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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
果ての大地 召喚編

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落とし穴98堀:永遠判子と偽物事件

永遠判子と偽物事件




Side:ミリー  ウィード所属 冒険者区代表 




ペッタン。ペッタン。ペッタン……。


そんな音が、私の執務室で永遠と勘違いするほどずっと響いている。

いや、この音を出しているのは私なのだけれど、なぜかどうにも現実感がわかない。

なんで、私は書類に判を押しているのだろうか?


今まで新大陸誘拐や出産やらでたまっていた書類に目を通して判を押しているのだけれど、この終わりの見えない作業を繰り返しの中で、私は自分が何をやっているのかを見失っていた。

これって、確かゲシュタルト崩壊だっけ?


「って、ミリー!! ちょいまちー!?」

「ふえ? どうしたのキナ?」


私は作業を手伝ってくれているキナに返事をしながら、それでも機械のようにペッタン、ペッタンと判を押している。


「いやいや、書類見てないでしょう!? 駄目だよ!!」

「あ、そうか。書類ってみないといけないわよね」

「いしゃー!! 誰か医者よんでー!! ミリーがぶっ壊れてるよー!!」


失敬な。私がぶっ壊れているわけないでしょう。

ただ、書類の内容をみないで、判を……。

ん? それって駄目じゃないかしら?

ようやく、ぼやっとしていた感じから現実感が戻ってきて、手元の書類を見ると……。


『冒険者ギルド月末収支報告書 2P 人件費、雑費……』


と書かれている報告書の下に私の判が押されていて、丁度合計が見えなくなっていた。


「ちょっ!? いくらなのこれ!?」

「あー!? 選りにも選って、収支報告書の合計潰さなくても!? あーあー。これまた会計の方に書類提出してもらわないと……」

「……やっちゃった」


流石に、記録として保管しておかなければならない収支報告書を私の無意味な判押しで汚したままにはできない。

一から作り直しだ。


「はぁ。まあ、これは印刷タイプみたいだから、再提出は楽だろうけど、他の手書きのタイプとかの重要書類だったらめんどうだよ。私がちょっと、会計の方に頼んでくるから、ミリーは今まで判をおした書類を確認しておいて」

「うん。ごめん……」

「ま、仕方ないよ。これだけ書類があればね。私が休憩をって言えばよかったね」

「キナが悪いわけじゃ……」

「気にしない気にしない。こういうサポートも含めて私が側にいるからね。だけど、あー、ロックさんには怒られるかなー?」

「流石にそれは私から報告にいくわよ」


自分のミスでキナが怒られるようなことは避けないと。

ということで、2人で隣のギルド長室へと向かう。

仕事上、私の方が立場が上なので、ノックすることなく入る。

居なければ鍵がかかっているし、必要とあらばマスターキーで私は自由に入ることができる。


「おう。ミリーにキナか、どうした? 書類に気になる点でもあったか?」


私と同じように書類に判を押したりサインしたりしているロックさんを見て正直申し訳なくなってくるが、言わないわけにはいかない。

自分のミスなのだから、それをキナに押し付けるわけにもいかない。

私は覚悟を決めて、無意味に判を押して、報告書類を台無しにしてしまったことを話す。


「あっはっはっは。ミリーもついにやったか」

「はい?」


なぜかロックさんは怒ることなく、笑い声をあげていた。


「いや、悪い。まあ気にするな。ミリーは初めてみたいだが、こういうミスは誰だってするもんだ。今までミリーが無かったのが不思議なぐらいだ。そういう意味では、ちゃんとした立派な受付だったんだな」

「はあ? えーと……」

「ああ、書類のやり直しについてはこちらから言っておく。大丈夫だ」

「はい、すみません」

「気にするなといっただろう? 誰でもやるミスだ。正直に言ったのだから問題ない。まあ、何度もやられると叱らないわけにはいかないがな。一番まずいのは、こういったミスを隠すことだな。キナの奴はまあいいやで、そのまま放置して、いざ書類を確認した時にそれが発覚してかなり叱ったからな」

「あー、ロックさんそれはいわないでよ!?」

「キナ。あなたそんなことしてたの?」

「いや、意図的じゃないってロックさんもいったでしょう? ただ、インクが飛んで、少し合計の方が潰れただけだったから、まあいいかなーって思ってたら、あとで大変なことになってさ」

「それはそうでしょう……」


大事な書類が、読めなくなったとか。

しかも話から察するに収支報告書の関係でしょう?

当時はガルツの管理下だったから、税金とかで必須の書類だったはず。


「仕方ないじゃん。当時は私も下っ端の受付だったんだもん。今は副ギルド長になったから判るけどさ。怒られて初めて、そういうために使うってのが判ったんだから」

「なるほど」

「まあ、ウィードみたいに教育をしっかりしているわけでもないからな、末端の人員は書類が重要などとは思わんだろうさ。あくどいところは、勝手に改ざんして税金逃れとかをする奴もいるからな。だが冒険者ギルドは信用にかかわるからそこらへんは厳しいんだ」


そんな話をしていると、不意にギルド長室のドアがノックされる。


「だれだ?」

「オーヴィクです」

「入ってくれ」

「失礼します」


そういってドアを開けて入ってくるのは、今やウィード専属の冒険者であるオーヴィクとラーリィだ。


「あ、ミリーさん」

「やっほー、ミリー。聞いたわよ。出産したんだって。おめでとう」


私がいることに驚いているオーヴィクをよそに、ラーリィは親しげにこちらに近寄ってくる。

ラーリィとは仕事の関係上仲良くやっているのだ。

公私の区別はちゃんとつけるできた子ね。


「ありがとう。そっちも無事に出産したらしいわね。無事で何よりだわ」

「ありがとう。まあ、ウィードだからね。出産前も、当日も、産後もばっちりケアでこの通り、現役復帰も早かったわ」


実は、ラーリィも私と同じ時期ぐらいに妊娠していて、私が新大陸にいる間に出産していたのだ。

ラーリィの子供の方が、一か月ほど早く生まれている。

勿論父親はオーヴィクだ。


「で、ロックさんに会いにくるってことは何か仕事の報告?」

「あ、ああ。そうなんだけど……」


なぜかオーヴィクが言いにくそうな顔をしている。

変な仕事でもあったのかと思っていると、ラーリィが代わりに答えてくれる。


「聞いてよ、ミリー。ユキさんの偽物がいるのよ」

「おい。ラーリィ……」

「誰の偽物ですって?」


私自身も驚くほど低い声が出てきた。


「だから、ユキさんの偽物。なんか、最近その被害がでているって話でね。その調査を頼まれたの」

「ロックさん。どういうことですか?」


私がぐるりとこの依頼を出したであろう、ロックさんを見る。


「ひっ!?」

「落ち着け、ミリー。そう睨むな」


横にいるキナは私を見て悲鳴を上げている。

……そんなに私怖い顔しているのかしら?


「そっちに隠すことじゃない。ミリーたち、いや、ユキたちが新大陸に行ってから、この冒険者地区で妙な話がでてきたんだ」

「妙な話?」

「ああ。いや、ただの詐欺だな。よくあるやつだ。誰かに金を貸したが、戻ってこない。そんな話だ。個人での貸し借りだからな、よくあるだろう?」

「まあ、そうね」


ウィードでは、銀行からの借り入れができますので、そういう個人間のお金の貸し借りは問題になるからなるべく控えましょうという警告を出してはいるが、やっぱりなくならない。

金貸し屋はトラブルの元になるので、基本的にウィードでは受け入れていないのだ。

必要最低限の生活はできる環境がウィードにはあるから、必要ないとの判断なのだが。

ちょっとしたお小遣いという感覚でお金を借りて、返さないのトラブルがやはりある。


「それが、ここ二月ほどで急増した。この冒険者区でな」

「冒険者区で?」

「そう。この冒険者区だけでだ」

「冒険者区だけ?」

「そうだ。隣の商業地区や、居住区などではまったくそんな話を聞かない。ポーニ殿の警察の方でも把握していなかった」

「変な話ね」

「ああ。だから、とりあえず、冒険者区だけなら自分の庭ということで、ポーニ殿と相談した結果、一旦自分たちで調べてみるという話になったんだ」

「まあ、警察の介入なんてしてたら大事だと思われるわよね」

「ああ。そこをポーニ殿も気にしていた。ウィードの治安を預かる身ではあるが、この冒険者区は冒険者ギルドに貸し与えているようなもので、あまりに強権で押し入ると冒険者ギルドとの関係が悪化すると言ってな」

「冒険者区だけで起こっているから、なるべく自己解決をって話ね」

「俺も、グランドマスターの爺さんもそういうのは気にしないんだがな」

「そういうわけにもいかないでしょう。この冒険者区は冒険者ギルドの意思に沿って街づくりをやっているのだから、冒険者区だけの問題で警察が介入したら、冒険者ギルドにこの地区は任せられないってウィードが言っているようなものよ?」

「そこなんだよ。問題は。依頼で来る一般人にはそういう被害がないから、警察としても動けないんだと。なぜか冒険者だけが被害にあうんだ」

「……で、話の続きは?」

「ああ、話が少しそれてたな。その調査の結果がユキの偽物だ」

「どういうこと? ユキさんの偽物ってドッペルのこと?」

「いいや。被害にあった冒険者たちは、ユキに融資を頼まれて、見返りにウィードでの地位を約束する。という話で、そんなときに、タイミングよく金貸しが現れて金を冒険者に貸し、それをユキに渡すという流れがほとんどだった」

「はぁ?」


なにそれ? 意味が分からない。


「俺も最初は意味がよく分からなかったが、簡潔に言うと、ユキが冒険者たちに金を借りて回っているという事態だ。しかも金貸しに金を借りているから、利子はすごいし、取り立ても厳しく、困り果てた冒険者が叫んでいるわけだ」

「……私たちのユキさんがお金に困っているわけないんだけど」

「そうだな。ユキがお金に困るわけがないな。というかユキはお金より休日の方が欲しいだろうからな」


それは尤も。

私たちもユキさんや子供たちとのんびりする時間が一番欲しいもの。


「だがな、不思議なことに冒険者ギルドでそういう話、騒動は出てこないんだ」

「はい? いや、変な話があったって……ああ、噂でしかなかったのね」

「そうだ。噂だけだから、警察も動くに動けない。訴える被害者がいないからな。だからオーヴィクたちに調査の依頼を出したわけだ」


そういって、オーヴィクたちを見るロックさん。

その視線を受けて、オーヴィクが口を開く。


「えーっと、ロックさんやラーリィの言うように、ユキさんの立場を利用しているバカがいるのが確認できました」


ほう。

このウィードでユキさんの名をかたるクズがいるとわね。

命がいらないらしい。


「ミリー。落ち着いて。腹が立つのはわかるけど、こっちも話辛いし、これからの内容を聞くと気の抜ける話だから」


ラーリィにそういわれて、殺気を抑える。

いけない。悪いのはその屑だ。

ここの皆に罪はない。


「ラーリィの言う通り、ちょっと拍子抜けな話になるんですが、そのユキさんの偽物との思わしき人物と接触に成功しました。正直全然似ていません。というか、冒険者ギルドにもウィードの主要人物の写真は飾ってありますし、ユキさんの顔を知らないというのは、ウィードに来たばかりの冒険者か、余程なにも気にしていないバカだけです」

「なるほど。何も知らないのを利用されたというわけか。知っている連中からすれば、何を言っているんだという話だしな」

「はい。おそらくはそれを狙ったんでしょう。で、接触していると、都合よく金貸しが現れましたし、おそらくグルで、無知な冒険者から金を巻き上げているんだと思います」

「で、実際冒険者ギルドに来てみれば、ユキさんではないとわかるし、結果金貸しにお金をかりて、見ず知らずの相手にお金を貸しただけって話が残るわけ」

「……えーっと、バカ?」


かろうじて私が口にできた言葉がこれだ。


「バカだな。しかし、その話だと、そのユキの偽物はよく殺されないな」

「どうやら、ユキさんの偽物は話を聞く限り、毎回姿が違うらしいです。おそらく金貸しにやとわれているんじゃないかと」

「なるほどな。偽物役を雇って金貸しはただ貸した金の取り立てをして儲けを出すか」

「……どうりで、商業地区や居住区とかで話がないわけね」


そういうウィードの説明はしっかりするから。

逆に冒険者はダンジョン稼ぎということで、ウィードの簡単な注意事項だけで通してしまうのだ。

商業地区の観光客相手だと相手が帰国してしまえば終わりだし、お金を回収できないから、やっぱりウィードに長期滞在をする冒険者相手の方がやりやすいわけか。


「冒険者区以外ではすぐに偽物とばれるからな。いや、ここはウィードの主要人物の認知度が低いのが問題か。冒険者ギルドに来るよその冒険者も一旦ゲートでお偉いさんの紹介をしておくべきか」

「今後の対策はそれでいいとして、問題はその偽物と金貸しをどう押さえるかね」


流石に、ユキさんの名をかたる馬鹿を放って置くわけにはいかない。

しかも私の庭でだ。

だが、現場を押さえなければ知らぬ存ぜぬでしょうね。

私が自ら出るのは目立つし、ここはオーヴィクたちにもう一度……。


バンッ!!


そう考えていると、いきなりドアが開かれる。

音に驚いて、振り返ると、ドレッサとヴィリアが立っていた。


「どうしたの。2人とも?」

「あ、ミリー!!」

「ミリーお姉様!! 聞いてください!! お兄様の名をかたる偽物がいたので捕まえてきました!!」

「そうよ!! ついでに金貸しまでいたわ!! あれって噂の詐欺よね!! 証拠もしっかり録音しているわよ!!」


その言葉にその場の全員が同時に叫んだ。


「「「よくやった!!」」」


証拠も押さえて、身柄も既に確保。

どうやら、ドレッサとヴィリアを新米冒険者と勘違いしたのだろう。

いや、新米なのは間違いないけど、ウィード出身の冒険者とは思わなかったみたいね。

まあ、時期を考えてもそこまでウィードに詳しくない人物のようだし、何れはこんな結果になったでしょうね。


その後、ユキさんの偽物は金貸しの部下が演じていて、金貸しが黒幕なのがちゃんと判明。

契約書は金貸しではなく、奴隷契約書になっており、文字をまともに読めない冒険者相手を騙して金を貪り、最終的には奴隷として売り払うということを画策していたことがわかり、ウィードでも稀にみる悪質な事件となった。

幸い、この金貸しが活動していた期間が短かったため、奴隷にされた冒険者はいなかったのが救いだった。




「はぁ。えーっと、この書類は……判子?」

「ミリー、正気に戻って!! それ違うから!!」


が、その騒動の結果。

私がさらに書類地獄になったのは言うまでもない。


ペッタン、ペッタン、ペッタン……。


あ、それ。ペッタン。

あはは、なにか楽しくなってきた。


「ミリィィィィィ!?」





同じような作業をしているとなるよね。

まあ、仕事柄、確認作業の方で気が付くんだけど。

書類とか毎回同じパターンだから、溜まるとキツイものがあるよねー。

はいはいと書き込んだりハンコ押してたら、あれ? これいつもと違う書類じゃんってのはよくある。


みんなもそうだよね!!


あと、詐欺には気を付けよう!!

こういう話はよくあるからね。



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