第570堀:イフ会談始まる
イフ会談始まる
Side:ユキ
「あー、ねむ」
「しっかりしなさいよ? ジェシカたちイフ大陸メンバーの頑張りが無駄になりかねないから」
「わかってるって」
昨日は結局ノーブルと遅くまで話をしていて、本日は眠い。
昨日来たイフ大陸の王たちや、側近などにはわざと一日待ってもらった。
ホーストの報告だと、お世話のメイドに陰口を聞かれるようなアホがいるようだし、ブラフか本当のアホなのかどうかを調べるために一日ほど泳がすことにした。
完全なアホなら一日待たされて、俺がのんびり来たらわかりやすく態度が悪化するだろうからな。
あと、俺がイフ大陸の都合に合わせてはいられないという意思表示にもなるだろう。
なにせ、実際ロガリ大陸メンバーとの調整もいるんだからな。
ははっ、不幸に見舞われろ駄目神。
具体的には、タンスの角にでも小指をぶつけろ。
『いっつ!? のぉぉぉー、小指がーー!? ごらぁ!? 変な願い事するんじゃないわよ!! 地味に痛い!?』
悪は滅びる。
少し気分は上向きになったので、眠気が覚めてきた。
「……なんかルナから、あなたの変な願い事をやめろって苦情が来たのだけれど? なに願ったのよ?」
「タンスの角に小指をぶつけろだな」
「……地味に痛いわね。でも、ほどほどにしてあげなさいよ? ルナは別に悪い人……ではなくて悪神ではないわ」
セラリアもルナに関しては上級神という認識は薄いらしく、言い直している。
ま、それもしゃーない。今までの俺たち任せは仕方ないにしても、ウィードでの自堕落っぷりを見れば、いい人や、いい女神にはみえない。
自堕落の女神で、堕女神で、駄目神のほうがあっているだろう。
「大丈夫。ただ願ってルナが油断してぶつかっただけだから。願うだけでルナがどうにかなるなら、真人間に戻している」
「……それもそうね。で、イフ大陸の面々との会談は大丈夫なわけ? 本当に私が行かなくていいの?」
「セラリアはあくまでもロガリ大陸のウィード国代表だからな。今回は俺個人に会いたいって話だし、ロガリイフ会談の時に他の国と一緒に顔を出した方がいいだろう。先駆けて話をしているっていうのは嫉妬されるからな」
「元から調査しているのは私たちなんだけどね」
「だからこそだろう。ロガリ大陸でウィードの事情をしらない国々は、ウィードがイフ大陸に与するかもって考えるところもあるだろうさ」
「まったく面倒ね。でも、あなたに何かあれば、一気に制圧にかかるわよ」
「それは頼む。まあ、そうなると面倒極まりないからやめてほしいけどな」
「まあね。じゃ、私は司令室の方にいくわ。あなたもベータンでしっかりね」
「おう」
俺とセラリアはそういって、分かれ各々の仕事場に向かう。
といっても、ゲートをくぐるだけで、そこはベータン。
仕事場が近いっていうのはありがたいねー。
お陰で右に左に飛び回ることになるから、実際はありがた迷惑ってところか。
そんなことを考えながら気が付けば、昨日と同じ執務室に到着していた。
すでに、ホーストや、外交官として働きまくっている嫁さんたちも集まっている。
俺が一番最後だ。
「さて、昨日から大変だったとおもうけど、今日の会談が本番だ。みんなよろしく頼む」
「「「はい」」」
みんながちゃんと返事しているところから見て、特に体調が悪いということはなさそうだと確認をしたら、一旦その場に座って昨日から今日までの放置作戦による効果のほどを報告で聞くことにする。
「で、各国の様子はどうだった?」
「ジルバの方は特に動きがありません。護衛としてついてきているのはマーリィ様たちで、重臣の方も、あの時の殴り込みに立ち会った人物ですので、下手なことは言わないかと」
なるほど、最初から無用なトラブルは避けて、ジェシカの元上司であり、仲がいいというか付き合いの長いマーリィを連れてきたか、そして重臣の外交窓口のほうも俺たちを知っているか。
ジルバ王はそこらへん考慮してきたか。
あの性格ならわざと不穏分子を連れてくるかと思っていたが……。
ああ、そういえばこっちに処理させたら、処理費用もらうぞって言ってたっけ?
「そして、エナーリアの方も私の方から報告いたします。エナーリアの方は少々不穏と、エージル様より話がありました」
「どういうことだ? あっちも散々暴れたはずだが……」
「いえ、表立って文句を言うようなことはないはずですと言っています。問題は、私たちがどちらかというと、教会寄りというところですね。王家に付けと言ってくるだろうと」
「ああ、そんなことあったな。あっちはエナーリア教と王家で力が二分してるんだったか」
「はい。今回のイフ会談については、各国のトップ、つまり王を指名だったので、エナーリア教は関われませんでした。ルルアたちを聖女だと崇めているエナーリア教としては、今日この場でユキとかかわりが持てないのはかなり痛手ですね」
政治の駆け引きはよそでやれ。俺の嫁さんたちを巻き込むな。
とはいえ、エナーリアでは俺というより、ルルアを筆頭に嫁さんたちが暴れすぎたのが原因か。
いや、原因は攻めてきた聖剣使いのスィーアとキシュアなんだがな。
ああ、あいつら使って大人しくさせるか、元々スィーアの国なんだし。
聖剣による思考制御も解けているし、コメットとの再会、嫁さんたちのしごきでまともになっているようだし、そろそろウィードでのんびりしてきた分の取り立てをしてやろう。
手が足りないとか抜かしたら、お友達の聖剣使いのメンバーを連れてけと言ってやる。
「じゃ、次はアグウストか、ローデイだけど……」
「先に私の方からご報告いたしますわ。ローデイの方は陛下が陛下ですので、特にこちらに不満はありませんわ。というか、陛下がベータンに着いて以降ふらふらするので護衛や重臣の方たちがこちらに頭を下げて回っている始末ですわ。私も昨日は振り回されました」
「そうか、あのおっさん、相変わらず自由人だな。って、そういえば付き添いはローデイの魔剣使いか? 名前は聞いたことないけど」
「ええ。土、地面の魔剣を扱う防御に長けた岩壁のドージュですわ。彼女は比較的物静かなタイプで、ローデイでは国境の防衛に勤めていましたから、名前を知らないのも無理はありませんわ。しかし、ローデイ内での彼女の評判は高いです。敵の侵攻を大堀や壁などを一瞬で作り上げて抑える守りに長けた勇将と。敵から見ればただの土いじりの延長にみえるのでどうも評価は低いですが」
「なるほどな。縁の下の力持ちか。あのおっさんが連れてきたんだから、ちゃんとした信頼や実績があるんだろうな。で、彼女自身は他とトラブルを起こすような感じ?」
「いえ、先ほど言った通り物静かなタイプの方で、トラブルを好む方ではありません。昨日私も駆り出されたローデイ陛下の捜索ですが、ドージュも参加して一緒に街の人に頭をペコペコ下げていましたから、無用な心配かと。というか、胃薬がいりそうですわね」
「……サマンサの一存で渡していいぞ。流石にベータン内で、倒れられても困る」
「わかりましたわ」
原因がローデイのおっさんにあるとしてもだ。
なんか理不尽だが、あと数日だからなんとか抑えのドージュという魔剣使いに頑張ってもらうしかない。そのための支援は惜しまない。
で、いよいよ最後の一つ、ああ、エクスとホワイトフォレストは身内なんで報告は既にご本人たちから聞いている。よって不要なので、アグウストだけとなるわけなのだが、やたらとクリーナの機嫌が悪い。
「……報告する。アグウストの連中は基本的にウィードを舐めている。私を通じて言うことを聞かせろとバカから催促が来る始末。燃やしていい?」
「ダメ。というか、発生源はどこからだ? アグウスト王がそんなこと言うか? 一応、ランサーの学長ポープリとも友諠があるんだぞ?」
「アグウスト王からそういうことはない。だけど、その学長やアマンダを隠れ蓑にしたのが仇になった。アグウストのバカたちはユキたちの力を知らないまま、ことを終えたから、ユキたちの事をただの成り上がりものとか、ほらを吹いているだけとしか思っていない」
「なるほど。目立った戦績がないのはないで、こういう面で問題なわけか」
「不利ではない。あいつらがアホなだけ。燃やす」
「クリーナ、落ち着け。アグウスト王が言ってないということは、勝手に言ってるわけだ。それを知って俺が怒ったことにすればいい。そして、クリーナはこの会談の場でお姫様になるわけだから、クリーナを使おうとしたバカ共の処分もアグウスト王に直談判しても何も問題ないだろう」
「なるほど、あいつらの大好きな権力で止めを刺す。痛快」
「まあ、そこはクリーナの好きにすればいいけど、そのバカ共は重臣や護衛で同伴している魔剣使いもか?」
「いや、それはない。重臣にはうちのクソ爺が私たちの実力を伝えているだろうし、魔剣使いに至っては、ミリーが簡単にあしらったラライナ。こっちを侮ることはない。バカ共の中心は、完全に何も知らないお手伝いとして来ているちょっと偉い連中。私がお姫様になるということも知らないような連中」
「そうでなきゃ、クリーナに指示をだすわけもないか」
「ん」
と、各国の状態を大体聞き終わったころに、イフ会談の準備が整ったと報告がきたので、移動を開始する。
すでに、各国の王たちや同伴者は大会議室に集まっていて、俺は予定通りのんびりと大会議室へ向かい、扉を開けると、そこには中央の円卓に王たちが座っていて、そのさらに周りを劇場や映画館のような階段状に椅子があり、そこに各国の関係者一同。先ほど話題に上がったちょっとお偉い連中も座って参加していた。
今回は、ある程度のお偉いさんでも参加できるように大会議室を利用して、状況を把握できないアホ共の駆逐も兼ねている。こんなわかりやすい手に引っかかる馬鹿がいるとは思えないけどな。
王様たちの会談に口をはさむとか普通極刑だし。
なんて、くだらないことを考えつつ、俺たちは円卓の方に進んでいく。
その行動に周りはざわついていたが、円卓に座る王たちが何も言葉を発しないでいるのを見て、俺がウィードの関係者とわかったのか静かになる。
さて、ここはどう挨拶したものか?
ま、予定通りにアホ共がいないかを確認するか。
ということで、俺は片腕はひらひらさせながら声をかける。
「どうもー。遅くなりました」
ザワッとなる大会議場。
が、流石に文句を言ってくるやつはいなかった。
残念だ。いや、まともな人ばかりで安心したというべきかな?
「よお。元気そうじゃないか。ユキ」
「おう。そっちも元気そうだな。ローデイのおっさん。ベータンで自由に振る舞うなよ。そっちの護衛のドージュがひーひー言ってたってサマンサから報告があったぞ」
「そういうな。昨日の食事といい、あんな大規模な風呂といい、楽しまなくてどうするよ? なあ、エナーリアの」
「あ、ああ。いや、もうちょっとローデイのは落ち着いた方がいいと思うぞ」
いきなり振られたエナーリアの聖王は同意しそうになって、すぐに否定した。
ローデイのおっさんのノリの強さはここでも健在か。
「と、申し訳ない。挨拶が遅れましたな。ユキ殿、あの騒動の時は世話になった」
「いや、エナーリア聖王も元気そうでなによりですよ。エージルも護衛おつかれさん」
「はっ」
そう言いながら席に着く。
「さて、で、今日は顔合わせってことだけどこれで目的は達したか? ベータンは見たからわかると思うが、ウィードという国が存在する別大陸の文化を肌で感じてもらえたと思ったけど?」
俺はそういって、周りの王たちを見る。
誰も口を開こうとはしない。
まあ、実際目にしたら、別文化だというのを認識せざるを得ないよな。
「……またれい。ユキ殿」
と、そんなことを考えていると、不意にアグウスト王が口を開いた。
「なにか?」
「ウィードという国、そして別の大陸が存在するというのは、各国の王たちの反応から見ても事実だと理解できる。しかし……」
「しかし?」
「なぜ、各国の王たちの出迎えをせず、あまつさえ、大会議に遅れるようなこととなった? これは非礼であろう」
「まて、アグウスト王……」
「いや、ジルバ王。言わせてもらう。この対応はウィードやそちらの大陸の国々は我々の国々を下に見ているのではないか?」
ジルバ王の制止を振り切って今回の俺の対応を非難する。
ふむー。どういうつもりかね。
まあ、普通なら当然の文句なんだが……。
ふむ。ここは爆弾を落としてみる。どうせじきに話すことになるからな。
魔力枯渇の事に関して話を進めるのにもいいだろう。
「いや、そういう意図はないですよ」
「ならばなぜこのような対応になったのか? 納得できる説明をしていただこう」
「ふむ。つまり、納得していただければご助力いただけるということですね」
「……助力がいるようなことなのか?」
ふむ。どうやら、裏に何かあるとは思っていなかった感じかな?
ただ単に、連れてきた文句を言う連中を押さえるために、俺からの謝罪を欲していたってところかな。
はぁ、アグウストだけはアマンダに押し付けたからな、そこのツケってところか。
「一応、我が国の国家機密となりますが、他の国々はどうですか? 正直今話すのは早いと思うのですが」
「早いということは、じきに打ち明ける予定があったということか?」
そう問いかけるのはジルバ王。
「そうですね。遅かれ早かれ、話すことになるでしょう」
「……ならば聞いておこう。遅れた理由を聞きたいのは他の王もだろうが。助力については明言はできぬ」
「まあ、無理なことは言いませんよ。他の国々はどうですか?」
俺がそう聞くと、率先してエクスとホワイトフォレストは賛成してくれるが、苦笑いをしていた。
俺がこれから暴露する内容を知っているからな。
で、ほどなくしてエナーリア、ローデイも頷く。
舐められたというのは国の面子に関わるし、俺が遅れた理由は聞きたいよな。
が、それは地雷を踏みに来る行為である。
「皆さんが同意されるのであれば、問題ないでしょう。遅れた理由は、世の中広いもので、大陸はイフ大陸とロガリ大陸だけではなかったということですね」
俺がそう爆弾を落とすと、王たちはもちろん、周りの連中も何を言っているのか理解できないというような顔になっている。
「コホン。ちょっと遠回しが過ぎましたね。また別の大陸が見つかって、そっちでクソ忙しいんです。俺の仲介は最低限にして、勝手にイフ、ロガリ会談やってくれませんかね? 見つかった大陸のほうはどうもまだ戦争が絶えないようでして、手を抜くわけにはいかないんですよ。助力ねがえますよね?」
と、俺は笑顔でそういった。
いまだ、大会議場は沈黙している。
さてさて、藪をつついたアグウストはどうなることやら。
いよいよイフ会談開催!!
そして、牽制のジャブで爆弾をぶち込むスタイル。
さて、各国はどんな反応をすることやら。




