第520堀:思惑は進まず
思惑は進まず
Side:ユキ
道中の行程はかなりスムーズだ。
出発当時はお姫様に足を引っ張られたが、魔術や薬で寝かせて馬に簀巻きに積んで進む方法を取ったせいか、かなりハイペースで進めている。
当の本人は、今までの疲れが出ていて寝ているのでしょうと勝手に勘違いをしてくれているので助かる。
こういうお花畑は、妙なところでポジティブだなーと思う次第だ。
が、その反面、問題も存在していた。
旅の行程が早い分、敵の動きがよくわからないままということだ。
今のところ、バイデの方にも何も動きはなく、平和そのもの。
こっちも追手が来るわけでもなく、敵の狙いが何なのかわからず仕舞いだ。
普通であれば、探索チームをすでにハイデンに送り込んでいるところだが、魔物が使えない今、先行調査は簡単にできない。
使える戦力が限られているので、なるべく後方を固めることに力を入れている。
ちゃんと並行して、魔力の調査、魔物への影響などを調べてはいるが、たかが、一週間ちょっとで、結果が出せるわけがない。
正直ザーギスやコメットはここ最近オーバーワークなので、休めといっているが、あのマッドどもは新しい研究地域ができて舞い上がってハイになっている。
まあ、予想はしていたので、ヒフィーに頼んで無事寝かせてもらっている。
手段は聞いていないが、まあ、ブッコロにはならんと思う。
簡単にダンジョンを展開できないのもつらい。
この大陸で中継地点をあちこち作ることはかなり難しい。
重要拠点を絞って造らないと、維持ができない。
5000倍というDP効率の悪さが全体の動きを鈍くさせている。
その原因を調べようにも、今、邪魔になっているハイデンをどうにかしないといけないという堂々巡り。
俺、呪われてね?
いや、現実なんてそんなものだけどさ、なんというか、こうやってトラブルのあるところにばっかり飛ばされるよな。
ここの騒動の元とかいたら、酷い目に合わせてやるわ。
とりあえず、目下の目的は、ハイデンの連中。
どんな目的や大義があるかはしらんが、巻き込まれて迷惑をこうむった分は徴収してやるわ。
と、そこはまあ、ここに来た時からやるって決めてたからいいのだが、現状看過できない問題が存在している。
それは……。
「へえ。アマンダってかなり魔術が使えるのね」
「そうよ。でも、カグラの方がって、カグラ様の方が、えっと、凄いのではないでしょうか?」
「いいのよ。同じ年だし、そっちも身分がどうのこうのってわけじゃないんでしょう?」
「あ、うん。私は普通に平民だよ。でもいいのかな?」
「私としては気が楽だからいいわ。ユキとこうやって話すといつ首が飛ぶか怖くて……」
「ユキさんはそういうことはしないと思うけどなー」
「それはわかっているけど、立場が上の相手にそういう風に話せるように教育はされてないのよ。命に関わるから。体が自然にね」
とまあ、俺やタイキ君にとって目下警戒するべきカグラは、なぜかエオイドと仲は深まることはなく、アマンダとキャッキャッ仲良くやっている。
「あー、なるほど。デリーユ師匠にしごかれて、反射的にってやつね」
「……似たようなものっていっていいのかしら? そっちは物理的に命の危険よね。ああいう風に」
そういって、カグラが見る先には、俺やタイキ君が対カグラ用の決戦人型助平兵器として作戦参加を認めたエオイドがデリーユと訓練に勤しんでいた。
「ほれ、もっとどっしり構えんと……。震脚、ほいっと」
ズンッ!!
「うわっーー!?」
デリーユの超踏み込みで地面が陥没し、その衝撃であっけなく空に吹き飛ばされるエオイド。
「ほれ、魔力でしっかりクッションを作れ。身体能力強化だけが、魔力操作ではないぞ。それはエオイド自身がよくわかっておろう」
「クッションって、そんな盾を作れるわけ……へぶっ!?」
相変わらず、武具でしか明確なイメージができないわけか。
結局、そのまま地面へ墜落して、衝撃を殺せずそのままゴロゴロと転がる。
「今日も派手にとんだわね」
「……夜のお風呂の時に降って来たときは本当に驚いたわよ。と、大丈夫? エオイド?」
「あ、ああ、大丈夫かな? カグラ、ありがとう」
なんと、エオイドも気軽に呼び捨てをして、カグラの手を握り、体を引き起こされているので見た感じ先は明るく見えるのだが……。
「あっ……」
エオイドは疲れているのか、足をもつれさせて、カグラに倒れ込む。
かろうじて、膝をついて、完全に倒れることはないが、結果、カグラのお腹よりやや下ぐらいに顔をうずめることになる。
はたから見れば女性の股に顔をツッコム変態野郎の完成だ。
流石、ラッキースケベ!!と言いたい所なのだが……。
「ご、ごめん」
エオイドは慌てて体を離すがやっぱり体の疲労がひどいらしく、今度は後ろに完全に倒れる。
「はぁ、全然大丈夫じゃないわね。アマンダ、お願い」
「まったく、カグラに何してんのよ」
「別にいいわよ。あれだけ訓練してああならない方がおかしいわよ。私もこれで怒ってたら器が小さくて状況のわからないやつよ。ほら、彼の介抱はアマンダの役目でしょう」
「ありがと。エオイド、立ちなさい。私の膝ならいくらでも貸してあげるから」
「あ、うん。アマンダ、助かるよ」
と、こんな風に、どこかの王道ファンタジーの桃色髪娘とは違い、余裕がある大人な対応である。
というか、理不尽に怒ったりしていないだけで、現実的と言えば現実的なのだが……。
「あれはどう見ても、恋愛って感じじゃないですよね」
「ああ、普通に友人って感じがしてならない」
そう、俺とタイキ君の真なる野望。
カグラとのフラグはエオイドに任せよう!!大作戦がうまく機能していないのだ。
もう、本日の夕方にはカミシロ公爵家に到着してしまう。
まあ、時間はまだまだあると思っていいのだろうが、なぜか不安を隠せない。
「……これから、恋愛に発展しそうですかね?」
「……わからん。注意深く見守るしかないだろう。下手に会話をすれば俺たちへのフラグができかねん」
「ですよねー。いや、ちょっと待ってください。もうカミシロ公爵家ということは、これはエオイドを彼女の親に認めさせるチャンスじゃないですか」
「そうか!! その手があったか!!」
両親公認の仲となれば、もうあとはゴールインしか存在しない。
「問題は、アマンダを納得させることと、カミシロ公爵の協力を得られるように立ちまわらないといけないってことですね」
「そうだな。まあ、アマンダの方はカグラと仲がよさげだし、そこまで難易度は高くないだろうが、彼女の両親に無理にエオイドと婚約させますじゃ、本来の目的である現王家派との対立どころじゃなくて、俺たちが敵になる」
「エオイドが無位無官なのが痛いですよね。なんとかして、こうアピールして、自然とカミシロさんとエオイドはくっつくんだと勘違いさせればこっちのものなんですが」
「うーん、そうなると、カミシロ公爵の目の前でラッキースケベを発動してもらっては困るよな?」
「でしょうね。本来の目的としても減点対象でしょう。一旦、エオイドは離しておいて、アマンダが同性護衛で、その周りを守るって感じにしておけばよくないですか? ルースと組ませて」
「ルースと組むなら、フォローはしっかりしてくれるか。というか、ルースをってのはどうだ?」
「あー、どうでしょうね。確かにルースは武門の名家で伯爵ではありますけど……。どうだ?」
と、話を振られるルース。
彼は現在の道中、いたって真面目で、タイキ君の側を離れず、毅然とした態度で立派に騎士を務めている。
いやー、スティーブに爪の垢を飲ませたいくらいだね。
「……どうだと言われましても、命令とあらばといいたいですが、正直このようなやり方は好ましくありませんね」
「でも、貴族にはありがちだろ? 政略結婚なんて」
「どこが政略結婚ですか。これはただ、自分たちがめんどくさいから彼女をたらいまわししているように見えてなりませんが」
「「ぬぐっ」」
ルースに言われてひるむ俺たち。
「い、いや、そういう側面があるかもしれないが、これは本当に政治的に高度な問題であり……」
「そ、そうそう!! 知っているだろう? カミシロの次女殿は今後のハイデンを担っていくために、俺たちと結婚などすれば後々に問題がでるのだよ」
「はぁ、それならなおの事、エオイド殿だと問題になるでしょう。彼は一般人、平民で、現在ただの学生ですよ? しかもイフ大陸出身の。どう公爵殿に説明するおつもりですか」
「「……そ、それは、愛で乗り切って貰えれば」」
「……陛下に、ユキ様も、本当になんでここまで、こういう色恋が絡むとダメダメなんですかね。そもそも、カグラ殿を旗にするより、カミシロ公爵殿を旗にした方が集まりはいいでしょう。経験も圧倒的に違う、カグラ殿が私たちの誰かと結婚してもハイデンは傀儡と呼ばれるようなことはないでしょう。カミシロ公爵の見事な手腕と言われるでしょう。娘を差し出して、協力得られたと。美談としても成り立ちやすい、英雄を呼び出したカグラ殿と、我々との恋愛冒険譚」
「「……」」
くそっ、正論過ぎてなにも言い返せない!?
そう、ルースの言う通り、若造のカグラを立役者にするのは無理がある。
カミシロ公爵、つまりカグラの親父を立てた方がまとまりはいいのだ。
「だ、だが、カミシロ公爵が反対した場合カグラが主導で行うことになる」
「ですね。その場合はカグラ殿が我々の誰かと婚姻というのはハイデンの今後にとって、陛下やユキ様が言うように傀儡政権と言われかねないので避けた方がいいのは認めます」
「だ、だろう? ルースもわかるよな?」
「しかし、現状を鑑みれば、かの姫君、バイデ伯爵、そして実の娘の証言から、常識があれば立ち上がるはずです。問題としては戦力差が厳しいことですが、それは私たちがついていますから、私たちが納得させればいいだけですね。そもそも戦力面ということでは、天と地ほど開きがあります。証拠としてもバイデ攻防戦で明確に結果が出ていますから、疑う余地もないと思いますが」
ルースの言う通りではある。
だが、だが……!!
「お、おれはこれ以上仕事を抱えたくないし、嫁さんはこれ以上いらないです……」
「ユキ様はそうでしょうね。今やその仕事量は膨大。奥様たちも20人に届こうかというところ、これは体がいくつあっても足りないでしょう」
「そうだよな。これはやっぱりタイキ君が候補じゃないか?」
「あ、ユキさん!?」
「私としては陛下にはぜひともこの大陸との繋がりとなるお方との婚姻は望ましいですね。まだお2人しか奥様がいないですし、どちらともご懐妊なされていない」
「そうだよな。いやー、タイキ君ももっと頑張らないとな」
「……と、言いたいところですが、結局はこの大陸と出入り口が存在するのはウィード。しかもハイデン領だったバイデです。今後訪れるであろう大陸間交流において、カグラ殿というお相手がいるのは非常に好ましいのではないでしょうか? カミシロ公爵としては是非に縁を結びたいでしょうし。ですが、個人的には、このようなことで相手を押し付けあうというのが情けない!! お2人とも、今や2大陸に名をとどろかせる、片や神の使徒!! そして、片や勇者!! それを自覚していただきたい!! お2人の住んでいたところが一夫一妻というのが常識だったというのは存じています。そして、こちらに来ての苦労、心労なども大いにあったのは私も存じております。しかし!! だからこそ、このような運命に振り回される少女に対し、もっと…………」
そんな感じで、ルースの説教が始まった。
なまじ正論なので、反論ができない。
「ねぇ、ドレッサ。ユキとタイキはなんでルースに怒られてるの?」
「……ヘタレなのよ。あの2人。カグラ、覚えておきなさい。積極的にいかないと動かないわよ。私が経験済みだから」
「ドレッサは遠回りしすぎです。お兄様にもっと素直になればいいんですよ? ねえ、リーアさん」
「ドレッサにそれはきついんじゃないかな?」
「え、えーと、放っておいていいのでしょうか? デリーユ様」
「ほっとけ、キャサリン。ユキやタイキにはいい薬じゃろうて」
ちくしょう、外野は楽しそうでいいよな!?
だが、俺たちはあきらめない!!
逆の意味でとれば、エオイドというイフ大陸の繋がりを持てるということでもある。
なんとかして、なんとかして野望を!!
大人げないとか言われても、これ以上仕事なんざ抱えてたまるかー!?
結局のところ、ユキとタイキの我儘とも言えないこともない。
それでも、カグラがくっつくとは限らないし、過剰反応ともいえなくもない。
が、みんなはきっとユキかタイキかエオイドだと思っている人が多いようだ。
なぜだろう?




