第550堀:再会とこれから
再会とこれから
Side:キャリー・ハイデン
「姫様。本当に信用できるんでしょうか? 今回の件にリラ王国の残党が絡んでいるなら、フィンダールが画策したとしてもおかしくないのですが」
そうカグラは横から心配そうに言う。
言いたいことはわかる。
今のハイデンの状況がリラ王国の残党によるものであるのならば、リラ王国と争っていたフィンダールが無関係であるというのは虫のいい話。
むしろ、フィンダールが主導でやったと言われるほうが納得できる話ですらある。
だからこそ、カグラはフィンダールの使者との会談に対して心配があるようだ。
だが、それだけを心配して会談をしないなどということはあり得ない。
「どちらにしても、一度話さなくてはいけません。このままでは泥沼化するのは目に見えています。というか、このままではハイデンの中枢が暴走して、ウィードと戦争になればそれこそおしまいです。それはカグラもわかっているでしょう? それを防ぐためにカグラは、お父様である公爵殿の所へと赴いたのですから」
「……それは、そうですが。お父様はどう思うのですか?」
そういってカグラは横にいるカミシロ公爵に意見を聞く。
聞かれたカミシロ公爵は特に考えるそぶりも無く口を開く。
「私は姫様の意見を支持する。どのみち、ハイデンとフィンダールはすでに戦争状態にあるといっていい。バイデで戦闘が発生したのだ。今更なかったことにはできない。どこかでフィンダールとの話し合いの席を設けなければいけないのは変わりないが、時をかけすぎれば、フィンダールと面しているバイデを拠点に攻め込むなどと意見が出てくるだろう。そうなれば、ウィードの事が明るみに出ることになる。そうなった時、ウィードの実力を正確に把握できることはないだろうから、討伐軍を送ることになるだろう。そうなれば終わりだ。だからまず先んじて、フィンダールと話し合い、停戦にこぎつけているとなれば無意味に戦おうとはしないだろう」
「うーん。お父様も姫様と同じ意見か」
どうやらカグラはまだ何か不安があるようで、顔の曇りは取れていない。
「カグラはジョージン殿がリラ王国と繋がっていると言いたいのですか?」
「いえ、ジョージン殿はそういうことはないと思いますが、ハイデンの中枢まで入り込んでいる連中が、フィンダールにいないという保証はないでしょう。というか、絶対にいると思った方がいいと思います」
「それはその通りだ」
確かに、ハイデンだけにいるというのは都合の良すぎる話ではある。
むしろ、恨みがあるフィンダールの方にいないという方が可笑しい。
「つまりです。今この段階で会談をしたとして、正確に内容がフィンダールの王に伝わるか? という疑問が残るわけです。迂闊に会談で話して、敵を刺激することになり、今ウィードに来られているジョージ殿下、スタシア殿下、ジョージン殿が帰国の途中暗殺でもされれば、それこそ取り返しがつかないと思いまして」
「……なるほど。そういうことですか。つまり、私たちに起こったことが、フィンダールの方々にも起こる可能性があるということですね?」
「はい。今までの経緯から察するに、姫様や私の魔力、そして邪魔になりそうな御三家の一つであるお父様を狙いましたが、そのすべてはユキたちウィードによって防がれました。これにより相手が方針転換しないとも限りません。ましてや、自分たちの存在が知れたとなれば……」
「フィンダール帝国とハイデンが手を結ぶ前に、手を打ってくる可能性があるか」
「はい。ジョージ殿下、スタシア殿下、いずれかでも命を落として、あらぬことを吹聴されればそれこそ、戦争の回避は難しいでしょう。そうなればハイデンは終わりかもしれません」
「その場合は、フィンダール、ハイデン共にウィードによって潰されそうですね」
ウィードとその背後にいる連合国を相手にして戦える戦力などこの一帯の国には存在しないのですから。
「カグラの懸念もわかるが、すでにジョージン殿がリラ王国の件は両殿下に報告済みだろう。今更会談をやめても、問題が無くなるわけではない。むしろ話し合わないことで悪化する可能性が高い」
「うーーん。そうなんですけど……」
再びカグラが首をひねる。
「カグラ、今回の会談がそんなに心配なんですか?」
「いえ、ウィードでの会議ですし横槍が入ることはあり得ないでしょう。でも、その後の動きがまた厳しくなりそうで……」
「どういうことですか? フィンダールと話をつけた後は、ハイデン内部の事に集中して短期で片づけ、そのあとにフィンダールとはしかるべき話し合いの席を設ければいいことでしょう。今回の事がリラ王国の残党が原因である可能性は濃厚ですし、そこを押せばそこまで関係が悪化することにはならないと思いますが」
「姫様。それって、大前提に、ウィードの協力あってこそですよね?」
「そうですね。ウィードがいるからこそ、こんな大胆な行動がとれるのです。そのためにウィードの女王陛下と謁見し、約束も交わしました」
「……なるほど。そういうことか、今回の会談で正式にリラ王国残党の件を話し合うということは、協力体制になるわけだ。そうなると、カグラが懸念でしたように、両殿下の安全は絶対に確保しなければいけない。その安全を確保できる人材を持っているのはただ一つ」
あ、私もそこでようやく気が付いた。
「ウィードの戦力をさらに分けることになるわけですね」
「……はい。それは正直厳しいです。いかにユキたちが強くても、そんな無茶振りをしていれば」
「……セラリア女王陛下との関係は悪化しますね」
本来であれば自分たちでどうにかしなければいけないことに巻き込んでおいて、さらに難題を頼むことになりかねない。
「……ふむ。ならば、こういうのはどうでしょう。今の懸念を話して、ハイデンの事が落ち着くまでは、ウィードに逗留してもらうというのは?」
「お父様、長い間は無理ですよ。よくて二、三か月です。これ以上は逆に私たちが何かを企んでいると言われかねません」
「……カグラの懸念は理解しました。これは正直に包み隠さず話して、ウィードの方々も交えて話をする必要があるでしょう。しかしその前に、フィンダールとの非公式会談をして意思の疎通を図るのが最も大事です。なので、会談を取りやめることはありません」
「……わかりました。姫様がそういうのであれば構いません。しかし、この話を受け入れてくれるのでしょうか?」
「……それに関してはそこまで心配しておりません」
「え?」
カグラは意外そうな顔をしている。
そこが一番難しいのはわかっていますが、私にとっては聞くまでもないこと。
スタシアお姉様が拒否するわけがないのです。
「さあ、もうすぐ時間です。迎えが来る前に準備を終わらせますよ」
しかし、ウィードの戦力分散は避けるべきですね。
そこをどう説得するかが問題になりそうです。
祖国がリラ王国に浸食されているかもしれないと知れば、流石に止めるのは苦労するでしょう。
そんなことを考えているうちに会議室へと案内されて、フィンダールの使者を待つばかりとなりました。
……あれから、7年。
長かったのか、短かったのか、いざ顔を合わせるとなると妙な気持ちですね。
「フィンダールの使者の方がお着きになりました」
そう連絡を受け、私たちは席から立ち待っていると、ドアが開き入ってくる。
先頭はユキ様。おそらくはこの会談の議長というか、見届け役なのでしょう。
その後ろに、ジョージン殿、そしておそらくはあの若い男性がジョージ殿下。
そして……がっしりとした鎧に身を包んだ変な人が……。
いえ、あの動きは……。
私は気が付けばその鎧の人に歩み寄っていました。
後ろからついてきていた護衛と思しき方々は警戒して鎧の人を守ろうとして、私の目の前に立ちはだかります。
「貴様!! 何者だ!!」
「姫様!?」
護衛の方々と一緒に後ろからカグラの悲鳴が聞こえます。
あ、また迷惑を掛けましたね。
でも、こればかりは譲れないのです。
「……スタシアお姉様。キャリーです」
私ははっきりと、そういって護衛の方々が守る鎧の人に向けてそういいました。
すると、鎧の人は護衛の人たちよりも前に出てきて、兜を取ります。
そこから出てきた顔は、やはりスタシアお姉様でした。
「「「!?」」」
なぜか、フィンダールの方々が驚いていますが、そんなことはどうでもいいのです。
「キャリー姫。お久しぶりです。……大きく、美しくなりましたね」
「はい。スタシアお姉様」
そういって、私とスタシアお姉様は互いにホロホロと涙を流していました。
「……キャリー姫。約束を守れず申し訳ない。顔を合わせる資格もないとは承知でこの場に出てきてまいりました」
「そんな、資格などいりませんわ。私たちは姉妹です。そうでないとアージュに怒られますわ」
「そうですね。愚妹なら怒るでしょうね」
「愚妹って、アージュが拗ねますわ」
「はは、そうなると大変ですね。では、昔のように仲良くしましょう。いいでしょうか?」
「許可など必要ありませんわ。まあ、スタシアお姉様は昔からそのような感じですから、仕方ないのでしょうけど」
「騎士としての義務という奴です。と、そろそろ周りの方々が待ちくたびれてしまいます。今は会談を優先しましょう。それと、この顔を見せるのは見苦しいでしょうから兜を……」
スタシアお姉様はそういって再び顔を覆い隠す兜をかぶろうとしますが、それを止めます。
「見苦しくなどありません。その傷はアージュや私を守ってできた傷。誉れではあっても、見苦しいなどと思う人はいません。お姉様が言っていたではないですか、人を守ってできた傷は勲章であると。それでも気になるというのであれば、皆さまの中に、スタシア殿下の顔が見苦しいと思う方はおられるでしょうか?」
少々意地悪ではありますが、威圧を出しつつ、周りに聞いておく。
「いえ、姉上の顔が見苦しいなどと思ったことはないですね。なあ、ジョージン?」
「ええ。身目麗しく、なにも問題はないかと……。いや、求婚されるかもしれませんから、お顔は隠しておくべきですかな? どう思われますか。カグラ殿?」
「ふえっ!? え、え!? いや、そんなことをする人はいないでしょうし、兜をとって会談をするのは当然のことですし、問題はないのではないでしょうか」
ふふっ、流石はジョージ殿下、ジョージン殿。
私がこういう行動をとるのは想定済みだったのでしょう。
カグラはもっとこういう場に慣れないといけませんね。
ですが、誰の反対も出ることはないですし、このままいけそうですね。
「……随分と、悪知恵が働くようになりましたね」
「アージュのおかげです」
「はぁ。あの愚妹は……。まあいいでしょう。まずは会談を」
「はい。では、ユキ様、お願いいたします」
私とスタシアお姉様は隣同士の席につき、会談の開催宣言を待つ。
「さて、感動の再会もあったことですし、このままスムーズに会談が進み互いの国にとって有益な話し合いになることを信じ、非公式ではありますがハイデンとフィンダールの会談を始めます」
そうして、会談が始まりました。
まあ、結果は言うまでもないですが。
細かいことは色々ありましたが、ハイデンとフィンダールは一時停戦。
その間に、ハイデンの内部を沈静化、問題の原因究明を急ぐことになりました。
さあ、後ろは固めました。後はハイデンへの殴り込みです。
覚悟しなさい!!
とそんな会談の中でユキ様は妙なことを呟いていました。
「……アレだな。自意識過剰だったというわけだ。何も懸念はなかった。そうだよな。カグラ」
「え? 何のことよ?」
「ほらな、俺の自意識過剰だろう? リーア、サマンサ」
「まあ、2人に関してはそうだと思いますけど……」
「私たちに確認している時点で、心配でたまらないのでしょうけど」
「うぐっ。いや、ありえない!! そうだ、ありえない!!」
「いや、だから何のことよ?」
何か内容はわかりませんが、カグラと仲良さそうに話していますし、やはりカグラはウィードへの外交官に推すべきでしょう。
これでハイデンの内部征伐へようやく動き出す!!
そろそろ派手になるぜ!!
まあ、相手がネタ的に派手に負けるだけだがな!!
ユキたちが敵に苦戦すると思う人いるなら手を上げなさい。




