第494堀:新しい生活の日々
新しい生活の日々
Side:ユキ
「ただいまー」
俺はそういって、家に戻る。
といっても、バイデに作った別荘みたいなもんだが。
「あ、ユキさん。みんなもおかえりなさい」
「おかえりー」
「……お帰り」
そういって、出迎えてくれるのは、トーリ、リエル、カヤの妊娠組。
こっちに召喚されて以降、俺の指示でずっと待機状態。
まあ、当然なんだけどな。お腹に子供がいるのに無理をさせるわけにはいかない。
幸い、今のところ召喚による影響はないみたいで、お腹の子供たちはすくすく育っているようだ。
「ただいま。みんなお腹に変わりないか?」
「はい。大丈夫ですよ。ミリーも今は秋天たちとお昼寝しています」
「僕たちもさっきまで寝てたんだけどね。ほらもうすぐ晩御飯だから」
「……家にいるんだからごはんの用意ぐらいはする」
「あんまり無理はするなよ。ラビリスやアスリン、フィーリアもいるんだから」
基本的に、ラビリスたちはトーリたち妊娠組と秋天たち子供組のフォローに回っている。
正直なところ、キルエとサーサリがいつもしていた仕事量は凄まじいものだったと言えるだろう。
今回のことで心からそのことが分かった。
後方の配置も馬鹿にできない。絶対に大事であり、兵站こそ、戦いの要。
まあ、ごはんの用意は当番とか、基本俺がやっていて、洗濯や家の掃除などの大半はキルエやサーサリに任せていたのだが、ここにはスーパーメイド2人がいないので、その家事に人手を取られている。
「適度な運動ですから平気ですよ」
「そうだよ。僕たちも少しは動きたいからね」
「……それより、ユキ。帰ってきたら、ハグ。これは約束。家のルール」
そういって、抱きつこうとするカヤを顔面に手を当てて押しとどめる。
「ふぐっ。……ユキがいじめる。手をどけて、約束が違う」
「ちょい待て、俺たちはさっさと風呂だ。汚れてるからな。ハグはそのあとだ」
「あー。わかった」
カヤは即座に理解して、俺から離れる。
残念なことに、今の俺たちは、外へ生身で出て戻ってきたばかりなので、嫁さんたちとハグをするのはためらわれる。
それが妊婦であるならなおさらだ。
しかも、野戦病院と言っていいのかわからんところの処置をして、死体処理もしてきたところだからな。
一応、手はアルコール消毒をしてはいるが、それだけだ。
別で大風呂を用意しておくべきだったよな。
まさか、ドッペルが使えない事態になるとは思ってなかったからな。
「……くそ召喚者どもが。子供が生まれたらコロス」
「そうだね。私もコロスの手伝うよ」
「僕もやるよ。ユキさんのハグをお預けなんて拷問受けたんだから、当然だよねー」
とまあ、そんなことを言いながら、ごはんの準備に去っていく3人。
そして、俺たちはお風呂へ向かい、みんなでお風呂に入る。
正直な話、マジで疲れているから、イチャイチャする気力も皆ない。
「トーリたちも、やっぱりため込んでいるみたいだな」
「ん。当然。初めての妊娠で不安なはず。それでユキとの自由な接触ができないのは苦痛、拷問、この報いは必ず受けさせる」
「クリーナさんの言う通りですわね。ユキ様と一緒のお風呂なんて、普段なら愛し合っているというのに、そういう気力も今日はわきませんわ。というか、私たちはまだいいほうですわよ。ウィードに残ったセラリア様たちは、ユキ様と会えない日々を鬱屈としながら業務をこなして過ごしているようですから」
「……向こうはユキがいない。私なら発狂すると思う」
「連絡は細かくしていますが、どんどん目から光が消えていきますわね」
……セラリアたちとは、ラビリスとかのコールを通じて連絡を取っている。
俺から直接だと、ノイズがひどいが、ラビリスたちからのコールだとある程度収まる。
その時は普通だったんだけどな。やっぱり向こうは向こうでため込んでるか。
「私もお兄様に会えないときは寂しかったです」
「お兄がいると楽しい」
「私たちはつい最近までは学校の寮だったし、あんまりそこまではないけど、奥さんたちは普通心配するわよね。っていうか、なんで私たちも一緒に入っているのよ!?」
「仕方がないです。お風呂は残念ながら一つだけですから。外で仕事をしてきた私たちが、別々に入れば、その分、時間がかなり遅くなります。それは非効率ですし、妊娠しているみんなや、子供たちにしわ寄せが行きますから」
「ぐっ」
ドレッサのツッコミに的確に返答するシェーラ。
シェーラも巫女様ということで、一緒に同行していたのだが、俺がメインの会談だったからあまりしゃべらないが、野戦病院の治療も手伝っていて、バイデの評判は実にいい。
うさみみの巫女様可愛いって声が結構あがっている。
俺の嫁さんだから、手を出したらつるす。
「ドレッサ。あまり我儘をいってはいけませんよ?」
「……文句ってわけじゃなくて。……その、ほら、ユキがいるじゃない」
「お兄と一緒にお風呂は楽しいよ?」
「……そうじゃないわよ。い、一応、私たちは、関係でいえば、部下と上司なわけで私たちがいると、ユキたちがゆっくりできないんじゃないかって」
ああ、こっちに気を使っているのか。
「気にしなくていいぞ。どうせひとつ屋根の下に住んでるんだし、家族と変わらん。つーか、もう家族だろう。秋天から、かか様って呼ばれているし」
マジで今更だが、気にする奴は気にするし、言葉で伝えないとわからないことも多い。
黙って察せというのは、わがままな希望でしかない。
そういうことが不和につながるから、はっきり言うことは言わないといけない。
無論、不満があることも、ドレッサのように言ってもらわないとこっちもわからないから、互いに気持ちを言葉にするというのは必要だという話。
嫁さんたちも、今では気軽に話してくれるが、当初の奴隷から引っ張ってきたときは、おっかなびっくりで、言葉を選んで、こちらの顔色を窺ってという奴だった。
そんな過去を思い出すと、ドレッサのツンデレというか、感情の起伏が激しいのはこっちとしてもわかりやすいので助かる。
ツンデレというか、俺にしたらただの天邪鬼のガキって感じなんだが。
まあ、ドレッサに比べて、ヴィリアの方は俺の言うことは絶対って感じなタイプになっているので、そういう意味では我慢しすぎていないか不安ではある。
だが、そこはヒイロがいてそれとなく話をしてくれるから、これはこれでいいバランスなのだろう。
「か、家族。……そ、そうよね。私は……いや、私たちは家族だから、こ、こ、こうやって一緒にお風呂に入っても問題ないわけよね?」
「そうです。私たちはすでにお兄様の家族。……そう!! 家族なのです!!」
「……ヴィリお姉、うっさい」
向こうも俺の言葉に納得しているみたいだ。
というか、今回の召喚の件、先ほどのトーリたち、クリーナやサマンサの話から分かると思うが、俺を含めて、全員が不満を持っているから、どこかで息抜きをしないと、ハイデン相手に大立ち回りをすることになるだろう。
個人的なうっぷん晴らしとしてはいいのだが、それを一時の感情でやってしまえば、色々面倒になるのは明白だ。
一夜のうちにハイデンの城ががれきになったり、王族重鎮たちがつるし上げられていたら、その隙に、各国がハイデンの領地を切り取ろうとするだろうし、それに伴い、難民も増えるだろうし、ハイデンを落としたウィードとしてはそれらを守らないといけないから、ハイデンだけでなく、周り一帯の国とドンパチする羽目になるだろう。
帝国からのとりなしとかはできるだろうが、それもウィードの実力を示してからでないと足元を見られるし、帝国に借りができるのは面白くない。
ハイデンの王族絞めた後はほっとけばいいじゃん。って精神のメンバーじゃないからな。
怒りで我を忘れていても、元に戻れば優しい嫁さんたちだから、放って置くってことはないだろう。
こんな感じで、不満を抱えてプッツンしてハイデンを消されると、今後の展開がクソ忙しいことになるので、マジでやめてほしい。
ウィードの国民を全部兵隊にして、占領軍としておいても統治が間に合わない。
無駄な戦線拡大は敗北フラグでしかないのだ。
ハイデンには落とし前はつけてもらう必要はあるが、消滅してもらっては困るのだ。
そのためにも、嫁さんたちには理性的な状態を保ってもらう必要がある。
ハイデンに配慮を求めるのは、キャサリンの話を聞く限り望むのはちょいと厳しいだろう。
「……くそー。やることは山積みか」
風呂の中でも今後の展開を考えるとか、なんでこうも仕事が減らないかね。
そんなことを考えつつ、風呂から上がって、晩御飯を食べるために、居間へと向かう。
このダンジョンの住居はあくまでも、仮住まいを想定していたもので、一軒家というには大きいが、ウィードにある旅館ほどではない。
せいぜい、風呂が豪華な平屋のお屋敷という感じだ。
和風なのは個人の趣味なのでほっといてほしい。
おかげで、先ほど言った通り風呂は一つだし、部屋も今の人数の個部屋を用意できないので、一つの部屋を3人ほど固まったグループで敷布団を敷いて寝ているといったところだ。
駐留するのは数人程度を想定した場所に10人以上ぶっこめば当然のことだけどな。
「あ、とと様、かか様たち。サクラ、シャンス、とと様、かか様たちだよ」
「ぱぱー」
「ままー」
そういって、まだ足元がおぼつかないが、しっかり二本足でこちらに駆け寄ってくるサクラを抱きかかえて、シャンスはサマンサが、そして駆け寄っていない秋天は逆に駆け寄ったクリーナとドレッサが取り合っていた。
「ドレッサ。まずは生みの親である私に先を譲るべき」
「生みの親であるなら、まずは度量を見せるべきよね? というか、生んでないでしょうに」
「未だに告白もできない小娘に、生むもくそも言われたくはない」
「「ああっ!?」」
「とと様―。また、かか様たちがー」
そういって二人に撫で繰り回されながらも、嫌な顔をしないで、こっちに助けを求める。
「ぱぱー。また、しゅておねえのとりあいしてるー」
「そうだなー。あれは悪い例だから、みんな仲良くするのがいいんだぞ。次は、サマンサママの抱っこだな」
「うんー。ままー」
そういって、俺はサマンサにサクラを渡して、代わりに抱えていたシャンスを受け取る。
「はい、サクラ。ただいま。いい子でしたかしら?」
「うん。さくらはいいこだったよー」
「シャンスもいい子だったか?」
「さくらおねえちゃにおみみ、たくさんさわられて、たのしかったー」
今のシャンスの発言からわかると思うが、シャンスのウサミミはサクラを筆頭に子供たちの格好のおもちゃというか、愛でる対象となっている。
他に獣人の子供がいないからな。もふもふは癒しというのはこっちの世界でも変わらないのだろう。
その分、おみみを触られるシャンスは我慢してるのだが、最近は日課の一部として受け入れている。
当初は、強く握ったり引っ張ったりして、シャンスが泣いて、サクラや他の子供たちを叱るというのがよくあったが、今では加減を覚えて仲良くやっている。
ともかく、今日も子供たちは元気に過ごしているようだ。
妊娠のメンバーに加えて、子供たちも生活空間が一変してストレスがないかと思っていたが、大丈夫そうだ。
「今日は何をして遊んだ?」
「えーと、ぬいぐるみさんでねー……」
そんな話を聞いていると、居間の襖が開けられて、ミリーたちが顔を出す。
「お帰りなさい。ユキさん。みんな。晩御飯できてますよ」
「今日も頑張ったよー」
「今日はトーリ姉様が頑張ってお魚なのです」
「冷凍の銀鮭だけどね」
それでも、こんな隔離された地で魚がくえりゃ上出来だよ。
そういえば、バイデは湖に面しているっていってたけど、漁業とかはどうなってるんだろうな。
魔物もいないし、ちゃんと漁業をやっているのかね?
中世ヨーロッパ時代の漁業、漁獲はよくわからんからな。
後で調べてみるか。
とりあえず今は席について……。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
ご飯を食べて、ゆっくり寝て、明日の活力にしましょうかね。
どんどん嫁さんたちのうっぷんは溜まっていき、ハイデンは風前の灯火。
そして、ユキの仕事は増える。
といっても、生活スタイルはそこまで変わらず、部屋数が少なくなっているぐらいかな。




