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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
果ての大地 召喚編

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第559堀:三度目の正直

三度目の正直




Side:ユキ




俺は今、病院の待合室で静かに待っている。

いや、正確には分娩室の前。

現在、ミリーの出産の為に、ウィードのメンバーはすぐさまバイデの病院に引き上げてきたのだ。

なにせ、バイデにある病院の設備は必要最低限であり、スタッフすらも新大陸という機密の土地ということで人数もおらず、ルルアが取り仕切っているぐらいだ。

そもそも、こっちの病院はミリー、トーリ、リエル、カヤという妊娠しているメンバーの為に作られたものだ。

ゲートによる母子への影響が分からないので、バイデで治療施設を作る必要性があったのだ。

他の重症者などは、ウィードの設備がそろったところで治療を受けたほうがいい。


そう。

俺がこのバイデの病院にいるのは、いざというときの回復要員だからだ。

スタッフは十分に用意できない、こちらに存在する人員は限られている。

ならば、俺たちも駆り出されるのは当然のこと。

むしろ、自分の嫁の為に動かないとかありえない。

今までセラリアたちやデリーユたちの出産の時は慌てすぎて、邪魔になり眠らされた。

今度こそは落ち着いて、手助けをするためにこうやってじっと待っているのだ。


カチカチカチ……。


しかし、時計の音がやけにうるさく、そして一秒一秒が長く感じる。

すでに、嫁さんの半数はミリーの出産介助に回り、残り半分は俺と一緒にいつでも援護ができるように待機している。

もちろん、現在は緊急事態なので、全員仕事は切り上げてこちらに来ている。

あ、当初子供たちはキルエやサーサリに連れられて、待合室の方で待機していたが、残念ながら夜20時を超えていたので、すぐに引き返していった。

サクラを筆頭に、他の娘たちも妹が生まれるということで、待つと言っていたがまだ子供で眠気には勝てない。

無理をすればすぐ体調を崩すのは目に見えていたので、生まれたらすぐに連絡するからと言って、バイデの家に戻ってもらっている。

同様に妊娠しているトーリ、リエル、カヤはまだ出産予定日は先なので、バイデの家で安静にしている。

こっちももちろん連絡があればすぐに来ることになっている。


「ミリー。無事に子供を産んでほしい」

「……ぬぐぐ。待つだけしかできないというのは、なかなかもどかしいものがありますわね」

「ううっ。思ったよりも、緊張するわね」

「だ、大丈夫です。ミリーお姉さまは無事に出てきます」

「ヴィリお姉。落ち着けー。ミリーお姉は、き、きっと無事に赤ちゃんを産む」


今回、初めて出産待ちというのを体験しているクリーナ、サマンサ、ドレッサ、ヴィリア、ヒイロはガチガチである。

俺も最初はこんな感じだったんだろうな。


「大丈夫だよ。だって、みんながいるもん」

「そうね。みんながいるから大丈夫よ」

「みんないるから、ミリー姉様は絶対大丈夫なのです」

「ええ。ミリーさんは無事に赤ちゃんを産みます」


そんな言葉をかけるのは、アスリン、ラビリス、フィーリア、シェーラだ。

この4人は年はメンバーの中で最年少組ではあるが、出産にはすでに二度立ち会っているので、経験はクリーナたちよりも上で今の状況にも動じていない。

二度も俺は眠らされている分、アスリンたちの方がある意味優秀なのかもしれない。

しかし、そんな会話も長続きはしない。

利用者のいない静かな病院は現在22時を越えて、静寂、無音に包まれる。

壁一つ向こうでは、ミリーや他のみんなが頑張っているのに、なんというか別の空間にいるような感覚に陥る。

こういう時は一旦気分転換だな。

そう思って、俺は立ち上がり皆に声をかける。


「よし、ここでずっと座っているだけだから、向こうの自動販売機でジュースでも買って飲もうと思うけど他のみんなはどうする?」

「そ、そうね。私もついていくわ」

「では私も」

「ヒイロもー」


ドレッサ、ヴィリア、ヒイロは俺についてくると言って、他は注文だけしてその場で待つというので別れた。

まあ、全員でぞろぞろ行くのもなんだし、逆に一人では全員分のジュースを買うのも大変だしな。それでよかったと思う。


ピッ。ガコン、ゴロン……。


「でも、さっきまでハイデンの城にいたとは思えないわね。はい、ヴィリア」

「ありがとう、ドレッサ。そうですね。ハイデンの方ではかなり忙しかったですから、まさか、ミリーお姉さまの出産が重なるとは思いませんでした」

「そういえば、ハイデンの方は大丈夫かなー。スタお姉、大丈夫かな」


3人はジュースを飲みながらそんな話をする。


「ハイデンの方は代わりにタイキ君やエオイド、アマンダがいってるから、何かあれば連絡がくるし大丈夫だ。まあ、あの騒ぎがすぐに落ち着くわけがないけどな」

「あれは後始末が大変よね」

「そういうのはよくわからないです。でも、会議で大変なのはわかります」

「ヒイロもよくわかんないけど、大丈夫ならいいよ」

「まあ、ハイデンのことはハイデンでやってもらうとして、今はミリーの出産を手助けするのが先だな。よし、全員分のジュースは買ったし、持つの手伝ってくれ」

「「「はーい」」」


特に何も問題なくジュースを購入して戻ってきたが、待っている方も特に変化はなし。

ジュースを配って飲んでまた座る。

そこまで時間も経っていないから当然といえば当然だ。


「でも、ユキが今回は落ち着いているわね。前はひどかったのに」

「そうなの?」


不意に、ラビリスがそんなことを言い出し、興味をひかれたドレッサが話に食いつく。


「そうよ。この廊下をずっと行ったり来たりして、一分もしないうちに、まだか?って何度も聞いてくるんだから」

「うわー。それはないわ」

「お兄様がそんなに落ち着きのないことなんてあるんですか?」

「ヒイロ、想像もつかない」

「ん。普段のユキからは想像もつかない」

「ユキ様もそういう所はあるのですね」


さらに他のみんなも話に食いつき、俺に視線が集まる。


「仕方がないんだよ。男は待つしかできないからな。こんな感じでしっかり防音完璧ってわけでもなかったし、みんなの出産でのうめき声が聞こえてくると、居ても立っても居られないんだよ」

「あー、声とか聞こえるとそうなるかもね」

「で、他のみんなから落ち着けって言われても落ち着かないから、魔術で寝かされて、気が付けば出産が終わってて、膝をついていたわよね?」

「自分の不甲斐なさに泣けたしな」


気が付けば二度も子供の生まれる瞬間に立ち会うことなく朝を迎えていたんだ。

この悔しさ、どれほどかわかるまい。

しかし、今回は三度目の正直というやつだ。

今度こそ、子供の誕生に立ち会って見せるんだ。

せめてそれぐらいはしないと。

ちなみに、本日ハイデンで騒ぎ、問題があるようなら、タイキ君やスティーブ、ジョンで制圧しろと指示を出しているので、何が起きても俺たちは本日ハイデンに戻ることはない。

新大陸の一国が傾こうが崩壊しようが、それよりも嫁さんの方が大事なのは当然だ。


「と、もう23時か」

「えーっと、もうかれこれ4時間ね。長いわね」

「ドレッサ。そうでもないのよ。初めての出産って10時間以上かかるのが普通らしいわよ?」

「10時間以上!?」

「そ、10時間以上。でも、私たちはリリーシュ様とかルナから安産とかもろもろの加護を貰っているから、5、6時間で産めてるのよね」

「それって早いの?」

「お産を手伝ってくれたおばあ様曰く、ものすごく早いらしいわよ。母体の体力もそこまで使っていないし、出血も少ない。子供も元気に泣き声を上げていたからものすごく好ましい安産らしいわ」

「それで安産なんだ……」


そうそう。

俺も最初は適当に2、3時間かと思っていたら、出産で10時間とかざららしく、2、3時間なんて馬鹿なこと言うな、出産舐めてんのかああん?!とばあさんに怒られた。

出産は男が考えているよりも遥かに難しく、容易なものではない。

そりゃ、出産して母子が危険になることが今の地球でもあることだし、わかっていたはずだが、結局わかっていただけだったってことだ。

母は強しとはよく言う。

……だからこそ、頑張っている嫁さんたちのそばにいたいんだけど、それができない悲しさときたら。


「でも、それならミリーお姉さまはあと早くてもあと1、2時間はずっと頑張るのですね」

「ミリーお姉。がんばれー」


ヴィリアとヒイロはこれからまだまだ続く出産を頑張るミリーにそう応援を送る。


「……思ったより、出産を簡単に考えていたのかもしれない」

「クリーナさんの意見に同意ですわ。もっと、覚悟が必要なのかもしれません。セラリア様とかに聞いても痛かったとしか聞いていませんでしたし」

「ん。私もエリス師匠からは痛かったとしか聞いてなかった」

「もっと詳しく話を聞いたり、出産の勉強をする必要がありますわね。私自身の為にも」

「ん。まだまだ勉強不足」


クリーナとサマンサは自分の出産の認識の甘さを実感したのか、これからしっかり勉強しようと話している。

まあ、出産は痛いとしか聞かないよな。

俺も出産の痛みとか想像もできない。

と、そんな話を聞いていると、不意にトイレに行きたくなった。

ジュースを飲んだせいか?

特に我慢する理由もないので、席を立つ。


「どうしたのかしら?」

「ん。ちょっとトイレ」

「ああ、いってらっしゃい」

「いってらっしゃい。お兄ちゃん」

「ちゃんと手を洗うのですよ。兄様」

「はい。気を付けて」


そういって、トイレへと向かう。

残念ながら、この場所からトイレの位置までは距離あるので結構歩かなければいけない。

あっちの角を曲がって突き当りだ。


「と、思ったより距離があるな」


角を曲がるとおくのトイレが視界に入るが、かなり遠く感じる。

これではちょっと危ないかもしれない。

そう思った俺は小走りで廊下を走り、トイレに駆け込む。


「ふいー。間に合った」


漏らすとは思ってなかったが、思ったより危なかった。

あのまま無理に雑談に参加していたら漏らしていたかもしれない。

戻ったらみんなにもトイレまで結構な距離があることを伝えておかないとな。

そして無事に用を足したおれは、ちゃんとフィーリアのいう通りに綺麗に手を洗い、アルコール消毒をしてのんびり廊下を歩いて戻る。


「本当に長いな。ミリーの出産が終わったらトイレの増設しないとな。流石に使いづらい」


そんなことを言って、図面を思い浮かべてどう改造するか考えながら角を曲がると、なぜかみんなは存在していなかった。


「あれ? 道間違ったか?」


とっさに来た廊下を戻って確認する。

うん。道は間違ってはいない。

えーと……、つまり?

俺が首を傾げていると、分娩室の扉が開いてドレッサが出てきた。


「ユキを忘れてるわよ!!」

「あ、そうでした。お兄様!!」

「お兄!! 生まれた!! ミリーお姉の赤ちゃん生まれた!!」

「なにーーーー!?」


俺は走り出す。

ちくしょう!!

なんでこんなのばっかりだ!!

呪われてるのか俺は!?



でも、無事にミリーと一緒に生まれたばかりの子供を抱くことは成功した。



「よかった。ミリー、よく頑張った。ありがとう」

「……はい。無事に、ユキさんとの赤ちゃん産めました」



さて、この子の為にも、さっさと仕事は終わらせたいなー。

あ、タイキ君たちにも連絡しないとな。

あー、仕事ばかりだな本当に。






やったぜ!! 無事生まれたよ!!

ユキは少し出遅れたけど、ちゃんとミリーのフォローもできた。

さあ、後は仕事という魔物退治ががが……。


というかさ、毎度調べて思うけど、お母さんって出産とかもう諸々大変だよね。

母強しとよくいうものだ。



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