第561堀:徹夜明けは辛い
徹夜明けは辛い
Side:カグラ
気が付けば私は暗い城の廊下を歩いていた。
「……はぁ。私っている意味あったのかな?」
ハイデン王都で暗躍していたタークラムたちを取り押さえて、証拠を押さえ、大々的に宣言をしてすでに3日。
タークラムたちに加担していた者も、ダミーの召喚宝珠を使って反抗してくれたので、分かりやすく取り押さえることができた。
しかし、その結果、ハイデンの中枢は荒れていた。
いや、それも仕方がないのだけれど、タークラムは財務管理で、私の元婚約者だったクレイはハイデンが誇る精鋭魔術部隊の隊長。それに加担していたものは、かなりの数で、全員が全員処罰の対象ではないとはいえ、関わっていたお偉いさんは今後の政治のかじ取りに深く関わることはなくなったし、兵の方も一般に落とされることになる。つまり、国の中枢の3分の1ほどが欠落してしまったのだ。軍部も同じ。
なので、会議は荒れに荒れた。
今回の事で前任者が失脚して、空席になったポストに自分が入り込むとか、自分の協力者をねじ込もうという輩で一杯だった。
無論、これは姫様やお父様も同じだった。
政治としては当然のこと。これを期に自分たちの勢力を増やし今後の国の運営に邪魔が入る要素を少しでも減らし、後押しができる状態を作るの。
でも、その場に私がいる意味はないと思う。
既にタークラムたちの犯行は伝え終えて、ただの学生である私は必要ないはずなのに、連日その会議に参加している。
……ただ毎日会議を聞いているだけ。
眠たくて仕方がないし、トイレで席を立つのにも気を遣う。
こんな政治の中枢なんかに関わりたくないというのが本音。
キャサリン様はよくこんなことを当たり前にこなしていたと感心するぐらいだ。
「あー、明日も会議かー」
流石に徹夜での会議は無くなったが、それでも明日も会議は続いていく。
お父様曰く、少なくとも一週間は会議が主体だろうと。
そしてそれに私は参加しろと言われている。
なんでよ……。
「そういえば、ここ3日ほどユキたちに会ってないわね」
連日の会議ですっかり忘れていた。
というか、ウィードだけではなく、スタシア殿下やジョージン将軍というフィンダールの方々もいるのに放置状態だ。
あれ? これってまずい?
でも、王様が客人の対応は城勤めのメイドがするっていってたし……。
しかし不安感を消せない私は、慌てて廊下を走り、ユキたちに与えられている部屋に向かう。
既に陽は沈み蝋燭や松明の光だけが暗闇を照らす明かりとなっているが、向かっている部屋は煌々と明かりがついている。
あれは、電気の光だ。
あそこに間違いなく、ユキたちがいる。
ただの思い過ごしならいい。ちょっと経過報告をするぐらいでいい。
そう思って、ドアをノックする。
「はい。どうぞー」
ほっ。
よかった。いるみたい。
私は声を聞いて安心してドアを開けると……。
「ちょっと!? エオイド!! なんでバナナの皮なんか置いてるのよ!?」
「え、いやレースだろ?」
「アイテムなんか使うんじゃないわよ!?」
「ええー!? アマンダだって使ってるじゃないか!?」
「私はいいのよ!! エオイドは男でしょ!! タイキさんやルースさんみたいに腕で走り抜けなさいよ!!」
「無理だって。僕このゲーム初めてだって!?」
なんて言いながら、テレビを見ながら変なものを握って何かをしているエオイドとアマンダがいて、その後ろで観戦しているのはタイキ様とその護衛のルースさんだ。
「お、メイドさんが飲み物持ってきたと思ったけど、カグラさんか」
「連日の会議、お疲れ様です」
「あ、どうも」
ルースさんが礼を取ってきたので、私も咄嗟に礼を返す。
礼儀作法は違えど、ルースさんの礼はちゃんとメリハリがあり美しく、貴族のそれだ。
だからこそ私も咄嗟に礼が出た。
「見ましたか、陛下。あれが、上に立つ者の礼儀というものです」
「いや、俺、元々平民の部類だし。便利屋の勇者だし」
「それは存じております。ですが、だからこそ礼儀を覚え完璧にこなせば、平民であろうと教育さえあれば貴族に劣らぬと証明できるでしょう。ランクス内における平民の為の教育舎、学校の設立に文句をいうバカ貴族共を黙らせるために必要不可欠で……」
「まてまて、礼儀とかはそりゃわからんけど、基礎知識は最初から俺圧倒的だったじゃん? 日本教育の大勝利だったじゃん? 貴族でも四則計算やっとぐらいだし、その事実だけで押せるだろうに」
何というか、話を聞いていて向こうも向こうで色々大変なんだなーと思った。
「バカ共がグダグダいう隙を与えないためです。と、これ以上は長引きそうなので、やめておきましょう」
「そうだな。絶対交わらない線というのはあるんだよ。で、カグラさんはなんでまたこっちに? 会議で俺たちの出番でもきた?」
「いえ。その……しばらく顔を出していなかったのを思い出しまして……」
隠すことも考えたが、ユキたちに下手な嘘はすぐばれるし、素直に言う。
「ああ、カグラさんも大変だからな。こっちは特に問題なし。そっちも何か戦争賛成派による暗殺とかありました?」
「いえ、そのようなことはないです。その、この指輪もありますし」
精霊様のナールジア様から頂いた特製の国宝級の超性能のマジックアイテム。
これがあれば暗殺などされるわけがない。
「勢力としても、今回の件で一気に力を失いました。下手に動けばそれこそ粛清されますから」
「ま、そうなるわな。とりあえず、カミシロ公爵の方からは一週間は国内会議で忙しいから、そのあとに国際会議って話を聞いていますから、こっちのことは心配しなくていいですよ」
そうなんだ。
あはは、そうよね。
お父様がお客様のことを忘れるわけがないか。
そこまで話して思い出した。
この4人はカミシロ公爵の館にいたはずだ。
そして、いるはずのユキたちの姿が見えない。
というか、スタシア殿下やジョージン殿も見えない。
「……あ、あの。ユキたちやスタシア殿下たちの姿が見えないのですが、それに、タイキ様たちはカミシロの館にいたはずでは?」
「あー、こっちは言ってなかったですね。考えればすぐわかると思いますが、ゲートがあるので、簡単に移動してきました」
「あ、なるほど」
そういえばそうだ。
ゲートで簡単に行き来できるんだから使わないわけはないか。
わざわざ、不穏分子がいるかもしれないところに留まるよりも拠点に戻った方が安全だ。
タイキ様たちは代わりに連絡要員として来たのだろう。
まさか、護衛や案内なしにハイデンの城下町へと繰り出したとか不安に思っていたが、違ってよかった。
万が一城下町でトラブルでもあれば、また戦争の火種になりかねない。
「やったー!! 私が8位ね!!」
「……9位か。アマンダ、次からはアイテム使うからね」
「ふふん。もうエオイドがアイテム使ったって負けないわよ」
一安心しているよこで、そんな声を上げるアマンダとエオイド。
なにをそんなに興奮してるんだろう?
「おーい。2人とも。ゲームが終わったんなら、カグラさんに挨拶しろ。来てるぞ」
「え? あ、カグラ。無事みたいでよかったわ」
「カグラ。久しぶり、上手くいったみたいだね」
「ええ。ユキたちのおかげで無事にここまで来れたわ。2人も元気そうでよかった」
この2人は私と同じ学生でユキたちの旅に研修としてついて行けと言われたらしい。
なんて無茶振りな。その指示をだした学校の先生は鬼ね。
そういう経緯でシンパシーを感じ、カミシロ家に向かう道中は仲良くやらせてもらった。
でも、この2人も実力はとてつもなく高い。旅の間にデリーユさんと戦闘訓練をしていたのを見たけど、人間技とは思えなかった。
お風呂の上に降ってくるほど吹っ飛ばされてたし。
私もちょっと、デリーユさんと手合わせしてもらったけど、得意の招雷の魔術を拳で弾かれるとかわけわからなかったし。
と、そこはいいとして、2人とも何をしていたんだろう?
「ねえ。2人はそのテレビを見て何を興奮していたの?」
「え、ゲームよ」
「げーむ? テレビを見ていたわよね?」
「アマンダ。それじゃわからないって、えーと、このテレビの画面に映っている赤い矢印があるだろう?」
「うん」
「これを、この僕が持っているコントローラーで動かせるんだ。このスティックを横に倒すと……」
あ、赤い矢印が動いた。
「こうやって、テレビとこのコントローラーを使って遊ぶゲームなんだ。これは乗り物に乗って競走するゲームを今やってるんだ」
「ふーん。よくわからないけど、これってユキたちの所のモノね」
「そうそう。ユキさんの所のもので楽しいのよ。ねえ。タイキさん、ルースさん、カグラにもやらせていいですか?」
「いいんじゃね? でも4人プレイが一画面では最大だしな。じゃ、ここはルー……」
「陛下が譲るべきですね。ことゲームに関しては上手すぎます。不公平でしかありません。ここは達人として初心者であるカグラさんの補佐をするべきでしょう」
「おまっ!? ここは普通ルースが下りるべきじゃないですかね!?」
「勝負になっておりませんからね。なんですか? 腕が不足している相手に1位を取るのがそんなに楽しいですか? そんなにつまらない人でしたか?」
「……よーし。わかった。それならカグラさんを補佐して1位にして見せようではないか!!」
「え?」
「それこそ勇者であられる陛下のお姿です。煽られ耐性が低いという奴ですね」
「……いや、ネタでやってるからね」
「分かっております」
よくわからないけど、私もそのワールドカートとかいう競走ゲームをすることになって……。
「くらえー!! エオイドー!!」
「げ、追跡!?」
「ふふ、潰しあいの隙に前に……」
「今だカグラ!! あのすかしたルースにアイテム投げろ」
「こうね!!」
「なっ!?」
「油断大敵ってやつだ!! この隙に3人ごぼう抜きだ!!」
「よーし行くわよ!!」
と気が付けば私も熱狂して楽しんでいて……。
ちゅん、ちゅん……。
「あ、もう朝だな」
「へ?」
「ふあぁー。カグラもこれから会議でしょう? この辺でやめましょうか」
「そうだね」
「結局、ほぼイーブンですか。くそっ、故郷でゲームをやり込んでいたというオタクの陛下は侮れませんね」
その言葉を聞いて窓に視線を向けると、空が青白く夜明けを迎えていた。
……うそ。寝てないわよ。
このままじゃ、会議で爆睡しちゃう。
「そうだ。カグラさん。徹夜につき合わせちゃって申し訳ないから、会議で眠らないように目覚ましの方法を教えてあげますよ」
「ほ、本当ですか!?」
会議で居眠りなんてしたら、会議の参加を認めてくれた姫様やお父様の顔に泥を塗ることになる。
それだけは何としても避けなくてはいけない。
だから、タイキ様の眠気を覚ます方法はとてもありがたかった。
「ユキさんだけど、実は会議初日に奥さんの一人、ミリーさんが出産して慌てて戻ったんです。そして俺たちが代わりに来てるわけです」
「はい?」
しゅっさん?
「シュッサンって、出産?」
「出産って言葉がこの国では複数の意味があるんですか? とりあえず、子供を産みましたって話です」
……ウィードの王配であるユキの子供が生まれた?
セラリア女王陛下の子供ではないとはいえ、ユキの奥様たちはウィードの重鎮のはず。
それを知らなかったで済ませるのはあり得ない!?
お祝いの言葉とか品とかを献上して、ウィードの心証をよくするチャンスだ!!
「え、えーーー!? あ、ありがとうございます!! すぐに、姫様やお父様に話さないと!!」
私は慌てて、部屋を飛び出す。
眠気なんて吹っ飛んだ。
そもそも、姫様と私の召喚で妊婦である奥様たちはバイデに召喚されたのだから、こちらが気を使わないと失礼とみられる。
何としてもこのことを伝えて動いてもらわないと、またハイデンの危機が来るかもしれない!?
Side:タイキ
「陛下。わざと言いましたね?」
「そりゃね。教えないって言うのはないだろう。今後の為にも」
「いえ、そこではありません。カグラ殿に伝えたことです。ことはウィードの王配であるユキ様の奥方、冒険者ギルドを統括するミリー様のお子の出産の話。カグラ殿のような学生に対応させるべき内容ではないでしょう。キャリー姫やカミシロ公爵殿に話を通すべきことでしょう」
「いやー。他の人たち忙しそうだったからね」
「なるほど。そして、カグラ殿がそのままウィードへの出産祝いの代表として赴くわけですか。陛下はそうやってまでカグラ殿と顔を合わせたいと思っているのですね」
「……は? んなわけないだろう。これでカグラさんは晴れてウィード勤務!! 俺はランクスと新大陸で忙しく疎遠になる!! ユキさんが主に相手をすることになり、俺大勝利!!」
「……まったく。この人たちは……」
「それよりも、すぐに姫様とかカミシロ公爵がくるだろうし、寝ているエオイドとアマンダの移動をたのむ」
「はっ。わかりました」
「どのみち、子供の件は話さないといけないんだ。堅苦しくなるよりも、カグラさんの方がよっぽどいいんだよ。ユキさんとしてもね」
「今更言っても後付け感が半端ないですね」
「うるさいよ!?」
えー前日の投稿し忘れを詫びて、もう一話追加でごじざいます。
許してください。
ス、スプラトゥーン2が、わ、悪いんや!!
お、俺は悪くねぇ!!




