第569堀:両大陸の責任者によるトップ会談
両大陸の責任者によるトップ会談
Side:ユキ
「ユキ殿、よくぞご無事で!!」
俺がベータンに到着すると、ホーストが目に涙を浮かべながら、こちらに寄ってきて、分厚い筋肉で抱擁してきた。
これ、さば折り? と思うほど力強い。
流石に、再会を感激して祝ってくれているのだから、無下にすることはない。
だって、いままでベータンの準備はホースト任せにしてきたから。
彼の功績は偉大だ。
……だから、耐えるのだ。
俺の体の筋肉と骨よ、あと少し、あと少し耐えるんだ!!
そして、約1分という果てしなく長い時間を耐えきり、俺は無事に大地に両足で立っていた。
「色々迷惑をかけた。本来ならあの日に話しておくべきだったかもしれないが、下手に動揺が伝わると不味いので、遅れて話すことになってしまった。申し訳ない」
「いえ。ユキ殿の話は理に叶っております。あの訪問初日にユキ殿が召喚されて消えたなどと、私に伝えられれば、動揺は必至。ロガリ大陸の各国の王族の方々はきっと察してしまったでしょう」
ホーストへ今回の会談遅延の原因、召喚事故のことを話したのはつい数日前だ。
理由としては言った通り、俺の消失発覚による混乱を避けるためだ。
ここまで進んできた大陸間交流の準備がご破算になりかねない。
まあ、幸い俺はたった一ヶ月半ほどで戻ってこれたので大事に至ることはなかった。
「既に、ロガリの各国の王たちとは、会談をされたと聞きましたが……」
「そっちは特に問題はない。幸い身内みたいなものだし、召喚事故についてはウィードが毅然とした対応をするなら文句はないそうだ。まあ、新しい市場だしな」
「それはよかったですな。……しかし、イフ大陸の王たちには言わぬほうがいいでしょうな。ポープリ殿からも話を聞いていましたが、未だにお互い過剰に牽制をしておりますからな。迂闊に、ユキ殿の召喚事件を言えば、恩を売るチャンスと思うでしょう。そうなれば収拾が付きませんな」
ホーストは苦笑いをしながらそういう。
「はぁ。お国としては国益を優先するのは当然なんだけどな。ま、既に落ち着いている事柄に突っ込まれるのは面倒だな」
「はい。ですが、一応、ユキ殿はジルバ、エナーリアの王族であり、他の国々でもそれなりの立場の方を奥方として迎えておりますからな。面子を盾に割り込んできましょうな。ロガリ大陸と違って、まだまだ各国の連合体制すら整っておりませんし、戦果というわかりやすい結果が欲しいのでしょう」
「まあ、まだ半年経ったぐらいだからなー。ノーブルの所からのゲート流通解放は。連合もまともに組めてないのに、会談をするのは急だったか?」
「むう、私のほうからはなんとも……。ただの地方領主ですからな」
ああ、ホーストに振る話じゃなかったな。
ホーストの方はノーブルやヒフィー、レフェストとは仲良くやっているとしか伝えておらず、今後のゲート流通による戦争回避や大陸間交流などの国家、大陸戦略は伝えていない。
焦ったかな? と考えていると、後ろから声がかかる。
「いや、むしろ、別大陸の件があったからこそ、早急なゲートの展開ができていると私は思う」
「ノーブル陛下!? な、なぜここに!?」
「ああ、落ち着いてくれホースト。言ったと思うが、ノーブルとは裏で繋がりがある。ここの執務室には飛べるようにしているんだよ」
「あ、ああ。なるほど。お見苦しいところをお見せしました」
「いや、私も礼を欠いていた。ホースト殿。申し訳ない」
「い、いえ。私ごときに頭など……」
「王はただ傲慢であればいいわけではない。ホースト殿のような、他国の忠臣に礼を欠くような真似をすれば誠実に謝る。それは王として、人として当然のことだ。そして何より、私の声が聞こえたとたん、ユキ殿をかばうように立ったその胆力を評価してのことだ。素晴らしい部下だな。ユキ殿」
「うらやましいだろう? ま、俺に何かあれば助けてやってくれ」
「任せておけ。ホースト殿のベータンでの手腕は見せてもらった。堂々と6か国の王に対して見事な歓迎をしてくれた。ここまでの男はそうおらぬ」
「過分な評価痛み入ります」
「で、別大陸の件があったからこそ早急のゲートの展開ができたっていうのは?」
「ああ、その話だったな。席についても?」
「どうぞお好きに。リーア、お茶を……で、よかったよな?」
「うむ。緑茶は好きだ」
お茶を頼んで俺たちは席に着き話の続きを始める。
勿論、ホーストも横に座らせている。
本来デリーユが横にいるのだが、今回は後ろのテーブルの方でのんびりしている。
ホーストとデリーユはお互い格闘系なので実は仲がいい。
お互いの実力を認めているので、今回みたいにベータンにおける護衛を任せることも多々ある。
まあ、その実「戦闘訓練の時はよいのじゃが、普段は暑苦しい」という理由で側にいないだけだが。
「さて、お茶が出てくるまでに話してしまうか。私としては、別大陸、ああ、ユキ殿がまきこまれた召喚事件の舞台である新大陸ではないぞ。この場合の別大陸というのはロガリ大陸だ。これがあったからこそ、早急にゲートの開通ができたと思っている」
「理由は?」
「ユキ殿なら察しがつくだろうが、危機感だ。ゲートを使用したとされる、犯罪組織の各国での暗躍、そして、そのゲートを使って別大陸から来たと私の口から宣言されたユキ殿の存在。これが、各国に危機感を持たせて、早急な話し合いに持ち込めた要因だろう。これが、どっちか一方だけでも、眉唾として扱われたかもしれないが、現に私がゲートを無料で開通させ、現物を見たことから、ロガリ大陸のことも真実だと確信したわけだ。正直な話、これらが無ければ逆に未だにイフ大陸では各国の調整状態だったろうと私は思っている」
「まあ、概ね当初の予定通りではあるか」
「ああ、性急すぎるという意見は最初からあったが、許容範囲ではある。が、まさか、各国がユキ殿の取り込みに躍起になるとは思わなかったな。いや、普通なら当然なのだが、ユキ殿の性格や方針を知っている身としては、これ以上の身分など邪魔でしかないのはわかっているからな」
そうそう、俺が欲しいのは各国で自由に動ける身分なだけであって、いちいち各国の政治に絡むような立場はいらないんだよ。例えば王族とかな。
「話はわかった。で、ベータンに来ている他の王たちの様子は?」
俺はそういって、ホーストへ視線を向ける。
「はい。お昼に到着されて、昼食を召し上がっていただいたあとは、専用で作った露天風呂へ案内して、お気に召していただけたようです。そのあとは一旦休憩ということで、各お部屋でお休みになられている状態です。その時にユキ殿が来られたというわけです」
「そういえば、迎えに出向かなかったのはわざとか?」
「わざとだな。ホースト、ベータンでのもてなしを気に入ってくれたのはわかったが、俺がいないことについてはどうだった?」
「はっ。各国の王たちは特にわかりやすい反応をしておりませんが、ジルバ、エナーリア、アグウスト、ローデイの付き人である大臣や騎士などは、ユキ殿が顔を見せないことに不満を漏らしておりますな。お世話に付けているメイドたちから報告が上がっております」
「具体的には?」
「別大陸、ウィードの存在を怪しんでいる者、自国よりもウィードを下とみている者、成り上がりものと蔑んでいる者と様々です」
「暴れそうなのは?」
「今のところはおりません。ちゃんと王の付き人として振舞っております。ユキ殿が出たところで邪魔をするようなことはないかと」
「元々、ユキ殿の立場が凄いからな。面と向かって言うことはできぬよ。クビが飛びかねんからな」
ノーブルが首に手刀を当ててにやりと笑う。
「そもそも、ユキ殿を不意打ち程度で倒せるなら、その前にこの大陸は統一されているだろうな」
「自分に対しての皮肉か?」
「さあな。しかし、下手に統一者などいなくて助かったとも思っている。統一者がいたところで、ユキ殿率いる地球の兵器群を相手に勝てる気などまったくしないからな」
「その前にノーブルの相手にはタイゾウさんがいたしな」
「血みどろまっしぐらだな。本当にユキ殿が間に入ってよかったと思う」
俺がイフ大陸に介入しなければ、タイゾウさんとコメットが作る、二次大戦兵器群と魔剣部隊ヒフィー神聖国VSエクス王国の簡易魔剣軍との頂上決戦になっていただろう。
この勝負は正直どっちが勝つかわからない。
個人的にはタイゾウさんと言いたいが、どこまで兵器を開発して生産ラインにのせられるかという問題もあるし、兵器を使うための習熟訓練もいる。
対してノーブルの簡易魔剣は杖と剣が混合したような感じで、このイフ大陸の人たちには二次大戦の兵器よりは確実にとっつきやすいので、素早く数が揃えられる。
「と、もしもの話はよそう。今は今の話だ」
「そうだな。と言っても、特にな。俺は無事ですって話だろう?」
「まあな。まさか召喚誘拐されるとは思っていなかったからこっちも肝が冷えた。尤もその話は4大国の王たちは知らないがな。だが、あやつらの目的はユキ殿との優先的な繋がりなのはわかるだろう?」
「そりゃな。優遇してもらえれば、国益につながるってのはばかでもわかるだろうし。だけど、こっちは金儲けに興味がないんだよな」
ウィードという国は交易地を貸し出すことによって利益を上げるようなタイプの国だからな。
「それもわかっている。魔力枯渇の件をどう押し込むかだが、流石にユキ殿や私やヒフィーの真実を話すわけにはいくまい」
「というか、信じるわけがない。リリーシュみたいにノーブルが加護でも与えるか?」
「無用な混乱にしかならん。というか、聖剣使い達の方が今となっては信仰されているからな、今更どこぞのマイナー神が出たところで何も効果はないだろうさ。そもそも私は軍神だ。今更戦いに有利な加護など本当に無用だ」
「まあ、魔力枯渇の件はなんとか話してみる。その時のフォローは頼む」
「分かっている」
そう、この会談はイフ大陸の各国のお偉方を安心させるとともに、魔力枯渇という本来の命題を進めていくための布石を打つことも目的なのだ。
面倒な場所に顔をだすのだ。各国も自分たちの国の為に色々動くのだから、こっちも自分たちの目的のために動いても文句はあるまい。
そんなことを考えていると、ノーブルから思わぬ話が飛び出てくる。
「しかし、ゲートの技術を提供しているウィードとエクスは今回の会談後が大変だ。大陸間交流後にゲート設置依頼は増えるだろうが、そこはどうするのだ? 無限に作れると思われるとかなり問題になるが?」
そういえば、ゲート技術を提供できる国は二国しかなかった。
これから国際交流促進のためにゲート設置を頼む国は多いだろうが、無制限に作れると思われると他の国々が警戒するだろう。
そのための、ウィードやエクスといった基点を作りそこからしか移動ができないということにしているのだが。
「……エクスの方は簡単だな。ある程度設置がすんだら単純に遺跡から発掘された分が無くなったと言えばいい。問題はこっちだな。ウィードの方はダンジョンを掌握したから使えるようになったということになってるからな。これ以上できません。って言うのがどこまで通じるか」
「ふむ。そっちはダンジョン能力を使ったと説明しているのか、まあ、それこそ気が付けばできなくなりましたで済みそうだがな」
「その方法もありではあるが、ゲートを置けない国が出れば非難轟轟だな」
「それは仕方ないだろう。元々、ゲートというものが破格のモノなのだ。いくらでもあって手に入ると思っているところがバカだろう。外交不足でしかない。ゲートの在庫量は明言しておいた方がいいかもな」
「反発を生みそうだけどな……。ああ、別のダンジョンや遺跡が見つかって在庫が増えたとかいうか?」
「それを毎回、私たちがやるのは無理があるだろう」
「いや、都合よくそっちはヒフィーとかランサーとかを利用して、ロガリ大陸はダンジョンが山ほどあるし、適当に発掘してもらって鑑定する。そしてゲートと判明したら使用はそちらの国に、でどうだ?」
「……ふむ。まあ、それならいいかもな。元々、イフ大陸のほうでは盗賊がゲートを発掘し利用していたということから、ほとんどの国は捜索隊を出している」
「そりゃ当然だな。あとは……」
ということで、イフ会談の前に、イフ大陸魔力枯渇管理に就任しているノーブルと色々話し合うのであった。
前回とか新大陸の対応にご不満の方々が多いようですが。
まあ、そこらへんはお約束への布石となりますし、戦争やってはい終わりとはいきませんからね。
昔とは違って、各国の連携を作ることが大事ですから。
あと数話は、イフ大陸の会談をお楽しみください。




