落とし穴99堀:好み
好み
Side:ユキ
ミーン、ミーン、ミーン……。
今年も夏の声が鳴り響く。
ビバ、日本の熱い夏よ。
いや、異世界だけどな。
なんだろうな。
四季があって日本らしいと喜びはしたが、ここまで気温も日本に似なくていいのにと思わなくもない。
現在の気温34℃
連日の猛暑で、夜は熱帯夜でしょう。
と、ニュースの天気予報が聞こえてきたそうだ。
「いやぁ、しかし、暑いな。今年の夏は」
「ですねー。あ、麦茶飲みます?」
「ああ、もらおう」
コポコポと、小気味いい音を立てて、コップを満たす茶色の液体。
その液体はかなり冷えているのだろう。
ガラスコップは瞬く間に露結で白くなり、水滴を浮かべる。
それをタイゾウさんは掴んで一気に喉に流し込む。
ゴクゴク……。
「ふう。美味い。タイキ君もどうだい?」
「はい。いただきます」
そういって今度はタイゾウさんがタイキ君のコップに麦茶を注ぎ、それをタイキ君が一気に飲み干す。
「ぷはっー。生き返る」
美味そうに飲むよな。ほんと。
「ユキさんもどうです?」
「おう。お願いするわ」
そういって、俺もコップを差し出すと、タイキ君が麦茶を注いでくれる。
手から伝わる麦茶の冷たさが気持ちいい。
そして、麦茶を俺も飲み干す。
麦の香りが喉をぬけて、冷たさが体全体にいきわたる。
「やはり、運動のあとは麦茶だな」
「そうですね」
「懐かしい味だよな」
「ああ。こう野山を駆け回って、家に戻ると出されたものだ」
「そうそう。ばあちゃんがよく出してくれたっけ」
「夏って感じだよなー」
俺たちはそう言いながら、縁側で麦茶を飲んで一息ついていた。
今日は3人ともオフで、ちょっとした運動ということで、タイゾウさんに誘われて、剣の練習をしていたのだ。
俺は剣道も剣術もまともにやったことはないが、タイゾウさんはかまわないというので、参加させてもらった。
「ユキ君、どうだったかな」
「いや、体を動かすのは楽しいですけど、やっぱりこういうのは積み重ねなんだなと思いましたよ。素人の俺は素振りだけでへとへとの精一杯ですね。でも、こんな素人を試合に参加させて良かったんですか?」
「構わないよ。示現流というのは実戦を想定したものだからね。礼をして斬り合いなどありえない。誰にでも門戸は開かれている。が、ユキ君は本当に剣道や剣術はやったことはないのかね?」
「そういえば、そうですよね。普通に俺やタイゾウさんの攻撃を躱していましたよね」
「そりゃ、ちょこっとぐらいは知り合いに指導してもらったことはあったよ。でも、しっかり学んだことはないんだよな」
「ああ、そういうことですか」
「所詮、学校の一授業レベルだよ」
「ふぅむ。いや、ユキ君のことを疑うわけではないのだが、なんというか、慣れている感じがしたのでね」
「そりゃ、こっちに来てから揉まれましたから」
「なるほど。奥さんであるセラリア殿とかからか」
「そうです」
知り合いの爺さんにちょっと教えてもらったぐらいで腕が上がるわけもないし、俺は凡人なのである。
「そういえば麦茶で思い出したけど、タイキ君やタイゾウさんの所でジュースってある?」
「ジュース?」
「……ジュース? ああ、ブドウジュース、ポンジュースとかレモネードのことかな?」
「え、タイゾウさんの時代にジュースってあったんですか?」
タイゾウさんの反応に驚くタイキ君。
「普通にあったな。炭酸レモネードに至っては、ペリーが持ち込んできたということだから、江戸末期、幕末の日本に存在していたということになるな」
「はー。そんな昔からジュースってあったんですね。って、ジュースって語源はなんですか?」
「それは、それはそのままだぞ。ジュースは野菜や果実、果ては肉などの汁を指す言葉だから」
「ああ、そのままってわけですか」
「と、話はずれたけど、今のランクスやヒフィー神聖国にジュースが存在するかって話なんだけど」
「あ、すみません。ちょっと、ランクスの方では……。いや、水に柑橘系の汁を入れてさわやかにしていますから、案外あれってジュースなんですかね?」
「なんとか水って日本では分類されそうだけど、ジュースといっても特に問題はなさそうだな。タイゾウさんの所はどうですか?」
「ヒフィー神聖国も同じような感じだな。水に少し柑橘系の汁を入れたような感じだな。まあ、レモネードの始まりを見ているという感じだろう。まあ、本格的にジュースを作ろうとしても、果実園とかがないからな。安定供給が見込めないというのもあるだろう」
「あー、そういえば、そうですよね。でもワインとかはありますしそっちの流用は?」
「どうかな。ワインは酒という高級品に化けるから、わざわざ水に混ぜてという発想がないのだろう」
ふむふむ。
どうやら、まだまだジュースというのは浸透していないらしい。
ウィードでは、地球は日本の様々な商材が入ってきているからジュースの種類も豊富なんだが、そういえば、周りの国はどうなのかと思ったのだ。
「そうなると、特に面白そうなジュースはないな」
「ん? どういうことかな? 面白いジュースとは?」
「あー、なるほど。ゲテモノ系ですか」
タイゾウさんの時代はジュースの種類が少なかった頃なので首を傾げているが、タイキ君は俺がなぜジュースの話をしてきたのか理解したみたいだ。
まあ、百聞より一見ということで、冷蔵庫に向かい、話にでたものを持ってくる。
「麦茶ばかりもあれなんで、ジュースを準備してたんですよ」
そういって、2人の目の前にジュースを置く。
2人の反応は対照的で、タイゾウさんは興味深く見ているのに対して、タイキ君は顔を引きつらせている。
「なになに、これはコーラではなく、アズキ? 小豆味か!! そしてこっちは、スイカ、西瓜か!!」
「な、なんてもん持ってきたんや。しかもキュウカンバーまで……」
そう。
タイキ君の言う通り、ゲテモノ。
もう誰だよ、この商品開発OK出したやつっていうレベルのモノである。
一部では伝説として名を遺すレベルの飲み物も存在する。
「これって、あのシソジュースですよね。無駄に液体にして炭酸混ぜたやつ。葉っぱそのまま食えよって話じゃないですか」
「ほお。これは紫蘇を使っているのか。確かに、あの味を液体でというのはなかなか想像ができないな」
タイゾウさんはその味を口にしていないからか、些かのんきである。
まあ、それを予想して持ってきたのだから。
「運動のあとは飲み物ってことで、色々ジュースを持ってきたんですよ。タイキ君やタイゾウさんの国でも案外産業になるかなーと思いまして」
「なるほどな。そういう意図も含まれているわけか」
「……いや。絶対違う。俺たちを実験台にしているだけですよ。これ」
タイキ君大当たり。
今や、生産中止している飲み物もあるが、ルナの商品仕入れはコピーだ。
つまり、一回原本を記録すればいつまでも仕入れることが可能。
魔術とか神様の力って便利だね。
お陰で俺の面白ゲテモノ飲み物ツアーができるのだから。
ちなみに、1人でやるとかしない。
こういうのは皆でやるのが楽しいのだ。
「とりあえず。3人で4本ですから行けるでしょう」
「1人で4本は無理だが、みんなで味見をしながらならいけるだろうな」
「……絶対やばい奴だ。撤退は……」
「もちろん不可能だ。食べ物を粗末にしてはいけない。そうですよね。タイゾウさん」
「まあ、そうだな。しかし、タイキ君がそこまで拒絶するというのは、そんなに不味い物なのか?」
「いや、正直わかりません。自分もまだ飲んだことないですから」
不味い物もみんなで飲めば怖くない。
いや、なにか違うか?
まあ、そういう趣旨だしいいよな。
「いやいや、俺も知っている歴史に消えて行った飲み物ばかりですよ!? つまり、全然売れなかったから安定供給に乗らなかった。つまり不味いってことですよね?」
「しかし、タイキ君は実際飲んだことはないんだろう?」
「それは、そうですけど……」
そりゃ、パッケージ名からして敬遠するからな。
そういうレベルの代物だ。
「なら何事も経験だ。商品として販売している以上、特に飲めないというモノでもあるまい。これも物を売ろうとしている人たちの努力の結晶だ。せっかく用意してくれたんだから、飲んでみようじゃないか。まあ、不味ければ無理に飲み干す必要もないだろう? なあ、ユキ君」
「そりゃ、流石に不味くて逆流するレベルなら命にかかわりそうですからね。そこまではしないですよ。タイキ君もそこまではないと思っているんだろう?」
「そりゃ、流石にそこまでひどいとは思っていないですけど……」
「よし。なら覚悟を決めて試してみよう。紙コップは用意しているし、まずは小豆サワーだ!!」
まずは無難なところを開封して、3人分紙コップに注いで渡す。
「ふむ。香りは、小豆だな」
「でも、炭酸入りですよ。普通にお汁粉でもよかったんじゃ……」
「それを言うなよ。こっちの方向って言うのもあったんだろう。じゃ、飲むぞ」
そういって、3人で小豆サワーを口に含み、喉に流し込む。
「「「……」」」
一瞬の沈黙。
「いや、思ったよりも小豆だな」
「そうですね。本当に小豆です。でも、炭酸いります?」
「そうだな。炭酸なくてもよさそうな感じだよな。なんというか、スポーツ飲料とはいわないけど、和風ジュースってやつか?」
「和風ジュース。なるほど。言い得て妙だ。思ったよりも悪くはない。先ほどタイキ君が言ったようにお汁粉で飲むという事柄になれているから、拒絶反応がなかったのかな?」
タイゾウさんのその分析に俺とタイキ君も頷く。
まあ、昔から小豆は溶かして飲むようなお汁粉スタイルがあったから、これはより水に近いお汁粉という感じになるのだろう。
そんな感じでどんどん試飲会は進み、スイカもよく食べる夏の果物なので、特に拒絶反応はなく普通に飲めた。アイスもあるし、特に問題なしってやつだな。
まあ、スイカってそのまま食べても瑞々しいから、ジュースにしてもあまり変わりがないようなという意見で統一された。
ダメなのは、スイカを口に入れているのに、あのかぶりつく動作がないのに違和感があったことだ。
スイカは飲むものではないという意識が先に立った結果だろうな。
紫蘇、シソジュースについては、まあシソ自体に好き嫌いが分かれるので、タイキ君は完全に駄目だった。
俺はまあ、飲めた。いや、健康飲料でシソジュースって普通にあるしな。
でも、個人的には葉っぱを食べる方がいい。すげー違和感がある。
ちなみにタイゾウさんも葉っぱの方がいいとのこと。
しかし、普通に飲めることは飲めた。
特に顔をしかめることもなく、シソの味だと驚いて飲んでいたから、ご時世柄というやつだろう。
食料少なかったから、食べられるものは何でもというやつだ。
で、最後のキュウカンバーサワー。
日本語に訳せば炭酸きゅうり、胡瓜である。
なぜこのチョイスにしたのか、商品開発担当者を締め上げたい気分で一杯だ。
普通に、野菜ジュースではだめだったのか?
いや、胡瓜はほぼ成分構成の9割近くが水で、残りはほぼ食物繊維という素晴らしいダイエット食品だからこそ、選んだのかもしれないが……。
「「「これはない」」」
3人の意見はダメということで一致した。
飲めないわけでもない。
口に含んだ瞬間炭酸のはじける感覚と、広がる胡瓜の香りと味。
前半はともかく、後半に感動を覚えることはなかった。
まあ、トマトジュースを炭酸で割ったというのもあるし、ありと言っちゃありなんだろうが、俺たちにとってはなかった。
普通に胡瓜食えよという話だった。
あれだな。まだ人類には早かったという奴だ。
そんな感じで、キュウカンバーサワーの残りを意を決して飲もうとしていると、不意に部屋の扉が開かれる。
「胡瓜の匂いがした」
ジョンが立っていた。
「あ、大将。それって……」
「あ、ああ。日本で売られているキュウカンバーサワーだな」
「うぉぉぉ!! 日本の胡瓜飲料!! すげー!! 飲んでみても!?」
「え? おれはいいけど、2人は?」
「私も構わないよ。ジョン君が飲んでくれ」
「俺もいいよ。ジョンにやる」
「聞きましたからね!? もう返しませんよ!!」
そんな感じで、半分ほど残ったキュウカンバーサワーを抱きやらないアピールをするジョン。
誰もとらねーよ。そんな明後日方向の飲み物。
「では、失礼をして……。うおーー!! うめーーー!! ウィードにあるのと違って洗練されている!? 流石ジャポン!!」
お前は日本にやってきた外国人か。
「って、まて。ウィードにあるって、キュウリサワーがか?」
「え? 知らないんですか? スーパーラッツで自作のペットボトル飲料の販売してるじゃないですか」
「ああ、レモンとか、桃とか聞いてるな。ペットボトルの再利用を狙ってコストを下げて販売してるとか」
「そうそう。その中の一つにキュウリサワーがあって、奥様達に大人気!! 俺も大好き!! と、すみません。今はサクラちゃんたちに呼ばれているんですよ。これで失礼しますね」
あ、そう。
娘の遊び相手で来るのはよくあるからいいとして……。
「まあ、国が違えば文化も違うものだからな」
「そういうもんですかね?」
「というより、ジョンの察知能力はどうなってんだ。胡瓜の気配ってなんだよ!?」
いよいよ、ジョンが河童への道を歩んでいるような気がしてならない、夏の一幕であった。
はい。
皆様は夏の間、どのような飲み物を飲みましたか?
どこかの有名チェーン喫茶店などで限定物など飲んだでしょうか?
そして、過去でこれはひどいという飲み物もあったでしょう。
久々の夏の思い出に、ゲテモノでも飲んでみてはどうでしょう?
あるかは知らないけど。




