第563堀:みんながしあわせになるほうほう
みんながしあわせになるほうほう
Side:ユキ
「こ、この度は、奥様のご出産、並びにご息女の誕生をお慶び申し上げます」
そういって、頭を下げるのはハイデンのカグラ。
ガチガチになっている。
その緊張の理由は、カグラ自身がその妊婦であるミリーを召喚したんだから、お前が言うなよ。という感じではあるし、それを本人も理解しているからなのだろうが。
下手したら俺が怒るかもしれない可能性もあるからな。
まあ、ミリーもユミも無事だからとやかく言うつもりはない。
ここでカグラを責めたりしたら、ユミの誕生にケチをつけるようなことになるからな。
基本的にカグラやキャリー姫の責任というよりハイデンの問題だったし、個人に文句を言うのは間違っている。
ついでに、新しい市場開拓に成功しているようなものだし、DPの出費はあったものの、長期的な目で見れば今回の新しい大陸と多数の国家の発見はとてつもなく有益であり、喜ぶべきことだ。
「これはご丁寧にありがとうございます」
「つ、つきましては、我がハイデンよりささやかではありますが、お祝いの品をお送りいたしますので、お納めください」
カグラがそういうと、後ろに控えていた、エオイドとアマンダがアイテムボックスから色々出してくる。
金銀の装飾品、なんか高そうな布、紋章の入った短剣などなど……。
……別にウィードの女王であるセラリアの子供が生まれたわけでもないのに大袈裟だねー。
やっぱりタイキ君の言う通り、今までの事とか、これからの事もあるから、こういうところで繋ぎを作っておきたいんだろうな。
そして、お祝いの品を出し終わったエオイドとアマンダは一旦退出する。
一応、国と国の話だからな。
それを確認したあと、カグラが手紙を取り出し……。
「こちらが、キャリー姫様、カミシロ公爵、そして国王陛下からのお手紙でございます」
うぉい。
キャリー姫とカミシロ公爵はともかく、ハイデンの王様までか。
内輪揉めの処理が忙しくてこっちはノータッチかと思いきや、ちゃんと動いているわけか。
とりあえず、各手紙に目を通す。
内容は大体似たり寄ったり。
まず基本的に、無事に生まれてよかったね。おめでとう。
次に、忙しくていけないからお祝いの品とこの手紙を送るね。
最後に、これからもうちと仲良くしてね。以上。
意訳すると「側室の出産のお祝いしたから、何かあったら手を貸してね?」ということ。
ま、魔力枯渇の調査もあることだし、ようやく落ち着きをみせているハイデンが乱れるのはこちらともよろしくないので、まあできる限りは手伝うつもりではいる。
「手紙は拝見した。贈り物もありがたく受け取る。しかし、問題がある」
「なんでしょうか?」
「この手紙の返事はどうしたらいい? そっちは側室相手にお祝いの品を出したとあるが、公に手紙を返していいのか?」
「そちらについては、陛下や父上、姫様の個人的なお祝いの品、お手紙なので、手紙などの返答は不要で、私に言伝するように申し付かっております」
そうだよねー。
王様が他国の側室の出産お祝いに手紙までよこしたとか公式に認めたら、色々面倒なことになりかねない。
支援してるとか見られかねないからな。最悪、ウィードの乗っ取りをと言い出すバカも出てくるだろう。そうなると面倒極まりない。
これはあくまでも、個人的なことであり、友人としてのお話であるということだ。
だから手紙なんて不要だし、言葉だけでいいと。
ハイデンの方に、俺のお礼の手紙という証拠が残ると面倒極まりないからな。
お祝いの品はいままでの報酬とかで言い訳はできる。
まあ、ウィードとしてはあまり価値のない物ではある。
既に繋ぎは作っているし、ミリーにお祝いの品とかを渡しても困るだけだ。
酒があるなら多少は喜びそうだが。
あくまでも今回のお祝いの品は、秘密裏的なハイデンからのウィードへの協力要請の報酬前渡しってことだろうな。
ともあれ、表向きはユミの出産祝い。お祝いごとには間違いない。
「では、言伝を頼む。心よりの贈り物、感謝いたします。これからもよろしくお願いいたします。と」
「はい。確かに承りました」
カグラがそう返事をして、これにて使者としての挨拶は終了とはいかなかった。
「最後に、この度、このお祝いの品やお手紙を持ってきたので予想が付くとは思いますが、あらためて挨拶させていただきます。このカグラ・カミシロ。未熟ではありますが、ハイデンからウィードへの外交官を拝命いたしました。これからよろしくお願いいたします」
やっぱりな。
「こちらとしても助かる。新しい人物だとウィードに慣れるのも一苦労だろう。今後の両国の関係が円滑に進むために尽力してくれ」
「はい。ですが、ハイデンがあの状況なので、しばらくはウィードとの関係は秘密裏であり。ハイデンにウィードの外交官を置くことは当分先の話になりますので、そこのところはご了承ください」
「それはわかっているから、心配しなくていい。で、それで話はおわりか?」
俺がそう砕けた感じで話を聞くと、カグラもふっーっと息を吐いて今度は砕けた感じで話しかけてくる。
「そうよ。これからよろしくね。まったく、なんで私が外交官なんだか。しかも私ひとりよ? 護衛もなしなんだから」
「いや、自分で秘密裏って言っただろうに。いま、下手にウィードのことを話すとまた荒れるからな。だから英雄ってことで通しているんだろう」
「わかってるわよ。私だってそのために、秘密裏にウィードの外交官にして、あとで横槍が入らないようにしてるんでしょう」
他国のお偉方を呼んでしまい、実質バイデが占領下ですとかいったら、キャリー姫とカグラが叩かれかねないからな。
大本の原因はタークラムたち叡智の集とはいえ、召喚をして他国の介入を招いたというのはかなりまずい。なので、今のところの説明はウィードではなく、英雄を召喚したということにしているのだ。
ハイデンでのキャリー姫やカミシロ、そしてハイデン王の政権が安定したあとにウィードのことは公表すればいいと判断したわけだ。
こうやって、カグラを外交官として派遣しているのは、それだけウィードとの関係を重要視しているからだからな。
あと、カグラを最初から外交官に指定することで横槍が入るのを防ぐためだ。
ま、政権が安定していなくてウィード倒すべしと言われるのが一番困るんだろうが。
だってハイデンに勝ち目ないし、他に叡智の集の裏にハイレ教の影も見え隠れするしな。
四面楚歌になりかねない。かといって全部公表すれば、混乱は必至。
大変だねハイデンも。
そんなことを考えていると、カグラが
「ねえ。そういえば、フィンダールのスタシア殿下や将軍はどうしてるの? タイキ様からこっちに戻ってるって聞いたんだけど?」
「ん? ああ、言ってなかったな。ジョージン殿は今回の件を報告しに、フィンダールへ明日もどることになった。ジョージ殿下、スタシア殿下はバイデで待機しつつ、ハイデンが落ち着けばいつでも、話し合い、会議には出向くそうだと」
「そう。ならいいのかな? でも、道中の危険がとか……。ああ、指輪もあるし、ジョージン殿の腕前でなにかあるとは思えないわね」
「そういうこと。ま、何かフィンダールと話し合いをしたいならこのバイデに基本的にはいる」
「基本的には?」
「寝泊りはこっちでしているということ。ジョージ殿下はウィードで日々護衛を連れて、視察という名の観光をしている。それが昨日戻ってきたスタシア殿下にばれて、スタシア殿下もヒイロと一緒に観光中」
「なにそれ。羨ましい」
「羨ましいって言われてもな。ハイデンの方の会議が終わらんとどうにもならんからな。フィンダールの方からは今回の件は他国の苦情も含めてキャリー姫やカミシロ公爵を通じてハイデン王には伝えているし、問題はないだろう。フィンダールがバイデを攻めたという件は今度の叡智の集の動きで魔物を察してということで十分説明が付くだろうさ。納得できないならフィンダールとその他の国と戦争しか残ってないからな。その説明で納得するしかない」
「わかってるわよ。そういう関係で会議が紛糾しているのよ。落ち度はこちらにあれど、バイデに攻め寄せたのは短絡的でその分の補填や譲歩は求めるべきだってね」
「ま、そういうのを話し合うことこそ、まさに会議だからな」
散々俺やウィードの面々、というか大陸間交流参加者に迷惑かけまくったんだから、そこんところは苦労しろ。
そのあと、さらに大陸間交流に参加してもらって、ウィードを巻き込んだ、事態の大きさに頭を痛めるといいわ!!
ということで、俺の恨み返しは実は終わってはいない。
大陸間交流に参加したあと他国のお偉いさんからネチネチと言われるであろう。
実際、俺が参加できなくて、結構遅滞しているらしいからな。
まあ、その為の外交官カグラなんだろうが……。
先んじて、カグラをウィードに押し込んで、ロガリ大陸との面々とも顔合わせをさせておいて、あとあと動きやすいようにという狙いもあるんだろうな。
ロガリ、イフ大陸の連中としても、新大陸という市場開拓はありがたいだろうし、窓口があるのもありがたいよな。
つまり、カグラの未来はブラック企業も真っ青の仕事漬けということだ。
うん。ここは執務室や個室を与えて、仕事をしやすくする環境を整えておくか。
後で泣きつかれて用意すると仕事の助言をする羽目になりそうだし。
そしてそういうことを考えると、ハイデンの会議が終わるまでの間が、カグラにとっての束の間の休息になるだろう。
「カグラ。羨ましいなら、ウィードで楽しめばいい」
「え? でも、私は外交官として……」
「どうせ赴任地はウィードなんだ。報告書ではウィードの見学で、実際観光でいい。というか、ハイデンでの会議が終わればおそらく、カグラの休みは無くなるぞ? それぐらいはわかるだろう? ウィードの重要度は」
「……遊んでくるわ」
俺がそういうと、カグラの瞳から光が消えて、遊ぶ宣言が飛び出した。
カグラは決して頭は悪くない。むしろ天才の分類だ。
だが、ここの所、周りに振り回されているから本領を発揮できていないだけだ。
だから、ちょっとヒントを与えればこの通り、悲惨な未来予想ができて欲望に素直になったというわけだ。
その悲惨な未来を回避してこそ天才ではないか? といいたいが、国の為にはやらなくてはいけないからな。愛国心の高いカグラには回避という言葉は思いつかないだろう。
「おう。そうするといい。案内はだれか欲しいか?」
「……アマンダとエオイドがいいわ」
「分かった。連絡を入れて呼び戻すから、ちょっと待ってろ」
「うん。……うん。……どうしてこうなったのよ!? うわーん!? 私は学生よ!?」
あ、やり過ぎた。
現実突き付けすぎて泣いた。
「はいはい。落ち着きましょう。カグラ。大丈夫、大丈夫だから」
リーアがそういって、よしよしとカグラを慰める。
それと同時にこちらに非難の視線を向ける。
『いじめすぎですよ』
『すまん』
ここでカグラが外交官やめる!! って言いだしてもらっても困るので、なんとかして頑張ってもらわなくてはいけない。
「……ユキ。苦労したのはわかるんじゃが、あのカグラに当たるのは違うと思うんじゃがのう」
「デリーユ。わかってる。そういうつもりはなかった」
「ふむ。とりあえず、カグラのことはアマンダとエオイドに任せておくかのう。2人が一番気安い友であるのは間違いなかろうし」
「だな。本来の目的とは違うが、2人をランサー魔術学府から連れてきてよかった」
「ポープリは苦笑いするじゃろうな。場数を踏んで大きくなってほしいはずだろうに。もっぱらな仕事は学友の励ましか」
ついでに、エオイドとカグラがウィードで大接近!! アマンダも一緒だから公認になる可能性も非常に高い!!
これはなんて一石二鳥!!
「……はぁ。そんな都合よくいくわけがなかろう。まあ、ユキがそれでいいなら、いいがのう」
ん?
なんか、デリーユに心を読まれた気がする?
でも、この流れは誰にも変えられない。
アマンダとエオイドが来たら、ウィードに連れて行って、俺は安心して大陸間交流の仕事へ向かい、カグラは一時の休息でエオイドとアマンダと一緒にウィード観光、そして仲を深められて、みんなハッピー!!
やったね。
完璧な作戦。これでみんなしあわせだ!!
そして、次回はわかると思うけど、落とし穴になります。
29日の前日28日といえばわかるだろう。
では次回をお楽しみに。




