第60掘:覚醒する聖女
覚醒する聖女
side:ルルア
「はぁ、ユキさん。何というか、暇ですね」
「……すー」
「……」
わざわざ、こっちにきて寝る理由をお教え願いたいですね…。
「ん、ああ。ユキの方はほっといてやれ、一昨日セラリア一行が到着したらしいからな」
「え、そうなんですか? そう言えば、15日後とか言ってましたね?」
「ついでに、ルルアの嬢ちゃんを保護した件は黙ってるからな。こっちから迂闊に連絡もできねえ。だから、こうやってユキが直接きてるわけだ」
「そういうことですか、私を手助けなんてしてるとセラリア様に言われれば、一応あのダンジョンはセラリア様の指揮下、彼女の責任問題になりかねませんか…」
「そういうこった。ユキの奴は、セラリアの世話と対応、そして移住者の世話まであるからな。こっちの様子を見るのは一苦労だろうぜ」
ユキさんは私の横で、頭をこっくり、こっくりさせています。
……とても疲れているのですね。
「あっ」
そうやって覗き込んでいると、馬車が揺れて、ユキが私の膝に頭を乗せる形で倒れ込みます。
「すー…すー…」
「なんで、寝息も静かなんですかね。まったく、もう少し、色々年相応でいいと思うのですが」
ユキさんは自身の告白によると、18歳らしい。
だけど、なんか言いかけて、やめました。
なにかあるのでしょうが、彼の18歳というのは多分嘘です。
それよりも若いはずです。
キユは若くしていますが、ユキは童顔…ではなく、きっと背伸びをしてるのです。
だって、今私の膝で静かに寝息を立てている彼は、どう見ても、青年というより、少年なんですから。
無意識に彼の頭を撫でます。
キユの頭なのに、私の感覚では、あの黒髪のユキさんを撫でているように感じます。
ユキさん、なにをどうすれば、貴方の様な聡明な子供が背伸びをして、私達を救うような事になったのですか?
私達なぞに関わらず、ダンジョンで静かに暮らしてく方法も、貴方は取れたはず、なのに、とてもつらい茨の道を選んだのは、何が貴方をそうさせたのですか?
私の事だってそうです。なぜ、私の背を押すようなことを、私をそのまま欲情のはけ口にしてもよかっただろうに。
邪魔になれば、皆の前から隠したり、ひどい目に合わせて、納得させればいいのに、なんでですか?
政治的な観点から見れば甘すぎる措置。
でも、利益につながる点を見出して、誰にとってもいい状態を作り出す。
甘さを甘さとしない、無駄を無駄にしないでしたっけ?
いうのは簡単、でもそれを行うのはとても難しい。
「しかし、そんな寝顔を見てると、俺達のリーダーっぷりが嘘のようだな」
「ええ」
「嬢ちゃん、よければそのままにしてやってくれねえか?」
「はい、大丈夫ですよ」
そして、私は彼が起きるまでのあいだ、ずっと頭を撫でて、何をすれば彼にとっての恩返しになるのか考えていました。
ゴトンッ。
「ふぁ!?」
私は馬車の激しい揺れで頭をあげます。
どうやら、私も寝てしまっていたようです。
「すー…すー…」
「あっ」
どうやら、いつの間にか、彼の頭を抱きかかえていたようです。
傍から見れば、恋人のように見えますかね?
彼の頭の半分は、私の大きな胸を枕にする形で隠れています。
「今は、私は貴方の姉でしたね。今だけは、このままでいてくださいな」
なんとなく、この道中、姉弟と偽ってきたのを思い出して、今の状態を正当化してみます。
今考えれば、ダンジョンにいた頃は、ラビリスやラッツさんのせいで彼の寝顔なんてみることはありませんでした。
いえ、私自身の余裕がなかったのが真実でしょう。
あの時は、生きる為に彼に媚を売っていましたから。
ああ、なるほど。そんな事で、只体がいいだけの女性を抱くわけにはいけませんね。
あの時の私にはそれほどの価値もなかったのです。
ユキさんを、愛してもいない、子供が欲しいわけでもない、国の為でもない、仲間の為でもない、家族の為でもない、ダンジョンを繁栄させたいわけでもない、只、自分が生きたいだけの理由。
しかも、周りから提示されただけの条件。
そんな事で生まれた子供を、私が愛せるとはとても思いません。
子供に、生まれた理由も話すわけにはいけません。
いえ、子供を産む前に自殺するかもしれませんね、あの状態の私なら。
そんな事を考えていると、胸の中のユキさんが、動き出します。
自分に当たっている物を確かめる様に、私の胸を手で揉みしだきます。
「あんっ!?」
ちょっと、自分では恥ずかしい声がでました。
「んー。あ、ルルアのおっぱいか。うん、揉み心地よし、張りもある。俺は好きだねー。とりあえず、ありがとな。ゆっくり寝れたよ」
「……淑女の胸をあれだけ揉んで謝罪も無しですか?」
「いや、抱え込んだのルルアだろ。なら、それぐらい許容してくれ。そして、ちゃんと褒めただろう? 好きだって」
「まあ、いいですけど。好きって事は私の体に、興味はあるのですね?」
「そりゃ、立派な体だからな。特に胸。興味ない人の方が少ないだろうよ」
「では、次あった時は、抱いていただけますか?」
「なんでそんな話になる? もう、ルルアはダンジョンで保護もしていないし、あの時の話はもう無しになっている。ルルアを指定保護して、出て行ったおかげでこっちの情報漏洩は無し、今回の件が失敗しても秘密は守られるし、成功すれば、ルルアが俺達、ダンジョンの支援をしてくれる。これで、貸し借りなしだ」
はい、確かにその通りです。
ですが……。
「何を言ってるんですが? 私が支援を出すということは、公にユキさんのダンジョンを認めるということです。無条件に物資を渡すなんてことは出来ません。せめて誰か、ダンジョンに常駐して監視することになるでしょう」
「そりゃ、そうだろうが」
「適任は私しかいないと思っています。そうですね?」
「まあ、こっちの内情を知ってる人が、常駐してくれる方がありがたい」
ユキさんの言う通り、あのダンジョンに新参者を送り込んでも面倒が増えるだけです。
しかも他国の使者。ならば、それを抑止できる人材がいればとても便利です。
つまり、私。
提案者の私自ら、先導で支援を行い、ダンジョンの監視という建前を行えば、とても便利なはずです。
その時には、私はそれなりの立場にいるはずですから。
「でも、俺に抱かれる理由にはならんぞ? 別に俺に媚を売る必要もない。ルルアが個人でやってくれれば済むことだ」
「何を言っているんですか? 私は一応、エルジュ様を暗殺しようと、いえ暗殺した国のトップだったのです。それが、ダンジョンに監視に来るとなれば色々軋轢が生まれます。ですが、貴方に嫁入りして、そうですね。一番立場が下の妾でもいいです。それになれば、周りからどう見えますか?」
「……リテア聖国からの謝罪と受け取るだろうな。そして、ダンジョン…いやロシュール国としては、人質を預かるに等しいし、ダンジョンともなれば、監禁とも受け取るか」
「はい、リテア聖国としても、元聖女がいれば、現聖女のアルシュテール様の指導のもと動いているので、色々問題があります」
「あー、ルルアがダンジョンに行くことで、上層部だけが知っているエルジュ暗殺に対する謝罪にもなるし、リテアを再び政争にしない為の布石にもなるわけだ」
「ええ、そして止めの妊娠でもすれば、リテア、ロシュールも、私に、もう戻るつもりはないという意思表示になるでしょう」
「……この大陸の移動は困難。そこで妊娠なんてすれば、当分その場所から動けなくなる。無論、国の政治にも口を出せなくなる。そんなのが、子供をある程度育てて戻ってきても「今更なんですか?」と言われるわけか?」
「はい、ですから、国を支える貴族たちは、首都で子を産み育てるのです」
「そっちのいい分は分かったが、俺である理由は……」
「あんな姿を見せたのはユキさんが初めてです」
全裸で土下座して、胸を彼に吸えとばかりに両手で突き出しましたね…変態です。
「……」
「無論政治的な観点だけではないです。ミリーさんやカヤさんとのわだかまりも解消したいです。そしてユキさんが目指す街をこの目で見てみたい。エルジュ様のとの約束もありますしね。それともなんですか? 今回の案の為に、私にロシュール国の見ず知らずの男を誘惑して、ダンジョンにこいと? 腰を振れと?」
「……」
「普通なら、婚姻相手なんて選べません。特に私の様な国のトップになった者は。ですが、今私には選びたい人がいます。その人の子供なら、きっと心から愛せると思う人が。さあ、答えを聞かせてもらいましょうか?」
「はぁ…、好きにしてくれ。とりあえず、前提として腹部はしっかり守って帰って来いよ。こっちにきて、子供が産めない体になりましたってのはアレだからな」
「ええ、これは絶対無事に生き残らなくてはいけませんね。ふふふ…、やる気が湧いてきますよ。無論旦那様も助けてくれるのでしょう?」
「気が早くね? 俺のどこがいいんだか……」
「恋なんてのは理不尽なものですよ。でも、その発言、ラビリスやラッツの前でしたら、ボコボコにされますよ?」
「なんでだよ?」
「ここは鈍感ですね。いえ、わざとですか? 「ユキさんのどこがいいのか」なんて聞いたら、彼女達は絶対にある答えを言いますよ?」
「なんだ?」
「貴方の全部が愛おしいと、それを否定するのは貴方でも許さないと」
ユキさんは、なんというか変な感じに目を泳がせています。
「えーと、俺って女たらしに聞こえるんですが……」
「何を今更。とりあえず、私も許しませんので」
「なにを?」
「貴方の全部が愛おしい、それを否定するのは貴方でも許しません。私の背中を押してくれた人が、変な所で卑屈にならないでくださいな!!」
私は思いっきり、ユキさんの頬を張りました。
あ、キユさんの体でしたね。ごめんなさい。
ルルアが政治的意見で、初めてユキを圧倒。
まあ、ユキの甘い所をついて、自分を最後まで利用しろと提案したようなもの。
しかし、傍からみれば怒涛の嫁宣言ラッシュ!!
と言っても理由はそれぞれ。
まあ、ルルアやセラリアに限っては、政治的な理由も多々ありますけどね。
ルルアが惚れる理由が軽すぎね?って感じる人が多いと思いますが。
総合的に考えると、今まで助けて、支援ばかりユキはしていたので、惚れても…というか、このままでは見知らぬ他人か、ユキかの二択ですからね。
ルルアにとっては、ユキがいいわけです。
愛なんてものは後からってパターンで宜しく。




