第554堀:マジック・ギア・スティーブ 後編
マジック・ギア・スティーブ 後編
Side:スティーブ コールサイン:スティール1
夜。
世界は闇に包まれ、明かりと言えば空に瞬く星と月。
「王城以外は思ったよりも暗いな」
『そりゃ、明かりだってただじゃないからな。お国がそういうシステムを作ってなきゃ無理だろうさ』
「そういうもんっすかね」
『そういうもんだよ。先進国でも都会以外はそんなに明るくないだろう?』
「あー、田舎はそうっすねー」
『いや、お前は生まれも育ちも全部ダンジョンの中で、さらに大将付きだったから、文明の明かりで育っただろうに』
「いやいや、知恵がつくまでは普通にダンジョンの草原で野生のゴブリン生活っすよ? あ、まあ、最初から勉強らしきものは教えてもらってたっすけどね」
『そうだったのか。って、そろそろ仕事しろ。周りも十分に寝静まっているだろう』
「はいはい」
おいらはそういいつつ、立ち上がると、明かりが落ちたハイデン王都の地面に人影が一つ映る。
それはおいらの影ではなく、巡回の兵士のもの。
『……巡回は通り過ぎた。作戦を開始せよ』
その合図を聞いておいらは身を潜めていた屋根から地面に飛び降りる。
着地音もなく、いつもの通りだ。
「待たせたな」
『お前、それが言いたかっただけだろ』
「これぐらいいいじゃないっすか」
『お前は主役でいいかもしれんが、俺は通信役でオマケだろうが』
「いいじゃん。オタコ○か大佐で」
『別にその二人が嫌とは言わないが、俺の立場は基本的にそのどちらとも違うからなー。どちらかというと雷○か?』
「デブの癖に何言ってんだか」
『おうこら。かえって来たら覚悟しろや。ともかく作戦開始だ。見つかるなよ』
「了解」
そんな冗談のやり取りをしつつ、おいらは先ほど盗聴していたタークラムの屋敷へと足を進めるっす。
『先ほどもいったが、貴族地区は壁で仕切られていて、門には兵士が昼夜を問わず警備についている。基本的に、平民は貴族地区には通行許可証が無ければ入れない。夜に至っては門が閉じられているので、門からの出入りは不可能と思った方がいいだろう』
「ま、そりゃそうっすよね。門から出入りしようとすると大騒動になるっすから。で、予定通り壁を上るでいいっすか? 場所は?」
『マークした。今、壁上の巡回が通り過ぎたところだ』
コール画面を確認すると、門から20メートルほど離れた位置にマークがある。
しかし、思ったより巡回が多いっすね。
「ここはいつもこんなもんっすか?」
「いつもかどうかは知らないが、俺が来た時にはこんな感じだったな。今までみた他の国々と比べると多い気がするから、フィンダールとの戦闘のせいじゃないか?」
「あー、なるほど。と、壁は無事超えて、貴族地区に潜入成功。このままタークラムの屋敷に向かう」
『了解。わかっているとは思うが屋根には上るな、壁の上を巡回している奴に見つかる』
「めんどうっすねー。屋根の上は潜入ミッションの花道なのに」
『それは泥棒の方な』
「せめて段ボールがあれば……」
『持ってるだろうお前。使えよ。段ボールがあれば完璧なんだろ?』
「冗談っすよ」
まったく、このオークときたら。
冗談も通じやしない。
しかし、特に問題なく侵入できるのがいつもの如く不安っすね。
「目標の屋敷を確認。中の状況は?」
『屋内のマークは全て停止中。おそらくは就寝中。マークを転送、確認してくれ』
送られてきた、屋敷の人の反応はこちらのコール反応と同じ位置。
問題はないっすね。
「こちらの内容と変わりないっす。マーク全ては就寝中と認定。これより屋敷に侵入する。第一目標は盗聴していた執務室。第二目標は地下倉庫。第三目標はタークラムの寝室。問題はないっすか?」
『問題ない。マークに動きがあればすぐ知らせる』
「潜入は執務室の窓から行う。と、そういえばタークラムの情報とかはあるんすか?」
おいらは魔術を使用して窓を開けながら不意に思ったことを聞いてみる。
『俺たちが聞けるわけないだろうが』
「いや、キャサリンさんとか、バイデの方からの情報提供は?」
『ああ、そっちか。特に目新しい情報はないな。ズーノ・タークラム。ハイデン王国の貴族。ハイデンの王宮ではそれなりの地位があるぐらいだな。背後関係はさっぱり』
「全然っすね」
『目新しい情報はないっていっただろう。ま、評判は良くないってのもキャサリン殿たちバイデからの情報だけだしな。それだけを鵜呑みにはできんよ。まあ立ち回りだけは上手なんだろう。目先の利益だけ追ってたならお偉いさんの役職には就けないからな。こうやって、叡智の集とかやばい組織と繋がりを持とうとも思わんだろうさ』
「まあ、そうっすねー。と、これは……」
そんな話をしつつ、執務室を漁っていると、それらしい書類が出てきた。
『それらしい書類は吟味する前に記録してこっちに送れ』
「へいへい。たぶん、叡智の集の名簿っすね。さっき盗聴してた時に連絡するとか言ってたのをそのまま置いてたみたいっすね」
『……みたいだな。マジック・ギアが置いてある屋敷と所有する貴族の名前が一致する。バカか? なんでそんなところに置いてるんだ?』
「一見はただの名簿っすからね。なんの名簿かは裏を知らないとわからないっすけどね」
『あー、そうだな。……よし。他に確実に証拠になりそうなものはないか調べてくれ。賢者様とかいう、叡智の集に関する情報はないか?』
「そう都合よく、見つかれば誰も苦労しないっすよ……」
ごそごそと執務室の探索を続けるが、特になにも見つからない。
まあ、汚職らしい裏帳簿みたいなのがあったから、これがあればハイデンに乗り込むお姫さんの後押しにはなるっすかねーぐらい?
「執務室の調査はこれで終わりにして、地下倉庫に向かうっす。確かマジック・ギアの保管庫っすよね?」
『そうだ。屋敷内を動くことになるから十分気をつけろ』
「了解」
そういうことで、暗闇の屋敷へおいらは動き出す。
迷彩機能のおかげで姿を見られることはないっすけど、なんかやっぱりこう暗闇の屋敷ってのは気持ちいいもんじゃないっすね。
絵画とかほらリアルすぎで気持ち悪いし、鎧とか動き出しそうだし?
まあ、本場の中世ヨーロッパみたいなところだからこれが当たり前なんだろうっすけどねー。
「しっかし、本当に何もないっすね」
雰囲気に怖がりつつも、結局問題なく地下倉庫までたどり着く。
屋敷の中は夜番の付き人も部屋でじっとしているので、静かなものだ。
というか、絶対寝てるだろうこれ。
まあ、あれかいつ呼び出されてもいいように仕事服で椅子で寝てるとかしてるっすかね?
そういう夜番で寝ていい職場とか羨ましいっす。
『ドアには注意しろよ。魔術的な反応はないが、物理的なトラップがないとも限らん』
「おいらたちの十八番っすよねー。大将が大好きっすから」
『あの人は、魔術的なトラップと物理的なトラップを搦めて、さらに簡易なトラップと複雑なトラップを混ぜて使うからな。ほぼ解除不可能だ』
「ま、あれは殺しにかかってるからこっちはせいぜい……」
ドアを開けて、すぐには中に入らず足元を確認する。
「引っ掛けトラップがせいぜいっすよね」
糸に足が引っ掛かり、倉庫内に立てかけてある剣や鎧といった鉄物が倒れる仕組みっすね。
それだけ音が鳴り響けば誰だって気が付くっすか。
外に繋がる糸などは確認できなかったから、この倉庫内で完結しているトラップっすね。
まあ、管理が面倒っすからね。
鍵がかかるし、そこまで厳重にするほどでもないってことっすね。
お城の宝物庫でもないし。
「さて、マジック・ギアはこれで間違いないっすか? ファング1」
『ああ、それで間違いない。予定通り、ダミーと入れ替えろ』
「はいよー。っと、ちょいまち。箱の中に何か手紙があるっす」
マジック・ギアが入っている箱の中に入っている手紙を開ける。
親愛なる タークラム殿へ。
敬虔な信徒をハイレ様はよく見ておられます。
その証にこちらを送ります。
使い方については……
「おいおい。ハイレって確か……」
『ここら辺で最大の宗教だったな。ハイデンもハイレから名前とったとか言ってたし、魔王を倒したとか言う話もあったな』
「さらに、魔物が消えた時期と一致するっすね。あちゃー、藪つついたら蛇が出てきたっす」
厄介な。
『ほかに何か情報はないか?』
「ないっすね。どこから送られてきたとかもなし。ハイレの総本山の確認頼むっすよ」
『おう。すでに任せている』
「とりあえず、めぼしい物は回収したっすから、脱出するっすよ。それより、他のマジック・ギアの回収を急がせるっす」
『わかっている。待機している連中を動かす』
「本当に、ハイレが背後にいるなら根が相当深いっすよ。狙いもさっぱりわかんねーっす」
『とりあえず、スティール1は戻ってこい。直接大将と話せ。まずはそこからだ』
「わかってるっす」
そんな話をしつつ、おいらはタークラムの屋敷から脱出して、貴族地区を走り抜ける。
あー、まったく問題が次から次へと、この説明、大将はどうするっすかね?
『しかし、まあ、ネタ通りというか、潜入して調べたらもっとひどいのが出てくるのはお約束だったな』
「ほんとうっすね。リアルでは全然うれしくないっす」
『ま、ともかく一旦帰投して、他のマジック・ギア回収が終わって確認してからだな』
「そうっすね」
で、全部隊のマジック・ギア回収の結果。
どこも同じようにハイレ教会からの手紙が添えつけられていたことが確認されて、大将が頭を抱えていた。
「……ここでこんなのが出てくるか。裏付けを取ろうにも人手が足らん。しかも土地の宗教みたいなもんかよ。下手にハイデンやフィンダールの連中に話せねえ!? 逆にこっちが不信がられる!?」
そうっすね。
その通りだと思うっす。
「叡智の集とリラ王国の残党の親玉がここら周辺で最大の宗教の総本山かもしれない? どこの二流映画だよ!! というかメリットはどこだよ!! それともハイレの名前を騙っているだけか? それならありがたいが、迂闊に聞くには内容が大事すぎる!?」
「で、おいらたちは今後どうするっすか?」
「……ハイデンにあるハイレ教会行って漁ってこい。証拠があるとは思えないが、あれば説得は楽になる。こっちは……ハイデンとフィンダールの使者に集めた情報を説明しないといけない」
「あ、やっぱり説明はするんすね」
「……最初はテンパったが、国中に知らせるわけじゃないからな。それぐらいは良識があるメンバーだろうさ。そう祈る」
ご苦労様っす。
さ、おいらはまたお仕事に戻りますかねー。
そしてついに裏の組織の正体へのヒントが……。
STAGE1クリア NEXT STAGE
アウターヘ〇ンではなくハイレの影。
さあ、これからどうなる!!
で、一旦ユキパートになり、その後STAGE2へと移行します。
次回を待て。




