第500堀:合流と働き者たち
合流と働き者たち
Side:スティーブ ウィード所属 魔物軍将軍 便利屋ゴブリン隊隊長
ふいー。
世の中、本当にゆっくりできないっすね。
ついこの間まで、大鬼騒ぎやら軍神で騒がしくて、それが終われば大陸間交流の為の防衛任務と、所詮、大将という名がついても、おいらは中間管理職。
お国という更に上に使われるだけの存在っす。
で、今回の騒動はというと……。
「さて、知ってはいると思いますが、今回、私たちのリーダーであるユキたちが召喚により、誘拐され、孤立無援の状態に陥っています。幸い、すぐに連絡は取れて、本日ゲートが開通する予定です。で、今回の主なゴブリン隊の任務は物資輸送です。補給物資は二重で運びます。アイテムボックスに入れる分と、ゲートでそのまま輸送ですね。今回見つかった新しい大陸では、DP消費量が5千倍という事態になっていますので、現地の生産は非常に効率が悪いのと、トラブルの有無、検証も兼ねています。二つに分けてではなくです。だから二重ということです。物資を二倍、それを手段別で運んで、万が一の事態に備えます」
ザーギスが説明している通り、今回は大将たちが召喚により誘拐されたっす。
もう、当初は大騒ぎ、姐さんたちはやれ戦争だー!! と言い出す始末。
まあ、相手がどこにいるのかもわからないからどうしようもないっすけど。
まさか、ルルアの姐さんまで、飛行機を生産して空中から探せばいいじゃないという始末。
いやー、確かに飛竜隊よりは生き物じゃない分、休憩とかはいらんし、航続距離は比較にならんっすけど、お空の上に大怪獣とかいたらどうしようもないし、さっき言ったけど、相手がどこにいるのかもわからないのに、お空を飛んでも広大な大地にいる豆粒以下の人を見つけるとか無理っす。
タイゾウさんが止めてくれなけりゃ、おいらたちは、今頃戦闘機の訓練しているところっすよ。
「なお、今回呼び出された場所では、魔物の存在がほぼ消えています。あちらでは、ゴブリン、オークは亜人の一種とされ、他の魔物ではどうなるかわかりません。なので、ゴブリン隊は先行して、他の大陸の魔物がどうなるのか? という確認も兼ねています。無論、いたずらに死んでもらっては困りますので、潜入時に使用している、魔力密閉ステルス、空気ボンベの装備をして違和感があればすぐに展開してください」
そして、相変わらずの便利屋ゴブリン。
いや、おいら達しか動けないってのはわかるっすけどね。
ジョンたちオーク隊は新大陸でのミノちゃん支援だし、こっちに合流するのは時間がかかる。
スラきちさんは新大陸で死にかけたから、まずは確認第一になるのは当然。
で、残るはおいら達というわけ。
おいらことスティーブだけは、ジルバ帝国で名誉軍指導職なんてものをもらっていますが……。
まあ、緊急事態なんで、さっさか戻ってきましたとも。
ジルバでもおいらは大将の部下っすからねー。
あー、万歳!! 中間管理職!! すべての上司よ、呪われろ!!
なんて叫びたくなるっす。
だけど、今回はまあ仕方ないかなとは思うっす。
まさか、異世界からの混入を止めてもらった直後に、同じ世界から召喚を受けるとか、どれだけな確率っすかね?
おかげで、こっちは大混乱。
大将もトラブルの星の下に生まれてるっすよねー。
個人的には、大将個人だけならどこかに飛ばされてもケロッとしているイメージしかないっすけどね。
だけど今回はアスリン姫も巻き込まれてるから、魔物軍団もいきり立っていて抑えるのが大変だったっすよ。
トラブルの際の冷静さが今後の課題ではあるっすね。
でも、大将がそれなりにおいらたちに言い聞かせてたからこの程度で済んだともいえるっす。
最悪、ウィードが暴走してたっすからね。
「……ということで、説明は以上です。スティーブ将軍。あとはお願いします」
なんか色々考えていたら、ザーギスの説明が終わったようっす。
「よし。みんな説明は聞いたと思うっす。今回の主な任務は二つ。物資の輸送、そしておいらたち魔物の大陸適応性を確認することっす。わかっていると思うっすけど、間違っても、バイデやハイデンへの報復攻撃が目的ではないことをよく理解しておくっす。万が一、向こうの住人に迷惑をかければ、処刑するっす。まあ、5日と半日、臨戦態勢でそんな気力があるとは思えないっすけど、あと1日、1日頑張ってくれっす。おいらたちの補給物資運搬と安全が確認されればオーク隊との入れ替わりになるっす。ぐっすり寝るためにも、しっかり働くっすよ!!」
「「「おー!!」」」
「1200にまでは準備を済ませて、飯を食ってゲート展開予定地に待機!! 作戦を開始せよ!!」
「「「はっ!!」」」
すぐに行動を開始するゴブリンたち。
君たちの勤勉さにウィードは支えられているっすよ。
休暇を上げられるのであれば、あげたいぐらいっす。
「で、スティーブ。奥方様たちに報告お願いします」
「えー……。なんでおいらっすか? ザーギスが言えばいいじゃないっすか」
「……私は現地について行けませんからね。獣人族ですら稀有な存在ときたものだ。魔力の高密度生物に近い私たち魔族が大陸に行けば下手すると即死しかねません。ですから、ここはついて行く、スティーブから報告を行うべきでしょう」
「……本音を言えっす」
「……殺気立っている奥方様たちに近寄りたくないですね。私だって命は惜しい」
「おいらなら死んでもいいと?」
「それは違います。私よりも、付き合いは長いですから、生存の可能性は非常に高いでしょう。いや、違いますね。死ぬ、殺されるなんてのは思ってないでしょう?」
「流石にそこまで狂ってないのはわかるっすよ」
「まあ、私は見ての通り研究専門なんで、こういう感情を挟む案件は人心掌握に長けた将軍である、スティーブが適任でしょう」
「お前だって元魔王配下の四天王だったっすよね?」
「今はそれも過去の話。と、すみません。私はこれからタイゾウさんとの転送術式阻害の話し合いがあるので……」
そういって、ザーギスはそそくさと消えてしまった。
ち、逃げたな。
「はぁ、ブリット」
「こっちは、任せてください。向こうは任せます」
副隊長のブリットはさも忙しそうに物資運搬任務をこなしている。
「……くそー。行けばいいんでしょう。じゃ、行ってくるっす」
後ろで敬礼している部下たちが非常に腹立たしく思えたっす。
確かに命の危険があるとは思ってないっすけど、あの空気は嫌っすよ。
何言っても駄目な雰囲気ってやつ?
その中で喋れとか、盛大な自爆っすよね?
地雷原を進むがごとし?
「で? なんでそんなにボロボロっすか?」
覚悟を決めて、姐さんたちの所へ行ってみれば、なぜかボロボロで出迎えてくれた。
「あははー。スティーブさん。これは私が先輩に記念すべき一勝を飾った勲章ですよ」
「先輩ってキルエの姐さんっすか? よく勝てたっすね。サーサリさん」
サーサリさんは大将の嫁ではないので、さん付けっす。
まあ、よく経験浅いサーサリさんがキルエ姐さんに勝てたっすね。
「で、なんでまた?」
「えーっと、ちょっとした訓練ですね。あははー……」
……向こう行った途端、暴れたりしねーっすよね?
ゴブリン部隊の仕事に姐さんたちの鎮圧とか追加しないといけないっすか?
なんか、死にそうになってきたっす。
身内が一番の敵とはよく言ったもんっすね。
「心配はいらんぞ、スティーブ。ちょーっとばっかり、発散させただけじゃ。向こうで暴走したりはせんよ。そこなサーサリと組んで、ちょっと暴走気味のリーアやキルエに一発見舞ってやっただけよ」
「いつの間にか勇者VS魔王があったっすか」
「うむ。怒りで動きが単調になっておったからな。そこをびしっと入れてやったわけよ!! ま、だから向こうで暴れるようなことはないし、スティーブ達に迷惑はかけんよ」
「そりゃありがたいっすね」
なんでだろうねー。
勇者が敗北したのに、安心できる不思議。
デリーユの姐さんがロリババアである年の功というや……。
ガシッ。 ミシミシッ……。
「スティーブ。妾はユキと同じ年。いいか?」
「OK。そんなの当然じゃないっすか。だから、アイアンクローやめてください。死んでしまいます」
ゴブリンは比較的小柄で、ちょっと育った子供ぐらい。
ロリババ……ではなく、大将と同じ年のデリーユの姐さんのアイアンクローはピッタリ!!
握りつぶされちゃう!?
というか、心の中読まれたっすよ!?
「顔を見ればそれぐらいわかるわ。スティーブは、こういうところはユキと思考が似たり寄ったりじゃからな」
「なんという、大将の呪い。と、そこはいいとして、現在、補給物資の準備は順調に進んで……、と、連絡がきたっす。遅延はなさそうっす。あとは姐さんたちっすけど……」
俺がそうデリーユ姐さんに聞こうとすると、奥から他の姐さんたちが出てきた。
今までにない重武装で。
「スティーブ。準備ご苦労様。あとは時間を待つだけね。みんな行くわよ」
セラリア姐さんはドレスアーマーは普通だが、予備の剣を4本差し。
……あれ、ナールジアさんの試作じゃなかったっすか?
デリーユの姐さんが一発入れた勇者リーアの姐さんはガンソードを両手持ちになんかバックパックから砲身がのびてるっすよ!?
なに? 砲撃装備!?
ジェシカの姐さんはなぜかシールド二個装備で不思議に思えたっすけど、シールドパイルバンカーでした。もちろん剣も装備してるっすね。
他も似たり寄ったり、ゲテモノ装備ばっかり。
「……本当に大丈夫っすか?」
「……大丈夫のはずじゃ」
あれ、止めるの無理っすよ?
武器のスペックが不明過ぎて、初見殺しにやられるっすね、きっと。
どうせ見た目だけの装備なわけないし、あのナールジアさんが作った装備が素直なわけないっす。
そんな一抹の不安どころか、極大の爆弾を抱えたまま、ついにゲート開通予定時刻を迎える。
既に、ゴブリン隊は輸送準備を終えて、臨戦態勢。
……姐さんたちに対して。
『こち……、ビリス。只今、1400。……トの展開を……』
ラビリスの姐さんからの連絡が来てるっすけど、本当にコールの状況も悪い。
大将に至ってはノイズだけで話にならんときたもんっす。
……今更ながら結構めんどうな場所っすね。
しかし、ゲートがこっちから大将の所へ開通できればよかったんすけどね。
一度現地に行って、そっちから開通しないとダメってのがネックっすね。
いや、そうじゃないと、こっちから自由に展開できるなんてルール違反過ぎてルナさんが認めるわけないっすね。
ま、それはいいとして、無事にゲートは展開できるのか……。
『……の、展開終了。そちらの、状況を報告されたし』
「こちらスティーブ。こちらもゲートの展開を確認、予定地点に無事展開、誤差なし。コールの通信状況がよくなってきた気がするっす。そちらはどうっすか?」
『こちらも、スティーブの声がはっきり聞こえるようになってきたわ。じゃ、作戦の第二段階へ移行』
「了解。これより、ゴブリン隊により、ゲートの開通状況を確認する。選抜隊、ゲートへ」
「「「はっ!!」」」
そして、選抜隊の3名がゲートに近寄り……。
「これより、物体を投げ込みます。予定通り物体はサッカーボールです。開始合図をお願いします」
『了解。……こちらの準備もOK。投げ込んで』
「はい。では予定通り地面を転がしていきます。……投げました。……今、ゲート通過」
『こちらでサッカーボールの通過を確認。誤差はほぼないとみていいわね。今度はこちらから送り返すわ。これを5度繰り返すわよ』
「了解」
そんな感じで、念入りにゲートの開通状況を確認して、安定性や危険性がないか確かめる。
そしていよいよ……。
『作戦第三段階。生物通過検証を開始するわ』
「了解。今から選抜隊3名が通過します。……カウント開始、10、9、8………2、1、0!! ゲートへ侵入!! 侵……」
選抜隊3名の姿がゲートの中へ消える。
『こちらラビリス。無事選抜隊の通過を確認。状態を確認させているわ』
「了解。一先ず選抜隊の通過は成功したっすよ!!」
と、言いながら後ろで待機している姐さんたちに振り返ったっすけど、すでに姿はなく……。
「隊長!? セラリア様たちがゲートへ接近!! まだ検証実験中です!! とめないと!!」
「いや、無理っす」
止めに入ったゴブリンたちが文字通り跳ね飛ばされているっす。
デリーユの姐さんも一緒になってまぁ……。
「ま、ここまで段階踏めば大丈夫でしょう。今更あれに割ってはいるとか、自殺志願でしかない」
「そうっすよねー。選抜隊、姐さんたちがそっちに行ったから、戻ってこい。すぐに両方向の通過を確認するっす。やばそうなら、すぐに撤退命令を出すっすよ」
『了解!! 来ました!! 選抜隊は戻ります!!』
そういって、選抜隊はすぐにゲートから出てきた。
ふむ、今のところは問題なさそうっすね。
『って、みんな。まだ実験中だぞ!?』
『よかった!! あなた、無事ね!!』
『だ、旦那様!! よかったです!! 本当によかったです!!』
『ミリーたちも無事!?』
『無事よ。ごめんね、心配かけて』
さーて、感動の再会を横に、おいらたちは、お仕事を頑張りますかねー。
「よし、第二、第三、第四ゲートの展開を急げ!! 場所が登録されて、こちらからゲートが展開できる。DPの消費量の確認も怠るなっすよ!! 第一ゲートからは物資運搬を開始するっす!!」
「「「了解!!」」」
あー、もう少し、もう少しで休みっす。
がんばれーおいら。
ついにフルメンバー。
まあ、短い時間だったけどね。
他の漫画とか小説なら1年とか3年後とかになるんだけど、こっちはそういうことはないのでご心配なく。
家族と離れ離れで行動する非情系ストーリーではないので。
それらのお約束をぶっ壊す系ストーリークラッシャーズなのはご存知の通り。
これからの展開にご期待を。
あと、ニンテンドースィッチ、久しぶりのボンバーマンおもれー。
ゴマダレーはまあ安定。




