第572堀:イフ会談 談笑
イフ会談 談笑
Side:ノーブル エクス王国 国王 軍神
ユキ殿が新大陸の件をいきなり言い出した時は何を考えているのかと思ったが、話を聞けば、なるほど上手い手を使ったものだと感心した。
これで、私がゲート設置技術を有していることや、元々、魔剣事件に不信感を持っている他国の連中も慌てて頷くしかなくなった。
ここでもめていては、旨味を全て失うからだ。
新大陸との交流ができたロガリ連合の方は無理をしてイフ連合と交流を持たなくてもいいのだ。
アグウストの部下がバカを言ったが、あれはおそらくアグウスト王の指示だろうな。
アグウスト王はユキ殿の大きさと影響力をよくわかっていない。
だから、部下を使って揺さぶりをかけてみた。
今後の大陸間交流で優位を得るために。
だが、思いもよらぬ新大陸という存在に、ちょっとした揺さぶりが、首元に剣を突き付けられた形となった。
非難するつもりが、アグウスト国が各国に非難されることになったのだ。
ユキ殿はこれ幸いと、嫌われて、信頼されていないなら、無理に仲立ちはしませんよと言ってきた。
それなら新大陸に集中するからと。
国益になる方を選ぶのは当然の判断だ。
尤も、ロガリ大陸との交易をする旨味などを聞かずにいきなりユキ殿を押さえつけようとしたのが間違いだったな。
我慢していれば、ユキ殿を非難するようなことはなかったはずだ。
いや、アグウスト王はユキ殿のことをあまり知らないから無理もない判断か。
……まあ、後々暗躍されるよりはましか。
つまり、炙り出したのか。あとは私たちでアグウストを押さえろということか。
幸い、魔力枯渇の件は既にロガリ大陸との魔術技術交流をという話が挙がって、ポープリ殿とヒフィー殿が向かうことになった。
こちらもおそらくは予定通りだろうな。
今日のこの後の会議はどうにかしてアグウストの頭を押さえつけることか。
イフ会談において現在一番の厄介事は、ユキ殿にそっぽを向かれることだ。
その原因を作り出したアグウストにはそれ相応の処分がないと、私たちも安心できない。
足を引っ張られてはたまらないからな。
「魔術の関係は、ポープリ殿、ヒフィー殿に任せるということで異論はないな?」
「「「ない」」」
気が付けば、ジルバ王がこの会談の議長のようなことをしている。
流石、国が若くとも、歴史を持つ古強者の国々を落として帝国と呼ばれただけはある。
王たちもジルバ王が議長のようなことを務めるのに誰も文句は言っていない。
それだけの凄みや、説得力があるのだ。
仕切るモノがいなければ私が出たところだが、ジルバ王が仕切ってくれて助かった。
ゲートを無料で設置はしているモノの、その技術を持つ国として警戒されている。
魔剣事件を自分が起こしたこともある。
それで仕切ればいい顔はしないだろう。
元々、この会談も私がゲート技術とユキ殿が別大陸、ロガリ大陸から来た人物だと言って、危機感を煽り慌てて整えたものだ。
下手をすれば、無駄に争いの種を持ち込んだと言われかねんからな。
大人しくしているのがちょうどいいだろう。
これで、ユキ殿と私の企みはほぼ成功したというわけだ。
エクス、ウィード共に、ゲート技術を保有しているからと言って、周りにでかい顔をしないで済む。わざわざ最前線で矢面に立つ必要はなくなった。
落ち着いて、イフ大陸内の情勢を見て対処することができる。
先ほどの件でもよくわかったが、アグウストがあまりよろしくないな。
ウィードに関する情報量が少ない。ユキ殿の事を知らなすぎる。
いや、わざとアグウストではアマンダ殿に戦功を譲ったとは聞いていたが。
アグウストはまんまと騙されたわけだ。
違うな。状況を見れば、利用されたわけだ。
誠意があるのならよかった。が、先ほどウィードを押さえつけようとした。
そこをユキ殿はすかさず利用した。
これからは、イフ大陸の方でアグウストのように不満のあることは解決してから話し合いに来てくれと言われたようなものだ。
一国と一国の間ではお互いの主張によりどっちの味方につくなどと迂闊に言えないが、今回に限っては、大陸間交流がかかっている。
問題を起こせばそれは一国対多国となるのだ。
そして時間もない。ユキ殿は今新大陸でも忙しいのだから。迂闊にもめていれば、大陸間交流が流れる可能性が出てきてしまった。
ユキ殿は、無理に大陸間交流を望んでいないのだから、文句をいう国がいるのならば引くと言えばそれで終わりになる。
だが、大陸間交流を望んでいる国にとってはそんなことをしてもらってはたまらない。
これで、エクスやウィードに非難が集まることはなくなったのだ。
文句を言い、大陸間交流に疑問を抱いたり邪魔をしたりする国、今回はアグウストだが、周りの国から一斉に非難を浴びることになる。
これから各国が協力して、大陸間交流に漕ぎ出す中、それに参加をしない国、邪魔をする国は、孤立を意味する。それは国の衰退に関わる。
それをアグウスト王も理解しているのか、先ほどの魔術技術交流に関しての会議から口を閉じたままだ。
「……さて、魔術の話はまとまったが。アグウスト。そろそろ、どうするか決めたか?」
「……」
ジルバ王が無表情でそう尋ねる。
「このまま無言でこの会議に参加できるとは思うな。アグウストの迂闊な行動で、大陸間交流自体が流れる可能性が出てきた。これからウィードの存在するロガリ大陸と交流を持ちたい国にとっては、先ほどの行動は無視できぬぞ。考える時間は十分あっただろう? 出て行くか、参加するのか決めてもらおうではないか」
「……謝罪はした」
「謝罪はな。それで、終わりで済むと思うのか? これからも同じような行動をとられてはたまらん。というか、アグウストの迂闊な行動で大陸間交流が遅れた。この失態の責任を取らないで、参加できるとは思うな」
ジルバ王がそういうと、周りの国も頷く。
まあ、そうなるな。
危うく、大魚を逃がすところだったのだ。
何らかの誠意、責任を取ってもらわなければ納得できないだろう。
「……この度は各国に迷惑をかけた。そのお詫びと言ってはなんだが、今後の大会議の際の費用はこちらから出させてもらおう」
ようやく絞り出した答えは、まあまあ妥当なところだった。
下手に今後の大陸間交流で得られるモノの制限などといえば、後々アグウスト国内の不満が溜まり、爆発しかねない。
国としても王が勝手に判断してよいことではない。
こちらとしてもアグウストが傾くのは大陸間交流が遅れる原因なるので避けたい。
だから、今後の会議費用を持つというのは、妥当だろう。
それでも6大国の王たちが集まることもあるのだから、馬鹿にならない額だ。
私も今回の会議に参加するためにそれなりの費用をかけたのだ。
今後は、今日という成功例もあるのだから、費用はどんどん効率化されて下がっていくだろうが、それでも結構な負担額だ。
他の国々も同じようなことを思ったようで、特に不満はない。
むしろ……。
「いや、せいぜい10回。いや5回ほど出してもらえばいいだろう。アグウストはわざわざ矢面に立って、ウィードの腹を暴いたという見方もできるからな」
というのは、ローデイ王。
うむ。そういう見方もできる。
ウィードが信頼できないという気持ちはよくわかる。
恐らく、アグウスト王が動かなければ他の国が動いたのだろうな。
それに賛同するように、エナーリア王も口を開く。
「ローデイ王の言う通りだな。アグウスト王。私の方から、会議費用の援助をさせてもらう。そうだな、5回分負担するとして、あとの5回分の内、2回分の費用はこちらでもとう」
「まて、それだと我がジルバがアグウストを不当に扱っているようではないか。エナーリアの2回分の内、1回をジルバで持とう。ローデイ王の言う通り、不信があるのはわかるからな。その非難を浴びてもらったのだ。このぐらい安い」
「……皆、甘いのか厳しいのかよくわからんな」
先ほどまで非難の視線を浴びていたアグウスト王は苦笑いしながら他の王を見ていた。
「だから言っただろう。騎士すぎるのだ、アグウストのは。こういう駆け引きにはやり方というものがあるのだ。だが、このままアグウストが孤立しても、騒動の原因になりかねんからな。結局はどこかで和解するしかなかったのだ。その点、騎士すぎたからこそ謝罪と、先ほどの責任を取るといえたのだ。そこはアグウストの美点だ」
ジルバ王がそういうと、他の王も頷く。
しかし、ちょっと馬鹿にされた感じのアグウスト王は苦笑いのままだ。
しかし、ジルバ王の言う通りだろうな。
謝罪もしない、責任も取らないでは、許しようがない。
そうなると、孤立するしかない。
だが、その果ては、肥沃な隣国に攻め込むということになりかねない。
戦争となれば、各国が協力して倒すしかなくなる。
そうなれば、なおの事、大陸間交流が延びるだけ。
そういう意味では、アグウストの今回の動きは最善ともいえるかもしれない。
何事もいいようだな。
「まあ、これでアグウストの参加を認めないという国はあるまい?」
そうジルバ王が周りを見回すが認めないという国はない。
「では、今日の会議はここまでにして、明日のかい……」
これで話が終わるかと思ったのだが、不意にローデイ王が口を出してきた。
「ちょっとまて、さっきの話だと、アグウストに支援するのは、ジルバにエナーリアだけになるじゃないか。それだと、俺のローデイ、エクス、ホワイトフォレストは意地が悪いってことになるじゃないか」
「そうだな。ローデイの言う通りだ。ホワイトフォレスト、どうする?」
「そうですね。では、こういうのでどうでしょうか。今後の会議費用を持つのは、アグウストが3回、ジルバ、エナーリアが1回のはずです。そこで、私たち3国は間をとって、2回費用を持つということで。これでアグウストの謝罪の意は示せますし、我がホワイトフォレスト、エクスはジルバ、エナーリアよりも太っ腹だということを示せますが」
「お、それいいな。じゃ、それでいこう」
レフェストの案に喜んで乗るローデイ王だが、ジルバとエナーリアは面白くない。
というか、逆にジルバとエナーリアがケチだと思われるな。
「まて」
「それはないだろう」
慌てて、ローデイ王とレフェストの話に割って入るジルバ王とエナーリア王。
「……なあ。エクス王。私の責任取りの話ではなかったのか?」
「まあ、そうだが、負担が少なくなる話だ。アグウスト王にとっては悪い話ではあるまい」
「……そうなのだが、なんというか、変な状況だな」
「平和でいいではないか。わざわざ戦いでどこかの国が力を落とすことよりも、協力して大きくなる方が建設的だ」
「平和か。そうか、もうそういう時になっているのか」
「ああ」
これからは、協力して大きくなる。
ゲートがある以上、大陸間交流のみならず、近場の国家間交流も盛んになる。
お互いの国同士で憎しみあうことは、互いを知る機会が増えて、徐々に減っていくだろう。
気の良い隣人を攻め滅ぼすなどと言われても、そう簡単にできることではないからな。
こういった感情を芽生えさせる。
ユキ殿にとってはこれがこの大会議の一番の目的だったのかもしれないな。
こうして、イフ大陸の面々もウィードというかロガリ大陸相手に協力体制を築いていくのでした。
さて、これでイフ会談は成功かな?
何か忘れてないですか?




