち上がり、演習場へと降りていく。
ふむ。あまり気乗りしないが、仕方ないので、エオイドをつつく。
「カグラー!! 頑張れー!!」
「がんばれー!!」
「2人とも……。うん、頑張るわ!!」
アマンダとエオイドの声援で少しやる気がでたようで、顔に笑顔が見える。
うむうむ。3人の仲も良好なようで俺は嬉しいよ。
「作戦は成就しつつあるようですね。ユキさん」
「ああ、俺たちは友人として温かく見守ってやろうじゃないか」
俺とタイキ君は作戦の進行状況を喜びつつ、カグラが演習所に立つ姿を見る。
友人の声援を受けて奮起するカグラ。
その友人がいつしか恋人に変わるのだよ。
いやー、青春ってやつだね。俺には全く経験はないけどな。
まあ、友人の幸せを祝福してやるのはやぶさかではない。
「「くっくっく……」」
2人で含み笑いになってしまう。
なんて予定通り!!
今回の事でカグラのアマンダとエオイドへの好感度は爆上げ!!
お姉さんであるカンナの評価も上がるだろう!!
これで、姉公認となるわけだ!!
素晴らしいじゃないか!!
「……ねえ、デリーユ」
「……ほっとけ。しかし、あのジーマンとやら、カグラに挨拶はしつつも、舐めておるな。礼はちゃんとしておるが、体中から認めないとにじみ出ておるわ」
「だねー。わかりやすいよね」
デリーユやリーアの言う通り、交代で挨拶をしているジーマンからは嫌な感じがぬぐえない。
恐らく嫌味を混ぜつつ挨拶でもしたのだろう。
カグラも先ほどは笑顔だったのが、ジーマンと相対した時は仮面の笑顔をつけたような感じになっていた。
まあ、あそこまであからさまな態度を取られたら誰だってそうなるわな。
ああ、ある意味精神的な揺さぶりをかけてきたのか?
緊張による失敗を狙っている?
でも戦場を経験したカグラにはこの程度は……。
「……招雷。乱れ雷!!」
カグラが少しの詠唱?のあと魔術を放つ。
ゴロゴロ……。ドガン!! ドガン!! ドッカーーン!!
うん。
文字通り乱れ雷やな。
雷の雨あられ。
先ほど、ジーマン君が最後に放った規模の魔術が連射だ。
確かにこの威力があれば、バイデに攻め寄せたフィンダールのジョージ殿下が囮の部隊で損耗を狙ったのもわかる。
これが本隊に落ちたら致命傷だろう。
カグラがマジでバイデ防衛戦では最終防衛ラインだったのがよくわかる実力である。
「というか、初めてカグラの詠唱みましたけど、あれ、どう見ても祝詞の部類ですよね?」
「多分な。というか、あそこの家、神社だし当然だと思うぞ。そもそもサンダーとかじゃなくて招雷だからな。招く雷なんて表現も日本独特だろ」
「つまり、日本の巫女さんはこういうことができるってことですかね?」
「それは違うだろう。そうなると宮司さんとかさらに上ってことになるぞ」
「ああそっか。宮司さんの方が上ですもんね」
いや、一概に巫女の方が立場は下ってわけでもないけどな。
そんなことを話しているうちに、その魔術を見た観客はジーマン君の時以上の歓声を上げる。
「……なるほど。ジョージやジョージンが苦戦するわけです。ここまでの相手に、さらに上のユキ様。最善の選択をしたのだとよくわかりました」
スタシア殿下はカグラの実力を冷静に判断している。
この人、本当にお姫様というか、将軍だよな。
「うひゃー……。これが新大陸の魔術か。うん。イフ大陸は完全に出遅れているね」
そんなことを言うのは、イフ大陸代表のエージル。
魔術に関しては魔力枯渇の関係で仕方なくはあるんだが、将軍や外交官としてはこの差は冷や汗がでるよな。
まあ、実戦となるとわからないけどな。
エージルの魔剣は雷だ。
魔力の補給さえできれば、カグラ程度の事は出来るだろう。
むしろ魔剣の補助がある分、効率的により早く撃てるから、カグラの方が分が悪い。
更に軍の指揮もあるから、総合的にはエージルが上だろうな。
まあ、素人のカグラとエージルを比べるのも間違いではあるが。
「よし、カグラ!! よくやったわ!! 女だからって舐めるんじゃないわよ!!」
カンナは立ち上がってカグラを褒めて、ジーマン君に大人げない言葉を放っている。
この歓声で聞こえるわけもないが、そのジーマン君はカグラの放った魔術を呆然と見つめた後、悔しそうに演習場を去っていくのが見えた。
「……俺たちはともかく、カグラに変なフラグが立ってません?」
「ああ。注意しておくようにアマンダとエオイドに言っておくか」
俺はそういいつつ、立ち上がり、観客席から演習場へと向かう。
あと始末をすると言ったからにはしっかり仕上げないとな。
「最後にウィードよりお越しいただいた大魔術師!! 王配であらせられるユキ様がこの演習場をもとに戻す大魔術を披露してくれるそうです!!」
そう学院長が言うと、観客の学生たちや教員はしんと静まり返る。
そんなことが本当にできるのか? といった感じだ。
まあな、絨毯爆撃の後とまでは言わないけど、凸凹になった演習場を元に戻せるとはそうそう思わないよな。
「あ、あの……」
演習場にたどり着くと、カグラが申し訳なさそうな顔をして何かを言おうとしている。
「まあ、このぐらいならなんとでもなるさ。ある意味助かった」
「え?」
「破壊力勝負だと、な?」
「あ、あは、ははは……」
カグラは顔を引きつらせて笑う。
そうそう、カグラ以上の威力となると、ここら一帯を消し飛ばす必要があるだろう。
だからある意味、修繕の方向の魔術に変更になって助かったのだ。
後で片づける人が可哀想だからな。
さて、分かりやすく、魔術陣でも展開して……。
それでも演技は欠かせない。
いきなり直してもだれも意味が分からないだろう。
俺がやったのだと教えるためにも……。
「「「オオオオオオーーーーーー!?」」」
そして、今日一番の驚きの声が演習場に響くのであった。
それからは、嫁さんたちやエージルが、演習場に被害を及ぼさない魔術披露を行い、ウィードの紹介は滞りなく行われた。
「ま、つかみはOKかな?」
ジーマン、カグラ共に前座。
そして、ユキたちは学院での立場を踏み固めていく。
さあ、どんなトラブルが待ち受けているのか!?




