第521堀:神の住まう社
神の住まう社
Side:ユキ
「ここがカミシロ公爵の屋敷か」
俺たちはあんなことがありつつも、無事夕方にはカミシロ公爵の屋敷にたどり着いた。
ここからは冗談抜きで、マジで話し合いをしないといけない。
カグラの件は冗談なのか?と問われるとまあ色々私怨はあるが、状況から判断して一つの選択肢として実行していた。
だが、ここはしくじりたくないので、カグラの押し付け合いよりも気合いの入れ方がマジになるのだ。
下手すれば、俺たちの手でハイデンを潰すことになって、事後処理が本当に面倒なことになりかねない。
「いたって平穏そうじゃのう」
「そうだね」
デリーユとリーアはそんなことを話している。
俺もそう思う。
この公爵の屋敷もそうだが、道中通った村は特に争いの影響は出ていないようで、のびのびとしていた。
まだバイデに帝国が押し寄せたということも知らないのだろう。
既に、ハイデンの方が手を回している可能性も考えていたが、そうでもないらしい。
「これはこれで、説明するのに面倒そうではありますけどね」
「ああ、戦いの影響がまったくないから、説明しても納得や理解してもらえるか心配だ」
戦いの無いところに戦いの必要性を説いて納得してもらうのは結構大変だ。
無駄な争いは誰だってしたくないからな。
「や、やっぱり、公爵ってすごいんだ。う、うわー、カグラって呼び捨てにしたけど大丈夫かな?」
「だ、だよね。大丈夫かな」
根っからの一般庶民であるアマンダとエオイドはこの屋敷に来てからガチガチになっている。
今まで、王城へ行ったり王様と面会したりしているからそろそろ慣れてくれるといいんだが。
「あんたたちねぇ、今更そんなこという?」
「だ、だってドレッサ……」
「そんなこと言ったら、お兄様や、そのドレッサだって、王族ですよ?」
「ふぇっ!? ユ、ユキさんはともかく、ド、ドレッサも!?」
「ああ、そういえば、ユキさんの奥さんならドレッサも王族ってことになるよね」
「そ、そうね。私もユキの妻だし? 身分は高いわよ。つ、妻。そうよね。私はすでにユキのモノよね……」
いつからドレッサが俺の奥さんになったんだよ。
……ん? 奥さんじゃないよな?
手は出してないし……。
でも、お風呂は一緒に入ったことはある。いや、それを言うならヴィリアとヒイロもだしな。子供の枠というか、アスリンたちの友達って感じだよな?
秋天がかか様って呼んでるのは、それだけ慕っているってだけだし、……うーん? あれ、ドレッサやヴィリア、ヒイロは諸事情があって、身内みたいな扱いだから、どうなるんだ?
……他の嫁さんに後で聞いてみよう。
今なにか言うとドツボになりそうな気がする。
「……ドレッサは元が付きますがお姫様ですから。それを言うならデリーユさんもですけど、そんなの気にしてないですよね」
「あー、師匠はねー」
「デリーユさんは、もう付き合い長いですし」
ま、ドレッサの発言は放って置いて、俺たちは貴族然としているわけじゃないからな。
元々、俺は一般人だし、デリーユは魔王で諸国放浪してたし、ドレッサに至っては奴隷だったし、これが一般的な貴族ですって言うのはあれだろう。
そんな感じで、軽く雑談をしていると、応接室の扉が開かれて、カグラとキャサリンが戻ってくる。
「ユキ、いえ、ユキ様、ご足労願えますか? お父様が見てもらいたいものがあるそうです。初代様が残された書物らしいのですが……」
カグラが普通にこちらにへりくだった話し方をする。
「どこまで話した?」
俺はカグラではなく、キャサリンに聞く。
「一通りは、キャリー姫のありようを見て絶句していましたし、罠などはないかと」
「護衛は?」
「全員来てもらって構わないそうです。初代様の残したものを見せるためであって、こちらから出向けないのは申し訳ないと言っておられました。おそらくはその書物を見せてこちらの正体をしっかり確認するためだと思います」
「……わかった。行こう」
ということで、みんなでカグラの親父さんに会いに行くことになった。
案内された先は地下で、みんな警戒していたが、俺とタイキ君はどんどんうわーって感じになってきた。
だってさ、地下にあったのが……。
「ねえ、あれって鳥居じゃないですか?」
「いうなよ。剣豪や軍神の次は神職かよ。どこの宗派かわかるか?」
「そんなのわかりませんよ。建築でどこの宗派かわかるほど、精通していませんってば」
そう、まさに、ザ・神社!! って感じの空間が広がっていた。
「柏手打つ正式な作法とか忘れましたよ」
「年末年始にパンパンってして、鈴ならしてただけだしなー」
それ以外に神社によるとか、基本的になり。
ああ、爺さん婆さんのゲン担ぎで付き合ったことはあったかな?
「ユキさんって社会人だったんですよね? こうパワースポット巡りとかしなかったんですか?」
「そんな暇があったら家で寝てるわ」
「やっぱり、ユキ様は神社をご存知なのですね」
「……やっぱりというか、俺たちとしては出てほしくなった情報がでたな」
「もうしわけありません」
「いや、謝ってもらう必要はないけどな。日本人の祖先がいたとは聞いてたけど、神職の人だったとはなー。しかも、こっちで神社を作るとか、信仰心の篤い人だったんだろうよ」
……正直いって、信仰心篤すぎ。
この土地には、ハイレっていう神様信仰があるのに、わざわざ作るほどってなかなかできることじゃない。
「はい。えーっと、お父様からちゃんとした説明があると思いますが、主祭神に産土神は水之辰命様で我がカミシロ家が代々祀っているそうです」
ひぃぃぃ、産土神? 聞いたことのない名前だから、土着信仰じゃねーか!?
マイナー過ぎてわかんねーよ!?
水之辰って、すいのたつ、水龍だよね。水害でも多かった土地なのですかね?
「俺、菅原道真公とか、日光東照宮とか、お稲荷さんとかお伊勢さんとかしか知らないですよ」
「俺もその程度だよ。というか、そんな地域限定の産土神を主神に祀ってるって、どこの田舎だよ。信者集めるなら、タイキ君が言ったようなメジャーな神様のところから分霊もらってくるのが普通だろ」
「いや、俺、神社のことはよくわからないです。学問の神の菅原さんと、お狐さんのお稲荷さんぐらいしか、神社の神様はしらないですね」
「まてまて、日光東照宮は徳川家康のことだぞ。あと、お稲荷さんの狐ってのは神使で、主神は宇迦之御霊神で、女性だぞ? というか、お稲荷さんの主神は五穀豊穣の神で5柱、5人の総称だな」
「あれ? そうなんですか?」
「まあ、興味がないと詳しく調べないよな。これが神道における八百万ってことだと思え。片っ端から、縁起のよさそうだと思ったのを祀るのが神社だよ。すべては周りにありて、自然そのものが神であるってな」
「元も子もない言い方ですねー」
そんなことをタイキ君と話していると、拝殿の方からではなく、社務所の方から一人の人が歩いてくる。
「我がカミシロ家の元々の主神は宇迦之御霊神でございます。しかし、この世界に初代様がご降臨された際には、水之辰命様がよくよく助けてくれたようで、今では、摂社に宇迦之御霊神を、本殿に水之辰命様を祀っております」
神職の服をきた、金髪のロマンスグレーの男性がにっこり話しかけてくる。
なんつーか、外国人が神主の姿してると、すげー違和感が。
って、今はいいか、おそらくこの人が……。
「申し遅れました。私が、カミシロ公爵家当主、ソウ・カミシロと申します」
そういって頭を下げる。
つられて、俺とタイキ君も頭を下げて挨拶をする。
「これはご丁寧に、ユキと申します。苗字は色々と問題になるので、伏せさせていただきます」
「私は、タイキです。苗字に関してユキさん同様問題になりうるので申し訳ありません」
「いえいえ、しかし、本当に日本人なのですな。自然に頭を下げるとは、こちらの世界の感覚ではありませんからな。上下関係をはっきりさせたいものばかりですから」
こっちの世界、というか西洋文化において、しっかり頭を下げるという行為は、相手が格上の時のみ。
対等な立場は基本的に握手とかそういうのになる。
礼の文化の違いであるので、どちらがいい悪いではないけどな。
まあ、日本はそれでペコペコ合戦になることがあるから、あれはあれでどうかと思うけどな。
「さて、社務所でお話を、と行きたいところですが、まずは清めて本殿へお越しください。水之辰命様も久方ぶりの日本人との邂逅、心待ちにしているでしょう」
そういって、手水舎へ歩いていく。
「えーっと、ユキさん。あの変なお水があるところでどうするんですか?」
「よう、わからんのう」
リーアやデリーユたちは初めて訪れる神社でよくわかっていないようだ。
「あそこで、柄杓を使って手を清めるんだよ。まあ、神様に参拝する前に綺麗にしようってことだな」
「懐かしいですねー」
とりあえず、見本を見せるべく手水舎に行って、簡易ではあるが、清める。
いや、しっかりとした清め方は覚えてねー。
「なに、お嬢様方、簡単に手を洗うとでも思ってください」
「は、はあ。わかりました」
無作法がないかとびくびくしていたヴィリアやドレッサたちも俺やタイキ君を真似て清めていく。
「ではこちらへ」
「賽銭入れなくていいんですかね?」
「いや、ここは隠しみたいなもんだから、拝殿は基本必要ないだろう。参拝客なんていないんだし、趣味だろ。あれ」
「その通りにございます。初代様が作られたときに、とりあえず作ったそうです。自宅に似せてというのが本音らしいですが」
「自宅……ね」
「うわー、神社の子供とか面倒そう」
「はは、話によれば跡継ぎではなかったそうですが、それでもみっちりと神職としての立ち居振る舞い、勉強などは叩き込まれたそうです。と、こちらにどうぞ。言わなくてもいいかもしれませんが、靴はお脱ぎになってお上がりください」
ということで、みんなで本殿の方に入る。
まあ、本殿とかいっても、こういうところはものががっつりあるわけでもなく、大きい広間の奥に、ポツンと小さい社があるだけだ。
あれ、なんていうんだっけ? ご神体?
まあ、いいか。
「どうぞ、こちらの上にお座りください」
「あ、これはわかる。座布団だね」
「うむ。では遠慮なく」
リーアやデリーユたちはそういって座ろうとすると、不意に声が聞こえてくる。
『……この気配は、天照大御神? バカな、主神であった宇迦之御霊神ですら、この地に届かぬというのに。社も信仰もない、天照大御神の気配を漂わせるは何者ぞ?』
他の皆も聞こえたようで、ビクッとなる。
……天照大御神の気配?
なんで、そんな日本のトップの神様の話が出てくるんだよ。
『いや、お主から一番気配が漂っておるのだが。祀っておらぬのか? いや、これは祀っているというより、より近しい気がするのだが』
ん、そういえば、どっかの駄目神が天照大御神も兼ねているとか言ったな。
あれは食っちゃ寝して、俺に迷惑しか持ってこないからあんまり意識しないというか、できないんだよな。
『……顕現されておるのか』
「顕現つーか、のんびり堕落した日々を送っているというか、……まあ、それはともかく、心読むのやめて普通に出てこい」
『ふむ。確かに無粋であったな。……ソウ、カグラ、力を貸せ』
「は、ははっ!!」
「ひゃ、ひゃい!!」
ソウさんとカグラは驚きつつも、指示に従い魔力をご神体の方へ注ぐと、備えてある杯から水があふれ出し、水でできた龍が現れ、ソウとカグラの周りを飛ぶ。
こっちのメンバーは魔物かと殺気立つのを止める。
『……なるほど、災難だったな。同郷の人の子よ。まさか、ソウタ以外の日本人が呼ばれることになるとはな』
「ソウタってのは、初代様のことか?」
『然り。あれから500と37年。人の時間では果ての長さよ。まあ、ソウタ本人は面倒な社仕事から離れられて万々歳と最後まで笑っておったが、我を結局このように懇切丁寧に主神まで添えた社まで作ってしまった。血は争えんというか、哀れというかな。まあ、この世界の力で顕現したのが原因か、友のように一時を駆け抜けた。懐かしきことよ』
あー、こっちの世界で顕現しちゃったのね。
それなら、ご利益バリバリある水之辰命を祀るわ。
『さて、我との雑談は一旦ここまでだな。ソウよ、こ奴らは間違いなく、日本人である。ソウタとの同郷の人間よ。嘘をつく道理もなし。話を信じても良いだろう』
「はっ、ありがとうございます」
『いや、今まで真摯に祀ってくれたお主たちのおかげだ。我は神体に引っ込む。カグラも無理な魔力供給すまなかったな』
「いえ、水之辰命様にお喜びいただけて何よりでございます」
そういって、水龍はご神体に引っ込む。
とりあえず、自分たちは日本人でーすっていう説明は省けたのかね?
こんな感じで、滑り出しはいい感じ。
さてさて、これからどうなるのか!!
無事に協力は得られるのか!?
駄女神が天照だったの今思い出した人は手を挙げなさい。
怒らないから。




